ヒュドラ討伐作戦! (移動編)
翌日出来上がった鞘はシンプルだが美しい形をしていて、色が綺麗な事も相まって女の子が頭に装着するに相応しい出来栄えと言えるだろう。
うん、「女の子が頭に装着するに相応しい鞘」って言ってる事が何かおかしいね。
でもしょうがない。事実そうなんだから。
エクレールの角に装着してみる。
手に持ってみた鞘はそれほど重くはないが、どうかな?
幼女の俺では角の先端の高さに手が届かないので、土ゴーレムを使って慎重に角を鞘の中に収める。
いいんじゃないかな?
「エクレール、つけてみてどうかな? 窮屈に感じる?」
パチパチパチ。
「重くないかな? 平気?」
パチパチ。
よかった。
親方のフレディも満足げな表情だ。
「フレディさん、いい仕事をしてくれてありがとう!」
「ご満足頂けてなによりです。またの機会がございましたら、その時も是非私共へご用命をお待ちいたしております」
「え、ええ」
億の仕事はそうそう発注できませんわ。
昨日はトーチカの中で一緒に寝たのだが、隣でうつ伏せで寝ているエクレールの角が非常に気になって眠れなかったんだよね。
だからといってエクレールだけ別の場所で寝てもらうというのも抵抗があったし、途中で、追加の槍を作成する為にもう一晩寝てMPを回復させる必要がある、という点に気付いたので、どうせ夜は何回も起きるから一晩くらい寝なくてもいいかと考えを変えた。
幸いエクレールは寝相が良くてほとんど動かなかったから、心配する事はなかったのかもしれない。
討伐に関しては今日行くと宣言した訳でもないし、明日でもいいだろう。
「ビアンカさん、今日も練習でいいかな?」
「はい! 勿論です!」
朝から元気一杯だな。
ビアンカも一緒にトーチカで寝たのだが宿代が必要無い事に感激していた。
「こんなに快適で居心地がいいのにお金がいらないなんて!」
「魔法で作った物でお金かかってないから代金はいらないけど。ビアンカさんは今までどんな所に泊まっていたの?」
「お金がある時は普通に宿に泊まって、お金が無い時は宿の近くの安全そうな場所で野宿してました」
「えー……女の子が野宿?」
危ないんじゃないのか?
「大丈夫ですよ? 安全そうな場所を選んでいますから。寝心地は悪いですけど」
「安全そうな場所ってどこ?」
「屋根の上などです」
こいつマジか。よく今まで無事でいられたな。
食事も提供したがそれにも喜んでいた。
「お金を払わなくていいのですか!?」
「同じパーティーメンバーだから今後も必要無いよ。たくさん食べるといい」
ビアンカだけお金を取るというのもおかしな気がしたので。
そもそもお金持ってないよね。
「ありがとうございます! おかわりしてもいいんですか?」
「あるだけ食べていいよ」
「ありがとうございます!」
まぁ、食べ物はたくさんあるから。
という訳で元気なビアンカに昨日の練習のおさらいをしてもらう。
だがその前に、
「ジュディと話をしてくるからその間シルヴィアの事をみてもらっていいかな?」
「分かりました。シルヴィアちゃん、私と遊んでくれる?」
「いいよ」
ギルドの中に入り、ジュディと話をする。
「ヒュドラの討伐に行こうと思うのだが」
「ヒュドラはなるべく傷の少ない状態で倒してもらえると嬉しいわ。マーヴィンのギルドに卸した物のようにね」
「その間、シルヴィアとクレアを一時的に預かってもらう事はできるだろうか」
「無理ね」
「どうしても?」
「ええ。そういった事を一度でも認めると、それを知った他のハンターから自分にも何らかの便宜を図れという要求が次々ときて収拾がつかなくなるわ。だから一切の例外を認めず、誰も特別扱いはしないの」
「……そうか、分かった」
「この町に子供を一時的に預かってくれる所なんて無いし、そういう人もいないのだから連れて行くしかないでしょう? それとも、信頼して預ける事ができる人を自分で探す?」
「あなたは『トーチカ』に篭るつもりなんでしょう? あれで十分安全だと思うわ」
「そうかな」
気は進まないが、連れて行くしかないか。
一つ忘れていた事がある。
「ビアンカさん、防具が必要だと思うんだけど」
今は俺の作った服を着ているが、防具が無いのはダメだろう。
「必要ないですよ? 私は魔力防御ができるので」
「そうかな?」
そういえばジュガンや、他にも防具無しのハンターを何人か見かけたが、あった方がいいような。
「防具があるとその分魔力を節約できますけど、動きが悪くなりますし、私は魔力の量には自信があるので問題無いですよ」
「そう?」
本人がいいと言うのならいいのか。
予備の服は作っておいた方がいいかな。燃やされる可能性があるし。
後は、シルヴィアを連れて行くのなら討伐の間退屈しないように、何か遊べる物を用意しなければ。
また買い物にいかないと。それに槍も追加で作って、他にも土ゴーレム用の大きな武器を何か考えた方がいいか?
