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異世界怖い  作者: 名まず
3/29

ゴブリン怖い

 あっちの世界の日本の学校にはなくて、こっちの世界のカノヴァの学園にある制度はたくさんある。


その一つがパーティー制度だ.


学園内で学生同士がパーティーを組み、冒険者ギルドで依頼を受けたり、冒険に出かける。


事前に計画書を出し申請、担任の先生の許可をもらい、冒険後にレポートを出し、単位をもらうのだ。


自ら課題を設定、チームで目標をクリアすることで、単位を得る。そういう趣旨だろう。


学園の外やダンジョンに行ったりも出来る。主に上級生が利用する制度のようだ。


もちろん下級生のアヤトは、そんな制度があること自体知らなかった。


中等部以降なので、学園での説明もまだだ。


では、どのようにしてアヤトが、その制度のことを知ったかと言うと、

今、紹介されたのだ、パーティーメンバーを。


その場で、パーティー制度の説明を受ける。


パーティーに入った後に、「入学してすぐにパーティーに入る例は少ないのですが、なに、上級生と一緒なら大丈夫です。」と、セネカに言われた。


「え~~と。」


選択権はない。すでに決定していることなのだから。


自己紹介も始まっている。


使用許可を取って、このパーティーの拠点として使わせてもらっているという教室に集まっているのは、アヤトを含めて5人。


アヤトとセネカ、男性が2人に、女性が1人、あと、ここには居ないが女性が2人いるらしい。


今は課外活動に出ているらしく、「今度、紹介しますね。」と、言われた。


1人目はデュークという青年で、黒髪、黒目と日本人には親近感が持てる見た目だ。


肩まであるストレートの髪と、それが似合う美形の顔というところは親近感が持てないが、優しそうないい人に見える。


「ここに居る人が、今日からあなたの仲間です。」と、説明もなしに決めたりはしなさそうだ。


2人目はイシュカという少女だ、デュークの後ろに隠れて自己紹介してきて、引っ込み思案のようだが、赤髪、赤目で目立っている。


かわいらしい女の子で、おとなしそうだ。


どこかの笑顔しか見せない人物よりは安心できるだろう。


3人目はシャロという青年で、背はこの中で一番高い、たぶん180センチ以上ある。


細身で均整の取れた体付きをしている。金髪、茶目の気さくそうな人物で、女性にもてそうなところは気に食わないが、「よろしくな。」と、片手を挙げる仕草は自然で、友好的に見える。


きっといきなり、「外へゴブリン退治に出掛けましょう。」などと、無茶を言ったりはしないだろう。


そんなアヤトの心情は置いておかれて、セネカの説明を続く、


「えーと、初めに言っておきますが、ここに居ない2人を含めて、このパーティーは、私以外・全員が前衛攻撃職です。


冒険者のパーティーで、最も安定的な編成と言われているのが、


前衛盾職 (タンク)、敵の攻撃を受け、チームの土台を支えます。これが機能しないと、ヒーラーや魔法使いは力を発揮できません。


治癒術士 (ヒーラー)、ケガ人を治すチームの要です。数が少ないので、ヒーラーがいないパーティーもあります。その場合は、治療技術がある人がこの役につき、ポーションや各種薬を用いて治療します。


