表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怖い  作者: 名まず
2/28

学園に行く

 竜車に乗ってすぐ、「これからどうするんだ。」と、セネカに聞いたら、


「カノヴァの学園に行きます。」と、言われた。


学園は政治的に中立な場所で、あの黒ずくめの連中も、容易には手出し出来ないらしい。


「あれがカノヴァ公国です。」


言われて見た先には、遠目にも立派な街が見える。霧に浮かぶ、壮大な石造りの大都市。


小高い山の上にあるのか、建物は高い。城壁から顔を覗かせている。


竜車の馭者台の上から見上げていたら、進むにつれ、首が上を向く。


「ここが、これからあなたが住まうことになるカノヴァ公国です。」


大口を開けて見上げるアヤトに、セネカはキザな仕草で言葉を続ける。


「ファンタジーの世界へようこそ。」


魔法を見た。中世の町とか、城とかも。


ありえない話しもたくさん聞いて、地球にはいない走竜にも乗った。


(ファンタジーな世界にも少しは慣れたかな。)って思っていた。


が、今回のはぶっ飛んでいた。


亀だ。


巨大なカメだった。この前泊まった大きな町が4つも5つも入りそうな亀。


濃い霧が立ち込め、細部は見えないが、


「なんで陸亀じゃなくて、海亀なんだよ。」と、つっこむ。


「そこなんですか。」と、セネカは呆れ気味だが、気にならない。


「というか、でか過ぎだろ。」と、言ったら、


「亀も10億年くらい生きると、でかくなりますよ。」


と、当たり前のように返された。


それに、いろいろ盛り過ぎである。


巨大な海亀が陸を泳いでいる。ヒレや甲羅の下の方は地面の下だ。


時々、ヒレが上がってきて、その迫力にビビる。


しかも、物理的にも盛っている。


甲羅の後ろの方には、アサリか蛤のような貝が乗っている。というか、くっ付いている。


ドォンだ。


存在感がハンパない。あれだけで大きな町の一つほどはあるだろうか。


セネカが、「あの貝が霧を生み出しているんです。」と、教えてくれた。


甲羅の中央から前方は壁に囲われ、前方には学園が、中央には公国があるとのこと。


中央には、貝から生み出される水が流れ、湖があるそうだ。


船での商売が盛んな商業都市なのだとか。


うん、ムチャクチャだ。さすが異世界、思考を放棄する。


「あそこに行くの?、どうやって?。」


「あれを使います。」


セネカの示す先にあったのは船。底が浅く、けっこう広い。


小さくない船だ。陸に浮いている。詰めれば100人くらい乗れるかもしれない。100人乗っても大丈夫な物置の屋根より広さがある。


セネカが地面を歩いて、そのまま跨いで船に乗ったので、それに続いてアヤトも船に乗る。


船にはすでに人が、何人か乗っている。


セネカは、その内の1人に話し掛け、お金らしきものを渡す。


その人物は船から降りて、竜車に乗って行ってしまう。


アヤトがそれを目で追っていると、セネカは荷物からカンテラを取り出し、魔法で火を点ける。


カンテラを掲げ、動かすと、向こうの門の上にある城郭に火が灯る。


気付くと、アヤトとセネカは石畳の回廊に居た。


どうやら、すでに亀の上らしい。


辺りは霧が漂っているが、外から見るより濃くはない。


簡単な審査で、城門をあっさり潜り抜け、キョロキョロするアヤトを気にせず、


「行きましょう。」と、セネカは先に進んで行く。


アヤトが、話し掛けようとすると、


「シィィー。」と、指で口を塞ぐジェスチャーをする。


アヤトが口を閉じたのを確認すると、セネカは囁くように呪文を唱え、


「もう喋っても大丈夫ですよ。その前に、まず、くれぐれも精神感応魔法については口にしないように、それと、異世界について調べるのはいいですが、

「異世界から来た。」 「異世界に帰る。」と、言うのは止めてください。あの洞窟に居たこともです。せっかく、隠しているのに、目立ってしまいますから。」


「分かった。」 とりあえず今は了承するしかない。


「アヤトさんにはこれから、カノヴァの学園で寮生活をしてもらいます。

幸い、後10日ほどで、今年4回目の入学式が始まります。

入学試験はもう終了していますが、なに、大丈夫。試験や面接は、コネとカネでなんとでもなります。」


「ん?。」


前を歩くセネカの笑顔が怖くて、つっこめない。


じっと見てると、


「来年の1回目の入学式まで、3か月も待っていられません。

本当に時間がないんですよ。

私が直接、魔法を教えてもいいのですが、私も暇ではありませんし、どうも私は常識とか普通を教えるのが苦手のようなので、修行をしたりするのは得意なのですが、スパルタが過ぎると苦情が来ることもたびたびで・・・・・・、


