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家に帰るまでが討伐です

焦げ臭い空気の中、シルヴィアと手を繋いで倒れ伏したヒュドラに近付く。


土槍の檻と階段を解除してヒュドラを近くで見上げると、改めてこんな巨大で凶悪な魔物を屠った事に対する感動というか、興奮のようなものが沸き上がってくる。

こいつを倒したのか……

自分で言うのも何だが、凄い事をしたぜ! という感じがしてくる。


「うわー」


シルヴィアがヒュドラを見上げてびっくりした顔で固まっている。

そうだよね、俺も間近で見ると「うわー」って思うわ。

首が4つもある異様さがドラゴンに匹敵するほどの凶悪さを感じさせているのかもしれない。

本当に「うわー」で凶悪な感じ。


「セシリアさん!」


「ん? うわ!?」


ビアンカが俺の前でしゃがみ込むと、ぎゅうぎゅう力を込めて俺を抱きしめ始めた!

おいやめろ! いくら制服が高性能でも、お前の馬鹿力だとHPが減って……


HP 60/90


見ろ! こんなにHPが……ん? 90?



セシリア


Lv 9



レベル9だと!? ヒュドラを倒したからか!? こんなに上がるのか!


「やりましたね! こんな大物を倒してしまうなんて信じられないです! 夢みたいです!!」


「あ、ああ。そうだね」


「凄いです!! これは凄い偉業です!! セシリアさんは凄い魔法使いです!!」


「いやー、ビアンカさんの活躍も素晴らしかったよ!」


「ありがとうございます! 私がヒュドラ討伐に貢献できるなんて、私、私は」


興奮して泣きながら笑顔をみせるという器用な状態になっているビアンカ。


「私も嬉しいよ! レベルが3つも上がったし!」


「えっ?」


どこかを見つめるビアンカ。ステータスを確認しているのだろう。


「私もです! 私も3つ上がっています!」


「そうなんだ、おめでとう! ビアンカさん!」


「ありがとうございます! セシリアさんもおめでとうございます!」


「ありがとう!」


「おめでとー」


2人でにこにこしているとシルヴィアもお祝いしてくれた。(たぶん意味は分かっていないだろうけど)


「ありがとう、しーちゃん」



さて、ヒュドラだが、じっくり観察したいところだが鮮度が落ちないうちにしまってもらわないと。


「シュバルツ、このヒュドラを収納して欲しい」


シュバルツが左腕を伸ばし、


スッ。


全長20mはあると思われるヒュドラが一瞬で収納された。


「シュバルツさんは収納の魔法が使えるんですね!」


「ノワールも使えるよ。ノワールもヒュドラを収納している」


「えっ?」


「もう1体ヒュドラがいて、エクレールが気付いてノワールが倒してくれたんだよ。ビアンカさんも見ておくといいよ。ノワール、もう一度ヒュドラを見せてくれる?」


スッ。


4つ首のヒュドラがいた所に今度は3つ首のヒュドラが出される。


「これは……翼が!? 飛行型のヒュドラ!?」


「そう。こいつがここへ向かって来ていたみたい」


「危なかったんですね! 地上型だけでもあんなに手強かったのに、その上飛行型までいたら手に負えなかったのでは!?」


「そうだね。ノワールやエクレールがいてくれて助かったね」


「ありがとうございます! ノワールさん! エクレールさん!」


パチパチ。


ノワールからは「どうってことないぜ」みたいな雰囲気が感じられる。


こうして話している間も土ゴーレム達を使って槍を回収している。

勿体無いからまたどこかで使おう。



エクレールがじっとヒュドラを見ている。

ヒュドラとドラゴンって似ているような気がするんだけど、


「エクレール、ヒュドラってドラゴンに近い種なの?」


パチパチパチ。


違うらしい。

そういえば、


「ヒュドラは美味しいらしいけど、エクレールは食べた事ある?」


パチパチ。


「美味しい?」


パチパチ。


そうか。ならヒュドラを卸す際に肉を少し売らずにおいて皆で食べようかな。


「たぶん昼近くだと思うんだけど、ここから離れた所で昼食にしよう」


「はいっ!」


焦げ臭くて食事をするには不向きだからね。



昼食を終えてシオリスに帰るべく移動を始めたのだが、森の中でやたらとハンター達に出くわす。


「止まれ!」


若いハンターに声をかけられる。

またか。


「今ここで俺達が狩りをしていて獲物を追い込んでいる所なんだ。他を当たってくれないか」


「分かりました」


すぐにその場を離れる。

これで4組目だ。来る時は全く見なかったのに、何でだ?


「やけにハンターが多いね」


「たぶん、ヒュドラが原因だと思います」


「えっ?」


「森の中でヒュドラが暴れた事でその存在を感知した他の魔物や獣が逃げ出して、その逃げた先で魔物や獣の密度が高くなっているんだと思います。ハンターはそれを狙っているのでしょう」


「ヒュドラを倒してからまだそんなに時間はたっていないのに、すぐにハンター達は気付くのかな?」


「森を狩場にしているハンターならすぐに気が付きますよ。たぶんもっとたくさんのハンターがいる筈です」


そういうものなのか。


「私達も狩りをしていこうか。ヒュドラは大金になるけれどすぐには換金できないから、すぐに売れる獲物があると嬉しい」


手持ちのお金は残り少なくなっている。


「そうですか。それなら私が獲物を探してみます。任せてください!」


「お願いねー。今回も最初は私とビアンカで狩りをしてみるよ。皆は見ていてね」


という訳で軽く狩りをしていこう、という話になったのだが……



ガシッ!


またか! 何度目だ!?