魔法攻撃職 (魔法使い)、高い攻撃力といざとなった時の切り札として期待されます。応用力が高いのも魔法の強みです。


物理攻撃職 (剣士など)、攻撃のメイン戦力です。他にも槍使いや斧使いなど武器は多様です。安定した攻撃力が求められます。


軽突撃職 (軽戦士など)、威力偵察、敵のかく乱や、直接戦って敵の情報を引き出す役目が求められます。体が軽く、速く動ける人、目がいい人が多いです。


偵察・情報収集職 (盗賊)、文字通りの活動から、食料調達、地図の準備、移動手段の確保まで、幅広い役割が期待されています。盗賊ではなく商人がやったりもします。


この6つの役割がうまく機能しているのが、いい冒険者パーティーと言われています。


デュークさんには剣を使った攻撃と、体を使った魔法防御。


イシュカさんには武器を使った物理・魔法攻撃と、火魔法攻撃。


シャロさんは短剣と体術での物理攻撃と、かく乱・威力偵察。


を担当してもらっています。」


「セネカは?。」 アヤトが聞くと。


「私は魔法による支援とリーダーの役割ですね。お金の管理や移動手段の手配、計画立案、まあ、何でも屋です。」


「なるほど、・・でも、なんで、セネカ以外全員アタッカーなんだ。

普通、もっとバランスよく選ぶものじゃないのか。」


「普通はそうですね。たまたま集めたメンバーでパーティーを組んだだけですし、ただ、私は基本何でも出来るので、あまりバランスとか気にならないんですよ。」


イヤミな奴だ。


一通り自己紹介を受けると、セネカに促されて、アヤトも自己紹介した。


その前にまずセネカが、アヤトが異世界から召喚されてここに来たことを説明し、他言無用なこと、こっちの世界のことは知らないことも多いので、フォローしてほしいことを告げたので、微妙な雰囲気になってしまった。


いきなりそんなことを言われても困るわな。俺なら電波だと思う。


3人はセネカを見て、次にアヤトに視線をやり納得する。


(かわいそうに。)


