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異世界怖い  作者: 名まず
4/27

おつかい怖い (前)

 「皆さん。今度は旅行に行きましょう。街で観光です。買い物です。」


唐突にセネカがそんなことを言ったので、


「はっ?。」 「何言ってんだ。」


デュークとシャロが言う。


2人は怪訝な顔でセネカを見ている。


こいつは裏もなくそんなことを言う奴ではない。そんな顔をしている。


もちろんアヤトもそう思っている。


このセネカは、学園では知る人ぞ知る有名人で、アヤトもあのセネカの知り合いらしい、と、遠巻きに見られたり、噂されることもある。


一部の生徒からは蛇蝎のごとく嫌われているとのことだ。


生徒より先生の方に知り合いが多いという謎の人物でもある。


アヤトは助けられたし、いくつかの迷惑と胡散臭さを感じているだけだが、


デュークとシャロは過去に何かあったらしい。


イシュカは、デュークとセネカに助けられたそうだが、


親切心だけで動くような人物ではないとのことだ。


セネカは、そんなパーティーメンバーの様子に気付かぬ風に話しを進めている。


「明日、アヤトさんの授業は1限目だけですし、それが終わったら、竜車でウクラールの街まで遠出しましょう。

今回は2週間(地球時間で10日)ほどの長期外泊を計画しています。

最初にアヤトさん1人で冒険者ギルドの仕事を1つこなしてもらいます。

その後は街で買い物と観光を楽しみます。

今回はちょっと長いので、アヤトさん以外は参加できる人だけでいいですよ。」


すると、デュークが申し訳なさそうに、


「3日後、どうしても抜けられない授業があるんだ、試験もあるし・・・、」


イシュカも、「私も行かない。」と、言う。


すかさずアヤトも「俺も授業が・・・・。」と、言ったが一瞥で黙殺される。


シャロは「俺は暇だし、行くわ。」と、アヤトに手を振る。


少しほっとする。


「それでは今回の課外活動はこの3人で行います。

竜車で街まで行きますが、アヤトさんは手前で降りて、1人で城門を通り、冒険者ギルドに行って、何でもいいので依頼を1つ受けてください。

内容は自由、簡単なものでも結構、人に助けてもらってもいいので、全部自分で決めて依頼を達成してください。

もちろん、宿も自分で取ってくださいね。

大きい街ですが、治安はいい方ですし、難易度も高くないはずです。

無事終わって、ギルドでお金を受け取ったら、この紙を2つに破いてください。私の所に連絡がいきます。」


そう言って、セネカは名刺サイズの紙をアヤトに手渡す。


折り畳んでもいいとのことだったので、小さくして巾着の財布の中に入れておく。


「それからどうするんだ。」


「買い物です。もちろん費用は私が出します。美味しいものを食べましょう。楽しいですよ。」


と、楽しそうなセネカ。


怪しい。実は最初のゴブリン退治の時も、「簡単な冒険です。楽しんでいきましょう。」 とか言っていた。


ただ、これはいい機会である。


この世界にも大分慣れてきたし、正直、このセネカをずっと頼っていても大丈夫か自信もない。


頼れる人が他に無かっただけで、選択肢がなかった。