(生かさず殺さず。) 


(死ななければ治る。) 


(窮地が人を成長させる。)


私の教育方針の何が問題なのでしょう?。」


「ぜひ、学園で学びたいと思います。一生懸命やります。」


アヤトは背筋を伸ばして宣言する。


「お願いしますね。」


「というか、俺は魔法を学ぶのか?。おれ、魔法を使えるようになるの?。」


今さらだが、どこに行くのかは聞いてたし、学園に通うことは分かっていたが、何をするのかは聞いていなかった。


「ええ、あなたは魔法を使えるようになります。使えないとあなたが困るので。」


「困るのは、俺なのか。」


「ほら、せっかく異世界に来たのですから、魔法が使えないと詐欺でしょう?。

それに、無理な召喚の影響で、アヤトさんの気や魔力が乱れています。

あなたが居た洞窟、ダンジョンの影響も体に負担を掛けています。

力の正しい使い方を学ばないと、いつ心臓が止まってもおかしくありません。」


後半のセリフが聞き捨てならない。


「そんなに深刻な事態なのか。」


「それで済めばいいのですが・・・・・・。」


セネカは、気の毒そうに顔を伏せるが、すぐにあ・軽く、


「なので、ここで魔法と一般常識と死霊魔術を学んでもらいます。」


「ん、なんか変なのが1つ増えてないか。何で死霊魔術?、普通の魔法じゃ駄目なのか。」


「あの洞窟で犠牲になった生贄の皆様の死霊に呪い殺されたくなかったら、身を守る術は、自分で身に付けてほしいものです。」


自分の体を手で触りまくる。え、呪いとか掛かってるの?。


「うっ、ずいぶんハードモードなんだが、もっとイージーな選択肢はないのか。」


「棺桶での静かな生活と、監禁の穏やかな人生のコースもありますよ。」


「それって、ひどくないか。」


アヤトが聞くと、セネカは顔をこっちに向けても、視線は合わせず答える。


「なに、悪いことばかりではありません。

異世界召喚特典?、チート?、死霊魔術の才能があることは保証します。

死ぬほどありますよ?。」


フォローになってない。


怖い。異世界の魔法学習、命懸け?、怖い。






 カノヴァの学園で学ぶ入り口は3つある。


初等部と基礎科・専門科の3つだ。


その上に、中等部・高等部・大学・院があるが、


卒業すると、基礎科は高等部に、専門科は大学に、飛び級することが出来る。


ただし、初等部に関しては、他国の学校から転入する場合は中等部から試験を受けることも出来る。


アヤトが通うことになった基礎科は、入学式が年に4回、試験も年に4回ある。専門科も同様だ。


初等部は入学式が年2回、試験が年4回あるそうで、中等部も同様だ。


日本の大学生から、異世界の学園生にジョブチェンジしたわけだが、カノヴァの学園は、日本の大学とは大分、勝手が違う。


外国の大学の方がシステム的に似ていると思う。似てるだけだが。


必修科目はあるが、講義・授業は選択出来る。


授業は、必修科目の単位さえ取れば、専門科目に偏ってもいいし、卒業を急がなければ、1日の授業を1つにするのも、休みを自分で決めてもいい。


他の学校の授業を受けに行ったり、


貴族の屋敷に研修に行ったり、


魔法使いや、親方に弟子入りしたり、


冒険者として冒険に出掛けたっていい。


学園の事前の許可や、レポートの提出などの義務はあるが、それが単位になるし、必要な単位を取れば進級・卒業出来る。


かなり自由度が高い。


初等科は年の近い子供達が集まるが、基礎科や専門科は、年や身分、人種・種族さえも様々で、学びに来た理由や経歴も人(?)それぞれだ。


教えている内容は、基礎科は、初等部と同様、読み・書き・計算、常識的な知識を中心に学ぶ。


基礎科の方は初等部に比べ、手に職をつける知識が多いらしい。


アヤトの受けている授業も、日本の学校に通っていたなら簡単に出来るものだったので、とりあえず安心する。


魔法の授業も、座学や遊びレベルの簡単な実践から始まるようなので、ほっとした。


ただ、自主的に選択した(セネカが)専門科目講座・死霊魔術の基礎講座は、基礎科はもちろん、専門科や初等部の学生も講義を受けに来るのだが・・・・、


この専門科目講座がくせものだ。


「この講座は受けてくださいね。」


 にっこり圧力が掛かってくる。


「やっぱり、普通の魔法の授業を中心に。」


と、言ってみたが、