側面から俺の座っているシートを攻撃したそいつはすぐに姿を消した。

危ねー、ちょっとでもずれていたら制服の強度を試す事になっていたわ。


周囲を見回す。また見失った! 動きが速過ぎる!


「どこだ!? どこへいった!?」


「セシリアさん! 前方に逃げています!」


「前!?」


前方を見ると小さな姿が一瞬だけ見えたが、すぐに見失ってしまった。

森の中は遮蔽物だらけだが、回り込む動きが速過ぎないか!?

ええい、やつらは化け物か!


「一体何体いるんだ!?」


「たぶん4匹です!」


「4匹だと……」


たった4匹で俺達をここまで追い詰めるというのか!?


「たかがウサギごときが……」


ガツッ!


また当たった! 今度は後方から!


「この!」


素早く土ゴーレムを振り向かせて殴りつける!


スカッ。


当たらない! どうしてだ!? なぜウサギがこんなに速い!?


ガンッ!


ビアンカが左手で構えている盾にぶち当たったウサギが「空中で姿勢をかえて」、右手のハンマー攻撃をかわしているのが見えた。


「何だと!?」


魔法か? スキルか? どうりで何度も空振りする筈だよ! おかしいと思ったわ!


「ビアンカさん! 『ホーンラビット』だよ! 気をつけて! 空中で動くよ!」


「はいっ!」


迂闊! 見た目は普通のウサギと変わらないからすぐには気が付かなかった。

というかホーンラビットの事を忘れていた!


ホーンラビットは希少種で滅多に見かけないと前に見た資料に書いてあったから、今まで頭の中になかった。

こいつらは普段は角を隠し、攻撃する時だけ頭から短い角を出して刺すという凶悪な魔物だ。

空は飛べないが空中で動く方向を変える事ができるというが、今まさにそれを見たわ。


正直ヤバい。

ホーンラビットはDランク以上推奨という魔物で別名「初心者殺し」。

経験の浅いハンターが普通のウサギだと思って狩ろうとすると逆に狩られてしまうという……


ガシッ!


今度は正面か! 俺が見えていないと分かっているかのよう。

舐めやがって! でも実際見えていないわ……


こいつら、明らかにビアンカより俺を攻撃する回数が多い。

確か自分より強い相手は襲わないらしいが、なぜそれが分かるのか。

つまり俺を自分達より弱いと、そしてビアンカよりも弱いという判断だな。

合っているけど。


シルヴィアとクレアを予めエクレールに預けておいてよかった。

狩りを始める前にエクレールに抱っこひもをつけてクレアとシルヴィアの事をみてくれるよう頼んでみたのだ。


エクレールは2人をみる事に自信ありげだったので任せたのだが、彼女の傍なら2人は安全だ。

何度かエクレール達の方を見ているが、ホーンラビットが襲っている様子はない。

エクレール達の強さが分かるという事だな。


仮に襲ってもシュバルツかノワールが始末してくれるだろうが……

そういえばアルジェンティーナは?


ドガッ!


「こいつ!」


スカッ!


もう反応できないと思い知ったので盾で自分の体を覆って、他の土ゴーレムで攻撃しようと試みているのだが、上手くいかない。

攻撃が全て外れている。

ホーンラビットは執拗に俺を襲ってくる!


土ゴーレムで周囲を囲って視界を共有しているのだが、動きが速過ぎて目が追いつかない!

たくさん土ゴーレムがいるのにまるで生かす事ができていない。


「えいっ!」


ドスッ!


ビアンカがハンマーを振り下ろしているが、またかわされている。

ホーンラビットに対して武器が大き過ぎる。もっと小回りのきく武器が必要だ。


だがすぐには用意できない。槍を使ってもらうか?

いや、持って使うのは得意ではないと言っていたな。投げて当たるとは思えないし。

それよりビアンカにもう一枚盾を渡して、シールドバッシュを多用してもらった方がいいかも。


「ビアンカさん! ハンマーではなく盾を使ってみて!」


「はいっ!」


土ゴーレムに持たせていたタワーシールドをビアンカに渡す。


「アルジェンティーナ!」


見回すと少し離れた所にいた。

あれ? 足元には1匹のホーンラビットが……すぐ近くにもう一匹倒れている。


「いつの間に!?」


すでに2匹も仕留めていた! さすがだ! その調子で残りも仕留めてください!


アルジェンティーナが俺の方へ突進してくる。

5機号のすぐ近くで攻撃態勢に入ろうとしていたホーンラビットの首の辺りに、


ガブッ!


噛み付いて一瞬で倒していた。早過ぎるだろう……


アルジェンティーナが突っ込んでくるまで、そこにホーンラビットがいる事自体に気が付かなかったし、倒してくれたのは嬉しいのだけど、何か釈然としない……


「やぁ!」


ガシッ!


ビアンカのシールドバッシュが決まって4匹目のホーンラビットがぶっ飛ばされていた。

転がったホーンラビットに駆け寄ったビアンカがとどめを刺した。


「エクレール! 他に魔物はいる?」


パチパチパチ。


いないか。はぁ、疲れた。


これは油断だったと言わざるを得ない。

ここにホーンラビットがいる可能性なんて全く考えていなかったわ。


「ビアンカさん、お疲れ。怪我は無い?」


「大丈夫です。無傷ですよ」


「それはよかった。ちょっと危なかったね」


「そうですね。『初心者殺し』を見るのは初めてです」


「ヒュドラを倒して、少し気が大きくなっていたかもしれないわ」


「……そうですね。反省しないと、ですね」


「はぁ」



ちょっとは強くなった気がしてたんだけど、気のせいだったわ。




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