表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怖い  作者: 名まず
3/75

ゴブリン怖い


 日本の学校にはなくて、異世界の学校であるカノヴァの学園にしかない制度はたくさんあるそうだ。


その一つがパーティー制度である。


学園内で学生同士がパーティーを組み、冒険者ギルドで依頼を受けたり、冒険に出かける。


事前に計画書を出し申請、担任の先生の許可をもらい、冒険後にレポートを出し、単位をもらうのだ。


自ら課題を設定、チームで目標をクリアすることで、単位を得る。そういう趣旨しゅしだろう。


学園の外やダンジョンに行ったりも出来る。主に上級生が利用する制度のようだ。


もちろん下級生のアヤトは、そんな制度があること自体知らなかった。


初等部・中等部は校外学習くらいで、高等部から利用する制度、基礎科と専門科ではあまり使われない制度(わざわざ他所からこの学園に来たのにすぐに外に出て行く学生は少ない)なので、学園での説明もまだだ。


ではアヤトが、どのようにして制度の存在を知ったのか。


今、紹介されたのだ、パーティーメンバーを。


同時に、セネカからパーティー制度の説明を受けた。


「・・・・・・・・・・・・・・」


「入学してすぐにパーティーに入る人は少ないですが、上級生と一緒なら大丈夫ですよ。」 と、優しい先輩のような事を言う。


選択権も無くパーティーに入れられた後のセリフとは思えない。


「え~~と。」


すでに過去形、自己紹介もノンストップ・・・現在進行形だ。


使用許可を取って、パーティーの拠点として借りている部室のような教室に集まっているのは、アヤトを合わせて5人。


アヤトとセネカ、男性が2人に、女性が1人、あと、ここには居ないが他に女性が2人いるらしい。


今は課外活動に出ているらしく、「今度、紹介しますね。」と、言われた。


1人目はデュークという青年で、黒髪、黒目と日本人には親近感が持てる見た目だ。


肩まであるストレートの髪と、それが似合う美形の顔というところは親近感が持てないが、いい人そうに見える。


「ここに居るのが、今日からあなたの仲間です。」と、説明もなしに決めたりしない人であることを願う。


自己紹介2人目は、イシュカという少女だ。

デュークの後ろに隠れて自己紹介してきて、引っ込み思案のようだ。

きれいな赤い髪と赤い目が目立つ、おとなしそうな女の子だ。


どこかの笑顔しか見せない人物より安心できる人柄に思える。


3人目はシャロという青年で、背はこの中で一番高い、たぶん180センチ以上ある。


細身だが均整の取れた体付きをしている。色の濃い金髪、茶目の気さくそうな人物で、女性にもてそうなところは気に食わないが、片手を挙げて「よろしくな。」と、挨拶する姿は友好的だ。


きっと、「外へゴブリン退治に出掛けましょう。」などと、いきなり無茶を言ったりはしない・・多分。


そんなアヤトの心情は置いておかれて、セネカはこれからの予定を話す。


「行くのは明日。申請も許可もすでに取っています。準備の方もこちらで済ませていますので安心してくださいね。アヤトさんはゴブリンを狩る心の準備だけしていてくれれば・・・。他の人はいつも通りです。今回はアヤトさんのレベルに合わせるので、準備も軽くで大丈夫ですよ。」