「受けてくださいね。」と、言われ断れなかった。


ちなみに、この学園の入学料や寮のお金は、全てセネカの財布から出ている。


断れるわけがなかった。






 死霊魔術士を志す人の門戸は狭く、業界も狭い。


入って早々グループが出来ているところもあったが、

アヤトは、いまいちボロが出そうで、人の輪に入っていけない。


まあ、日本の学生だった時から輪には入ってなかったけど。


だが、だからこそ人の動きは気にしている。


見たところ、グループをおおまかに3つに分けた。


家が代々死霊魔術士で、これは名家だったり貴族だったりの子弟のグループ。


親が市井で死霊魔術士をやっていて習ったり、独学で学んで死霊魔術士にになった者。

それで、本格的に死霊魔術の勉強をする為に学園に来た者達のグループ。


死霊魔術の才能がある。と、推薦を受け、奨学金をもらって、ここに入学してきた平民・庶民のグループ。


の3つである。


もちろんアヤトは、庶民のグループだ。


端の方で大人しくしているグループの、さらに端の方に居るわけだ。


こっちの世界では、歳を取って学び直すことは普通のことのようで、おじさんやおじいさんも居る。


ので、子供の中に大人はアヤト1人でした的な公開処刑はないが、話題にはさっぱり付いて行けない。


「さすがレンテモルド家のご子息。」とか、


初日の授業で何かの骨に触らせられて、カタカタ動いたので驚いていたら、

「ヴィクトールの遺骨がこんなに震えるなんて、君、見所あるよ。」とか。


妙にリアルな骨格標本があったので、冗談を言ったら、「ここは死霊魔術講座の教室だよ?。本物に決まっているじゃないか。」


とかの常識はさっぱりだ。


この業界では知られた話しでも、付いて行けない。行きたくない。



 カノヴァの学園は政治的に中立で、他国の干渉も、貴族の圧力にも屈しないし、一度入学してしまえば卒業するまで親の介入も受け付けないそうだ。


学園にいる限り、貴族も平民もない。と、いうのが売りだが、どこにでも差別やイジメはあるものだ。


特に、ここに居るような、入ったばかりの新入生が集まる講座では、なおさら。


新入生は学園のルールに慣れていない。


どうしても、自分のルール、育った環境に考えが左右される。


(平等って何?。) という封建的な貴族の心のままなのだ。


平民組の新入生も、貴族と対等という環境に慣れていない。卒業後の将来のこともある。


平民組が隅で大人しくしている理由である。


それに、カタカタ動く骨の前に立つ今のアヤトのように、平民が変に目立って先生に褒められたりすると、「ちっ、平民風情が。」 みたいな貴族の侮蔑くらいはある。


かなり差別に厳しい校風なので、イジメとかはないようで助かる。


貴族の子弟とコネをつくるのは歓迎、だが、目を付けられると、目も当てられないのでご免被る。


というのが庶民の心情、平民組は今は様子見している。


アヤトも初日の目標は、とりあえず目立たないことだった。


・・・・・・もう、無理そうだけど。



 カノヴァ公国は国土(?)の3分の1を占めるカノヴァの学園が有名で、巨大な学園都市として知られている。


他にも、芸術や美術品、宝石加工や金属細工、工芸品・魔道具の作成など、優れた技術・芸術の都として知られている。


また、いくつものの国を周遊する大亀の特性と、湖と水路を活かした貿易と商人の国としても知られている。


高い教育を受けられ、学費も安く(他の教育機関と比べての話しだが)、奨学金の制度も充実している。


特にこのカノヴァの学園で学びたいと、周辺国や遠くの国からも学びに来る。


亜人や異種族、生国で差別を受けている人でも受け入れていることから、

政治的にトラブルも多いらしいが、それらをはね退ける力も持っているという。


確かな知識、広い人脈、臨機応変な対応力、を、持った人材の宝庫として学園の卒業生の人気は高いとのことだ。


立身出世を志す多くの者が勉学に勤しむ。


それ以外に特典もある。


カノヴァの学園の高等部卒業で、カノヴァ公国の市民権がもらえるのだ。


また、学園の卒業特典ではないが、中等部卒業で、カノヴァの貿易相手の町の中から一つ選んで申請すれば、その町の市民権が手に入れられるのだ。


皆、真剣である。


俺はどうかって?、もちろん真剣だよ。


安心が欲しい。市民権も欲しい。