場合によっては逃げるのもいいかもしれないし、他に頼れる人が見つかるかもしれない。


このまま卒業して市民権を獲得、いい仕事を見つけるのが、一番賢いやり方だと思うが・・・・・、


ある日、目覚めるとそこは実験施設でした。ここからは絶対に逃げられません。これから人体実験の日々が待ってます。


というのが、一番怖い。


実際、何度か学園〔セネカ〕から逃げ出すことを考えたくらいだ。


セネカには助けてもらったが、何を考えているのか、分からなさすぎる。


ひねくれもので猜疑心の強い身としては、いつ裏切られてもいいよう、自分の力で生きていく方法はないか、と、考えていたのだ。


「分かった。」


アヤトは部屋に戻り、さっそく準備に取り掛かった。






アヤトは寒さで目を覚ますと、周りを確認する。


言い方は悪いが薄汚い子供達が、一番温かいアヤトのローブに身を寄せている。


下に敷いて寝る用の布はすでに外して渡している。皆でかぶっているが、そんな物でこの寒さは防げない。


自分は、・・・・言ったら失礼だが、汚いあばら家に身を寄せている。


どうしてこうなったんだっけ?。






 街に入るのは簡単だった。


100人弱の列に並ぶ、城門を通るのに通行料がいるのだが、カノヴァ学園のの学生証と冒険者ギルドのカードを見せると、審査も甘く、通行料も徴収されなかった。


人に道を聞きながら、冒険者ギルドを探し、建物の中に入る。


この前、ゴブリンを退治した時に作ったギルドカードを見せて、依頼を探す。


ペットの動物探し、下水道の魔物退治、森の魔物退治、ゴブリン退治・・・。


護衛の依頼もあるが、これは却下だ。


ギルドランク・D以上の確かな実力と、ギルドの推薦という信用度がいる仕事である。


というか、自分が守ってほしい。(きっぱり)依頼主は守れない。


せっかく異世界に来て犬猫探しは嫌だし、この街の地理に疎いので探せない。


出来そうな依頼が薬草採取くらいしかない。


薬草の知識はないが、1つだけ、この前の冒険でセネカに教えられた薬草が、依頼書の中にある。


「よし、これにしよう。」と、思う。


ただし、薬草の採れる森には、多くはないが魔物もいるそうだ。


同じく依頼の掲示板を見ていた、比較的穏やかそうに見える先輩冒険者に、


「もう少し安全で、割りのいい依頼ってないですか。」


って、現代人らしく、コスパを意識して聞いてみたら、


「そんな仕事があったら、自分で受けているよ。」


と、言われた。


確かに。納得する。それから、


「そんな仕事があったら街の人が自分でやる、冒険者に頼ったりしないよ。」


とも、教えてくれた。


なるほど、危険があるから冒険者にやらせているのか。


アヤトは納得して、薬草採取の依頼を受けることに決めた。






 商売人の掛け声と、行きかう人々の喧騒、賑やかな通りをキョロキョロしながら歩く。


寄り道はせず宿から直接、城門へ向かう。


城門前には30人ほどの列があったが、入るのと違って出るのは簡単だった。


門を通る理由を聞かれることもなく、すぐに出られた。


街を出てすぐの森は街の共有地で、街の人間に委託された人が薪を取ったりする所なので、冒険者が物を取る為に入るのはいけない。山の方に向かって1時間ほど歩くと森があるから、そこで薬草を採るといい。