もちろん練習も必要だ。ビアンカとの連携も試さないと。
今日も忙しいわ!
翌日ヒュドラ討伐に向けて出発する。
予想生息地域の近くまで歩きでは3、4日かかる行程だがゴーレムなら半日程度、の筈だったのだが。
「大きな湖ですね!」
「そうだねー」
行程の途中に大きな湖があるのだが、この湖、横に細長く楕円形を潰したような形をしていて、もの凄く大きい。
まるで海のよう。対岸なんて全く見えない。波がないから湖なんだろうけど。
一番幅の狭い所が航路になっていて、俺達は今、船着場にいるのだが。
「金貨3枚!?」
料金が値上がりしている!
事前に調べた金額は1人金貨1枚だったのに! 3倍だと!
「なぜ値上がりしているの!? 金貨1枚の筈でしょう!?」
「それは昨日までの料金です。ここ数日、湖の魔物が活発化していて、船を守る為の戦闘要員の数を増やす必要が生じて、その分運行経費がかさむので値上げになりました。値引きする事はできません」
淡々と説明する係員。
「えー」
予想外! どうしよう? お金が足りない。
いや、往路分なら払えるが、帰りはどうする?
「御不満なら御自身で船を出されてはいかがでしょう? 腕に自信のあるハンターは自分で船を出していますし、魔法使い様なら魔物を問題無く撃退できると思いますよ」
「船?」
船なんか持ってきてないよ! 船を持ち歩くハンターなんているのかよ。
魔法袋を持っているのならそれも可能かもしれないけど。
湖には他にも船が浮いているのが見えるがあれがそうなのだろうか?
「湖岸付近では普通に漁をしている船もありますし、必ず襲われる、という訳でもないですよ? 襲われるとすれば湖の真ん中辺りが可能性が高いです」
「……教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「どうするんですか?」
「うーん、ちょっと考えてみる」
船着場には長い桟橋が突き出していて、大型の船が停泊している。
この周辺はまるでどこかのリゾートのような雰囲気があるな。
この湖、船なら半日(おそらく3時間ぐらい)で渡る事ができるが、迂回するとゴーレムの速度でも2日はかかる。
行きだけ船に乗って帰りは迂回するか? あるいは……自前の船か。
土魔法で試してみるか。
「ちょっと船を作ってみるよ」
「えっ?」
大型のパワーボートをイメージしてみる。
もこもこもこ。
「わぁ! 船ですね!」
「ふねー?」
形は申し分ないが、これ浮くのかな? ゴーレムを使って湖面に浮かべてみる。
……浮くな。後は動けばいいのだが。
……全く動かない。
ちゃんとスクリュープロペラもついているのだが反応しない。
「ゴーレムじゃない」という事か? 推進力があれば……「ゴーレム」ならいいのか?
5号機をベースにシートの代わりにスクリュープロペラを並列で2つ取り付けた形をイメージする。
舵は無しで、ユニットごと左右に動く感じで。
「クリエイトゴーレム!」
もこもこ。
スクリュープロペラ付きのゴーレムができた。
背中から突き出した取り付け部分から下向きにプロペラが付いている。
このプロペラが動けば……回転をイメージ。動け!
