ヒュドラ討伐作戦! (実戦編)
幼女形態のエクレールが飛びながら俺達を先導している。
深い森の中、迷いの無い足取り。
違った、こういう場合なんて言えばいいんだ? 飛行取り?
ヒュドラの元へと誘ってくれている。
この森、スケール感がおかしくなるほど木が大きい。まるでビルのよう。
1本の木が直径10m以上、高さは100mくらいあるんじゃないのか?
そんな木が大量にあって、自分が小人になったような錯覚に陥りそうだ。
木と木の間隔が結構広いので大型の魔物でも移動しやすいのだろう。
この森の中にヒュドラがいるらしい。
戦闘そのものには十分な広さがあるといえるが、問題は「森の中」という点だ。
ヒュドラは火魔法を使う筈だが、森の中で戦って森林火災にならないだろうか?
いや、なるよな。
ここで戦うのはマズい。
「むーん……」
「どうしました?」
5号機の肩に乗っているビアンカが尋ねてくる。
「この森の中で戦うと火災の危険があるな、と思って」
「大丈夫だと思いますよ? この木は『トゥアルの木』といって、火魔法でも簡単には燃やせないくらい燃えにくいんです。家の建材に使われたり、大事な物を保管する箱を作る材料にされています」
「そうなんだ」
こんな巨大な木を加工して使うのか。凄いな。
ならばここで戦うか。森の外へ誘導する必要がないのならそれに越した事はない。
エクレールが止まった。こちらを見ている。
「見つけた? 近い?」
パチパチ。
「土ゴーレムを相手に気付かれない距離まで接近させたい。連れて行ってくれる?」
パチパチ。
2号機を偵察に出す。
エクレールの後を付いていくと、4、500m程進んだ地点にヒュドラがいた。
木の陰からこっそり見る。
ヒュドラまでの距離は50mぐらいだろうか?
4本の首に赤い色の体。周りの木が大き過ぎるので正確なサイズが分からないが、前のヒュドラより大きいような気がする。
2号機のいる位置から見て左から右方向へ移動している。
4本の首が別々の方を見ながらゆっくりと歩いている。
獲物を探しているのか、警戒しているのか?
「ビアンカさん、ヒュドラを確認したよ。戦闘の準備を」
「はい!」
俺達はヒュドラの後方へ回り込む。
まずはトーチカを設置。木の陰、ヒュドラからは見えない位置だ。
ぽこん。
土ゴーレムは全部で7体使用する。
練習で更に多くの土ゴーレムを動かせる、という事が分かったが、あまり多くてもかえって攻撃し難いので直接攻撃に使うのは5体、ビアンカの投げた槍を回収して渡す係に1体、戦場全体を見る為に1体使用する。
土ゴーレムの武器として槍ではなく、練習の時に新たに作成した大型のハンマー、いわゆる『ウォーハンマー』を使用する。
槌の部分は土ゴーレム本体より大きいが問題なく振る事ができる。
槌の片側は先端を尖らせた形で、まずはこれで攻撃してみよう。
トーチカの中にシルヴィアと一緒に入る。
「今からしばらく戦いをするよ。私と一緒にここにいてね」
「たたかい?」
「そう。危ないから中にいるんだよ」
「なかであそぶ?」
「そうだね」
並列思考で戦いながらシルヴィアと遊ぶ事も可能だ。
アルジェンティーナとビアンカがヒュドラに後方から接近している。
すぐ後ろにシュバルツ。見守り係である。
トーチカの外にはエクレールとノワールがいてくれている。
全ての土ゴーレムにそれぞれ2本のウォーハンマーと20本の槍を持たせてビアンカ達の後ろに付いていく。
後方50mまで接近したところで土ゴーレムを二手に分けて左右に展開する。
ビアンカが右、アルジェンティーナは左側だ。
ヒュドラの周囲には20mぐらいの空間がある。やや近いか? もう少し広い空間の方がいいかな?
