新たな出会い
脱走したあの日から2日経った。
わたしは何も食べられていなくて、そろそろ限界に近い状態だった。
一応飛びながらカルナの実やミモゼの葉を探してはみたけど、このあたりで自生しているものではないらしい。
(ああ、お腹がすいた……)
狼や馬に似た魔物は時々見かけるし、食べられるかもしれないが、
肉を食べてこれ以上どうにかなったらどうしようという不安から気が進まない。それに怖いしね!?
ふと一度あの館へ戻ろうかとも考えた。
2日経ってあの場所がどうなっているかわからないが、この鱗の価値が変わらないのであればまた迎え入れてもらえるのではないか。危害を加えないとわかってもらえさえすれば大丈夫ではないか……。
だがあの飛んできた矢や魔法が怖い。もしまた攻撃されたら。それに運良く再度迎え入れてもらえても、以前のように館内を自由になどさせてもらえないだろう。ジースやアモネのように檻の中ではないだろうか。
(でもさすがにこれ以上は……あ!!あそこなら隠れられそう)
ひとまず降りて体を休めるため、目に付いた林に降り立つことを決める。
背の高い木が生い茂っていて、今の体格でも十二分に隠れることができ、安心する。その上いざ降り立つといい香りがしてくるのだ。すこし甘ったるい匂いで、フルーツがあるのかもしれないという期待を胸に林の奥へ入り込む。黄色いヤシの実のようなフルーツを発見した時は嬉しかった。もう別のものでもフルーツならきっと食べても大丈夫だろう。
急いで近づき、牙で砕く。すこし表面は硬いが、中はすごく甘い。ああ!こんなに美味しいだなんて!
夢中でむさぼっていて、油断していたのだろう。頭上の気配に全く気づかなかった。
(はははっは!言うことを聞かないと、お前の頭を吹き飛ばすぞ!)
ガサガサと音を立てながら突然頭の上に何かが降ってきた。
(え、やだやだ!!!きゃーーーー)
何か虫が頭に降ってきたことを想像してほしい。
得体の知れないものが、ぞわぞわと勝手に動き回るのはかなり不快なものだ。
ぶんぶんと頭を思いっきり振り回すと
「あああああああああ!!」
と言って足元に一人の人物が無様に落ちてくる。
「あああ……僕を殺さないで!!」
その男は内側が夜空のようにキラキラと輝くマントを羽織り、小さな羽がついた帽子を斜めにかぶっている。それにブロンドの髪にエメラルド色の瞳。うん、かなりハンサムな男だった。
服はおそらく瞳に合わせているのだろう、エメラルド色のチョッキに白いシャツを着て、黒いパンツがよく似合っていた。指には3つほど石のついた指輪をつけている。だがこんな街から遠い林の中で小さな短剣を腰にさしただけの軽装備な姿。飛んでいる間見かけた人間達はもっと武装していたのだ。
わたしはじっとその男を見つめて、それから首を振った。殺す気は無いと通じればいいけれど。
「君は……おおっと間違えた」
男は言いかけてやめて少し考え込んだ。
(えーと、君は野生のドラゴンなの?)
男がドラゴン達と会話する時と同じような感じで尋ねてきた。もう危険はないとばかりに、マントの土埃を落としはじめている。
(……っ!もしかして話せるんですか?)
わたしは歓喜した。人と言葉を交わせるだなんて思ってもみなかった。
(そりゃね!僕は歴史的な天才魔物使い。その名をレオナルド・マーチという!)
天才と名乗ったレオナルドは髪をかきあげてそばにある木にもたれかかり、鏡を取り出した。
(歴史的天才なんですか)
(そう!僕ほどの男はそういないだろうね!)
乱れた髪の位置をそっとポケットから出した櫛で整えると完璧だとばかりに頷いている。
(で?野良かい?君は。えらく人間に慣れてるね)
(ペットとして買われたのだけれど、事故で肉を口にしちゃって……そうね。今は野良ドラゴンだわ)
(はははは!追い出されたのかい!)
白い歯が眩しい。
(まあそんなところです。街の人に攻撃されて逃げてきました)
(ふぅん。なるほど。そんなに悲しそうな顔しないでくれ。どっちの街?ここからだとマルゼアからかい?それともドーゲスの方?)
