#23『5戦目④ 〜増やした選択肢《新球種》〜』
「──ストライク!! バッターアウト!!」
そう高らかに宣告する主審と、悔しがる打者。
そして、それらの光景を演出した張本人であるシエラは、小さくガッツポーズをして揚々とマウンドを降りる。
新潟アルバトロスとの三連戦の2試合目。
初回のマウンドに立ったシエラは、まさに絶好調といった様相で、アルバトロスの上位3人を三者連続三振にする最高の立ち上がりを見せたのだった。
「──ふぅ、良いピッチングしてくれるのは嬉しいんだけど、良すぎて手が痺れたんだが……」
そんな彼のピッチングを受けていた人見は、そんな独り言を呟き、左手をぶらぶらさせて苦笑した。
この後、すぐに打席に立たねばならないのだ……と考えると、やはりキャッチャーの守備負担というのは大きいのだなぁ、と人見は改めて実感する。
(──にしても。ホント、まさか俺が教えたスプリットがここまで武器になるとはな)
ベンチに戻った人見は、防具を外しながら思い返す。
そう、先ほどの三者連続三振のうち2者において、その決め球となったのは彼の新球種『スプリット』だったのだ。
シエラのスプリットは、ストレート系のボールとさほど変わらないスピードで手元でキレよく落ちる。それは、付け焼き刃の変化球とは到底思えないレベルの仕上がりで、人見からしても見分けがつけにくいと感じさせる程だ。
──あの日の諸星監督による決断で、人見がキャッチャーの練習も行うこととなった春季キャンプ。
シエラのボールを一通り受けた人見がまず感じたのは、シエラという投手の『選択肢』の少なさであった。
彼の投球割合のほぼ全てを占めるのは、フォーシーム・ツーシム・そしてナックルカーブの3球種のみ。
一応、スライダーもあるにあるのだが、はっきり言ってしまえば微妙。実戦で武器とするには心許なかった。
シエラ本人も、実戦で使える『変化球』が事実上1つしかないことに悩んでいたらしく。
そんな彼を見て、人見がキャンプの投球練習中に試しに教えてみたのが、スプリット・フィンガー・ファストボール。通称SFFであった。
人見も、これが彼の『選択肢』の1つになってくれればなぁ……程度に思って教えたのだが、それがまさかの大当たり。
シエラは、投げ方を教えたその日にそれをマスターし、春季キャンプにおける実戦投球ではそのスプリットを武器に、チームメイトから三振の山を築いたのだった。
スプリット単体で見た場合は、決して最高クラスのボールといえるほどではないものの、その伸びのあるストレートや大きく曲がるカーブとの組み合わせが絶妙にハマっており、的を絞らせない投球が可能となったのだ。このことは、彼の持っていた元々の球種の価値も高めていた。
まさに、『選択肢』を増やしたことが、彼のピッチング全体すらも変えてしまったのである。
「──あのスプリット、やっぱすごいな。後ろから見てても、キレの良さが伝わってくる」
……と、防具をようやく外し終わった人見へ、そんな言葉が後ろから投げかけられた。
彼が振り返ると、そこにいたのは村越駿二郎。
今日も9番センターでスタメン出場の生え抜き中堅選手で、チームを盛り上げるムードメーカーの1人だ。
「……そういや、あれは人見が教えたって聞いたんだけど、キミってスプリットなんか投げられたのか?」
「──コイツの場合、むしろ投げられない変化球ってのがないくらいなんですよ。……まぁその代わり、レベルについては良くてそれなりって感じなんですが」
村越の純粋な疑問に対し答えようとした人見に割り込んで、真壁がそんなことをニヤけ顔で言う。
……まぁ、彼の言うことについては、客観的な視点から見て真実と言わざるを得ないのだったが。
『──ヒトミ! ナイスリードだったぜ!!』
と、そこで今度はシエラが人見に声をかけてきた。
今季はオープン戦から好投が続いているだけあって、試合中もこんな感じでとてもハイテンションであった。
『いや、リードもなにも今日のボールは最高だからな。何を投げさせても結果は変わらなかったよ』
『はは、それがいわゆる日本の世辞ってヤツか。……まぁそういうんなら、日本の野球アニメみたく、そのバットでバッテリーの頑張りに応えてくれよ、兄弟』
『……あ、野球作品も知ってんのな! まぁ、確かにそういう作品じゃあ打てるキャッチャーが多いけど』
なんて軽口を言い合いながら、人見はそのままネクストバッターズサークルへと歩いて行く。
──そして。
このイニング以降も、シエラのピッチングは冴え渡った。
5回に抜けたナックルカーブを捉えられてツーランホームランこそ許したが、その場面以外ではゲームの流れを完全に支配し、二塁を1度しか踏ませないピッチングで7回11奪三振。
打線についても、アルバトロスの先発マイヤーズを相手に、初回に諸星・人見が連続で出塁すると、クリーンナップの連続タイムリーヒットなどで初回から3点を先取。
7─3で、ブレイブハーツの2連勝となったのだった。
……ただし。
同一カード三連勝を狙った翌日のゲームでは、昨季も神山と並んで10勝を挙げた頼れるベテラン徳元がまさかの誤算。3回途中6失点の炎上で、チームも惨敗を喫したのであった。
──こうして、新潟アルバトロスとの三連戦。
今季ペナントレースの2カード目が終了し、開幕からの6戦で下町ブレイブハーツは4勝2敗。
まだシーズンは始まりの始まりとはいえ、現在同率である東京山手スターズとの直接対決の結果から、ブレイブハーツは単独2位という地位を得ていたのであった。
【ジャパンリーグ順位表(6戦目終了時点)】
順位 チーム名 勝数 敗数 勝率 ゲーム差
1 横浜シャインズ 5勝 1敗 .833 ──
2 下町ブレイブハーツ 4勝 2敗 .667 1.0
3 東京山手スターズ 4勝 2敗 .667 1.0
4 大阪パンサーズ 3勝 3敗 .500 2.0
5 四国サンシトラス 3勝 3敗 .500 2.0
6 広島シャークス 2勝 4敗 .333 3.0
7 新潟アルバトロス 2勝 4敗 .333 3.0
8 名古屋リザーズ 1勝 5敗 .167 4.0




