#24『7戦目① 〜相性の良し悪し〜』
──そして。
続けて本拠地下町スタジアムで迎える横浜シャインズ三連戦。
ペナントレース開幕からの3カード目となることから、先発ローテーションは二巡目を迎えることとなった。
そんな注目の開幕7戦目。ブレイブハーツの先発は廣中悠佑。
前回登板で球団新記録の16奪三振、無四球1安打完封勝利を挙げたチームのエースが、中5日でのマウンドに立っていた。
──しかし。
「──くそッッ!!!!」
廣中がグラウンドから帰ってきて勢い良く座るなり、悔しそうに顔を歪めてベンチの縁を叩いた。
試合が始まって一回の表、シャインズの攻撃にて。1・2番からテンポ良く連続三振をとり2アウトとするも、3番一条にライト前ヒットを打たれ、続く4番村石には外角の直球を逆方向に運ばれ痛恨の被弾。初回から2失点を喫していたのだった。
「来ていた球は悪くなかったんだけどな……。すまん、カウントに余裕もあったし、あそこは変化球を要求するべきだった」
「……いや、ホームランにされたボールは指のかかりが悪かった。ただの失投だ。それと、そもそも俺も同意の上で投げてんだからキャッチャーが謝まる必要はねぇよ」
隣にそっと腰掛けた真壁が、廣中と言葉を交わす。
そして、それから沈黙が生まれ。
ベンチの空気も、微かに重たさを帯びているように思えた。
………………が。
「──まぁまぁそんな気にすることねーだろ!! 2点取られたんなら、2点取り返せばいいだけじゃねーか!!」
という、ベンチの雰囲気を切り裂くような言葉が響く。
──人見の声だ。
それは、打たれた廣中に対する言葉……というよりも、どこか浮き足立っていたベンチ全体への掛け声というべきか。
そんな彼のシャウトに、チームメイト全員が目を向けていた。
「蒼矢兄さん…………!」
先頭打者として打席に向かおうとしていた諸星一輝も、思わず振り返って、どこか嬉しそうな声を上げる。
「……ったく、お前って奴は……」
らしくない顔を見せていた廣中も、そんな彼の姿に、漏らした言葉とは裏腹な笑顔を見せる。
その他のチームメイト達も、人見を見てニヤリと笑う。
──先ほどまでのベンチの雰囲気とは、まるで変わっていた。
そして、そんなベンチの流れを受けて。
キャプテンの板谷が周りを見回しながら、声を上げた。
「……人見の言うとおりだ。2点と言わず、5点でも10点でも取ってやろうじゃないか!!!」
「「「──オウッッッ!!!」」」
「……ま、廣中が横浜シャインズに弱いってのはパンサーズ時代から周知の事実だからなぁ。前に2回途中7失点とかしてたし、むしろツーラン一本で済んだだけマシマシ」
「……笹原さん、ちょっと言い過ぎ言い過ぎ。あっちで廣中さんがすっごい顔してますから」
……と、2年前まで大阪パンサーズで廣中とチームメイトであったベテラン内野手。笹本裕司のそんな言葉で、ベンチには苦笑が広がったのであった。
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『──さぁ一回裏、初回から2点を追う下町ブレイブハーツの攻撃。マウンドには、横浜シャインズ先発の服部が立ちます』
そんな実況と共に、テレビ画面には豪快なフォームでボールを投じる投手の姿が映し出される。
──服部隼人。
高卒13年目のシャインズ生え抜き右腕で、昨季はリーグ3位の13勝。開幕戦では、四国サンシトラスとの『太陽対決』で完投勝利を挙げていた誰もが認めるチームのエースだ。
「うーん。今日もボールは走ってそうだ」
「まぁまぁ、一輝とそーくんなら大丈夫だって!」
テレビの画面越しに分析を行う俊介の背中を、菜月がのほほんとした笑顔を浮かべながらぽんぽんと叩く。
彼女ら菜月と俊介の諸星姉弟は、本日の試合は実家のテレビで観戦していたのであった。
『……しかし、両チームのエースが投げ合う試合ということもあり投手戦が予想されていただけに、初回から2点を失ったブレイブハーツは痛いですねぇ』
『そうですね。しかも、ブレイブハーツはシャインズの服部を苦手としていますから』
