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第37話 一軍の力、レベルの差

 白華女学園──

 槿蘭香(むくげらんか)、ディフェンダー

 使用トイ:シールド、スレイプニル(リボルバー)、ブレード

 サブユニット:UCI自動回復


 セイラ・アキレーア、アタッカー

 使用トイ:サラマンダー(ショットガン)グリフォン(マシンガン)

 サブユニット:UCI消費軽減


 野茨鈴花(のいばらすずか)、バランサー

 使用トイ:シールド、ヒュドラ(マシンガン)

 サブユニット:UCI自動回復


 八重菫(やえすみれ):サポーター

 使用トイ:リブラ(探査ドローン)ペガサス(ハンドガン) 

 サブユニット:UCI自動回復


 南京向日葵(なんきょうひまわり):スナイパー

 使用トイ:ベルセルク(スナイパーライフル)

 サブユニット:UCI自動回復


 桃園女学園──

 高木梅(たかぎうめ)、アタッカー

 使用トイ:、グリフォン(マシンガン)、ブレード

 サブユニット:ブースター


 蒼天黄連(そうてんおうれん)、ディフェンダー

 使用トイ:シールド、バハムート(バズーカ)、ブレード

 サブユニット:UCI自動回復



「──来たよっ!」

「──お相手願いますわ」


 試合開始10秒──竹の隙間を縫って飛び出てきたのは梅。

 蘭香達がスタートラインより15m程しか進めていないのに。梅はセンターラインを悠々と越えて襲い掛かってきた。

 せっかちが過ぎると感じながらもここまでの速攻を白華全員体験したことがない。

 フィールドの縦幅50m、50m走最速は約5.5秒。障害物はいくつも存在し飛び越え避けて移動すればより時間はかかる。それを加味しても速い。


(録画で見た紫さんと同じ──ううん、それ以上の速さだ! ブースターの推進力で跳躍距離も伸びるしそもそも単純に走るスピードも速いってことだ!)

「この速さ──まさかブースターを利用した速攻!?」

「人数有利なチームはじっくりと構えて追い詰めたい心理が働くわ。その虚を突いて準備が整うまでに数を減らす」


 観客と同じ視点の達也は速さのカラクリに気付けた。サブユニット『ブースター』UCIが生み出す推進力、空を飛ぶことは叶わなくても走る速度を上げ、走り幅跳びの距離を伸ばすことは容易にできる。

 ただ、当然弱点もある──

 ブースターは燃費が悪い。サブユニットとして使う以上UCIエネルギー回復等のサブは使えなくなる。持久戦に持ち込まれたらUCI切れに陥りやすい。

 白華にとってはじっくり攻めれば負けるはずがない、その心理を突いた速攻。勢いの乗った梅のブレード。狙うは蘭香。

 しかし、蘭香の目に焦りは無く冷静だった──


「紫さん目指してるならそう来ると思ってた──!」

(まだ準備が終わって無いのに!?)


 ガラスが割れるようなブレード同士の激突音。

 速攻戦術は金剛紫の十八番──人数不利なんて関係ない無双の狩人。

 事前準備が勝利の鍵となるサポーターの菫にとって非常にキツイ状況。蘭香が受け止めている間に距離を取りドローンを操作。一機は前進、もう一機は向日葵の近くへ。


(速攻には驚いたけど──飛んで火に入る夏の虫っしょ!)


 陣形の形は不十分、それでも梅は鶴翼の中心にいるようなもの。逃げ場は存在しない──

 白華は陣形や対戦相手に拘りすぎるのは毒だと身を持って知っている。ここで撃ち抜けば勝利は確実、五対一な以上負ける理由がない。

 ただ、急すぎた。練習でも経験したことがない突如として訪れた千載一遇の好機に誰もが心臓を高鳴らせる。

 身体に染み付いた射撃体勢へのスムーズな移行。引き金を引く瞬間に「ボシュ」という嫌な記憶を思い出させる音が耳に届く。


(この音って──!)


 纏めて薙ぎ払われたあの記憶。視界に入る大型弾頭。見間違う事の無いバハムートの砲弾。

 範囲威力共に最高峰。警戒、回避へと移行せざるを得なかった。

 障害物の隙間を綺麗に通り抜けて陣形手前のど真ん中に着弾──

 誰も直撃はしなかったが着弾と同時に広まるUCIの煙により視界が遮られ、蘭香と菫以外は梅が見えなくなる。さらに、爆破で倒れた竹が無作為にに襲いかかり白華の全員を回避を余儀なくされた。


「速攻は失敗ですわ。先にスナイパーの方を落そうと思っていたのですが見られてましたわ」

「完全に読まれてましたね。流石と褒めたいところです! ですがこれで上手く行くとは思ってませんでした!」


 梅は翻りこれ以上の剣戟を重ねることなく距離を取る。 


(完璧なタイミングでバズーカの援護射撃ね……あれが無かったらセイラか鈴花の射撃で大ダメージは期待できたのに)

(撃つ余裕がありマセンデシタ──)

(人数有利のはずなのに追い込まれてる流れになってるよ……!)