ゆるゆるゆる、ぐいーん。
スクリュープロペラが回りだした。
やった! 動いたぞ!
やはり、ゴーレムの形が必要、という事なんだな! ……何このゴーレム縛りのルール。
このルールだと車や飛行機は無理、という事か?
この件は時間がある時にじっくり考えるとして、今は更なる検証を続けよう。
このゴーレムは試作アルファと名付けて、アルファを湖に突入させる。
ざぶん!
当然のように沈むアルファ。だが、
ぎゅいーん。
水中で動かすと当たり前のように自在に動かす事ができた。成功だ!
水陸両用ゴーレムがここに誕生した!
後はボートの底部に取っ手を付けて、水中でアルファに引っ張ってもらえばいい。
肩の出っ張りは折り畳めるのか? ……できる。
これで水中での抵抗も低減できる……ん?
パリパリパリ。
この音はエクレール?
エクレールの方を見ると鞘(に収まっている角)の間に放電現象が起きている。
「エクレール? どうかした?」
ふわり、と宙に浮かぶエクレール。ん?
空を飛べる、というアピールをしている事は分かるが、
「エクレールが空を飛べる事は分かるけど、私達は飛べないから」
パリパリパリ。
更なる放電。何か不満そう。どうした?
「あの、もしかして」
「ビアンカさん?」
「エクレールさんはドラゴンだから私達を乗せて湖を渡る事ができる、と言いたいのでは?」
「え? そうなの?」
パチパチ。
おお、合っているのか、なるほど。
しかし、
「それだと目立ち過ぎてちょっとマズい……」
ドラゴンに乗って飛ぶ姿を見られて、従魔にしたという事を世間に知られてしまうのはよろしくない。
「夜なら目立たないのでは? 夜は誰もいないと思います」
「むーん、夜か……エクレール、夜に空を飛ぶ事は可能?」
パチパチ。
そうなのか。
「それならお願いしようかな? エクレール、私達を乗せて飛んでくれる?」
パチパチ。
「ありがとう。ビアンカさん、よく分かったね?」
「セシリアさんがゴーレムを試している間、ずっと不満そうでしたから」
「え? そうなの?」
「はい」
それは気が付かなかった。ごめんよ、エクレール。
試作アルファを湖岸に上陸させる。
せっかく水陸両用へと進化したゴーレムだが、君の出番はまたの機会という事に。
夜、船着場周辺には誰もいない。
エクレールの角から鞘を外して服も脱いでもらう。
ドラゴン形態に戻る度に鞘や服を破壊される訳にはいかないのだ。
裸で少し離れた所まで歩いた後、一瞬でドラゴンの姿に戻るエクレール。
光ったり、徐々に変形するといった事は一切無かった。
「わぁ! 凄い! ドラゴン! ドラゴンですよ! セシリアさん!!」
「そうだねー」
「どらごーん?」
はしゃぐビアンカ。不思議そうなシルヴィア。
「そうだよ。えーちゃんがドラゴンだよ」
「えーちゃん?」
このドラゴンの姿を見てエクレールだと言われても分からないかもしれないな。
「凄い! こんなに近くでドラゴンを見る事ができるなんて! 夢みたいです! 触ってみてもいいですか?」
パチパチ。
手を伸ばしてエクレールの鱗に触るビアンカ。嬉しそうだ。
「さわるー?」
シルヴィアも触りたいらしい。怖くはないという事だな。
近寄ったシルヴィアの手が届くように姿勢を低くしてくれるエクレール。
優しいね。
「うわー、かたいよー?」
顔の横辺りを触るシルヴィアも嬉しそう。
俺達が乗りやすいように更に姿勢を低くしてくれるが、それでも背の位置までは3mくらいある。
そのままでは乗れないので土魔法を使う。
「ステアケース!」
するすると地面から階段がエクレールの背中に向かって伸びていく。
もちろん手すり付きだ。
階段の最上段がエクレールの背中と同じ高さになった。
少し離れた位置になってしまったけど、エクレールが気を利かせて階段に体を寄せてくれた。
「ありがとう、エクレール。シルヴィア、一緒に階段を登るよ」
「わかった」
シルヴィアと手を繋いで階段を登る。
エクレールの背中の幅は3m弱といったところ。結構広く感じるが平らではないし、掴まる所が何も無い、というのがやや不安なんだが。
体表は大きくて白銀色の鱗で覆われていて、フローリングの床みたいに固い。
前方には長い首と巨大な2本の角が見える。
背中の真ん中付近の、翼の付け根の前辺りに座る事にした。
横に並んで座るのはちょっと怖い気がしたので縦に。
一番前にアルジェンティーナが座って次がシルヴィア。俺とクレア、ビアンカ、シュバルツの順で最後がノワールだ。
「エクレール、準備できたよ。お願いします!」
ふわっ。
音も無くゆっくりと上昇が始まる。
エレベーターのように滑らかで全く揺れない。
「おおっ!」
浮いている! いや、飛んでいる! 凄い!
