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ギルドマスターの長い話 3

この国の歴史について話したいらしいギルマス。

……まぁ、勉強になるから聞くのはいいのだけど。



「それに、君はまだこの国の仕組みについて本質的に理解していないように見えるのだが……」


「仕組み?」


「この国には身分の差というものがあるのだが、君はその理由を知っているのか?」


「まぁ、たぶん?」


貴族が偉い、という話だろう?


「では、なぜそれは存在しているのかね?」


なぜ?


「なぜって、それは貴族が魔法を使えて平民より強いから?」


ギルマスの眼光が鋭くなった。


「それでは理解していないのと同じだ。やはり、君は歴史を知らなければならない」


えぇー? 何でやねん。前にジュディが言っていたのは、要約すればそういう事じゃないの?


席を立ったギルマスが2杯目のお茶を入れてくれた。

親切? いや、「長い話になるから覚悟しとけよ」みたいな雰囲気。



「今からおよそ500年前、この国は魔王とその眷属による襲撃を受けて滅亡の危機に晒された」


いきなり大ピンチ! そして魔王? 本当に魔王がいるのか?


「魔族や強大な魔物に対して、騎士や魔法使い達は果敢に戦うも奮戦むなしく次々と倒された。貴族のおよそ9割が戦死、国土の大半が奪われた」


9割! もう崖っぷちだ! それはもうダメなんじゃね……?


「当時の王には『祈願』というスキルがあった。それは『神に直接願いを伝える事ができる』というユニークスキルだ。王は神に祈りを捧げ、願いを伝えた」


「もっと早く使えや!」


突っ込まずにはいられない! 誰だってそう思うだろ? 何ですぐに使わなかったんだよ? 人がいっぱい死んでますよ!?


「『祈願』スキルには3つの難点があったのだ。そのうちの1つは『使用して願いが叶うと、その使用者は死んでしまう』というものだった」


「何そのクソスキル」


早く使えとか言ってゴメンね! 俺だったら絶対使わないわ、そんなスキル。

与えられた人間にとっては破滅と同義じゃないか? 神は何を考えているんだ……


「ちなみに他の2つは?」


「『正しい言葉』でなければ伝わらない、というものと、もう1つは、あくまでも『願いを伝える事ができる』のであって『願いが叶う』保証はない、というものだ」


「何その詐欺みたいな話!」


かなりヒドいスキルじゃね? 「ユニーク」スキルって、悪い意味でユニーク過ぎるわ。


「幸いな事に王の願いは聞き届けられ、神は戦場に自らの代理戦士たる『勇者』を送り込んだ」


幸いなのか? この国にとってはそうなのかもしれないが。


「勇者はドラゴンを従魔にした後、残存戦力を結集して魔王に決戦を挑み、見事、これに勝利を収めた」


おめでとう! よくやった!


「だが『魔王の存在』は大地は汚染するものだった。更に、熾烈を極めたその戦いによって国土が破壊し尽くされた結果、王国は人の住めない死の世界となったのだ」


「ダメじゃん」


「王の願いは『この国を救ってほしい』というものだった。魔王とその眷属を倒しただけでは救われたとは言えない。神は『救い』としてこの国に『大地を浄化して、作物が実り、再び人が生きていける世界』を構築する奇跡の魔道具、後に『礎』と呼ばれる力を与えてくれた」


「生き残った者達が『礎』に魔力を注ぎ、その礎の力で大地は浄化され甦り、王国は再建された」



「よかったねー。ところで、王はどうなったの?」


「勿論死んだ」


そこにも救いが欲しかった!


「……是非も無し、か」


「それは、王の最後の言葉だ。知っていたのか?」


うへぇ……



「その後、勇者と王の娘が結ばれて子供が生まれ次代の王となり、それ以来勇者の血を引く歴代の王が『礎』に魔力を注ぐ事でこの国は成り立ってきた」


めでたしめでたし……まるで物語のようだが、これが「歴史」か。

さすが異世界。さすいせ。

しかし、これで終わりではないよな?