アヤトに口を挟む余地はない。 安心も、心の準備も出来ない。


「それより先に教えておくことがあるだろ。戦い方・・・とか?。」


「ああ、そうですね。それでは・・・。」 と、パーティーを組むのに必要な仲間の能力や戦い方の基礎的な知識を教わることになった。


「・・・・・・・・・・」


(違う。そうではない。) 今回は止めておこうという話しの流れにはならなかった。


「初めに言っておきますが、ここに居ない2人を含めて、このパーティーは、私以外全員が前衛攻撃職です。」


随分チャレンジャーな構成だ。


冒険者のパーティーで、最も安定的な編成と言われているのが、


前衛盾職 (タンク):敵の攻撃を受けるチームの土台。これが機能しないとヒーラーや魔法使いは力を発揮できない。


物理攻撃職 (剣士など):攻撃のメイン戦力。他にも槍使いや斧使いなど武器は様々。安定した攻撃力が期待できる。


魔法攻撃職 (魔法使い):高い攻撃力を持ち、切り札としての役割が期待される。応用力が高いのも魔法の強みです。


治癒術士 (ヒーラー):ケガ人を治すチームの要。数が少ないので、ヒーラーがいないパーティーもある。その場合は、回復役がポーションを用いて治療する。


遊撃職 (軽戦士など):威力偵察、敵のかく乱や、最前線で直接戦って敵の情報を引き出す役目。動きの速い人、目がいい人が多いです。


偵察・情報収集職 (盗賊):文字通りの活動から、罠の解除、食料調達、地図の準備、移動手段の確保まで、幅広く活動することが多い。盗賊という呼び方を嫌う人も多い。


この6つの役割がうまく機能しているのが、いい冒険者パーティーと言われているそうだ。


デュークは剣を使った攻撃と、体を使った魔法防御。


イシュカは武器を使った物理・魔法攻撃と、火魔法攻撃。


シャロは短剣と体術での物理攻撃と、かく乱・威力偵察。


此処に居ない2人も魔法攻撃と前衛攻撃担当。


極めて攻撃的なパーティーだ。


「セネカは?。」 アヤトの質問。


「私は魔法による支援とリーダーの役割ですね。お金の管理や移動手段の手配、計画立案、まあ、何でも屋です。」


「なるほど、・・でも、なんで、セネカ以外全員アタッカーなんだ。

普通、もっとバランスよく選ぶものじゃないのか。」


「普通はそうですね。

たまたま集めたメンバーでパーティーを組んだら、そうなっただけです。

・・・ただ、私は基本何でも出来るので、あまりバランスとか気にならないのです。」


イヤミな奴だ。


一通り説明を受けると、セネカに促されて、アヤトも自己紹介した。


と、言っても、名前くらいしか言えることが無い。

パーティーを組むにあたってチームメンバーが気になるところ、自分が何が出来るかというところは曖昧にしか答えられらなったが、セネカが責任をもって強くするので大丈夫です。と、請け負ったら、みんな納得してくれた。


「ああ~。」 3人の何とも言えない視線。


かわいそうな子を見る目で見られたのが気になった。


そこへ、セネカが、思ってもいなかった話しをする。


アヤトが異世界から召喚されて此処に来たことを説明しだした。


(言っちゃうんだ。)


正直、話すとは思っていなかった。


パーティーの仲間に向かって、この事は他言無用なこと、こっちの世界の事は知らないことも多いので、フォローしてあげて欲しいことを告げるセネカ。


微妙な雰囲気になってしまった。


いきなりそんなことを言われても困るわな。・・・俺なら電波だと思う。


3人はアヤトを見て、次にセネカを見る。


「これからが楽しみです。」


(かわいそうに。) 3人の視線がアヤトに集まる。


何かつらいこと思い出したのか、デュークの顔は暗い。


「頑張れよ。これからよろしくな。」


イシュカはデュークの後ろで、コクコクと頷いている。

よろしくということだろう。


「お前も大変だな。でも、歓迎するぜ。」


シャロは気さくにアヤトの肩を叩く。


新しい3人の仲間は、生暖なまあたたかい眼差まなざしで迎えてくれた。


この3人も、セネカとは過去に色々あったらしい。


特に、デュークの視線から何か感じる。「気をつけろ。」と、言われているような・・・。


うん、セネカ以外は問題なさそうだ。案外 普通の人達かもしれない。


自己紹介が終わると、セネカからこのパーティーメンバーについて、いくつかの注意事項をべられた。


「イシュカさんの体に触る場合、必ず触れることを伝えてから、驚かせないようゆっくり触ってください。発火の恐れがあります。」


普通・・・。


「シャロさんにはうかつに攻撃しないでください。殺気を向けるのもダメです。注意しているが、つい切っちゃう。そうなので。」


普通・・・・・。


「デュークさんの前で女性がピンチになっていたら、基本、助ける方向で動いてください。どうせ勝手に動いて、何故か面倒が大きくなるので、そうなる前に対処してください。アヤトさんも暴走に巻き込まれる趣味はないでしょう?。」