アヤトは頭の中で、冒険者ギルドの受け付けのおじさんに聞いた話しを繰り返す。


受付嬢のお姉さんもいたが、他の冒険者が並んでいたし、おじさんは暇なのか(失礼)色々親切に教えてくれた。


ついでに、安くて安全な宿を教えてもらう。


夕方より早いが、これから歩いても夜になる。


無理はせず、お小遣いからお金を払って宿に泊まった。



 森に着くと、鉈を構えて中に分け入る。


迷子になっては困るので、道が見える範囲より奥には入らない。


ちょうど鉈を持っているので、木の枝を払ったり蔦を切るにはちょうどいい。


が、森の手前で鉈を振り回す男の姿は、少し奇妙に映ったようだ。


声を掛けられた。


そうかなぁ~、日本なら完全アウトだが、異世界ならOKのはずだ。魔物とかいるらしいし・・・。色々なものから目を逸らす。


後ろから声を掛けられ振り向くと、冒険者ギルドの依頼の掲示板の所に居た穏やかそうなおじさ・・、いや、壮年の冒険者とそのパーティーメンバーと思われる、他6人がいた。


皆それなりに歳はいっている(40手前)が、1人、中学生くらいの男の子(こっちでは成人あつかい)がいる。


ただ、アヤトよりはしっかりしているようで、


「お兄さん、そんなに物音を立てていると魔物が寄ってくるよ。」


と、言われて顔が赤くなった。


ブツブツ言いながら、鉈で枝やら草やらを切っているところを見られたらしい。


「君1人か?。途中までなら一緒に来るか。」


穏やかそうな冒険者が言う。


よっぽど頼りない新人冒険者に見えるらしい。


見かねて声を掛けたという感じだ。


う~ん、どうしよう。迷って返事が出来ないでいると、


「この辺りを、いくつかのゴブリンのグループが根城にしているから気を付けろよ。」


と、言ってくれたので、アヤトはすぐに、


「ぜひ、ご一緒させてください。」と、頭を下げた。






 あまり高い薬草ではないので、量を取らなくてはならない。


根こそぎ採っては、次採れなくなるので駄目だ。


と、言われたので、気をつけながら摘んでいく。


この冒険者パーティーが探しているのは、もう少し珍しく高い薬草のようで、遭遇すれば魔物も狙っているらしい。


少年の方は、他のパーティーメンバーに言われたらしく、アヤトと一緒になって薬草を探している。


少年冒険者はアヤトの隣りで、自分が所属しているグレンゾの牙の活躍やパーティメンバーの話しをしている。


まあ、話すというより、少年自身お思いや自慢話的なものだったが・・、


話しを要約すると、この少年冒険者の名前はコリンといい、昔、冒険者ギルドが主催した冒険参加イベントで、グレンゾの牙に助けられ、このパーティーにあこがれていたらしい。


そのもっと前には、自分の村も助けられたとのことで、半ば無理を言って押しかけ、仲間に入れてもらったらしい。


ウクラールの町では信頼の厚い、中堅の冒険者パーティーで、なかなか名前も知られているそうだ。


若い冒険者に対しても面倒見がいい、珍しいパーティーで、他の冒険者グループとも仲が良い。ギルドからも信頼されているという。


コリン曰く、冒険者と言えば、粗暴・横暴・金に汚い。口癖が一攫千金・ツケ・酒・女で、実力主義・自由奔放と言っては嫌なことから逃げるそうだが、このパーティーはそんなことはない。知的で冷静沈着、最高のパーティーとのことだった。


コリンの他の冒険者に対するイメージが悪過ぎだろうと思ったが、口にはせず、


とりあえず、グレンゾの牙のパーティを褒めておいたら喜ばれた。自慢のパーティーらしい。


一方、アヤトの方もカノヴァの学園に入ったばかりで、先輩から薬草採取の依頼を受けるよう言われて来たことを説明する。


コリンには、カノヴァの学園に入学出来たことを羨ましがられ、横暴な先輩に顎で使われていると勘違いされ、気の毒がられた。


まあ、間違ってはない。訂正しないでおこう。


薬草を探し始めてから2時間ほどで6匹のゴブリンが襲って来たが、警戒していたので問題ない、迎え撃った。


ゴブリンは1匹やられると、他の5匹は蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


ゴブリンはずるがしこいが、楽観的で頭が悪い。


後ろから奇襲を仕掛ければ勝てる思い襲ってきたが、返り討ちにあったので慌てて逃げたのだろう、勝てる相手には追い打ちをかけるが、負けそうになると我先に逃げるのがゴブリンというものらしい。