「わあっ! 飛びました! 飛びましたよ! セシリアさん!!」
「あぁ、凄いね!」
「凄い! 凄いです!」
何か凄い凄いばかり言ってるけど、だってそういう言葉しか出てこないよ、これ!
どんどん上昇して地上から離れていく。
すぐに湖の上に出るが夜でも星の光で十分に見通しが利く。
「……眺めはよくはないかな」
「何も見えませんね」
夜の湖の上だから湖面は真っ黒だし、周囲は全て湖だから要するに何も見えない。
昼ならきっと素晴らしい眺めを堪能できただろうけど、仕方ないね。
「風も感じないのだけど」
飛行速度が分からないのだが、風圧を全く感じないというのはおかしいのではないだろうか。
風切り音すらしない。
「それはたぶん、エクレールさんが魔法で風を遮っているんだと思います」
「そうなの?」
「はい、魔力の流れを感じます」
「そうなのか」
何て細やかな気の使いよう! エクレールの優しさに感激するね!
シルヴィアは最初は周囲を見ようとしていたけれど、何も見えないと分かると前のアルジェンティーナをわしわしし始めた。
「眺めはともかく、ドラゴンの背に乗って空を飛ぶなんて凄い事です! そんな事ができたのは伝説の勇者だけの筈ですから、話してもきっと誰も信じないですよ!」
嬉しそうなビアンカ。
俺もドラゴンに乗って空を飛ぶという体験は嬉しくはあるのだが、
「話すのはダメだよ?」
「はいっ! 大丈夫です! 誰も信じないですよ!」
超嬉しそうなビアンカ。はしゃいでいるなぁ。
体感では15分程度だろうか、あっという間に湖を渡り切ってしまった。
どれだけ速度を出していたんだ?
15分が正しいのなら、計算では時速400km/hぐらいになるのだが。
離陸時と同様に滑らかに高度を下げて優雅に着陸するエクレール。実に快適な空の旅だった。
対岸の船着場にも誰もいない。
全員が降りた後、幼女形態になったエクレールに鞘を装着して、服を着てもらってから皆で労う。
「ありがとう、エクレール。凄く助かったよ。いろいろと気配りをしてくれて嬉しかったよ」
パチパチ。
瞬き2回で返事をしてくれる。
そっとエクレールの頭を撫でる。鞘があるから手を伸ばしても問題無いぜ。
「えーちゃんありがとう」
シルヴィアも頭を撫でようとする。
シルヴィアの手が届くようにそっと姿勢を低くするエクレール。
パチパチ。
エクレールも満足げ。
「私、感激しました! この気持ちは一生忘れません! ありがとうございます、エクレールさん!」
ビアンカも頭を撫でる。
パチパチ。
シュバルツとノワールもエクレールの頭を撫でている。
パチパチ。
感謝の気持ちは大事だね。
明日こそはヒュドラ討伐だ!
早めに見つかるといいなー。