普通・・・・・・・全然 普通じゃない。


最後にセネカから、「これが明日の冒険に必要な物です。」と、過去形な言葉で荷物を渡された。


用事が済むと、教室を後にする。


最後まで、このパーティーに入るか聞かれることもなく、「このパーティーに入って欲しい。」とか、言われることもなかった。


アヤトのパーティー加入と、ゴブリン退治の冒険が決まった。






 周りには瓦礫がれきが散乱している。


最近 崩れたものには見えない。


大分 古い時代の建物に使われた石の残骸ざんがいのようだ。


人が住むには適していないが、一応 屋根のようなものがある。


雨風あめかぜしのげるだろう。


入れそうな入り口は一か所あったが、今は通行禁止、守るように3人(?)の緑色の生き物が立っていた。


「何あれ。」 って聞いてみたら、


「ゴブリンです。」 って、当たり前のことのように言われた。


少し尖った耳に、醜い顔、緑とか汚れた青っぽい色の肌、痩せて子供のような体型、遠目に見るゴブリンの姿は、緑色の服を着た子供が、遊んでいるようにしか見えなかった。


入り口でウロウロしたり、石を拾ったりと落ち着きがない。


あれでは、あまり見張れていないような・・・。


知能は高くなさそうだ。


なるほどゴブリンだ。ファンタジーである。初ゴブである。


少しテンションが上がったが、すぐに下がる。


「今日はあれを、最低一匹 仕留しとめてくださいね。」


ダダ下がりである。


平和な日本に生まれ、ケンカもろくにしたことがない。


大袈裟おおげさに言えば、虫も殺したことがない生活を送ってきた。


それが、いきなり人型の生物『ゴブリン』を殺せ、である。


プリーズ。


「もう一回、言ってもらっていいか。」


アヤトが遠慮がちに頼む。


セネカは視線をゴブリンにうつし、


「あれを・一匹・殺して・きて・ください。」


んでふくめるように言う。


フリーズ。


聞き違いでは無いらしい。アヤトの動きがまる。


腰に差した重い鉈、新品のそれが、いっそう重く感じられる。


「大丈夫です。楽勝です。」


セネカの発言が、いっそう軽くなる。


アヤトは首をブンブン横に振ったが、


「お金も手に入るのですよ。最近、お金の出が激しくて、稼がなくては!。」


溜息をつき、衣食住とか学費とか呪文を呟いている。言葉という魔法の圧がすごい。これこそ最強の呪文かもしれない。


デュークとシャロは、その様子にあきれ返っていたが、


アヤトから文句が出ないのを確認すると、セネカは説明を続けた。



 「ゴブリンは、大まかに言って3つの区分に分けられます。


あそこにいるのは害獣タイプです。


あとの二つは、魔素タイプと呼ばれる魔物のゴブリンと、森ゴブリンです。


森ゴブリンは、臆病で穏やかな種族なので、ほとんど人里に降りて来ることはありません。数も少ないので、ここでは話しをはぶきます。


害獣タイプと魔素タイプのゴブリンの違いは、


殺すと死体が、残るか、残らないか。


魔石が、無いか、有るか。


子供を産むか、魔素が溜まると自然に発生するか。


と、いったところです。


どちらも、こっち世界では、ゴキブリよりも嫌われています。


今日のところは、あそこにいる害獣タイプの事だけ説明します。


魔素タイプのゴブリンについては、また今度。


害獣タイプの特徴は、死体が残り、魔石が無く、子供を産む。


人型で、体長は低く、体が軽くすばしっこい。


厄介なのが、非常に生命力が強いところです。首を半分切っても、血さえ止まれば死にません。