だがビアンカが傍にいる2号機を通して俺に合図を送ってきた。
この距離でいいらしい。
土ゴーレム達を使ってヒュドラの両サイドに10本ずつ槍を置いていく。
1体だけそのまま20本の槍を持たせてビアンカの傍に待機させる。
そして設置が終わった残り全ての土ゴーレムにウォーハンマーを構えさせる。
よし、戦闘準備は整った。
アルジェンティーナの傍にいる土ゴーレムを使って彼女に合図を送る。
アルジェンティーナが左から突っ込んでいく。
戦闘開始だ!
アルジェンティーナに気付いたヒュドラの動きが止まる。
今だ!
(アースランス!)
ヒュドラの直前に7m×3本の土槍を展開する。前を塞ぐように。
「ギュオ!?」
土槍から距離を取ろうとするヒュドラ。
すかさず後方にも同じ7m×3本の土槍を展開! 前後で挟み込む。
更に左右にも土槍を出して計12本の土槍で完全に囲い込む。
成功だ!
「ギュオォオオオオ!!」
土槍の檻の中で暴れるヒュドラ。
土槍の強度は? 持つのか!?
大丈夫そうだ。すぐに壊れる感じではない。
檻はかなり狭い物になっている。
ヒュドラが中で体の向きを変える事ができないほどにぴったりとしている。
これならヒュドラの攻撃の方向は正面側に限定されたものになるだろう。
檻が壊れない限り。
ビアンカが側面から槍を投げ始めた。
土槍の間からヒュドラの体に当たって跳ね返されている。
ヒュドラの体表に魔法防御が発動した事を示すエフェクトが現れた!
土ゴーレム達にも左右から攻撃させる。
片手に1本ずつ持ったウォーハンマーを同時にヒュドラの体に叩きつける!
「グォオオオ!? ガォオオオオ!!」
土槍の間から首を出して側面を見ようとしても土槍が邪魔で首をそちらへ曲げる事ができず、狭い檻の中で体の向きを変える事もできない。
「ガァアアアア!」
大きく口を開けたヒュドラが土槍にブレスを放つ!
ギュバアアアアアア!
ゼロ距離から放たれたブレス! いや、違う!? これは、炎?
凝縮されたオレンジ色の炎のような熱線が土槍に浴びせられる!
土槍が爆発的な炎に包まれる! 大丈夫か!?
爆炎の中から姿を現す土槍!
健在だ! ダメージは無さそう。強いぜ土槍!
「ガァアアアアアアアア!!」
怒りの咆哮を上げるヒュドラ!
別の頭が更に熱線を撃ち込んでくる!
ギュバアアアアアア!
土槍は黒焦げになっているが形は変わらない。
ヒュドラが土槍に噛み付いて壊そうとする。
ガシガシッ!
やはり無傷だ。2つの頭が噛み付き攻撃をしているが何とも無いぜ!
前脚を使った攻撃もしようとしているが狭いせいでうまく動かせないみたいだ。
その間もビアンカの槍攻撃と土ゴーレム達のハンマー攻撃は続いている。
アルジェンティーナも噛み付きや前脚による攻撃を果敢に行っている。
しばらくはこの状態が続きそうだ。
トーチカの中に小さなプールを作る事にする。
2.5m四方の大きさで土を掘って固めて、水魔法で水を注ぐ。
水深は30cmぐらいでいいかな。
クレアを背中に背負ってまずは俺が入ってみる。服は着たままだ。
「冷たい! でも気持ちいいな! しーちゃん、プールだよ。一緒に入ってみない?」
「ぷーる?」
「そう、サンダルを脱いで入ってみて?」
そっとプールに入ってくるシルヴィア。
「つめたい!」
「そうだねー」
シルヴィアに少しだけ水を掬って掛けてみる。
ぱしゃっ。
「きゃー! つめたい!」
さらに水をかける。
ぱしゃっ、ぱしゃっ。
きゃーきゃー言って喜ぶシルヴィア。俺にも水をかけてくる
ぱしゃっ、ぱしゃっ。
「冷たくて気持ちいいね?」
「きもちいい!」
ウォーターボールも作って浮かせる。
ふよふよ。
ばしゃばしゃと水と戯れる幼女2人。
む? 待てよ?