デュークとシャロは生暖かい眼差しで迎えてくれた。


「頑張れよ。」


「お前も大変だな。」


イシュカはデュークの後ろで頷いている。


この3人はセネカとは過去に何かあったらしい。特に、デュークとは何か通じるものがある。


うん、セネカ以外は普通そうだ。


自己紹介が終わると、セネカからこのパーティーメンバーについて、いくつかの注意事項を述べられる。


「イシュカさんの体に触る場合、必ず触れることを伝えてから、驚かせないようゆっくり触ってください。

発火の恐れがあります。」


普通・・・。


「シャロさんにはうかつに攻撃しないでください。殺気を向けるのもダメです。

注意しているが、つい切っちゃう。そうなので。」


普通・・・・・・。


「デュークさんの前で女性がピンチになっていたら、基本、助ける方向で動いてください。

どうせ勝手に体が動いて、面倒が大きくなるので、そうなる前に対処してください。

暴走に巻き込まれたくはないでしょう。」


普通・・・・・・・・・、全然普通じゃない。


セネカは、「冒険に必要な物は私の方で用意しておきますので・・・。」と、教室を後にする。


最後まで、このパーティーに入るか、とか、冒険に行くか、とか聞かれることなく、


アヤトのパーティー加入とゴブリン退治の冒険の話しが決まってしまった。






 周りには瓦礫が散乱している。最近崩れたものではない。


大分古い時代の建物の石の残骸のようだ。


人が住むには適していないが、一応屋根のようなものがある。


雨風はしのげるだろう。


入れそうな入り口は一か所あったが、守るように3人(?)の緑色の生き物が立っていた。


「何あれ。」 って聞いてみたら、


「ゴブリンです。」 って、当たり前のことのように言われた。


少し尖った耳に、醜い顔、緑とか汚れた青っぽい色の肌、痩せて子供のような体型、遠目に見るゴブリンの姿は、緑色の服を着た子供が、遊んでいるようにしか見えなかった。


入り口でウロウロしたり、石を拾ったりと落ち着きがない。


あれではあまり見張れていないような・・・。


知能は高くなさそうだ。


なるほどゴブリンだ。ファンタジーである。初ゴブである。


少しテンションが上がったが、すぐに下がる。


「今日はあれを、最低一匹は仕留めてくださいね。」


と、セネカに言われたからだ。


ダダ下がりである。


平和な日本に生まれ、ケンカも碌にしたことがない。


大袈裟に言えば、虫も殺したことがない生活を送ってきた。


それが、いきなり人型生物、ゴブリンを一匹殺せ、である。


プリーズ。


「もう一回、言ってもらっていいか。」


アヤトが遠慮がちに頼む。


セネカは視線をゴブリンに向け、


「あれを・一匹・殺して・きて・ください。」


噛んで含めるように言う。


フリーズ。


聞き違いではないらしい。アヤトの動きが停まる。


腰に差した、重い鉈のような武器が、一層重く感じられる。


「大丈夫です。楽勝です。」


セネカの発言がいっそう軽くなる。


アヤトは首をブンブン横に振ったが、


「お金も手に入るんですよ。最近、お金の出が激しくて、稼がなくては。」


溜息をつき、衣食住とか学費とか呪文を呟いている。魔法の圧がすごい。


デュークとシャロは呆れかえっていたが、


アヤトから文句が出ないのを確認すると、セネカは説明を続けた。



 「ゴブリンは、大まかに言って3つの区分に分けられます。


あそこにいるのは害獣タイプです。


あとの二つは、魔素タイプと森ゴブリンと呼ばれています。


最後の森ゴブリンは、臆病で穏やかな種族なので、ほとんど人里に降りて来ることはありません。数も少ないので、ここでは話しを省きます。


害獣タイプと魔素タイプのゴブリンの違いは、


殺すと死体が、残るか、残らないか。


魔石が、無いか、有るか。


子供を産むか、魔素が溜まると自然に発生するか。


と、いったところです。


どちらも、この世界では、ゴキブリよりも嫌われています。


今日のところは、あそこにいる害獣タイプのことだけ説明します。


魔素タイプのゴブリンについては、また今度。


害獣タイプの特徴は、死体が残り、魔石が無く、子供を産む。


人型で、体長は低く、体が軽くすばしっこい。


厄介なのが非常に生命力が強いところです。首を半分切っても血さえ止まれば生きてます。


知能は高くないが、ずるがしこく、陰湿で、執念深い。


恩は秒で忘れても恨みは一生忘れません。


道具を使うことを好み、かっこいい物や珍しい物、綺麗な物が好き。


一番好きな物は大きめの剣と言われていますが、手入れをすることがないので、ボロボロの状態の物を持っている個体が多いです。


勝手に他人の家に入り込んで、包丁や鍬などを盗んで武器にする。

変なのだと貴金属のネックレスを振り回して戦う個体がいたとか。


まあ、どこにでも落ちている物ではないので、木の棒や石を握りしめて戦うことが多いようです。


物を盗む、家畜を攫う、畑を荒らす。


人の嫌がることは何でもしますが、嗜虐心が強いので、生き物を殺したり、いたぶって遊んだりもします。


おもしろいのは男女比で、98~99パーセントがオスです。


男女の区別は付けにくく、よほど慣れた人でも、どれがメスか区別がつきません。


外見に違いはなく、メスにも地球の動物のリカオンのように偽陰茎と呼ばれるものが付いています。


メスはオスと交尾し受精後、今度はメスがオスに交尾し、卵体をオスの体の中に送り込みます。


その後、オスのお腹の中で卵体が成長すると、オスは他生物と交尾し、成長した卵体を他生物の体の中に産む付けます。


卵体は他生物の体の中で孵り、幼体になって、宿主の他生物を体の中から食べる。


宿主を餌として大きくなるわけです。


一回の交尾でつくられる卵体の数は30ほどだそうですが、出てくる赤ちゃんの数は8~17匹くらい、共食いで半分ほどになるそうです。


年中発情するうえ、宿主を食って3日くらいで歩き回ります。


繁殖スピードが非常に速いのが、一番厄介なところでしょうか。


「ヤバイな、ゴブリン。・・その宿主って、逃げたり死んだりはしないのか。」 アヤトは問う。


「死んで腐った肉でも食べますから。

暴れるようなら手足を食い千切ったりしますが、そんなことをしなくても、地球の動物のコモドドラゴンのように、ゴブリンの唾液などにはバクテリアが住み着いているので、嚙まれたり爪で引っかかれたりすると病気になって動けなくなります。