知能は高くないが、ずるがしこく、陰湿で、執念深い。


恩は秒で忘れても、恨みは一生忘れないと言われています。


物欲が強く、道具を使うことを好みます。


かっこいい物や珍しい物、光リモノ・金ピカな物が好きです。


一番好きな物は大きい剣と言われていますが、手入れをすることが無いので、ボロボロの状態の物を持っている個体が多いです。


勝手に他人の家に入り込んで、包丁やクワなどを盗んで武器にする。

個性的な個体だと、貴金属のネックレスを振り回して戦うゴブリンを確認したとか、冒険者ギルドの記録にあるそうです。


まあ、どこにでも落ちている物では無いので、木の棒や石を握りしめて戦うことが多いようです。


物を盗む、家畜をさらう、畑を荒らす。


おおよそ 人の嫌がることは何でもしますが、嗜虐心しぎゃくしんが強いので、生き物を殺したり、いたぶって遊んだりもします。


おもしろいのはゴブリンの男女比で、98~99パーセントがオスです。


男女の区別は付けにくく、よほど慣れた人でも、どれがメスか区別がつきません。


外見に違いはなく、メスにも地球の動物のハイエナのように偽陰茎と呼ばれるものが付いています。


メスはオスと交尾し受精後、今度はメスがオスに交尾し、卵体らんたいをオスの体の中に送り込みます。


その後、オスのお腹の中で卵体が成長すると卵養体らんようたいになります。

オスは他生物と交尾し、成長した卵養体を他生物の体の中にみ付けます。


卵養体は他生物の体の中でかえり、幼体ようたいになって、宿主の他生物を、体の中かららいます。

ゴブリンの幼体は、宿主やどぬしえさとして大きくなるわけです。


一回の交尾でつくられる卵体の数は30程だそうですが、出てくる赤ちゃんの数は8~17匹くらい、共食ともぐいで半分ほどになるそうです。


ゴブリンは年中発情するうえ、宿主を喰って生まれた赤ちゃんは、生まれて3日くらいで歩き回ります。


繁殖はんしょくスピードが非常に速いのが、一番厄介なところでしょうか。


「ヤバイな、ゴブリン。・・その宿主って、逃げたり死んだりはしないのか。」 アヤトはすでにゴブリンが嫌いだ。


「死んで腐った肉でも食べますから。

暴れるようなら手足を食い千切ったりしますが、そんなことをしなくても、地球の動物のコモドドラゴンのように、ゴブリンの唾液などにはバクテリアが住みついているので、嚙まれたり爪で引っかかれたりすると、病気になって動けなくなります。

他にも、ゴブリンは病原菌に対する耐性・抵抗力が強く、バクテリア以外にも人間なら死ぬような病原菌を体に保菌していることがあります。

なので、うつされた宿主は、弱って動けなくなります。

だから、捕らえられ、生きたまま食われます。

まあ、そうなる前に死ぬか、脳死状態・・・運が悪くて発狂してるでしょうね。」


セネカは坦々と害獣型と呼ばれるゴブリンの生態を説明する。


アヤトはその内容にドン引きだ。


ヤバイナ、ゴブリン・・・・・・生きたままエサ・・・バクテリア・・。


ゴブリン怖い。


異世界怖い。







古い建物、巣穴の入り口のゴブリン3匹は、木の棒しか武器を持っていなかった。


太めの木の枝を、そのまま拾って、持っただけの物に思える。


鉈を構えて、少しずつ近づいて来るアヤトに対して、


「グゲッ、グゲッ・・。」と、慌ただしく騒ぎ出すゴブリン。


建物内からは、他のゴブリンは出て来ていない。


全部で何匹いるのだろう。


そんなことを考えていると、3匹がアヤトに向かって走って来る。


(思考加速) (筋力向上) (気力加護)