ゴブリン・・・残念過ぎる。


まあ、人(?)のことは言えないかもしれない。


アヤトは鉈を構えて立っていただけだし、止めを刺すか?、との言葉も、ゴブリンの鼻を切るのも断った。


グレンゾの牙のメンバーが、いきなり首をはねたゴブリンの体を木に吊るし、腹を裂いて内臓を取っているのを見て、顔を真っ青にしていた。


聞くと、


「何って、下処理に決まっているだろう。」と、言われた。


冒険者にとって当たり前のことらしい。 おそるおそる、


「食べるの?。」 って、アヤトが聞いたら、


「ゴブリンなんて食べられるわけないじゃん。」 って笑われた。


よっぽど変なことを言ったらしい。それに、


「兄ちゃん、ゴブリンの止めもさせないようじゃ冒険者、向いてないぞ。」


と、忠告されてしまった。冗談を言ってる口調だが、案外真剣に言ってくれているようだ。


話しを戻す。何でもあれは金になるらしい。


冒険者ギルドに持っていくと、討伐報酬とは別に、素材として買い取ってくれるそうだ。


首をを切ってもピクピクと生きている新鮮な状態で処理すること。

内臓をきれいに取って、あそこを切っておくこと、が条件で、

丁寧に下処理されていない物は、買い取ってもらえず、逆に処理代金が取られるのだとか。


まあまあの値段にはなるが、運搬や下処理の手間を考えると、割りには合わないので、普段はやらないそうだ。


今回は魔物が出なかったので下処理したらしい。


明日も魔物が出なかった時に備えて、とのことだった。


ゴブリンの死体を何に使うのか、聞いても、知らないと言われたし、考えるのも怖いので、それ以上考えるのは止めた。






薬草採取を始めてから、もう5~6時間になる。


日も中点から傾き、アヤトはそろそろ帰ることにする。


グレンゾの牙は、今夜は泊まるそうなのでお別れだ。


挨拶をして帰路に着く。


「途中まで送って行く。」 と、一緒に付いて来てくれて、


「ここを真っ直ぐ行くといい。」 と、踏み固められた道まで送ってくれた。


再度、丁寧にお礼を言い、手を振って別れる。


城門に着くと一息つく。やっと着いた。


門番のおじさんに学生証とギルドカードを見せて城門をくぐる。


そのまま冒険者ギルドに向かって足を進めた。


人通りは多い。前と左右を気にしながら歩いていると、


ドンッ、と衝撃がして、誰かとぶつかる。


酔っぱらった、酒臭い男が前を立ち塞いでいる。


「バカヤロウ。何処に目ぇ付けてんだ!。」


定番のセリフが聞こえた。


つい、「すみません。」と、応えつつ、とっさに懐を確認すると財布がない。


懐から男に目を戻すと、すでに男はいない。


酔っぱらいの男は、路地裏近くで談笑している数人の男達の間を割って、細い路地裏の方に走って行く。


「泥棒!。」


追いかける。


アヤトも、談笑している男達の間を通り抜けるが、不意にリュックを引っ張られる。


アヤトはカバンを守ろうと両手で肩のベルトをしっかりと握る。


途端に、首の学生証やギルドカード、腰の鉈や石などにいっせいに手が伸びる。


あっという間に色々な物を取られ、それぞれ別々の方へ走って行く男達。


どれを追えば・・・、あまりのことに固まって男達を見送る。


あれ?、あいつらグルだった?。あれ、ヤバくない?。


もう、あの男達の姿は見えない。あの酔っぱらった男以外、他のかっぱらいの顔も覚えていない。


役所?、警察?、交番?、って、こっちの世界にあるのか?。


とりあえずはギルドだ。と、ギルドに急いだが、相談した親切なギルド職員は気の毒そうに、


「荷物やお金は諦めた方がいいよ。」


と、言うだけだった。


街に衛兵はいる、ただ、殺しや強盗など重大な犯罪以外、あまり取り合ってくれないそうだ。


現行犯なら追いかけてくれるし、盗った奴を捕まえれば裁いてくれるが、そうでなければ調書を取るだけで終わる。


積極的に探してくれることはないだろう。見回りを増やしてくれたらいい方、と、いう話しだ。


(使えねぇ。)