ギルマスの話は続く。


「だが、代を重ねる毎に勇者の血は薄まり、魔力も弱くなった。王だけでは国の隅々まで魔力を行き渡らせる事ができなくなったのだ。その為、今から250年ほど前、当時の王が礎の一部を分割して国の各地に配置する事で『領地』を構築した。そして王族が各地の『領主』に任命されて、『領地の礎』に魔力を注ぐ事で不足分を補うようになった」


「という事は、領主は王の末裔?」


「そうだ。王と領主達は神授の魔道具、すなわち『神の力』の一端を担う、貴族の中でも特別な存在なのだ」


「なるほど……『歴史の話』はわかったけど、つまり?」


「現在では領主だけでなく貴族も魔力を負担しているが、王、領主、そして貴族が礎に魔力を注がないとこの国は立ち行かない。分かり易いのは農業だ。礎を通して大地に魔力を行き渡らせないと作物が育たない」


「つまり、貴族が魔力を注がなければ、平民の大半はこの国では生きていけないという事だ。言い換えれば、平民が生きていられるのは貴族のおかげ。これが、身分制度が成立している『理由』だ」


うーむ……


「でもそれは貴族が生きていく為にも必要だからやっているんでしょ? それに、平民がいなかったら農業は誰が行う?」


平民も必要な存在だろう? 感謝と労いの気持ちを!


「勘違いしているようだが、貴族も農作業はできるのだよ? 勿論魔法を使って、だ」


魔法で農作業! そうか、貴族は全て「魔法使い」だったな。


「平民に農作業をさせているのは単にそうする事で浮く時間や労力、そして魔力を別の事に使いたいから、というだけの話なのだ。つまり、平民がいなくても貴族は生きていける。貴族にとって平民は必要不可欠な存在という訳ではない」


むぅ、ちょっと予想外の話だ……あれば便利、でも無くても困らない、みたいな?



「平民は俺達のおかげで生きていられるのだから俺達に従え、という事?」


「そうだな。更に言えば、以前は貴族に従えないのならこの国から出ていけ、まであった」


うーむ……?


「以前? 今は?」


「さきほど説明したように、この国は大きい。国境近くであればいいが、国境から遠い地では国外追放も手間が掛かる」


「転移魔法を使えば?」


「この国で『貴族に従わない』のは罪なのだ。そして、犯罪者の為に莫大な魔力が必要な転移魔法が使われる事はない。魔力は元々貴重なもので、特に今は不足気味だからな。なので現在ではその場で処分されている」


「処分?」


「処刑の事だ」


うへぇ……「従わない」だけで処刑かよ。それがこの国のルールなのか。

だが、一概に否定はできない。「礎」と魔力の話が本当であれば。



「魔力を注がないと作物が育たないって言ったけど、肥料は使ってないの? それとも、肥料だけでは足りないから魔力を注ぐとか?」


「ヒリョウ? ヒリョウとは何かね?」


怪訝そうな表情。マジか。謎翻訳が機能していない……いや、「無い」のか?


「えっと、家畜のふんを発酵させて農地に捲くと作物が育つ、というものなんだけど。後、腐葉土とか」


「……それは本当か?」


何だろう? ギルマスの雰囲気が非常に危険なものに……何でやねん。


「君は試した事が……いや、それを他の誰かに話した事はあるかね?」


「いや、ないけど」


「では、今後は人前でその話はしない事だ」


「どうして?」


ぐいっ、と身を乗り出してくるギルマス。顔が怖いんですけど。マジで何やねん?


「もし、その話が本当なら、魔力を必要としない農業が可能だと貴族が知ったら、どうなると思う?」


ギルマスの低い声が、まるで脅迫しているかのような錯覚が! 声も怖いわ!


「喜ぶんじゃないの?」


魔力が不足しているのなら、歓迎されるんじゃね?


「そういう貴族もいるかもしれないが、そうはならない可能性の方が高い。君は、今までの話を理解していないのかね?」


「魔力を持つ貴族が生殺与奪の権利を握っている、という話?」


「わかっているのなら、その『魔力の価値』を否定、あるいは低下させかねない話を貴族が喜ぶと、なぜそう思えるのかね?」


言ってる事は理解できなくもないが、大丈夫じゃね?


「『魔法』がある限り、貴族の優位性は揺るがないんじゃないの?」


「いや、事はそう単純ではない……」


ギルマスは難しい顔になって、黙り込んでしまった。



ギルマスが何か考え込んでいるようなので、この時間を生かして今までの話を思い返してみる。

どこか、引っ掛かるところがあるような、そんな気がするんだよな……何だろう? 何かな?