セネカの呪文で体が少し軽くなり、心に余裕が出来る。


ゴブリンの足は思ったより速かったが、少し遅くなったように感じられる。


これが魔法か。ほとんど効果は感じないが、掛けてもらうと気休めになる。


シャロとデュークは後ろから、3匹のうち、それぞれ別のゴブリンに寄って行き、シャロは短剣で、デュークは剣で、一撃のもとに切り伏せた。


アヤトは目の前の、残り1匹のゴブリンへの対応にてんぱっていて、ちゃんとその動きを見られなかったが、


(うわっ、戦いが参考にならない。) である。


アヤトは、目の前のゴブリンに鉈を大きく振りかぶって威嚇いかく、タイミングを見て上から叩きつけたが、鉈の刃はゴブリンの肩で止まる。


「ギゲェエェェ~~。」 


ゴブリンが絶叫をあげる。


不快な声。肉を切り、骨に当たる嫌な感触に、思わず、入れた力を抜いてしまう。


ゴブリンは逃げるではなく、そのままアヤトの方に歯をき出しにして襲い掛かって来た。


思わず、鉈を横に振って、剣の腹で叩いて距離を取る。


(ハァ、ハァ・・、きつい、誰か助けてくれ。) チラッと、セネカを見たが、


「ゴブリンは生命力が強いので、確実に首を切るか、もっと大きなダメージを与えてください。

ゴブリンの体の構造は貧弱で、骨は鳥の骨のようにスカスカです。

筋肉も付きにくい体質なので、あなたの力でも充分通じます。」


と、い笑顔で、応援にてっしている。


「クソッ、クソッ・・。」


目の前のみにくいゴブリンの顔に、セネカの顔を投影とうえいし、思いっきり鉈を振りろす。

何度も、何度も。何度も。


10回くらい鉈を振って、ようやく動かなくなったゴブリンを見下ろして、鉈の剣先を地面につけて杖代わりにする。


肩で荒く息をしながら、他のメンバーを見ると、こっちを見ていて、すでにゴブリン退治は終わっていた。


倒れた合計8体の死体。


「初討伐おめでとう。」


と、セネカに言われたが実感が無い・・・あと、何がおめでとう。だ!。


「飲んどけ。」と、シャロに渡された水筒の水はうまかった。


建物内にいたゴブリンは、外の騒ぎに出てきたところを、シャロとデュークが即退治、シャロが3匹、デュークが2匹、倒したそうだ。


セネカは全体を見て指示、イシュカはセネカの護衛の役割だったらしく、棒のような武器を構えている。


イシュカの武器は自身の身長くらいの長さの鉄パイプのような武器で、一方の先が楽器のホルンのように、少し先端が広がっている。


おそらくは、棒か槍のようにして使うものだと思われるが、どう戦うか想像がつかない。


イシュカはいいが、セネカが一歩も動いていないのは納得できない。そのうえ、


「では、それぞれ、自分が倒した獲物の鼻を切ってくださいね。」と、言われた。


「何で!。」


「冒険者ギルドに持って行って討伐報酬をもらわないと。

討伐証明部位を持っていくのは当然の事でしょう?。」


何を当たり前のことを、という目で見られた。


シャロとデュークはもう終わったそうだ。


(うぅ・・嫌だ。切りたくない。)


