台風の目
『フランス共和国大統領とオランダ王国首相の会談と、日英首脳会談以後世界は不思議な静寂に包まれていた。それは所謂[台風の目]だった。気象用語で言う所の台風の目は次のようになる[熱帯低気圧の目の下では風が穏やかで、雨もほとんど降らず、青空が見えることもある。しかし目の周囲は熱帯低気圧で、最も風雨が強い部分である。陸上を熱帯低気圧の目が通過した場合、激しい暴風雨の後に穏やかな天候となり、その後激しい暴風雨が吹き返しの風として吹く。穏やかな天候となる前後では、風向きが正反対になる。]との事だった。
まさにこの時の世界とぴったりの事態だった。強烈な熱帯低気圧の暴風雨という戦争は、不思議な静寂という台風の目の中という不思議な静寂に包まれたのだ。そして誰もが台風の目が通り過ぎると再び強烈な、熱帯低気圧の暴風雨という戦争が待ち構えていると信じて疑わなかった。
そして世界は事実、その通りになった。一部能天気な人々はこのまま終戦するのではと言ったが、それはアメリカ合衆国・フランス共和国・オランダ王国に有利過ぎた。何せヨーロッパのほぼ全域をフランス共和国とオランダ王国は支配していたのだ。アメリカ合衆国は太平洋の島嶼部を全て占領されたが、本土は無傷だった。
それに引き換え連合国側はこれからだった。太平洋でアメリカ合衆国海軍を封じ込め、北アフリカをようやく平定しただけである。トルコ侵攻は続き、イタリア王国のアルプス山脈国境線も油断出来ず、大英帝国本土やヨーロッパは占領されたままなのだ。その状況で連合国側が終戦させる筈が無かった。
特に連合国の盟主たる大日本帝国が終戦させる気が無かった。何せこの台風の目の間に大日本帝国は6発機という、信じられない超巨大戦略爆撃機を実用化させアメリカ合衆国本土への戦略爆撃を開始する計画だった。そして将来的には今後の戦略目標である、アメリカ合衆国本土上陸作戦・大英帝国奪還作戦・ヨーロッパ上陸作戦等という壮大な計画を立案していたのだ。
ここまで書けば読者の皆さんも学校で習った通りだった。大日本帝国は自国の軍拡を整え連合国各国も陸軍を中心に編成し、アメリカ合衆国本土上陸作戦・大英帝国奪還作戦・ヨーロッパ上陸作戦を実行し、最終的には超巨大戦略爆撃機で世界初の核攻撃まで実行したのだ。』
小森菜子著
『帝國の聖戦回顧録』より一部抜粋