まあ、日本の警察でも少額の窃盗では、なかなか捜査してはくれない。


万引きでも店が独自に捕まえて警察に引き渡したり、映像をネットに上げて対策していた。


カツアゲでも脅されたくらいでは動いてくれない。カツアゲされてから来いとのことだ。


イギリスでは夜に花火をしただけでもポリスがやって来て注意するというのに、日本も異世界の警察もなっていない。割れ窓理論も知らないのか?。


自分で取り返すしかないなんて無理ゲーである。


衛兵の詰所の場所と、あそこの受付でギルドカードの再発行をしてくれるよ。


と、紹介されたので、そっちのカウンターに行って、対応した受付嬢に同じことを言う。


こっちは気の毒そうになることもなく、見事な営業スマイルで、


「ギルドカードの再発行には銀貨5枚が必要となります。」

「ギルドカードが無いとこちらの薬草は買い取れません。」


との言葉が返ってきた。


何度かトライしたが、表情の一つも動かせなかった。


盗まれたギルドカードの悪用などの問題があるので盗難は勘弁してほしいとか、冒険者なら盗まれるなよ。とかという気持ちは理解できたが、もう少し融通は効かないものか。


「規則ですので。」


と、受付嬢のセリフは変わらない。


仕方なくギルドを後にして、トボトボと街中へ歩く。


財布の中に入れておいた、セネカと連絡を取る為の紙が無いのが痛い。


食事代も宿代もない。会う人はいるが何処にいるか分からない。


とりあえず、あの2人は街の何処かに居るはずだ。一刻も早く探そう。


アヤトは当てもなく、街の中を探し始めた。







 足が棒になったので、そこらの座りやすそうな石に腰を掛ける。


リュックに入っていた乾パンも干し肉も、とっくに食べてしまった。


今は疲れ過ぎてお腹は空いてないからいいが、これからどうしよう。


セネカとシャロは見つかっていない。


どこに行くかも聞いていなかったし、どこで落ち合うかも決めてなかった。


途方に暮れる。


「ねえ、お兄さん。」


1人の少年に呼び止められる。


出来るだけ身綺麗にと努めているのはうかがえるが、粗末な服、印象が正しければ、ストリートチルドレンというやつだろう。


「さっきから同じ所を歩いているけど、行く所がないの?。良かったら、今夜1日、僕らの所で泊まる?。」


「ううっ。」


そんなに頼りなく見えるのだろうか。さすがに落ち込む。


「そのかわり、その荷物の中の物、1つでいいからくれない。」


親切心だけではない。


う~ん、たくましい。どこかの誰かとは大違いだ。


どうしよう、さすがに抵抗はある。


しかし、このままでは日が暮れる。


アヤトは、このままその少年のお世話になることにした。





 何か仕事は無いか。町の様子に気を配る。


そんな中、そのお兄さんに声を掛けたのは、困っている様子だったからだが、それだけではない。


背中のリュックに目がいったからでもある。物が足りないからついつい見てしまった。


トボトボと歩く青年が目の端に映ったが、さっきも見たような・・・。


そのまましばらく、何となく目で追う。


追っていると、何人かの視線があのお兄さんを見ている。


嫌な視線だ。


金は持ってなさそうだが、荷物も金になる。


トボトボ歩く姿はかわいそうだったし、悪い人ではなさそうだ。


年は上だが、こっちが騙すことはあっても、向こうに騙されることはなさそうだ。


気付けば声を掛けていた。



 後ろにお兄ちゃんが付いてくる。こんな子供に、素直な人だ。よっぽど田舎から出て来たのだろう。


それより、何かいい仕事はないか。ケアルはこの街のスラムを根城にしている孤児の一人だ。


いくつもある浮浪児のグループの1つで、正確な歳は知らないが、5歳から14歳くらいまでの少年少女の集まりだ。


スラムでは、1人ではやっていけない。


仲間は8人で、他のグループより女の子が多い。女の子は非力で力仕事が出来ない。喧嘩も弱いので食事や物が手に入りにくく、弱りやすく死にやすい。


顔が整っていたり、器量が良かったりすると、娼館と結びついているヤカラに連れて行かれたりするので、他のグループの中には女の子を入れなかったり、金にする目的でグループに入れているところもある。


