第40話 ブレイクスルー
蘭香の能力が上がる、何も不思議なことでは無い。
達也が最初に評したように蘭香は自分よりも他人のことを気にしすぎる子だった。
仲間が無事か相手がどう動くか常に気を配っていた。故にアタッカー時代は注意散漫で攻めの力が弱く、人数が減ってからでしか活躍できない。その欠点を補うようにディフェンダーならば先読みして仲間が倒されないように立ちまわる。
──では今の蘭香が仲間も相手も少ない状況に陥ったら?
鈴花と向日葵はダウンし気にする意味が無い状況。菫は隠れて移動中、視線を向けるだけでも悟られかねない相手、考えてはならない。
セイラをサポートできる位置にあらず、同様に黄蓮に干渉することはできない。
散漫としていた集中力が目の前の相手に注がれることになる。
考えるべきことは、考えられることは目の前の梅ただ一人。
(紫さんとならどう戦うか……コーチのおかげで考えることができた。穴が開きそうなぐらい紫さんの全試合を見たおかげで梅さんの動きにも対応できる!)
加えて、その梅は憧れの人と同じ戦闘スタイル。
予習してきた対高速近接アタッカー戦術。
それもただ上手くいく妄想を重ねるだけではない、これは向いてないの一蹴された元々の自分の戦闘スタイル。対応策が簡単に上手くいくということはアタッカーとしての自分を否定することに繋がる。
頭の中で「そんな訳無い! こういう動きをする!」とアタッカーの自分が対策の対策をすれば「……じゃあこう防御するか」とディフェンダーの自分が対策の対策の対策を考える。
つまりは無限に続くようないたちごっこ。
後だしジャンケンのように攻め手を変える。再び守り方を変える。自ら千日手に陥るような行為。
これはある意味、自分の手で憧れの選手を倒すような行為。
無礼不躾で心は滾らなかった──ただ、嫌々ながらも続けていくことで見えてくるものも多かった。ディフェンダーとして受けられるということはアタッカーとして弱い攻撃他ならない。自分程度は倒せないと白華最高のアタッカーなど夢のまた夢なのだから。
その答え合わせのように梅の攻撃を捌いていく。
(ブレードで切り払うと同時にグリフォン連射──!)
(勢いを受け止めるよりも流されるように!)
(次は突き!)
(盾で流す!)
重ねてきた知識が身体に溶けて、戦術として表現される。
言い訳のように達也が零したブレイクスルーは今起きはじめていた。
冷静に丁寧に対応し、もはや不安を感じることは何もない。
二人の戦いは徐々にセンターラインを超えて桃園陣地へと踏み入れる。
時折巻き込まれる竹が無作為に倒れ目隠しになったりと互いの認識をズラし、隙を突く為の号砲となる。
(レンさんと大分離されてしまいましたわね……合流はもう不可能と割り切ってこの方の相手に集中した方が良さそうですわね。先程の一射からしてブレードよりも射撃が得手と考えるべき、スレイプニルを持たれる方がずっと圧が強いですもの……)
攻めあぐねているがこの強度は毎日のように体験済みと言わんばかりに落ち着いている梅。
ただ使用トイが違う。リボルバー種は当たり所によっては即ダウンの危険性。回避が常に頭に入った状態での攻めを余儀なくされる。下手糞かどうかは最初の一発で理解できる。威力にかまけて雑な連射も無ければ避けなければ当たる弾を放ってくる確かな実力者。
余裕は無い、最高速の反動も相まって攻めきれない。
それでも錬度の差、攻撃を重ねる度にシールドの強度は落ちていく。ついにはブレードの一閃がシールドを砕け散らせる。
(攻め時! いえ──)
(割れるのは分かってた、ここがチャンス!)
グリフォンを向けて連射で打ち抜こうとしたタイミング──だが、完璧にスレイプニルの銃口が向けられている。
引き金が引かれる瞬間、意識を切り替え自身の攻撃は諦め身体を捩りステップを組み合わせて無茶な体勢で避けることに成功する。
(あっぶな──ですわ!?)
(完璧だと思ったのに!? 普通避けられないって!? 落ち着こう──鍛えたらこういうことができるって受け入れないと。とにかくまだ未来が見れてない! ほんの少し先の未来に置くように撃たないと!)
実銃と比べればトイの弾速は半分以下、リボルバー種は約100m/s。彼女は弾が出てから避けているのではなく、撃つ瞬間を機敏に察知し既に避け終わっている状況を作っている。
だが、この5mに満たない距離、当たれば即ダウン。削られる集中力は半端ではない。
しかし今の蘭香ではただ圧を与えられているに過ぎない。当てるに必要な一歩が足りていない。
ただ、わかっている。その一歩を補うのは知恵、戦術であるとも。
続けて二発、三発と距離を取らせるように射撃を重ねながらシールドを再構築する余裕を作る。完成するは色濃く身体が見えない部分と半透明で視界が通る部分と分かれたシールドを。
それを見た達也は思わず口角が上がる。
(ここで使うんだな──蘭香!)