確か一度耳にしたはずだ。ミクロ伯爵が言っていた。
(おそらくマルゼアです。ミクロ伯爵の家にいました)
(へええ!あのミクロ伯の!……ペットと言ったね。鱗が白いから元々はもしかしてルミナ・ドラゴン?)
(ええそうです)
(ミクロ伯の元へ戻る気は?)
(この姿だし、今すぐには戻れないでしょう。攻撃されたもの)
それを言うと彼はさらに歯をきらきらと輝かせた。
(一つ提案だけどさ、ドーゲスまで一緒に行かないかい?)
聞くと、レオナルド・マーチは各地で魔物に教えた芸を披露する大道芸人だそうだ。
自称だがかなり有名らしく、彼に調教できない魔物はいないと言われたほど。わたしと会話できるのも、彼は《テレパシー》が使えるから。なかなか使える人間はいないそうで、それだけで食べていけるそうだ。
マルゼアの劇場で発表した後、次の予定地のドーゲスへ向かう予定だった。
彼の扱う魔物数匹を荷台に乗せ、馬に似た魔物、ホーシャスに引いてもらう。いつもの移動と同じだったのだ。
(それがね!もう本当うっかりしたんだ、僕としたことがさ!盗賊に後頭部を殴られて気絶。あっさりと身ぐるみを剥がされてね。すっからかんさ。それに目覚めた時には魔物たちも全部殺されてたんだ)
(それはお気の毒に…)
(ははは!素っ裸にされないだけマシだけどさ!そんなこんなで守ってくれる魔物もいないし。ここだけの話、僕は戦いが苦手だ。それでここに隠れてたのさ。誰か親切な人が通りかからないかと思ってね。通りがかりの冒険者に頼んだら護衛料とられちゃうし。僕全財産むしり取られちゃってお金もないしね!ははは!)
お金がないと言う割に彼は陽気である。
(で、あなたを街まで送ったらいいんですか?)
(そうそう!助かるよ。もうこのままだと、この林でターザンになるしかなかったんだ。こんなハンサムが林に引き篭もるなんてもったいないだろ。僕は表舞台にいないと!あ、敬語っぽいのやめてよ。僕らの仲じゃないか)
そう言って足をポンポンたたいてくる。
どんな仲なのか。出会ったばかりである。
(いやー、まさか空を飛べる仲間に出会えるなんて。いいねいいね!君が最初来た時、実は死を覚悟したんだよ)
もはや仲間扱いである。
でもわたしはなんだか嬉しかった。わたしを怖がらずに等身大で接してくれているのがわかったから。
(いいわ。街までなら送ってあげる。そのかわり、だけど)
そういった途端、レオナルドは身構える。
(な、なんだい。頼むから僕を食べるだなんて言わないでくれよ)
……まだ怖がられていたらしい。
(食べないわよ!!失礼ね。送り届ける対価を要求して当然でしょ?いくつか教えて欲しいことがあるの)
あからさまにホッとした顔をして、レオナルドはまた歯を見せて笑う。
(なんだ。僕が知っていることなら!)
(まず1つが…グルドさんっていうドラゴンブリーダーの人を知ってる?)
ぽかんとした顔をした後、少しレオは考え込んだ。
(ドラゴンブリーダーのグルド……自信はないけど、トータム地方でその名前聞いたかなぁ。ここからかなり西の方角だ。小さなロリナータの街近くだったかな。かなり田舎だよ)
期待していなかったが、あっさりと教えてもらえた。これはありがたい。嬉しさで尻尾をブンブン振ると、風圧でレオナルドが飛ばされた。
(ありがとう!!レオナルドさん)
(いたた…僕は各地を転々としてるからね!お安い御用さ。特別にレオって呼んでくれていいよ。まだ聞きたいことあるんだろ?天才的な僕になんでも聞くがいいよ!)
(えっと…《テレパシー》のやり方、教えてもらえないかしら)
レオはピタリと固まった。
「な、な、な!」
(だめですか?)
様子がおかしい。レオがわなわなと震えている。スキルを教えて欲しいというのは、失礼だったのか。
(僕の商売敵になる宣言かい?!いいだろう受けて立とう!!)