他にも、ゴブリンは病原菌に対する耐性・抵抗力が強く、バクテリア以外にも人間なら死ぬような病原菌を体に保菌しています。

なので、うつされた宿主は弱って動けなくなります。

だから、捕らえられ、生きたまま食われます。

まあ、そうなる前に死ぬか、脳死状態に。悪くて発狂してるでしょうね。」


セネカはタンタンと害獣型と呼ばれるゴブリンの生態を説明しているが、


アヤトはその内容にただ、ドン引く。


ヤバイナ、ゴブリン・・・・・・。


生きたままエサ、・・バクテリア。


異世界のゴブリン怖い。異世界怖い。







古い建物、巣穴の入り口の3匹は、木の棒しか武器を持っていなかった。


太めの木の枝を、そのまま拾って、持っただけの物に思える。


鉈を構えて、少しずつ近づいて来るアヤトに対して、


「グゲッ、グゲッ・・。」と、慌ただしく騒ぎ出すゴブリン。


建物内からは、他のゴブリンは出て来ていない。


全部で何匹いるのだろう。


そんなことを考えていると、3匹がアヤトに向かって走って来る。


(思考加速) (筋力向上) (気力加護)


セネカの呪文で体が少し軽くなり、心に余裕ができる。


ゴブリンの足は思ったより速かったが、少し遅く感じられる。


これが魔法か。ほとんど効果は感じないが、掛けてもらうと気休めになる。


シャロとデュークは後ろから、3匹のうち、それぞれ別のゴブリンに寄って行き、シャロは短剣で、デュークは剣で、一撃のもとに切り伏せた。


アヤトは目の前の、残り1匹のゴブリンへの対応にてんぱっていて、あまりその動きを見られなかったが、


(うわっ、戦いが参考にならない。) である。


目の前のゴブリンに鉈を大きく振りかぶって威嚇、

タイミングを見て、上から叩きつけるが、鉈の刃はゴブリンの肩で止まった。


「ギゲェエェェ~~。」 


ゴブリンが絶叫をあげる。


不快な声。肉を切り、骨に当たる嫌な感触に、思わず、入れた力を抜いてしまう。


ゴブリンはそのまま、歯をむき出しにして襲い掛かって来た。


思わず、鉈を横に振って、剣の腹で叩いて距離を取る。


(ハァ、ハァ・・、きつい、誰か助けてくれ。)と、セネカの方を見たが、


「ゴブリンは生命力が強いので、確実に首を切るか、もっと大きなダメージを与えてください。

ゴブリンの体の構造は貧弱で、骨は鳥の骨のようにスカスカです。

筋肉も付きにくい。あなたの力でも十分通じます。」


と、いい笑顔で、応援に徹している。


「クソッ、クソッ・・。」


目の前の醜いゴブリンの顔に、セネカの顔を投影し、思いっきり鉈を振り下ろす。何度も、何度も。


10回くらい鉈を振って、ようやく動かなくなったゴブリンを見下ろして、鉈の剣先を地面に付けて、杖代わりに、肩で荒く息をする。


他のメンバーを見ると、こっちを見ていて、すでにゴブリン退治は終わっていた。


倒れた合計8体の死体。


「初討伐おめでとう。」


と、セネカに言われたが実感がない。あと、何がおめでとう。だ。


「飲んどけ。」と、シャロに渡された水筒の水は旨かった。


建物内にいたゴブリンは出てきたところをシャロとデュークが退治、


シャロが3匹、デュークが2匹倒したそうだ。


セネカは全体を見て指示、イシュカはセネカの護衛の役割だったらしく、棒のような武器を構えている。


イシュカの武器は自身の身長くらいの長さの鉄パイプのような武器で、一方の先が楽器のホルンのように、少し先端が広がっている。


おそらくは、棒か槍のようにして使うものだと思われるが、どう戦うか想像がつかない。


イシュカはいいが、セネカは一歩も動いていない。そのうえ、


「では、それぞれ、自分が倒した獲物の鼻を切ってくださいね。」と、言う。


「何で!。」


「冒険者ギルドに持って行って、討伐報酬をもらわないと。討伐証明部位を持っていくのは当然でしょう。」


何を当たり前のことを、という目で言われた。


シャロとデュークはもう切り始めている。


(うぅ、嫌だ。切りたくない。)