ウォーターボールを見て、前に失敗して以来試していなかった事を思い出した。
今ヒュドラの頭は動く範囲がかなり制限されている。
あの頭をウォーターボールで包んでしまえば窒息させられるのでは?
動いても十分追随できるのではないだろうか。
早速試す。
前は「レベル2」で土ゴーレムで水魔法を使う事はできなかったが、「レベル3」の今ならどうだろう?
全体監視用の土ゴーレムをヒュドラの正面に回す。
……使える気がする。
よし。
(ウォーターボール!)
ふよん。
右端のヒュドラの頭が直径約3mの水球に包まれる。成功だ!
ヒュドラは突然現れた水球を振り解こうと頭を動かしているが、追随させるのは難しくない。
これはいけるか? と思ったらヒュドラが大きく口を開けて、
ギュバアアアアアア!
熱線を放った!
一瞬で蒸発する水球!
土ゴーレムのすぐ横を熱線が掠めていく。
更に撃ち続けられた熱線が周囲の大木の側面を抉っていった。
簡単に抉られて跡が黒く焦げているが燃え出したりはしない。燃え難いというのは本当だな。
窒息作戦は失敗だ。
だがフレイム(と名付けた)がブレスではなく火魔法ならMPを消費しているという事じゃないか?
フレイムをたくさん撃たせれば、それだけ早く魔法防御がきれるかもしれない。
このゴーレムにもウォーハンマーは持たせてある。
ヒュドラの正面からハンマーを叩きつける!
ドガッ!
すぐに離れてハンマーを振り回して挑発する。
「ガァアアアアアア!」
ギュバアアアアアア!
フレイムを放つヒュドラ! かわしきれずに当たってしまう! ダメージは!?
……問題無い。動かす事が出来る!
再度ヒュドラに突撃させて同じように攻撃する。
ギュバアアアアアア!
またフレイム! 今度はかわす事ができた。
このゴーレムにはヒュドラがフレイムを使わなくなるまで同じ事をさせよう。
そろそろ休憩を入れようかな。
トーチカの外に出て声を掛ける。
「アルジェンティーナ! ビアンカさん! 1度戻って! 休憩しましょう!」
戦場までは結構な距離があるが、この距離でも声が届く事は練習の時に確認済みである。
すぐにアルジェンティーナが戻ってくる。
「お疲れ、アルジェンティーナ。水を飲むといいよ」
水魔法で出した水をがふがふと飲む。飲んでいる間に治癒魔法をかける。
ぽやん。
ビアンカも戻ってきた。
「お疲れ、ビアンカさん。水をどうぞ」
「ありがとうございます!」
ビアンカにも治癒魔法をかける。
ぽやん。
「後どれぐらい攻撃を続ければいいのか分からないけど、辛抱して続けてね」
「もちろんです。まだまだいけますよ!」
「お願いします。アルジェンティーナもよろしくね」
もちろんこの間も土ゴーレムによる攻撃は休む事なく続けられている。
戦場に戻っていくビアンカとアルジェンティーナを見送っていると、エクレールが近付いてきた。
「エクレールも休憩に入ってね」
パチパチパチ。
ん?
「どうかした?」
エクレールが戦場とは違う方向を指し示す。えっ? 何?
ノワールも同じ方向を見ている。この感じ……まさか!?
「他に魔物が!?」
パチパチ。
「こちらに接近しているの?」
パチパチ。
マジか。
ヒュドラが暴れている所に近付いてくるとは、その魔物は察知能力が低いのか?
それとも……
「エクレール、接近して来るのはヒュドラと同等かそれ以上の魔物なの?」
パチパチ。
当たりだった。
勿論俺達にこれ以上の魔物を相手する事など出来ないので、エクレールとノワールに任せる事になる。
「先生、お願いします!」だ!
「エクレール、ノワール。その魔物を倒してきてくれる?」
なぜかエクレールが返事をしない。
代わりにノワールが肯定の雰囲気を表した後、すいっ、と滑るように森の先へ飛んでいった。
「ノワールだけで十分という事?」
パチパチ。
そうなのか。まぁ、任せていいだろう。
まだヒュドラの魔法防御は健在だ。だがフレイムは撃たなくなっている。
MPを節約しているのか、それとも単に土ゴーレムに浴びせても効果が無いと気付いてやめただけなのか。
檻の中で暴れ続けているヒュドラを見ているとノワールが帰ってきた。
えっ? 早くないか?