レオはマントを翻し、指を立ててくる。
(なりませんよ!!なれるわけないでしょう?!)
どういう思考回路なのか。ドラゴンの魔物使いなど、もはや恐怖の対象ではないか。
(……約束してくれ。魔物使いにならないと)
(なる気ないですよ!)
途端ににっこりとするレオ。
(じゃあいいよ!!と言ってもどう教えたらいいのかな。パーっと飛ばして、ピーンと受け取ればいいんだよ)
意味がわからない。
首を振ると、レオは鼻で笑う。
(やはり僕は天才だね!)
今日のところは林で夜を明かし、わたし達は明朝から動き始めることにした。夕焼け空を見上げ、今後のことを考える。
レオをドーゲスまで送り届けた後、故郷のファームがあるであろう、西に向かおう。《テレパシー》さえ習得できれば、人とのコミュニケーションにも困らない。グルドさんにどうしたらいいか聞くことも出来る。
「……うーん。ダメだよ……」
レオはわたしの背の上で寝言をつぶやいている。彼に出会えてよかった。漠然と考えていたのが少し明確になってきた。このハンサムな男は少しナルシストだが、悪人ではなさそうだ。
「ダメだよ…レディ達。僕はみんなのものなのだから……誰かを選ぶなんて出来ないよ。僕はみんなのもの…みんなは僕のもの……」
前言撤回だ。こいつは女の敵だ。
体を震わせると、フゴッと言いながら背から滑り落ちて行った。
「うううん…痛いじゃないか……。うん……!?ひぃ!」
落ちた先でレオが何か怯え始め、わたしの体をバンバン叩く。
(なに?)
(でた!魔物だよ!フルッティアラビットだ!)
見るとピンクの丸いふわふわしたウサギがいる。その可愛いこと!!ウルウルとした瞳に、首をかしげたその姿。わたしの考える愛らしいペットそのものだった。
(レオさん、可愛いじゃないですか。何怯えてるんです)
(ばばばばばばか!!あれは……)
レオが最後まで言えなかった。突如として歯をむいたフルッティアラビットが飛びかかってきたからだ。
咄嗟に尻尾でフルッティアラビットを跳ね除けるが、木を足場にしてまた飛んでくる。
「ひぃぃぃ」
倒れこんで小石に隠れ始めたレオを尻目にわたしは応戦体勢にはいる。
同じように尻尾で跳ね除けようとしたが、フルッティアラビットは思い切り尻尾に噛み付いてきた。
「ギャアアアアアアアアアス」
ガジガジかじり続け、血を吸い始めたラビットを尻尾ごと木に叩きつける。ぼとりと落ちたまま、動かなくなった。死んではいないようだ。
(ふぅ。よくやった!親友よ!!コンビネーションは完璧だった)
短剣を片手に汗を拭うレオ。
(あなた小石と遊んでただけじゃない!)
レオは白い歯を見せてごまかしている。
ピクリとラビットが動く。
「ひぃっ!」
(怖いの?この魔物おいしいんでしょう?ジュースで売ってるやつでしょ)
(き、君は戦えるからいいけどね。この魔物は好戦的なんだ。僕が話し掛けようが聞きゃしない。それに僕はあのジュースが嫌いだ)
(わたしだって戦うの好きじゃ無いし、怖いんだけど)
ぶるぶると震えてわたしの足に隠れて覗いている。
フルッティアラビットね。美味しくって、わたしをこんな大きなドラゴンにした元凶。もう一度ジュースを飲みたいが、まさかこんなに可愛い魔物だったなんて。確かにいきなり飛びかかってくるようなやつだけど。
《スキャン》してみると、なかなか強かった。
進化していないと倒せなかっただろうなと推察する。
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フルッティアラビット
♂ Lv.21
健康
ランク: E
スキル:《鉄の歯》《跳躍》《聞き耳》《甘える》
《吸血》《逃げ足》《チェック》
称号:小悪魔、エスケープマスター、ジュース
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……《甘える》スキル?やはりあの可愛い仕草はそうだろうか。
これはぜひ習得したい。小悪魔というのも、あの凶暴性ゆえか。
殺すことをためらい、自分とラビットに《命の息吹》を吹きかける。
ラビットは驚いたようにぴょんっと起き上がった。
(な、な、なんてことをするんだ!!!)