と、思ったが、じっと見てくるセネカの視線に負け、しぶしぶ切り出す。


せっかく貰ったナイフ、実は結構気に入っていたのに。


これの初任務がゴブリンの鼻を切ることだなんて。


終わるとセネカが、


「切ったらそのままゴブリンの死体を一か所に固めてください。

あと、ゴブリンを切った鉈やナイフはしっかり消毒、きれいにしてください。

傷もあったら報告、すぐに消毒、治療します。」


報告はなかったようで、


「炎よ、焼き尽くせ。」


セネカはゴブリンの死体を、魔法で一気に焼いていく。


「やっぱ、焼かなきゃダメなのか。」


風上の、焼かれる死体が目に入らない位置に移動して、セネカに問いかける。


「はい。他の獣が食べたり、魔物が寄って来たり、病気が流行ったりしますので・・。

倒したら、出来るだけ、焼くか埋めるか、するのが推奨されています。

ゴブリンは放っておくとドンドン増えるので、冒険者ギルドは定期的に討伐依頼を出すし、安いが報奨金も出ます。」


鼻は小さな布袋に一か所に集められ、アヤトに持たされた。


これから、これを近くの冒険者ギルドまで持って行き、報奨金を受け取るそうだ。


また、2時間以上歩くのか。と、うんざりする。


「馬車とか使ったら駄目なのか。」


「いいですけど、そんなの使ったら、完全に赤字になりますよ。」


と、言われた。


「ゴブリン退治、・・・・これって割に合うのか。」


「合いませんよ。新人冒険者の、糊口をしのぐ仕事、という感じですね。

それと義務っぽいところもあります。

ゴブリンが多い地域だと、冒険者は年10匹はゴブリンを退治すること。っていう冒険者ギルドがあるくらいです。

まあ、安宿に一泊し、夕食代くらいにはなるかと。

今回で言うとアヤトさんのお小遣いですね。」


学費には程遠く、お小遣いレベルだった。


どおりであの時、デュークとシャロが呆れていたはずだ。


ゴブリンの鼻を出来るだけ遠くに持つ。


とにかくもうしばらくの辛抱だ。


疲れた。めちゃくちゃ体が重えぇ~。


今日は帰ったら、ぐっすり眠れそうだった。






  アヤトには日課がある。


セネカと会って以来、毎日している。


正確には竜車の旅をした時からだが、セネカに課されている修行の一環である。


夜、就寝前に、不味いお茶を1杯飲み、白い石に意識を集中し、瞑想してから寝る。


朝は起きてから水以外・口にしてはいけない。


朝食は、不味い餅のような団子1つと水のみだ。


団子はセネカに渡された粉に、水を入れて捏ね・自分で作る。


瞑想の時は必ず、気や魔力の流れを意識して行う。


持っている透明感のある白い石は、初日にセネカに貰った物で、日本のニワトリの卵くらいの大きさで、形もそっくりだ。


勝手に玉子石と名付けている。


いつも腰の巾着袋に入れて、肌身離さず持っている。


毎日の修行は欠かしてはならない。


修行をさぼったり、忘れていると、セネカから【 修行 】という名前の付いた魔法の制裁を受けるので、欠かしたことはない。


黙っていればバレないだろう、と、思うかもしれないが、何故かバレる。


寝落ちして、していなかった時は、夜中に天井から出てきた幽霊っぽい者(?)に、無理やりやらされたので、間違いない。


魔法の仕掛けでもあるのか、あるいは見張られているのかもしれない。


目を閉じ、自分の中の気の流れを意識して集中する。


この気の流れは、1か月近く掛かったセネカとの竜車の旅の間に、セネカに気を送られ、気の流れの掴み方を覚えさせられた。


最初、全然うまくいかなかったが、1度感じると、掴むのは早かった。


何故かあると分かる。ぼんやりとしたものだが、分かってしまうと、何故今まで分からなかったんだろう、と、思うほど自然な感覚になる。


ただ、この学園に来て1か月余りが過ぎている。


気や魔力を感じ取れるようになればなるほど、薄っすらと幽霊のようなものが見えるようになってきたり、授業で使う骨の上でブツブツと呟く影を見たり、と、嬉しいかというと微妙だ。