まだ5分もたってないんじゃないの?
「お帰り。もう倒したの? 魔物は何だった?」
声をかけるとノワールはすっ、と前脚を伸ばして、
スッ。
収納魔法で何かを取り出した。
デカい! 何だこれ!?
小山のように大きなそれは、
「まさか、ヒュドラ!?」
全体は薄い灰色で3本の首を持つそれはまさにヒュドラ! しかも翼がある! 「飛行型」か!
同等というか、同じ魔物だったとは!
「こいつ、もしかして空から接近していたのか?」
パチパチ。
エクレールが答えてくれた。
空を飛ぶヒュドラは「地上型」よりはるかに危険で厄介だ。
地上からの攻撃手段は限られているし、当てるのも容易ではない。
逆に向こうは攻撃し放題なのだから難易度が格段にアップする。
危なかった。こんなのに遭遇していたら……いや、危なくはないか。ノワールが倒してくれたのだから。
それにしても早いな。
全く見る事ができなかったが、つまり瞬殺だったという事なんだろうな。
こっちはまだ魔法防御を切らす事が出来ないでいるというのに、魔法無効は強過ぎる。
「ありがとう、ノワール。エクレールも」
更に攻撃は続く。
そろそろ2回目の休憩にしようかな、と思ったその時、
ドガンッ!
「ガァアアアアアア!?」
土ゴーレムのハンマーがヒュドラの体に直接当たってダメージを与えた!
更に、
グサッッ!
「グゥアアアアアアッ!!」
ビアンカの投げた槍がヒュドラの首に突き刺さる! 魔法防御が切れた!
ようやくか! 長かったぜ!
後は土槍を使えばそれで終了だが、なるべく傷を少なく、というのならひと工夫が必要だ。
シュバルツがやったように頭を破壊すればいいのだが、現状では土ゴーレムで頭の高さに攻撃するのは難しい。
ビアンカに槍投げ攻撃を続けてもらってもいいが、より確実な方法を実行する。
まずは左端の頭からだ。
「ステアーズ!」
土でできた階段がするすると左端のヒュドラの頭の高さまで伸びていく。
「ガァアアアアアア!」
目の前まで延びてきた階段を威嚇するヒュドラ。
首を伸ばして噛み付こうとするが、もちろんそれが届かない位置になるように調整する。
土ゴーレムに槍を持たせて階段を登らせる。
最上段からヒュドラの頭までは1mの距離だ。外しようがない。
せーの!
槍をヒュドラの口の中に突き入れる!
「ギャァアアアアアアアア!」
絶叫を上げるヒュドラ!
頭の後ろに突き抜けた槍が刺さったまま暴れるが、この頭はこれで終わりだろう。
他の3つの頭の前にも同じように階段を作る。
それぞれの階段の前に3体の土ゴーレムを立たせて登らせようとしたら、
「セシリアさん!」
ビアンカの声が聞こえた。
「何? どうかした?」
「私もヒュドラにとどめを刺したいです!」
ああ、なるほど。そうだな、ビアンカには頑張ってもらったからな。
「いいよ」
1体の土ゴーレムを階段前から移動させる。
「ありがとうございます!」
すぐに階段を3段飛ばしで駆け上がっていくビアンカ。
最上段に立つと、
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に槍を口の中に突き入れる!
グサッ!
「ギャァアアアアアアアア!」
他の2つの頭も土ゴーレムの槍で突きを入れる。
グサッ!
ドスッ!
「ゴァアアアアアアアア!」
「ギュアアアアアアアア!」
狭い檻の中で悶えるように体を動かしていたが、その動きもやがて弱々しいものになり、崩れ落ちるように地に伏した。
びくびくと痙攣する動きもすぐに止まった。
やったぜ! ヒュドラを倒したぞ!
皆お疲れ様!