レオはマントの中についに隠れてしまった。
(……………)
パクパクと口を動かしているフルッティアラビット。
(ねえ、レオ。この子、何か話そうとしてるかも)
(まさか!こいつらかなり凶暴なんだぞ。また油断さそってるのさ)
だが一向に襲ってこないラビットを見て、恐る恐るレオがマントから顔を出し話しかけた。
なにやらラビットが話しているが、わたしにはさっぱり分からない。
いいなあ、《テレパシー》。
それにしてもわたしは人の言葉をなぜ理解できるのだろうか。グルドさんの言葉を聞いて育ったからかな。
ひとりのけ者にされた気分で会話している二人を眺める。ひとりの男がうさぎとにらめっこをしている図はなんだか平和的だ。
レオがげんなりとした顔で振り返った。
(ドラゴン、こいつが一緒についてくるってさ)
(え?)
なぜ?首をかしげると、ラビットがわたしの足にスリスリしてきた。
(なんか、君に惚れたとかなんとか言ってるよ)
(はい?)
うるうるとした瞳で見上げてくるラビット。いや、惚れられても……可愛いけど!?可愛いけど、あの美味しいジュース、そんなんだったら気分的にもう飲めなくなるじゃない。
ぐーと伸びをして、レオは大きなあくびをした。
(ほら、すっかり夜だ。このラビットのせいで睡眠時間が削減されてしまった。さっさと寝ようよ。僕はヘトヘトだよ)
いつの間にか、あたりは仄暗くなっていた。体を下ろすとフルッティアラビットは嬉しそうにわたしの足にすりよってくる。ああそうか。こういうのが可愛い仕草ね。参考になる。心の中でお師匠様と呼ぼう。
お師匠様を枕にしようとして、噛みつかれて騒ぐレオを見て呆れる。明日から少しの間だが彼らと過ごすことになる。ひとりでないことに安堵しつつ、わたしは眠りについた。
翌朝目を覚ますとレオはもうすでに起きていて、フルーツを短剣で剥き、枝でつくった楊枝にさしている最中であった。
(おはよう!ドラゴン。いい朝だよ!はい、モナガの串刺し!)
朝食だとばかりにフルーツがいくつか刺さった楊枝を手渡してくる。
(おはよう。ありがとう。レオは早起きね)
(どういたしまして。僕、盗賊に襲われてから怖くてね。あまり眠れないんだ。……ところでその凶悪なふわふわを起こしてくれないか。僕が起こそうとしたら、歯をむいてきてね)
憎らしげにフルッティアラビットを睨むレオ。ラビットはわたしのお腹の下に体をもぐりこませていた。鼻先で揺すって起こすと、スリスリと頰ずりをして顔をなめてくる。さすがお師匠様。寝起きもキュートだわ。
(……その魔物がそんなに懐いているの、人生で初めて見たよ。歯をむいてくる姿しか記憶にないんでね)
見るとレオは手に歯型がいっていた。どうやら今朝噛まれたらしい。
《命の息吹》でそっと治すと、レオは傷がふさがるのを見て満面の笑みを浮かべた。
(ありがとう!街についたら治療院に向かおうと思っていたんだ。跡形もないなんて!!)
それから2人を背に乗せて、わたしは空へと飛び立った。
「ううううううぁううう…」
背中から呻き声の効果音が聞こえてくる。
(ドラゴン、休憩!休憩だ……おおおおう今にも吐きそうなんだ)
(また!?)