と、思ったが、じっと見てくるセネカの視線に負け、しぶしぶ切り出す。


買ったばかりの俺の マイ ナイフ、実は結構 気に入っているのに。


これの初任務が、ゴブリンの鼻を切る事だなんて。


終わるとセネカが、


「切ったらそのままゴブリンの死体を一か所に固めて置いてください。

あと、ゴブリンを切った鉈やナイフはしっかり消毒、綺麗にしてください。

傷もあったら報告、すぐに消毒・治療します。」


報告はなかったようで、


「炎よ、焼き尽くせ。」


セネカはゴブリンの死体を、魔法で一気に焼いていく。


「やっぱ、焼かなきゃダメなのか。」


風上の、焼かれる死体が目に入らない位置に移動して、セネカに問い掛ける。


「はい。放って置くと他の獣が食べたり、魔物が寄って来たり、病気が流行ったりしますので・・。

倒したら、出来るだけ焼くか埋めるか、するのが推奨されています。

ゴブリンは放っておくとドンドン増えるので、冒険者ギルドは定期的に討伐依頼を出して数を減らしています。安いが報奨金も出ます。」


合計9つあるゴブリンの鼻は、小さな布袋に一か所に集められ、アヤトに持たされた。


これから、これを近くの冒険者ギルドまで持って行き、報奨金を受け取るそうだ。


また、2時間以上歩くのか。と、うんざりする。


「馬車とか使ったら駄目なのか。」


「いいですけど、そんなの使ったら完全に赤字になりますよ。」


と、言われた。


「ゴブリン退治、・・・・これって割に合うのか。」


「合いませんよ。

新人冒険者の、糊口ここうをしのぐ仕事、という感じですね。

それと義務っぽいところもあります。

ゴブリンが多い地域だと、冒険者は年10匹はゴブリンを退治すること。って決まりがある冒険者ギルドがあるくらいです。

まあ、安宿に一泊し、夕食代くらいにはなるかと。

今回で言うと、アヤトさんのお小遣いですね。」


ゴブリン退治の仕事は、学費には程遠く、お小遣いレベルだった。


どおりでセネカがお金の話をした時、デュークとシャロがあきれていたはずだ。


ゴブリンの鼻を出来るだけ遠くに、袋を指でつまんで持つ。


とにかく、もうしばらくの辛抱しんぼうだ。


疲れた。めちゃくちゃ体が重えぇ~。


今日は帰ったら、ぐっすり眠れそうだ。






  アヤトには日課がある。


あの日、セネカに助けれ、宿で3日熟睡した次の日から、毎日欠かしたことはない。・・・寝落ちして出来なかった日はあるが。


馬車の旅以来、セネカに課されている修行の一環である。


夜、就寝前に、不味いお茶を1杯飲み、白い石に意識を集中しながら瞑想めいそうする。


どんなに眠くても、寝るのはそれからだ。


瞑想の時は必ず、気や魔力の流れを意識して行う。


その際、いつも手にある透明感のある白い石は、修行初日にセネカに貰った物で、大きさは日本のニワトリの卵くらい、形も卵に似ている。


勝手に玉子石と名付けた。


これは、いつも腰の巾着袋に入れて、肌身離さず持っている。


 朝は起きてから水以外 口にしてはいけない。


朝食は、不味い餅のような団子1つと水のみだ。


団子は、セネカに渡された粉に水を入れてね、毎朝 自分で作っている。


毎日の修行は欠かしてはならない。


修行をさぼったり、忘れていると、セネカから【 修行 】という名前の付いた魔法の制裁を受けるので、欠かしたことはない。


黙っていればバレないだろう?、と、思うかもしれないが、何故かバレる。


うっかり寝て、していなかった時は、夜中に天井から出てきた幽霊っぽい者(?)に、無理やりやらされたので、間違いない。


魔法の仕掛けでもあるのか、あるいは見張られているのかもしれない。


目を閉じ、自分の中の気の流れを意識して集中する。


この気の流れは、セネカとの馬車の旅の間に、セネカに気を送られ、気の流れのつかみ方を覚えさせられた。


最初、全然うまくいかなかったが、1度感じると、掴むのは早かった。


何故かると分かる。ぼんやりとしたものだが、分かってしまうと、何故今まで分からなかったんだろう、と、思うほど自然な感覚になる。


ただ、この学園に来て1か月余りが過ぎている。


気や魔力を感じ取れるようになればなるほど、薄っすらと幽霊のようなものが見えるようになってきたり、授業で使う骨の上でブツブツと呟く影を見たり、と、嬉しいかというと微妙だ。