(色を分けたシールド? 強度を高めましたか? パリィ狙いで体勢を崩されそのまま打ち抜かれる可能性も考慮すべきですわね。けれど最初の一発に加えて2、3、4──残り二発)
リボルバー種の射撃音は独特、加えて全てが装弾数「6」と決まっている。上級者はそれを逃すはずが無い。リロード時間も6秒近く。
互いにそれをわかっている。リロードの隙を与えないようにしつつ残り二発を回避することを念頭に入れて攻める梅、当てられる状況を狙っている蘭香。
フェイントの先を狙い一発──外れ。
その隙を突かれたのに対処するためにさらに一発──外れ。
(これでスレイプニルは弾切れですわ! リロードタイムを無駄にできません、これが攻め時!)
「っ──!」
(仮にパリィされたところで! ここで出力を上げて盾ごと切り裂きますわ!)
全身を隠すように盾に隠れる蘭香。しかし盾の中に篭ったところで意味がない。下半分を濃く視認できなくしても上は半透明、見えている。
ここが勝利を決める攻め時と一気果敢に踏み込む。
ブレードに持ち替えて迎撃の可能性があっても先に仕留められる自信しか梅にはなかった。
勢い良く踏み込んだ瞬間──全身が黒く粘ついた感覚に包まれた。
(っ!? この嫌な感覚──レンさんに負ける時のような勝ちが遠ざかっていく予感──!? あっ──)
この瞬間、「ドォン」とお腹に響くような爆音が近い位置より広がる。正体はバハムートの砲撃──宙でUCIの煙を散らばらせる。
迷い、悪寒、驚愕──体の奥底が冷える感覚に集中が途切れ、抑えきれない疲労が牙を剥いた。踏み込んだ右足の支えが抜けガクンと膝から崩れて足をすべらせる。
「あのお馬鹿!? 肝心な時に足を──!?」
第三者から見れば攻めに失敗した姿。実況解説の役目を放棄するような薊の叫び。
同様に──
((なっ──!? 読まれた──!?))
達也と蘭香の思考も完全にタイミングが重なった。引き金を引いた瞬間、地に転んでしまった梅。
弾丸が射出され、シールドが砕かれ、破片が飛び散ると同時にる。
直感が救ったと言っても過言ではないだろう。
「カーテンショット──!? あの技も教えていたのね!?」
「事故で回避されたと取るべきか、ほんの少し待てば必中にできたと言うべきか。意識を切り替えてくれるといいんだが」
蘭香が教わったのは『カーテンショット』と呼ばれるトリックショット。やり方はシンプル。リボルバー種の小型でありながら貫通力のある弾を放てる特徴を活かし、自分のシールドごと相手を撃つ技術。この際自分が生成するシールドは威力を下げない為に薄く、仕込んでいることを悟られないために色濃く不透明に設定する。
追い込まれていることを印象付ければより成功率は上がる。知らなければ尚更──
しかし、失敗してしまう。
「取った!」と確信し切ったからこその戸惑い
梅はゴロリと回転しながら距離を取って立ち上がる。
(あ、危なかったですわ──! 偶然とはいえ生き延びましたわ。まさか、最初の一発の後すぐにリロードしていたなんて──)
(焦り過ぎた──! 当たるギリギリまで引き付けないといけなかったのに。切り替えなきゃ! ここでリロードやシールドの再形成をしたらエネルギーが足りない。弾二発ぐらいか半端なシールド──だったら!)
達也の不安を他所に蘭香は冷静に状況を把握していた。
少しでも軽くするためにシールドを外しブレードとスレイプニルを構える。
(さて、どうしたものでしょうか……グリフォンの残弾数は20程度、ブースターも10秒使えない、ブレードだけならまだ持つはずです。ですが──)
意識を両足に集中し、まだ問題無いと一先ず安堵する。
梅には懸念点が一つある。それは自分の足金剛紫を憧れ愚直に鍛えたことで手に入れた立派な足。しかし、爆弾のようなものも芽吹いてしまっていた。
普通に運動する分には問題無くともブースターを利用すると言った身体能力を超える動きを連続して強いられた場合違和感が出てくること。
(梅さんのUCI残量は殆ど残ってないはず、でも私もスレイプニルのフルリロードで60使ったらシールドをまともに使えなくなる。リロードせずに防御に専念するかそれとも──!)
ここで重要なのは順番。
シールドを形成した後にリロードをすれば──確実にシールドは形成できスレイプニルは5発は確実、残りは10以下。ブレードにUCIを纏わせて降れる回数は3、4程度。
リロード後にシールドを形成すれば──弾は6発、シールドは完璧に形成できずブレードはほぼ使用不可。
残りの選択肢として、シールドを捨ててスレイプニルとブレードのみで戦う。
自身の方針を決める為に、視線をセイラに向けた──
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