少なくとも俺は寒イボが出たね。


普通の魔法は普通に嬉しい。


オタクというほどではないが、普通にアニメや漫画などのファンタジー好きとして、テンションが上がる。


あまり威力はないが、ファイアーボールが出た時は、飛び上がって喜んで、恥ずかしい思いをした。


小学生(初等部の学生)に白い目を向けられる赤面の青年。


黒歴史がまた一つ増えた。



 学園に来て2か月半くらいが過ぎた頃からは、目を凝らして集中すれば、自分のオーラのようなもの、他人のオーラのようなものが見えるようになってくる。


魔道具や授業で使う骨なんかに、魔力があるのも分かるようになってきた。


セネカに言わせるとまだまだで、まだ入り口に立ったところ・らしいが、それでも大きな進歩だ。この2か月半頑張った。


 ちなみに、こっちの世界の1か月は、1年を10で割っている。


1年は1月から10月までの、10か月となる。


また、こちらの1年の日数は、土地によって違う。


1年は250日~400日の範囲の所が多い。


よって、1か月は25日~40日となる。


1日も24時間ではない。時間帯としては19時間~30時間までの所が多いらしい。


1年の日数や1日の時間が変わるのは、境界を越えると変わる。


逆に言うと、境界を越えず同じ土地に居る限りは、1年の日数や1日の時間は変わらない。


時間は、地球のように時計ではなく、鐘を中心にして把握されている。


だいたい、どの町に行っても鐘があり、日の出の前・正午・日の入り前などに鐘を鳴らして時刻が伝られえる。


とても高価だが、時計もあるが、使用する人は少ない。持っているのは貴族や大商人・上級冒険者くらいだ。


大体何処でも、鐘が鳴ってからどれぐらい経ったか、日の高さや影の長さ、明るさ・暗さで時間を把握しているらしい。


そうなると、ここカノヴァでは問題が生じることになる。


カノヴァの大亀は土地を移動する。


境界も気にせず移動するので、1年の日数や1日の時間がまちまちになる。


その為カノヴァでは、固定された時計を元に、時間や日にち、カレンダーが管理されている。


カノヴァには、地球のうるう年のような感じで、日数調整の為の月、11月がある。余り月とか呼ばれているらしい。


それらを官報で、公国民や学生・周辺国に伝える。という特殊なものとなっている。


【来年の1年は、1年が375日、1か月が35日、11月は25日を予定。

1日は、4月✕日まで25時間前後です。

〇月△日は朝後すぐ夜になるので休日とします。1日は15時間を予定、体調を崩さぬよう気を付けてください。

その後は、1日の時間の長さは23時間前後となります。

春は2月を予定。麦の種まきは10月までに済ませておいてください。

過去の詳しい時間割、農作物に関する詳しい季節の変化を確認したい方は、公官庁の方にお問い合わせください。

また情報が更新され次第、お知らせします。】


という具合だ。


情報は掲示板に貼りだされ、詳しく確認したい時は公官庁に直接聞きに行く。


1日の時間に関しては、カノヴァ公国でも鐘で知らせられ、それを元に人々は活動する。


1日の鐘が鳴るタイミングは、日の出の前が9回、正午が5回、日の入り前が7回鳴らされる。


この鐘は、カノヴァの学園の授業の時にも使用される。


授業開始の鐘が2回、鳴ってから地球時間で30分くらいで授業が開始される。


授業終了の鐘は1回、こっちは鳴ったら即・授業終了だ。


1日の授業数は午前に2回、午後に2回の計4回で、部活や愛好会、サークル活動のようなものも存在している。


日本と違ってスポーツ系のものが少なく、文科系のものや実践系のものが多い。


剣の練習や、貴族のお茶会、魔術の研究、読書クラブなんてのもあるそうだ。


そのような活動だが、これは強制ではなく、自主的な活動なので、別に入る必要はない。


日本にいた時から幽霊部員と帰宅部なので助かる。


授業の時間は地球時間で80~90分くらいだろうか。