うーむ。ゴーストさーん、教えて? 無理か。


沈黙が続く……やがて(なぜか)机の上の紙を睨み付けるように見ていたギルマスが顔を上げた。


「その話はしばらく保留にしてもらえないだろうか?」


「別にかまわないけど」


「肥料」がこの世界に与える影響がよくわからないし。知識チート? いやいや、そんな簡単な話ではない筈……

よく考えてみれば、地球でできる事はこの世界でもできる、と決めつけるのは早計だった。実際は試してみないと「この世界で肥料が作れる」のかわからないわ。


ここでは人の排泄物はスライムによって処理されている、らしい。見た事ないけど。(トイレの床下に浄化槽があって、そこにスライムを入れている)

農村で家畜のふんをどうしているのか知らないけど、同じようにスライムに処理させている可能性は高い。


仮にそうだったとして、それはこの世界の人が単に肥料になる事を知らないから、なのか「肥料にできないから」なのかは判別がつかない。


この世界には地球からの転生、あるいは転移者がいた筈だ。おそらく何人も。(「コンパウンドボウ」は絶対、地球由来だろう?)

なのに、農作物に魔力が必要というこの世界の現状を知って、肥料に関する知識をもたらさない、という事があるのだろうか?

肥料に関する知識が全くないとか? それはちょっと考え難い。


試して失敗したのか、それともギルマスが危惧したように、「危険」だからやらなかったのか?

あるいは……単にギルマスが知らないだけで、既にどこかで肥料が作られているという可能性は?



「まだ話の途中だったのだが、続けてもいいかね?」


まだ話を続けるというこの男。話の終着点はどこにあるのか。


「どこから?」


「礎を担う王と領主が特別な存在である、というところからだ」


何事も無かったかのような顔でギルマスは話を続ける。


「だが、その一方で領主達は『中間管理職』であるとみなされるようになった」


「……え? 何だって?」


しまった、つい難聴系主人公みたいな言い方をしてしまった!

でも思わず聞き返してしまうだろ? 管理職?


「『中間管理職』だ。意味が分からないのかね?」


「いや、意味は分かるけど」


領主の話じゃなかったか? 何やねん、中間管理職って!

領主は課長か? 部長なのか? どっちもヒラから見れば偉い人だけど!


「えっと、王から領地を任されているから?」


「そうだ。最初は魔力を注ぐだけだったが、その後様々な権限が委譲されて、領主の裁量が増えた」


「という事は王が『上司』で、『部下』の領主は仕事ぶりを評価される?」


「その通り。領地運営の手腕、成果を評価されるのだ」


「へぇー、そうなんだ」


何だろう? この世界だと「中間管理職」という言葉が全く耳に馴染まないんですけど。どうにも違和感が……これって俺が悪いのかな……


「そしてその評価という点で、シオリスの領主は『最低』だった」


「へぇー……評価が低いとどうなるの? 減俸? 降格?」


「いや、あまりに低評価だと『クビ』だ」


そう言って手で首の横をトンッと叩く。この世界でも「クビ」はそう表現するのか。


「大変だねー」


「あぁ。それ故、領主も必死なのだよ。『クビ』は本人だけでなく一族諸共、だからな」


「へぇー……ん? 本人はともかく、一族ってどうやって?」


家族はクビにできないだろ?


「どう? 一緒に処刑されるだけだが?」


「へぇー……って、処刑!? クビって『首を切られる』って意味!?」


「勿論そうだ」


勿論、じゃねーよ! 何だそりゃ!? クビ(物理)って。

いや、(物理)じゃねーよ。ハード過ぎないか? 厳しいのは平民に対してだけじゃなかった!



「いきなり過ぎない? もうちょっと段階を踏もうよ? それに厳し過ぎるような……」


「勿論、いきなりではない。十分に猶予は与えられていた。それに、君のおかげで領主は粛清待ったなしの窮地を脱して、猶予を得る事に成功した」


「へー、そうなん……えっ? 何かしたっけ?」


俺のおかげ? 身に覚えが無いんですけど。


「と言うか、粛清待ったなしって」


「それを説明する為にはまず、シオリス領の過去について話さなければならない」


またか。話なげーよ。




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