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其の参 「チョコは邪道だと思う」

 我ながら良く出来たと繕い物の出来を自画自賛していると、おもむろにクロが立ち上がって道の先を見た。

 その尻尾は警戒するように下にさがって揺れている。


 クロがここまで警戒するのは、私が知る限りひとりしかいない。

 大男の家の知り合いで胡散臭い笑顔で大男すら煙に巻く、私を大男の想い人と曲解して押し付けた張本人でもある。


「うちの若坊ちゃまの姿が見られないようですが。

 ……まさか! 奥方さまを放って出かけられたのではありませんか!?」


 若く見えるようで大男よりは年上らしいこの知り合い、大男が仕えるべき存在なんだけども、ほんの数語聞いただけで分かるように大男に容赦ない。

 この家人曰く――、


ひとぉつ、自分はこの大男の家に古くから仕える家臣の者で。

ふたぁつ、家督を継ぐことも長男の控えとしてもお鉢が回ってくることがない上に駄目で阿呆でお人よし(以下、略)だけれども悪い人じゃない。

みいぃつ、不埒な悪行ざんま……じゃなくて。そんな訳でせめて家には迷惑をかけないように厳しくしているのだと。


 桃太郎なお侍さんは当然関係なく、ついでに言えば、越後もサトウも亀田も関係ない。更についでに言わせてもらえれば、おばあちゃん手製のおかき餅も大好きだけど、柿の種なら浪速でチョコは邪道だと思う。


「今すぐ若坊ちゃまを連れて参り、奥方さまに頭を下げさせますのでっ」


 ちょっと遠い目をして答えに困っている間に家人はばさりと一肌脱ぐを通り越して諸肌脱ぐと、背中を軽く丸めたかと思うと次の瞬間には真っ黒な羽を生やしてくれていた。

 そして「若坊ちゃまぁー」と叫びながらどこかに飛んでいった。


「あらら」


 家人に見つかりお仕置きされる様が容易に想像ついて、心の中でこっそりと手を合わせた。





 大男に説明されて理解してはいても、実を言うとここが異世界で獣耳や獣尻尾が普通にヒトについているだなんて……到底信じられはしなかった。

 無理もないと思うのよねぇ。

 だけど実際にその光景を見せられたなら、信じないわけにもいかなくて。

 その光景ってのが、背中からにょっきり羽が生える様。つまりは大男のところの家人だったという訳。


 盛大に勘違いしてくれた後、今日のように諸肌脱いで羽を生やして飛んで行ったのよね。

 例え天井裏に忍びが隠れていようと、カラクリ人形で人殺しが出来ちゃおうと、驚いたりしない自信はあったんだけどあれにはさすがに驚いた。

 ヒト科ヒト属ヒト種のヒト意外を見たことがなかった私に、家人が鴉の一種だと大男は説明してくれたわけなんだけど……思わず、胸ぐら掴んで怒鳴ってしまってた。

 獣耳獣尻尾は確かに聞いた。聞いてはいたけど、羽が生えるってどういう了見よ。しかもあの羽の大きさで体を支えて飛ぶとか。色んなこと無視しすぎでしょ。鳥は体を少しでも軽くするために空を飛びながらだって排便できるっ話なのよ。

 要約するならそんなところ。


 ファーストコンタクトで見事に上下関係が決まっていたのか、大男は「ごめん、ごめん」と謝罪の言葉を口にしながらされるがまま。

 その後しばしそうしていたけど、私のお腹がぐぅとないて、この不毛な諍いはここでしまいにしてあげた。



 それでその後は道端で家人を待ってみたけれど戻ってこず、翌日の怒涛の引越し劇と相成った――という次第。





「う、わぁぁぁあああっ!」


 徐々に大きくなる悲鳴が聞こえ、クロのブラッシングから顔を上げれば、家人が大男の首根っこ捕まえて飛んでくるところだった。

 先日通った行商の父娘おやこが、この山では時折悲鳴が聞こえるとかいって心配してたんだけど……まさか、ねぇ。可愛かったなぁ、おミイちゃん。まだ幼くて時折耳が出ちゃうところがまたキュートで。


「おかえりぃ」


 二階位の高さからひょいと放り投げられてもなんとか受身を取った大男に、私は軽い調子で言う。

 結構な頻度で家人はやってきて、その度に大男に悲鳴を上げさせるんだもの。

 さすがに慣れもするわよ。


「お、お、お、おカノさんっ!」


 上擦った声で助けを求める大男だけど、笑顔を浮かべてスルーさせていただく。

 触らぬ神に祟りなし。まさにその通りなんだもの。


「よろしいですか、若坊ちゃま。

 先ほどから申しておりますように、女性とは守るべき存在なのでございます。安心安全と確信できる場所ならばいざ知らず、このような山奥で……それも、不心得者が現れないとも知れない場所で、女性をひとりにするとは如何なる了見にございますか。

 そのようにお育てした覚えはございませんよ。

 大殿も常々申しておりましたように、家を守るのは女性。その女性を危険に晒すなど、侍として……いえ、男として、あり得ないことにございますっ!」


 大男に正座させ、自分もその向かいに正座してくどくどと家人は説教を始めてしまった。こうなると……もう、お泊りコース決定。

 互いの顔が見えなくなるまで延々と続く。


「クロ、行こっか」

「わふ」


 建物の脇にいるね。

 聞こえてるかどうかわからないけど、告げるだけ告げて、私はクロを伴って建物の脇に。時間があったら夕飯の下ごしらえをしてしまおうと、野菜持ってきてあるのよね。


 ちらりと振り返れば、既に泣き顔な大男。


「こりゃあ、八丁堀でもどうにもなるめぃ」


 べらんめい調で呟いてみて、自分でも馬鹿なこと言ったと反省した。

個人的にはチョココーティングの柿の種も好きです。

それから、ほぼ亀田です。わさび味とか。


ひとまず、コレにて完結。オチがついてないけど、勘弁ください。

書けた時に、短編らしきものを、ちまちまと更新できたらなぁ。とは。

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