仲間は家族だ。仲間を守る為には気を抜くことは出来ない。


家はあるが、目を離した隙に物を盗られたりする。


うかうか病気にもなれない。病気の一つで簡単に命を失ってしまう。


だから身を寄せ合い、何とか生きている。


町のドブの溝さらい・ゴミ拾い、何でもやって金を稼いでいる。


稼ぐといっても雀の涙だ。


自分達に仕事を頼む大人は、金をケチる為に、こんな子供に仕事を頼むのだ。


仕事が終わると、その金さえ渡すのを渋る人が多い。


入る金は僅かだった。


今年の冬は特に寒かった。皆で身を寄せ合い暖をとったが、春になったら、たった1枚の毛布も食料に変えざるを得なかった。


今ならまだ高く売れるからだ。


まだ寒く、仲間たちは今の寒さと来年を思い心配するが、来年のことを考えるのは早い。


まだまだ寒く、仲間達を思いつらかったが、判断を間違ったら死ぬ。


冬後で、春の幸が出回り始めたことを考えても、食料が少ない。


次の冬までには稼ぎ、出来れば安い夏に毛布を買っておきたい。


その前に今の食糧だが・・・・、


「大丈夫、みんなでがんばろう。」


との自分の声は、大きくはならなかった。






リピート



夕方になり日が陰り、座り込んだアヤトの前に少年がいた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


さすがに呆れられている。


アヤトは少年達の家に泊まって、次の日の朝早くから街を歩き回ったが、セネカとシャロは見つからなかった。


念の為、朝出る時に少年少女達にも見てないか聞いたが、セネカ達は顔をフードで覆っているし、灰色のローブ姿は特徴が無さすぎる。見てないと言われた。


冒険者ギルドに聞いても駄目だった。


あとは自分の足で探すしかないと歩いたが、足の形をした棒が、歩くことを拒否した頃、少年と目が合った。


ばっちりと、言い訳も浮かんでこない。


「今日も泊まる?。」


と、聞かれたので素直にお願いする。今さら取り繕っても無駄である。


なんか、時が過ぎるごとに情けなくなっているような・・・・。


アヤトはそんな考えを振り払った。



 昨日の夕食は水っぽい薄い野菜のスープだったが、今日はちょびっとだったが焼いたお肉も付いている。


今日の朝、ここを出る時、アヤトの持ち物から、細長い箱に針金のようなものが付いた物をあげたら、ずいぶん喜ばれた。


今日は先に布を渡すと、子供達の喜ぶ声が響く。


昨日の夜は寒かった。ローブをしっかり着込んで、この布にくるまったが、子供達の視線が痛くて、結局、子供たちに布を貸したのだ。


今夜もそうなるだろうから、始めからあげておく。


この子供達はこの街のスラムを根城にしているグループで、街のドブさらいやゴミ集めなどをして、まじめに働いているので安心とのことだ。


他のグループの中には、盗みや犯罪組織の使い走りをしているところもあるようで、マフィアや盗賊ギルドに目を付けられるので危険だという。


また衛兵に、スリや盗みで捕まると街を追い出されたり、悪くすれば、鞭打ちや手足を切られることもあるそうだ。


何より、一度やってしまうと、・・楽を覚えてしまうと、そのままズルズルと二度と戻れなくなる。仲間だった者の中にも、そんな子供がいたそうだ。


このグループは5歳から14歳くらいの8人の小さなグループ、女の子も多いので目立たないように暮らしているそうだ。


アヤトに話し掛けた14歳くらいの少年、ケアルがリーダーで、


仕事を探すことから他のグループとの折衝まで、だいたいケアルが差配していて、何とかここで暮らしているという。


話しを聞くにしたがって、アヤトは思う。


うん、俺、ハタチ越えているんだが・・大丈夫か。


こっちの子供、しっかりしてるな。


・・・・立つ瀬がない。



 「今日はお兄ちゃんがいい物をくれたから豪勢にお肉だ。」


みんなおいしそうに食ってるし、何の肉かは聞けなかったので、


「あの箱、何に使う物なんだ。」と、聞いたら、


「罠だよ。」と、言われた。


詳しく聞くと、餌を置いてネズミや小動物を捕らえるのに使う物らしい。


あんなに立派な物を貰えるなんて、と、喜んでくれた。


そうか、そうか、・・・・何も聞かなかったことにしよう。


何の問題もない。これはお肉なのだ。


少し口元を押さえながら、口の中の物を飲み込む。


飲み込んでから、聞けばよかった。


うぅ、異世界の食事怖い。異世界怖い。


とりあえず忘れることにする。


今日はもう疲れているので、寒さに震えながらも寝ることにした。


子供達も横になる。昨日と違って警戒されてない。


家というよりは、廃材で組み上げた小屋のような建物、今も寒いが、この先きっと、夏は暑く、冬は死にそうだ。


これでも、布一枚増えた分だけ暖かくなっているはずだし、この中で一番温かいのは、ローブを着ているアヤトだろう。


