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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『2カード目 vs新潟アルバトロス』編

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26/49

#23『5戦目④ 〜増やした選択肢《新球種》〜』

 




「──ストライク!! バッターアウト!!」



 そう高らかに宣告する主審と、悔しがる打者。

 そして、それらの光景を演出した張本人であるシエラは、小さくガッツポーズをして揚々とマウンドを降りる。



 新潟アルバトロスとの三連戦の2試合目。


 初回のマウンドに立ったシエラは、まさに絶好調といった様相で、アルバトロスの上位3人を三者連続三振にする最高の立ち上がりを見せたのだった。




「──ふぅ、良いピッチングしてくれるのは嬉しいんだけど、良すぎて手が痺れたんだが……」


 そんな彼のピッチングを受けていた人見は、そんな独り言を呟き、左手をぶらぶらさせて苦笑した。

 この後、すぐに打席に立たねばならないのだ……と考えると、やはりキャッチャーの守備負担というのは大きいのだなぁ、と人見は改めて実感する。




(──にしても。ホント、まさか()()()()()スプリットがここまで武器になるとはな)


 ベンチに戻った人見は、防具を外しながら思い返す。



 そう、先ほどの三者連続三振のうち2者において、その決め球となったのは彼の新球種『スプリット』だったのだ。

 シエラのスプリットは、ストレート系のボールとさほど変わらないスピードで手元でキレよく落ちる。それは、付け焼き刃の変化球とは到底思えないレベルの仕上がりで、人見からしても見分けがつけにくいと感じさせる程だ。



 ──あの日の諸星監督による決断で、人見がキャッチャーの練習も行うこととなった春季キャンプ。


 シエラのボールを一通り受けた人見がまず感じたのは、シエラという投手の『選択肢』の少なさであった。

 彼の投球割合のほぼ全てを占めるのは、フォーシーム・ツーシム・そしてナックルカーブの3球種のみ。

 一応、スライダーもあるにあるのだが、はっきり言ってしまえば微妙。実戦で武器とするには心許なかった。



 シエラ本人も、実戦で使える『変化球(ブレーキングボール)』が事実上()()しかないことに悩んでいたらしく。

 そんな彼を見て、人見がキャンプの投球練習中に試しに教えてみたのが、スプリット・フィンガー・ファストボール。通称SFF(スプリット)であった。



 人見も、これが彼の『選択肢』の1つになってくれればなぁ……程度に思って教えたのだが、それがまさかの大当たり。


 シエラは、投げ方を教えたその日にそれをマスターし、春季キャンプにおける実戦投球ではそのスプリットを武器に、チームメイトから三振の山を築いたのだった。



 スプリット単体で見た場合は、決して最高クラスのボールといえるほどではないものの、その伸びのあるストレートや大きく曲がるカーブとの組み合わせが絶妙にハマっており、的を絞らせない投球が可能となったのだ。このことは、彼の持っていた元々の球種の価値も高めていた。


 まさに、『選択肢』を増やしたことが、彼のピッチング全体すらも変えてしまったのである。






「──あのスプリット、やっぱすごいな。後ろから見てても、キレの良さが伝わってくる」


 ……と、防具をようやく外し終わった人見へ、そんな言葉が後ろから投げかけられた。 


 彼が振り返ると、そこにいたのは村越駿二郎。

 今日も9番センターでスタメン出場の生え抜き中堅選手で、チームを盛り上げるムードメーカーの1人だ。



「……そういや、あれは人見が教えたって聞いたんだけど、キミってスプリットなんか投げられたのか?」


「──コイツの場合、むしろ()()()()()()変化球ってのがないくらいなんですよ。……まぁその代わり、レベルについては良くて()()()()って感じなんですが」



 村越の純粋な疑問に対し答えようとした人見に割り込んで、真壁がそんなことをニヤけ顔で言う。


 ……まぁ、彼の言うことについては、客観的な視点から見て真実と言わざるを得ないのだったが。





『──ヒトミ! ナイスリードだったぜ!!』


 と、そこで今度はシエラが人見に声をかけてきた。


 今季はオープン戦から好投が続いているだけあって、試合中もこんな感じでとてもハイテンションであった。



『いや、リードもなにも今日のボールは最高だからな。何を投げさせても結果は変わらなかったよ』


『はは、それがいわゆる日本の世辞ってヤツか。……まぁそういうんなら、日本の野球アニメみたく、そのバットでバッテリーの頑張りに応えてくれよ、兄弟』


『……あ、野球作品も知ってんのな! まぁ、確かにそういう作品じゃあ打てるキャッチャーが多いけど』



 なんて軽口を言い合いながら、人見はそのままネクストバッターズサークルへと歩いて行く。









 ──そして。


 このイニング以降も、シエラのピッチングは冴え渡った。

 5回に抜けたナックルカーブを捉えられてツーランホームランこそ許したが、その場面以外ではゲームの流れを完全に支配し、二塁を1度しか踏ませないピッチングで7回11奪三振。


 打線についても、アルバトロスの先発マイヤーズを相手に、初回に諸星・人見が連続で出塁すると、クリーンナップの連続タイムリーヒットなどで初回から3点を先取。


 7─3で、ブレイブハーツの2連勝となったのだった。





 ……ただし。


 同一カード三連勝を狙った翌日のゲームでは、昨季も神山と並んで10勝を挙げた頼れるベテラン徳元がまさかの誤算。3回途中6失点の炎上で、チームも惨敗を喫したのであった。









 ──こうして、新潟アルバトロスとの三連戦。


 今季ペナントレースの2カード目が終了し、開幕からの6戦で下町ブレイブハーツは4勝2敗。



 まだシーズンは始まりの始まりとはいえ、現在同率である東京山手スターズとの直接対決の結果から、ブレイブハーツは単独2位という地位を得ていたのであった。











【ジャパンリーグ順位表(6戦目終了時点)】


順位  チーム名     勝数 敗数 勝率 ゲーム差

1 横浜シャインズ    5勝 1敗 .833 ──

2 下町ブレイブハーツ  4勝 2敗 .667 1.0

3 東京山手スターズ   4勝 2敗 .667 1.0

4 大阪パンサーズ    3勝 3敗 .500 2.0

5 四国サンシトラス   3勝 3敗 .500 2.0

6 広島シャークス    2勝 4敗 .333 3.0

7 新潟アルバトロス   2勝 4敗 .333 3.0

8 名古屋リザーズ    1勝 5敗 .167 4.0


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