時間は、鐘を元に各自が把握、講義を受けそこなったら、後日・別の日にやる同じ講義を受けたりして調整する。


ゆっくりしているように感じるが、自主勉強や訓練、部活や予習・復習をしていれば時間はあっという間である。


とにかく、月日が過ぎオーラが見えてから、幽霊のようなものも、さらにはっきり見えるようになってきた。


どうやらこれは、残留思念に雑多な念や気、魔素が宿ったりしたもので、魂はないらしいが、それでも、怖さや不気味さはなくならない。


夜とか暗闇で、じっと見つめてくる者(?)はどんなものでも怖い。


ただ、精神的なもの以外、アヤトに実害はあまりない。


そういった存在は、セネカから預かったこの白い石を嫌がるようで、近づいて来ても、石に意識を集中して気を流すと、どこかに行ってしまう。


石を渡されたのは、どうやら意味があってのことだったらしい。


それでも、死霊魔術の授業は今だに慣れない。


授業毎に骨は磨かされるし、骨には角があったり、人っぽいものであったりする。怖いので確認していないが・・・。


学生には何か憑いている人も多いし、ミイラやゾンビやスケルトンの扱い方やら、新鮮な死体の保存法やら、アンデットの作り方の魔法は勘弁だ。


さすがに、ゾンビを扱う授業は校舎の外で実地された。臭いなどの関係で教室でやるわけにはいかないらしい。


嫌だ、普通に授業がしたい。


勉強は好きではないが、今なら勤勉に勉強しても良い。


机に向かって黙々と骨を磨くのは、もう嫌だ。


うん。この前、体をきれいにしたミイラ・・・、お礼に、中から黒い手のようなものを出して、手を振ってくれた。


うん、いいよ、お礼なんて、それより出てこなくていいから。


異世界怖い。・・授業が、怖い。






  カノヴァの大亀がどこかの町に近付く度に、セネカはパーティーを連れて外出する。


町に寄り、アヤト達を連れ回した。


パーティーでの冒険は嫌いではない。


1人より安全だし、ガイドも付いていると思えば楽だ。


知らない町、それも異世界だ。珍しいし興味はある。


漫画やアニメ好きとして、あこがれもある。


ただ、何度もゴブリンとの戦いに連れて行かれたり、古戦場をあちこち見て回ったり、野盗討伐に参加させるのは駄目だ。


NOである。


自分はNOと言える日本人でありたい。


「アヤトさん、その人、逃げようとしているので、片足切っちゃってください。」


と、言われても、きっぱり断った。


どうやら、セネカとしては、アヤトに実戦経験を積ませたいらしい。


こっちの世界、戦争や魔物との戦いが当たり前にある。


田舎では食事の前に家畜を捌くなど、生き物を殺すことが、生活の中に存在している。


殺すことを喜ぶようでは問題外だが、躊躇して逆に殺されるのはもっと問題外だ、と、言われた。


鳥を絞めての料理や、獣を解体してのバーベキュー、町に泊まると、おつかいや裏路地散歩、観光まで色々やった。


やって慣れろ、とのことだ。


あと、何故か食事だけは豪華で、セネカは毎回皆に豪勢な料理をふるまってくれた。


お金を気にせず奢ってくれたり、食べ歩きをする。


アヤトは昼食と夕食だけだが、けっこう散財しているように見える。


デュークに確認すると、以前からイシュカに食事を勧めることはあったそうだ。


イシュカは出てきた物は食べるが、自分から、これを食べたい、と、言うことがなく、それを心配して、色々食べさせているのだとか。


「だが、確かに、最近、以前に増して食事が良くなっている。」と、首を傾げていた。


そんなことはお構いなしに、「この町はこの料理が有名で・・・。」 「この店はこれが名物でわざわざ遠方から・・・。」とか、何処から仕入れたか分からない知識で料理を進めている。


楽しいこともあるが、なかなかハードなスケジュールで、学園の授業に、慣れない生活と知識、魔法・・・・・。


4か月が経った頃にはアヤトはグロッキーになっていた。



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