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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
幕間①『月曜日の彼ら彼女ら』編

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#37『とある選手の一日休暇《トラベルデー》』





ブレイブハーツ対シャインズの三連戦から、一夜が明けて。


4月初旬、朝の心地よい風が吹き抜け、鮮やかな桜並木で彩られた隅田川のテラスにて、1人の男が駆けていた。



(……やっぱ、早朝のランニングは気持ちいいなァ!)




──そう、人見蒼矢である。


彼は今日も今日とで、自身の日課である朝のジョギングをこなしていたのであった。


今日は、月曜日。

多くの学生や社会人にとっては憂鬱な1週間の始まりだが、プロ野球選手にとっては週一回訪れる貴重なオフの日である。


だというのにも関わらず、軽めとはいえ朝から体を動かす。

しかし、この習慣こそが怪我のない頑丈な体を作るための秘訣なのである(……と人見は信じているのだった)。


……ただ、実際のところ。

子供の頃からこういった努力を継続しているからこそ、かつての甲子園での力投にも耐え、プロでの長いシーズンにおいてもバテることのない類まれなる彼のスタミナを育てた……という意味では、間違っていないのかもしれないが。





ふと周囲を見ると、同じくジョギングに興じる若者や、ラジオ体操をしているご老人、幸せそうに散歩をしている子連れなど、多様な人々が散見された。


──ただ。



(……ほんと、声をかけられることもなくなったよなぁ)



そんな彼らの姿を横目に、人見はふとそんなことを思う。


以前、彼がここで暮らしていた頃。

すなわち、プロ入り前。懐かしき高校時代。


都立高校ながら甲子園優勝を果たし、一躍、世間の注目の的となった当時は、こうして気軽に出かけようものなら、すぐに「人見くんだよね!」……などと話しかけられたものであった。


しかし、それから10年の時を経てこの地に戻ってきてみれば、かつてのように外に出るたび声をかけられる……なんてことは、ほとんどなくなっていたのだった。



(ま、このご時世、そもそも外で他人に声をかけるなんて普通じゃないし。そもそも、その方が気が楽だからいいんだけどさ……! ……いや、強がりとかじゃなくて、本当にね!!)




……と、誰にする訳でもない言い訳(?)をしているうちに、彼はランニングを終えて自宅に辿り着く。


今シーズンから下町ブレイブハーツに移籍した人見。

そんな彼が現在住んでいるのは、チームの本拠地である下町スタジアムに隣接するタワーマンション、『ブリリアントレジデンス錦糸町』である。


言わずもな、かなり値の張る物件なのだが、()()の家族が住んでいるところ、ということもあって購入。

これまでのプロ生活で着実に貯め、そして資産運用していたお金の使いどころなのであった⭐︎





……ということで、流した汗をタオルで軽く拭いてから、人見がそのマンションの入り口へと入っていくと。



「──あっ、()()()!!!!」


「その声は────っと!」



そこにいたのは、エントランスにいた1人の少女。

彼女は人見の姿を見るや否や、胸元に飛び込んできて。




「──蒼矢様、お久しぶりです♡ お元気でしたか?♡」


「はは、もちろん元気だよ。真彩ちゃんも元気だった?」


「はい!! 新天地で活躍される蒼矢様のかっこいいお姿に、日々励まされておりました♡」



と、そのまま2人は微笑ましく語り合う。


そう、彼女は諸星真彩。

このタワーマンションの最上階に住む諸星一家の末っ子であり、すでに菜月との関係も深かった人見にとっては、彼女が生まれたことから知っている関係。

故に、歳の離れた妹のように可愛がっているのであった。




──ただ、そのせいもあってか。


(あぁ、蒼矢様……ランニングで汗を流されたお姿も非常に魅力的です。叶うのなら、あのタオルになりたいはぁはぁ)



彼女は幼い頃から人見のファンとして育ち、その長い年月の中で色々と拗らせてしまい、今ではこのような立派な(?)彼のやべー厄介オタクとなってしまったのだが。






(……ふふ、それはそうと。今はちょうどお姉ちゃんもいないし、蒼矢様と触れ合える絶好の機会。()()()()()()()()()()()()()()()()()、やはりこのチャンスを逃すわけには……)


「──それにしても、真彩ちゃんはどうしてここに? 見た感じ、どこに行く訳でもなく、エントランスで誰かを待ってたみたいな様子だったけど……」


「……あ、えっと……それはですね!!」


微かな声で呟きながら少し悪い顔をしていた彼女は、誤魔化すように大きな声と身振りで。




「実は、姉から伝言を承っていまして。曰く、『いま部屋で燻煙殺虫剤を焚いてるから入れないよ』とのことです」


「……え、は? 殺虫剤???」


そんな、彼女から告げられた思わぬ言葉に対して、人見は間の抜けた声でそう聞き返してしまう。

そして、自身のスマホに目を向けてみると、確かに彼女の言う通り、菜月からそのようなメッセージが届いているのだった。



「いやいや、入居してそんな時間も経ってないし、部屋だっていつも綺麗にしてるし、そもそも今までゴキブリなんて一度も見たこととないのに? 菜月のやつ、一体何を考えてるんだ……?」


「……ま、まぁそういうことらしいので!! 代わりといってはなんですが、その間は私たち諸星家の方で休んでてとのことだそうです!! これが合鍵です、どうぞ!!」


そう彼女は矢継ぎ早に捲し立てて、その勢いのままに、両手で鍵を差し出してくる。




「……か、鍵? 俺に? 真彩ちゃんは家に戻らないの?」


「はい。私はこれからやらなきゃいけないことがあるので……。(心の底からほんっとうに残念でならないんですが……。)──そ、それではっ!!」



そうして、彼女は外へと駆け出していった。

人見は、その一連の出来事に置いてけぼり状態で。




「……え。避けられてる……訳では、ないんだよな……?」




──と、困惑を隠せないのであった。











 【人物紹介③ 諸星真彩】


 諸星家の次女であり、4兄弟の末っ子の16歳。

 運動神経抜群の血筋である諸星家の生まれであるにも関わらず、スポーツ全般はあまり得意ではない。しかし、その分(?)成績は優秀で、都内有数の進学校に通う高校2年生。

 幼い頃から、よく家に遊びにきていたお兄さんである人見蒼矢に遊んでもらっていた結果、彼の熱狂的なファンに成長。ネット上では、SNSで彼を批判する者に、様々なデータを駆使して論破を仕掛けにいく厄介オタクと化していたり。

 そんな愛しの人見のお相手である姉の菜月とは、(自称)恋のライバル。彼女が正式に人見と結ばれた現在でも、「そんなの関係ない」と思っているとか?


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