少なくとも俺は寒イボが出たね。


普通の魔法は普通に嬉しいぞ。


オタクというほどではないが、普通にアニメや漫画などのファンタジー好きとして、テンションが上がる。


あまり威力はないが、ファイアーボールが出た時は、飛び上がって喜んで、恥ずかしい思いをした。


小学生(初等部の学生)に白い目を向けられる赤面の青年。


黒歴史がまた一つ増えたのは、無かったことにしたい思い出だ。


スヤスヤ・・・何も考えられない。


その日の夜、何故か、はっきりした姿の幽霊があらわれて、俺は絶叫した。



 学園に来て2か月半くらいが過ぎた頃からは、目を凝らして集中すれば、自分のオーラのようなもの、他人のオーラのようなものが見えるようになってくる。


魔道具や授業で使う骨なんかに、魔力があるのも分かるようになってきた。


セネカに言わせるとまだまだで、まだ入り口に立ったところ・・・らしいが、それでも大きな進歩だ。俺 頑張った。


 ちなみに、こっちの世界の1か月は、1年を10で割っている。


1年は1月から10月までの、10か月となる。


また、こちらの1年の日数は、土地によって違う。


1年は250日~400日の範囲の所が多い。


よって、1か月は25日~40日となる。


1日も24時間ではない。時間帯としては19時間~30時間までの所が多いらしい。


1年の日数や1日の時間の変化は、【境界】を越えると変わるそうだ。


逆に言うと、境界を越えず同じ土地に居る限りは、1年の日数や1日の時間は変わらない。


1日の時間は、鐘で把握されている。


だいたい、どの町に行っても鐘があり、日の出・正午・日の入りなどに鐘を鳴らして時刻が伝られえる。


いつ鐘を鳴らすかは、街や国・地域によって違う。


そこで暮らす人々は、鐘が鳴ってからどれぐらい経ったか、日の高さや影の長さ、明るさ・暗さで時間を把握しているらしい。


こっちの世界にも時計はあるが、とても高価だし、使用する人は少ない。

持っているのは貴族や大商人・上級冒険者くらいだとか。


土地によって変化する1年の長さと時間の違い。


そうなるとカノヴァ公国には、此処にしかない事情の問題が生じる事になる。


カノヴァの大亀は土地を移動する。


境界も気にせず移動するので、1年の日数や1日の時間がまちまちになる。


その為カノヴァでは、固定された時計を元に、時間や月日、カレンダー・暦を国が管理している。


カノヴァには、地球のうるう年のような感じで、日数調整の為の月、11月がある。余り月とか呼ばれているらしい。


それらを暦庁こよみちょうが公国官報で、全公国民や学生・周辺国に伝える。という特殊な体制を取っている。


【来年の1年は、1年が375日、1か月が35日、11月は25日を予定。

1日は、4月✕日まで25時間前後です。

〇月△日は朝後すぐ夜になるので休日とします。1日は15時間を予定、体調を崩さぬよう気を付けてください。

その後は、1日の時間の長さは23時間前後となります。

春は2月を予定。麦の種まきは10月までに済ませておいてください。

農作物に関する詳しい季節の変化を確認したい方は、公官庁の方にお問い合わせください。

また情報が更新され次第、お知らせします。】


という具合だ。


情報は掲示板に貼りだされ、詳しく確認したい時は公官庁に直接聞きに行く。

(紙の官報もあるが、買わないともらえないので一部の人しか買わない。)


