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再会


「あなたが、ルカ王子…。」


私は目を見開いて呟いた。

同盟締結時におぼえた既視感が、過去の記憶と重なった。


12歳から16歳までの4年間、周囲の反対を押し切ってゼフィロス国で過ごしたが、その時に兄の友人として出逢った“ルイ”と今目の前にいるルカ王子の容貌が私の頭の中で完全に一致した。


“ルイ”はゼフィロス国の貴族とは聞いていたが、身の上話は詳しく聞いたことはなかった。


「あなたにお会いできる日を心待ちにしていました。私と踊っていただけますか。」


そう言って私の方へ手を差し出す目の前の彼は、私の記憶の中の“ルイ”と違って王子様然としていた。


頭の中は混乱していたが、動揺する心を落ち着けて、優雅な所作を心がけながら彼の手を取った。


「喜んで。」


彼の手を取ると同時に腰を引き寄せられ、2人の距離が縮まった。


「私を憶えてくださっていますか。“アン”?」


昔ゼフィロス国で名乗っていた名前で呼びかけられ、郷愁の思いに囚われそうになった自分を必死に律した。


「やっぱり…。あなた、“ルイ”なのね。」


「忘れられていなくてよかった。」


心底安堵したような笑顔を見せる彼に思わず昔の“ルイ”の面影を重ね、胸が温かくなったが、同時に抗いようのない猜疑心に思考が支配されていく様を冷静に自覚していた。


「いつから知っていたのですか?」


もし、最初から知っていたのなら…。知っていて近づいてきたのなら…。

この人がお兄様の死にも関係している可能性があった。


「いつからだったでしょう。でも、ノアの身分を知ったのはノアと知り合った後ですよ。もちろん、ノアと無二の親友になったのも偶然です。私たちにとっては必然ともいえる出逢いでしたが。私たちの国はもうすぐ私とノアが夢見ていた形を実現させようとしているのですから。」


「そうですか…。」


彼がヘリオス国の王子ということはもちろん知らなかったが、お兄様と“ルイ”がヘリオス国とセレネー国の緊張状態を解き、同盟を結ぶべきだという話をしていることは知っていた。実際に彼が今その夢を実現させようとしていることも含め、彼の発する言葉と表情の端々からお兄様を大事な存在と捉えていることが伝わってきた。彼に対する疑惑が杞憂に終わったことに安堵すると同時に、もうこの世にはいない兄を恋しく思った。


「ノアのことも、あなたがノアのために無茶をしていたことも知っています。辛い思いをしましたね。何もできなかった自分を今でも歯痒く思います。」


お兄様の死も、私がお兄様の代わりをしていたことも知っている…?

そんな人が敵国にいた事実に驚き、彼を見つめたままダンスを踊る足が止まってしまった。


「少しお疲れになったようですね。こちらで少し休みましょう。」


周りによく通る声でそう告げ、彼はひと気の少ないバルコニーに私を連れ出した。


「ここで少し待っていてください。」


そう言って私のそばを離れたルカ王子は、数分も経たないうちに戻ってきて、私の肩にストールを羽織らせてくれた。いつの間に預かってくれたのか、それは先ほど私がデニスに預けたものだった。


「この周辺の人払いを頼んできたので、ここでお話しましょう。」


この人は、私と同じくらいお兄様の死を悼んでいる…?お兄様を殺した国の王子なのに…?

そう思ったとき、兄が命を落とした時の記憶がよみがえり、今まで胸の奥底にしまっていた思いが涙とともにこぼれ落ちた。


「どうして、あなたの国は兄を殺したんですか…?」


いつもの凛とした態度のアンナを演じきれず、思った以上に情けない声が自分の口からこぼれたことに驚いた。

私を兄の敵討ちへと駆り立てた負の感情がまた私を支配しようとしていた。


その時、ふわりと彼の腕の中に包み込まれ、背中をトントンとゆっくりと優しく叩かれた。


「ノアのこと、助けられなくてごめんね。」


優しく謝られあやすように抱きしめられ、涙が堰を切ったようにとめどなく溢れ出た。


兄が亡くなって10ヶ月経っていたその日、私は初めて思い切り兄の死を悲しめた気がした。

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