ローブは冒険者や旅人の必需品だ。


布団や敷布、テントがわりに使え、風除け・寒さ除け・雨除けとしても使える。


盾で受けれないような毒液や礫を防いだりするのにも使える。


と、セネカに教わった。


このローブも白っぽい灰色で、薄汚れて地味に見えるが、質のいい物だ。


まじ、この子供達、冬どうしているんだろう。


そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。






ザワザワ五月蠅かったので目が開いた。


見ると子供達はみんな起きている。


外が騒がしく、何かガチャガチャ音がしている。


この家にも兵士みたいのが顔を覗かせている。


どうやら大分のんきに寝ていたらしい。


小さな声で、「何だあれ。」と、聞くと、首を横に振って緊張している。


チラチラと子供同士でアイコンタクトをとっている。


どうやら衛兵とか役人とかのようだが、衛兵は家に中にいる子供達と怪しい男の顔を確認しながら、乱暴に部屋を散らかしている。


何か探しているらしいが、


「最近、この辺りで怪しい奴を見なかったか。」と、聞かれる。


何が何だか分からないのに、そんなことを聞かれても答えられない。


「何かあったんですか。」と、聞くと、


「オランの森で殺しがあった。」と、めんどくさそうに言われた。


同じ質問を何度もされ、その度説明して飽きているのだろうが、人の家を壊しておいてそれはない。


それでも下手に出て、さらに詳しく話しを聞くと、今日の朝、4人の冒険者の死体が発見されたそうだ。


明らかにモンスターではなく、刃物の傷による人に殺されたと思われる事件で、殺人犯が街に入った可能性も高いことから、探しているそうだ。


その冒険者は、昨日の昼頃までは生きていたことが確認されているそうだ。

殺されたのは、昨日の昼から今日の朝までの間で、

死体の状況から、昨日の夕方から夜に殺されたとみているそうだ。


アヤトは、そんな怪しい奴はそこらへんにいるもんじゃないと思ったが、


「とりあえずお前は来い。」と、指名を受けた。


衛兵にしつこく食い下がっていたのに、親切に喋てくれると思っていたが、向こうもこっちに用があって付き合ってくれていたらしい。


「俺じゃありません。」と、きっぱり言ったし、


子供達も、昨日の夜は一緒に寝ていて、お昼も街の中を歩き回っていたことを説明してくれたが、


「とりあえずお前は怪しいから来い。」


と、連れて行かれた。


衛兵も、何も本当にアヤトが殺ったと思っているわけじゃないだろう。


子供達にフォローされている時も、かわいそうな者を見る目で見られた。


ただ、怪しいので、念の為、連れて行くつもりらしい。


失礼だ。こんなに怪しくないのに。


異世界の警察・・、衛兵だっけ。最悪だ。






夜中に牢屋に入り、朝に臭い飯を食う。


リュックは取り上げられ、朝は団子を食えなかった。


リュックを返してくれるよう頼んだが、


「預かって、調べているだけだ。」 「出る時には返す。」


と、取り合ってくれなかった。


昼過ぎにようやく話しを聞かれ、この街に来た理由やこの街での行動を話した後は、


「冒険者ギルドで話しの内容を確認するので、それまで待ってろ。」


と、牢屋に戻され、放っておかれた。


待遇から、怪しい奴だと思われてはいるが、犯人とは思われていないようだ。


試しに、暇そうにしていた牢屋の見張りの衛兵に、


「俺が4人も殺した男に見えるのか。」と、聞いたら、


「そうだな。ま、まあ、見えるかな?。」


と、目を逸らされた。


捕まえた手前、見えない、とは言えないだろう。


あと殺された4人は、グレンゾの牙とは全く関係のない人のようなので、ほっとした。


知り合いが殺されるのは、ちょっと勘弁だ。


それにしても、自分以外、他の人もたくさん入れられているようだし、本当に怪しいだけで牢屋に入れられるとは・・・・・。


身分証を持っていない。金を持っていない。浮浪児の子供達と一緒に居た。日中ずっと街中を歩いて仕事らしきものをしていない。


だけで、こんなにも怪しくないのに、なんでだ?。


考えるとさらに落ち込むだけだった。


そのまま、さらに一晩放っておかれ、次の日の昼過ぎに牢屋から出された。


ギルドに確認して裏付けが取れたとのことだ。


「牢屋はいっぱいで、こちらも忙しい、さっさと出ろ。」

「スリにあったらちゃんと届け出を出しとけ。」


と、小言を言われ、謝罪の一つなく、衛兵の事務所から追い出された。


外に出て、(これからどうしようか。)


とりあえず歩き出すと、50歩ほどで足が止まる。


セネカとシャロが立っていた。


二人ともずいぶん呆れた顔でこっちを見ていた。




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