1日の時間に関しては、カノヴァ公国でも他国同様 鐘で知らせられ、それを元に人々は生活している。


1日の鐘は、日の出が9回、正午が5回、日の入りが7回鳴らされる。


この鐘は、カノヴァの学園の授業の時にも使用される。


授業開始の鐘が3回、鳴ってから地球時間で30分くらい経って授業が開始される。


授業終了の鐘は1回、こっちは鳴ったら即 授業終了だ。


1日の授業数は午前に2回、午後に2回の計4回。


部活や愛好会、サークル活動のようなものも存在している。

時間は各自やりくりしている。

日本と違ってスポーツ系のものが少なく、文科系のものや実践系のものが多い。


剣の練習・貴族のお茶会・魔術の研究・読書クラブ・チェスに似た遊戯・・・なんてのもあるそうだ。


そのような活動だが、これは強制ではなく、自主的な活動なので、別に入る必要はない。


アヤトは、日本にいた時から帰宅部で幽霊部員だったので、その点は助かる。


授業の時間は地球時間で80~90分くらいだろうか。


時間は、鐘を元に各自が把握、講義を受けそこなったら、後日・別の日にやる同じ講義を受けたりして調整する。


ゆったりしているように感じるが、自主勉強や訓練、部活や予習・復習をしていれば時間はあっという間に過ぎる。


とにかく、オーラのようなものが見えるようになってから、時間と共に霊体がさらにはっきり見えるようになった。


いや、この前の幽霊のお仕置きのようなことでなく。


どうやらこれは、残留思念に雑多な念や気、魔素が宿ったりしたモノで、魂は無いらしいが、それでも、怖さや不気味さは無くならない。


夜とか暗闇で、じっと見つめてくる者(?)はどんなモノでも怖い。


ただ、精神的なもの以外、アヤトに実害はあまりない。


そういった存在は、セネカから預かったこの白い石を嫌がるようで、近づいて来ても、石に意識を集中して気を流すと、何処どこかに行ってしまう。


石を渡されたのは、どうやら意味があってのことだったらしい。


それでも、死霊魔術の授業はいまだに慣れない。


授業毎に骨は磨かされるし、骨には角があったり、人っぽいものであったりする。怖いので確認していない・・・。


学生には何か憑いている人も多いし、ミイラやゾンビやスケルトンの扱い方やら、新鮮な死体の保存法やら、アンデットの作り方の魔法は・・・勘弁かんべんしてくれ。


さすがに、ゾンビを扱う授業は校舎の外で実地された。

臭いなどの関係で教室でやるわけにはいかないらしい。


嫌だ、普通に授業がしたい。


勉強は好きではないが、今なら勤勉に勉強しても良い。


机に向かって黙々と骨を磨くのは、もう嫌だ。


うん。この前、体を綺麗にしたミイラ・・・、お礼に、中から黒い手のようなモノを出して、手を振ってくれた。


うん、いいよ、お礼なんて、それより出て来なくていいから。


異世界怖い。


・・・授業 怖い。






  カノヴァの大亀がどこかの町に近付くたびに、セネカはパーティーを連れて外出する。


町や村に寄り、アヤト達を連れ回した。


パーティーでの冒険は嫌いではない。


1人より安全だし、ガイドも付いていると思えば楽だ。


知らない街、それも異世界だ。珍しいし興味はある。


漫画やアニメ好きとして、人並みに異世界にあこがれもある。


ただ、何度もゴブリンとの戦いに連れて行かれたり、古戦場こせんじょうをあちこち見て回ったり、野盗討伐に参加させるのは駄目だ。


ノオである。


自分はNOと言える日本人でありたい。


「アヤトさん、その人、逃げようとしているので、片足切っちゃってください。」


と、言われても、きっぱり断った俺は偉い。


どうやら、セネカとしては、俺に実戦経験を積ませたいらしい。


こっちの世界、戦争や魔物との戦いが当たり前にある。


田舎では食事の前に家畜をさばくなど、生活の中に『生き物を殺す行為』が存在している。


殺すことを喜ぶようでは問題外だが、躊躇ちゅうちょして逆に殺されるのはもっと問題外だ、と、言われた。


トリめての料理や、獣を解体してのバーベキュー、町に泊まると、おつかいや裏路地散歩、観光まで色々やった。


やって慣れろ、とのことだ。


あと、何故か食事だけは豪華で、セネカは毎回 皆に豪勢な料理を振舞ふるまった。


お金を気にせず、おごってくれたり、食べ歩きをする。


アヤトは昼食と夕食だけだが、けっこう散財しているように見える。


デュークに確認すると、以前からイシュカに食事を勧める事は多々あったそうだ。


イシュカは出てきた物は食べるが、自分から、「これを食べたい。」と、言うことがなく、それを心配して、いろいろ食べさせているのだとか。


「だが、確かに、最近、以前に増して食事の内容が良くなっている。」と、デュークも首を傾げていた。


そんな事はお構いなしに、「この町はこの料理が有名で・・・。」 「この店はこれが名物でわざわざ遠方から食べに・・・。」とか、何処どこから仕入れたか分からない知識で、アヤトに料理を勧めてくる。


おいしい食事など楽しいこともあるが、なかなかハードなスケジュールで、学園の授業に、慣れない生活と知識・魔法・冒険・・・・。


体が重い・・・。


学園に入学して4か月が経った頃には、アヤトはグロッキーになっていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