「……まぁ、もっと言えば、ブレイブハーツ自体が横浜シャインズそのものに弱いんだけどね」
そんな実況・解説の会話を聞いて、テレビの前で俊介が呟く。
昨季ブレイブハーツの対横浜シャインズ戦績は、6勝11敗の負け越しで借金は5。いや、それどころか、創設以来の9年間で、一度も勝ち越しをしていないのだ。
……まぁ、ここ数年はだんだん勝てるようになってきたとはいえ、未だ勝ち越しで終えたシーズンはないのだから、妥当と言えば妥当なのかもしれない。……ただ、近年黄金期を邁進しているスターズとの対戦成績よりも戦績がわるいのだから、やはり相性が悪いのだと言わざるを得ないだろう。
チームという組織レベルにおける対戦成績となると、『相性』など半ばオカルトのようなモノなのかもしれないが、結局プレーをするのは個人個人。そのような対戦成績の『事実』を認識すれば、気持ちの持ちようも変わってくるのだ。
──ただ。
そのような『相性』に関する情報には、ブレイブハーツ側にとってマイナスとなる要素以外もあって。
「──よしっ!!! 一輝、ナイスバッティング!!!」
菜月が、叫ぶ。先頭打者の諸星一輝が、カウント2─2から、低めのボールになろうかというスライダーを上手く拾い、センター前にヒットを放ったのだ。
「さすが兄貴。シャインズキラーなだけあるな」
モニターに映し出された、一塁上でレッグガードを外す一輝の姿を見ながら、俊介がうんうんと頷く。
前述のとおり。『ブレイブハーツ』という組織としては、横浜シャインズに散々な目に遭わされている。
しかし、その一方で。諸星一輝という個人については、プロ入り以来このシャインズ相手に打ちに打っているのだ。
昨季の諸星一輝の対横浜シャインズ対戦成績は、17試合で72打席、65打数25安打の3割8分5厘。
通算成績においても、全チームを含めた通算成績と比べるとかなり上振れた数値を残している。
(……まぁ今の打席は、兄貴の成長あってのものだと思うけど)
追い込まれてからのいいところに決まったフォークに手を出さない。際どいアウトコースをカットで躱す。低めのスライダーに身体を開かせることなく、逆らわずセンター返し。
今季の諸星一輝という男は、これまでのバッティングでは見られなかった姿をこれまで存分に見せてくれている。
無論。バッティングにおいて変わろうとすることにはリスクもあるが……。少なくとも今のところは、彼のその変化は打撃レベルのさらなる向上という結果を生み出していた。
そんなこと感じた俊介は、再びテレビ画面を見て。
(……そして、蒼矢さんについては────)
──パカンッッ!!!
初球から、そんな乾いた気持ちのいい音が響いた。
投じられた153キロのストレート。
ノビがあって球速以上に速さを感じられるそのボールは、そんな美しい音と共にいい角度で弾き返されて。
『──は、入ったぁぁぁぁ!!!!!! 打球はなんとライトスタンド中段へ!! 人見、服部の初球を捉えて今季初となる同点のツーランホームランッッッ!!!!!』
実況が叫ぶ。そして、人見の右腕が掲げられた。
まさに、『完璧』と言うべきホームラン。
ブレイブハーツファンの埋め尽くすライトスタンドでは、ホームランボールをキャッチした人を中心に大盛り上がりだ。
──そして、そんな光景を見ながら。
俊介は、試合開始前に調べたデータを思い返す。
人見蒼矢vs服部隼人の通算成績(昨年まで)。
47打数19安打の4割4厘。3本塁打12打点。
…………そう。
まさに2人は、『相性』最高の組み合わせなのだった──。
【服部颯 選手名鑑】
《12年目》
誰もが認める横浜シャインズのエース。
高卒2年目から1軍で大きな怪我なく投げ続けている鉄腕で、12年目となる昨季はリーグ3位となる13勝を挙げた。しかし、それでもここ数年の成績と比べると相対的に低調で、3年ぶりの無冠に終わった。来季はタイトル奪回を目指す。
[投手成績]
25登板 164回 13勝7敗 2.69 5完投 1完封
152奪三振 与四球45 与死球7 被安打150 自責49
K/9 8.34 BB/9 2.47 K/BB 3.38 被打率.234 WHIP1.19