飛び立ってからレオは数時間おきに休憩を要求する。
(せっかくのハンサムがゲロまみれなんてぞっとするだろ。頼むよ)
(といってもどこに……)
(もうすぐまた小規模な森が……ほら、あそこだよ。君の体も隠せると思う)
(……もう。休憩ばかりで全然進まないじゃない)
(あの森には美味しい別のフルーツもあるし、昼食にしよう。ほら、《テレパシー》の練習もしたらいいよ)
そういえば昼食時か。ドラゴンになってから1食で事足りている身として失念していた。そういう食の楽しみが減った気がするなぁと、指示された森に降りることにする。
付近を見回すと数匹のスライムが出てきたが、フルッティアラビットが《吸血》ですべて吸い込んでしまった。彼は満足そうにお腹をさすっている。
「フルッティアジュースって魔物の集合液みたいなものだよね。あいつら肉食だし」
僕はだから飲まないんだ、と首をふり切り株に腰を下ろす。手鏡で自分の姿をチェックするのも忘れない。
(ところでドーゲスに着いたらあなたはどうするの?魔物全部いないなら、着いても芸もなにもないじゃない)
(うん、冒険者に依頼して何匹か集めてもらうつもりさ。君たちに頼めたらお金もかからないけど……)
じっと見つめるレオ。まさかわたしに芸でも仕込む気じゃないでしょうね。と思ったが勝手にその考えを断念したようだ。
(だめだ。君はまず怖すぎるよ。そんなのを調教したっていうと話題性はあるけどね。その大きさでは街にまず入れてもらえない)
そうよね、とため息をつく。こう大きくなったら夢のペットライフとは程遠いのだ。小さくなるスキルでもないかしら。
(わたしペットとして幸せに暮らすつもりだったのに……)
(街に一緒にはいるのは無理だけど、僕の移動用ペットになるかい?)
歯を見せてキラキラと笑う。悪くはないんだけどね。でももっと安心した生活が送りたいものである。せめて住む場所が欲しい。
(そうね、考えておくわ……)
スライムがまたぴょんと現れたがラビットに瞬殺されている。
(昼食はいいの?)
(うん、探しに行こうかな…確か前はランランの実がこの辺に鈴なりだったんだけど)
フルーツを探しているのか、あたりをキョロキョロと見渡している。
目線が止まった先には洞穴があった。ちょうどわたしの体がぴったり収まりそうなサイズだ。
(あの中に何かあるかな)
ふぅと息を吐いてレオが立ち上がる。
(少し待っててくれる?)
そう言い残して洞穴の中へと消えていった。
あとに残されたわたしとラビットは目を合わせる。キラキラとした目で見つめてくるラビットは小動物らしい可愛さが魅力的だ。ふたりきりだとばかりにわたしのそばにすり寄ってくる。
どうにかして《テレパシー》を習得したらこの可愛さの師匠から話がきけるかもしれない。いろいろ話しかけるもやはり通じていないみたいだ。ドラゴン同士の会話とどう違うのだろう。
(フルッティアラビットさんは兄弟はいるの?)
スリスリ
(好きな食べ物は?)
スリスリスリスリ
(レオさん戻らないですね)
ぺろぺろぺろ
(…《テレパシー》難しいなあ)
ピクリ!
ラビットの耳がそわそわと動き出すその姿にまたもや癒されていると、ぞろぞろとした足音と大勢の人の声が聞こえてきた。
今見つかるとまた攻撃されてしまうだろうか。それとも……?どうしようかと焦っていると
(ドラゴン、こっちだ!!)
(レオさん?!)
洞穴の中から手をふるレオが見えた。
(ドラゴン、この中にはいって!)
言われるがまま、洞穴の中へ身を隠す。入って見ると、どこか生活感のある場所だった。
(レオさん、ここもしかして……)
入ったのは間違いだったのでは、と思った瞬間
「な、なんだこりゃあ?!」
「なんでドラゴンが」
「お頭!」
「お頭ああ」
お尻の方から叫び声がする。
そうなのだ。この洞穴。
ぴったりすぎて方向転換ができない。焦るあまり馬鹿なことをしてしまった。
この穴はきっと声の主たちの住処なのだろう。
「あらあらあら。これはまた大きなお客さんだこと」
コツコツと近づいてくる声が洞穴内に響く。もはやお尻が無防備すぎてどうしようもない。
せめてこんな場所に招いた男を睨みつけようとしたら、わたしの下をくぐって声の主にレオが向かっていった。
「ハロー、レディ」
「……またあんたなの?どうやってここを知ったのかしら。こんなの連れ込んでこの間の仕返し?」
「仕返しだなんて。美しい君への贈り物だよ、レディ」
「へええ。人の家のサイズを考えない贈り物は嫌がられてよ。ハンサムさん?」
状況がわからないが、レオとお頭と呼ばれた女性は知り合いのようだ。
もしかしてわたしは騙されたのだろうか。
わたしは身動きもとれず、ただただその会話の行く先を聞くことしかできなかった。