魔法は覚えないと命が掛かってるそうだしな。


理不尽な現実に、語気が荒くなるのは仕方ない。よね?。






 寮のアヤトの部屋は1人部屋だ。


本当は4人部屋とかが多いらしいが、セネカが寄付金を積んで、1人部屋にしてくれた。


これは地味に嬉しい。弟が一人いるとはいえ、都会暮らしの、1人部屋で育った身としては、

見ず知らずの異世界人とずっと一緒というのはつらい。


ここの人って、髪の色や目の色がやたらカラフルだったり、


羽があったり、腕が4本あったり、ウロコがあったり、毛深かったり、耳が尖っていたり、背が低くてずんぐりして指が6本あったり、


とかいう人(?)もいて、見るのはテンションが上がったが、一緒の部屋で寝るのはちょっと、・・いや、かなりハードルが高い。


セネカの、「ここに居る人は、人を食べたりしませんよ。」 との優しいフォローも、


「ここに居ない人(?)は、人を食うのか。」と、心中つっこませるだけだった。


 翼人も四手族も、リザードマンも獣人も、エルフやドワーフも、


亜人と呼ばれる種族も、人族と同じ言葉が通じるし、喋れる。


石が投げられず、鳥が飛ばないのと同じように、


世界干渉魔法のワールド・ワードという魔法の祝福があって、ある程度、言葉や言葉の意味、文字に対する認識が統一されているらしい。


ワールド・ワードの魔法は世界全体に掛かっているそうだ。


エルフ語、ドワーフ語といった、方言のようなものはあっても、外国語は、基本ないらしい。


文字に関しては、国の第2言語や古代語があるそうだが、実用的なものではないそうだし、そっちは覚える気がないので問題ない。


それだけは助かった。こっちの世界、広いだけあって、大きな国だけでも文字通り五万とある。


こっちの世界の人間でも、自分に関係のない国や地名は、覚えようとしないそうだ。


有名な国や、周辺の国や地名を中心に覚えて、あとは、必要な時に地図を頭に入れたり、場所や地名を、知っている人に聞いて覚えるとのことだ。


もし習う外国語がごまんとあったら、学ぶ前に逃げ出すところだった。元々外国語は苦手なのだ。


言葉は何とかなっているが、文字も大体分かる。


使い慣れていないので、まだうまく読めないが、この感じだと、簡単な文章ならすぐに読めるようになりそうだ。


こちとら、腐っても、一応大学生。


こちらの一般常識はなくとも、一般教養はある。


まあ、魔法が普通にある世界で、日本の一般教養が役に立つかは不明だが、きっと大丈夫。


最近、日本語の方がうまく出てこなかったり、そのくせ、つっこみやギャグなら無意識に口から出る。

・・なんてこともあるが、きっと大丈夫!。


アヤトは、自分に言い聞かせた。






 普通の授業は面白かった。新鮮だし、簡単なものが多いのですらすら進む。


まあ、こっちの世界、識字率は高くない。


学園に来ている人はほぼ全員字が書けるが、世間では書けない人も多いらしい。


クラスには小学生くらいの子供もいるのに、学力がついていけなかったら、ショックだっただろう。立ち直れなかったかもしれない。


魔法の基礎講座で、触れた石が薄っすらと光ったり小さいが火の玉が出た時は、はしゃいだし、

よし、魔法使いを目指そうと、とか思ったりして楽しかった。


一方、専門科目講座の死霊魔術基礎講座の方は別だ。授業は最悪だった。


別に、日本に居る時に、お化け怖い。なんて思ってなかったが、


「まず慣れることだ。」と、ゾンビやミイラに触れたり、骨を布で磨かされた。


時々、ゾワッとしたが、何もいなかったり、カタカタ動いた。


実はよく喋るのだが、見た目が陰気で瘦せた先生のファッションセンスも最悪だ。


黒衣である。顔は見えているがフードも被っている。


これで、「教室はこの洞窟です。」 なんて言われたら、鬱になっていただろう。


少し肉の付いた骨を水できれいにした時は、吐いた。


骨はきれいになったが、教室は汚くなって、アヤトが掃除する羽目になった。


隣りに座っていた中学生くらいの女の子が、磨いた骨を、うっとりと見ている姿を目撃した時は、


即攻でセネカに、「辞めさせていただきたい。」と、申し上げたが、


「頑張ってください。」と、まったく相手されなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