 想定していた戦況から大きくズレ、追い込まれている形となっている白華陣営。

 センターライン、縦A~ZのKまで踏み込まれ、そのど真ん中で目立つように威風堂々と立っている黄連。その周囲の竹は彼女の一閃により切り落とされ、パキバキと音を立てながら倒れ消滅する。


(遮蔽物が少ない、射線も通ってるのに……今撃っても当たる気がしません──! まるでコーチさん並の圧……!)


 向日葵にとって初めての経験だった。的よりも人を狙うのが難しいのは知っていたが自分が外す意識を持たない限り狙えば当たる。それがスナイパーライフルの強さ。

 何より最速最高火力のベルセルク、秒速約120m。

 身体の中心を捉えて引き金を引けば回避は不可能。見られていたからって関係ない。スコープの入らない距離。

 当てられる要素は沢山あるはずなのに、当たるイメージが湧いてこない。逆に緊張が震えを呼び外れるイメージを植えつける。

 安全な位置からの遠距離射撃が売り、でも相手の位置からして迂闊には撃てない。リロード時間は10秒。その時間は援護射撃が撃てないだけじゃない、相手にとって不意の一撃が飛んで来ない状況。約25m障害物は少なめ距離を詰めるのに十分すぎる。

 自分達も行った戦術だからこそ引き金を簡単には引けない。何時でも撃てる状態だからこそ相手に圧を与えられる。


「セーラー、弾が安いのはウチら、とにかく攻めてヒマチーが撃ち易い状況作ろう! 気持ちで負けらんないっしょ!」

「デスデス! 待ちは性に合わないデース!」


 最初の関門、誰が誰を相手するかは成功している。

 黄連の使用トイはバハムート、今はリロードタイム中でベルセルク並みの長時間が必要。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。そのバハムートも竹のように真っ直ぐ地面に立たせている始末。遠距離攻撃をしない意思が伝わってくる。

 警戒すべきは代わりに握られたブレードの近接攻撃、中~遠距離攻撃なら反撃の心配は無い。

 頭は冷静、セイラは黄蓮の左真横へ進みながらグリフォンの連射、鈴花は45度の位置よりヒュドラの連射。二人の弾丸は竹の合間を縫い嵐のように迫る。


(良い攻めですね! やられたら困る動きをしっかりしています! 先の試合でも思いましたがとてもコーチ評の「素人に毛が生えた集団」ではありませんね)


 黄連は余裕を持ってこの攻めを分析、右手に備えたシールドを使い緩急組みあせたステップを踏みながら捌いていく。半径1mにも満たない範囲で収まる防御行動。踊り挑発するようにさえ見えてしまう。

 ここで注意すべきは梅の圧倒的な速さ。

 現在は蘭香と梅が間合いを取り向き合っている状況。構えを少し変えるだけで同じように変える互いにジャンケンでもしているかのようだった。

 しかし、傍から見れば遊びのように感じられても。当人達は真剣そのもの、梅にとってはスナイパー(向日葵)がいる限り強気の攻めはできない。蘭香にとっては勝利への道。

 抑えていなければ外側から回り込んでくる未来もある。

 視野の広い蘭香が向き合っているから向日葵は安心できている。

 もはやこれは賭けの動きに近い、仲間が抑えてくれるという一方的な信頼。


「セーラー、上!」

「OK!」


 セイラは上半身を狙う射撃に対し、黄連はシールドを上げる。その空いた足下を狙う鈴花の連射。

 黄蓮が後方に大きくジャンプするように避け、地面に足が付いた瞬間──


(捉えた──!!)


 長い会話も指示もいらない。意図を互いに理解した。

 最初のチャンス、無駄にはできない。向日葵の射線は黄連の中心を狙い定め、引き金を引き弾が放たれる──

 回避は不能な体勢、右手のシールドでは防げない。

 ダウンを確信した直後、ガラスがねじ切れたような異音が響き渡る──


「この音──!? まさかやりやがった!?」

「嘘でしょ!?」

  

 聞いた者は鳥肌が立ちそうな音に驚いたが多くはその異音の正体は知らない。知るべきものは稀──それを知る管理室にいる経験者の二人でさえ驚きを隠せなかった。


「ダウンしてない!?」


 黄連は健在。そして左手に握り締めたブレードを振り下ろした姿。弾が別の場所に当たった形跡はない。

 三つの事柄が示すこと、「弾丸は黄連を捉えていた」+「弾はスーツに当たっていない」+「ブレードは振り下ろされた」=直径10mmのベルセルクの弾丸をブレードで叩き切ったという事実しか導けない。

 フィールドにいた全員は脳が理解を拒みそうになっていた。「おお!」と声を上げる観客席と神の御業に等しき奥義に言葉を失う解説の二名。

 なにせやろうと思ってやれる技術ではない。教えたところでできるものではない。だからこそやってのけた黄連に薊は心底驚いた。

 選手にとってはたまったものではない「奇跡」「二度は無い」誰の頭に強がりながらも心を保つために思い浮かぶ。だが百回に一度の成功でも「実力?」「通用しない?」この懸念がもたらす精神的動揺は計り知れない。

 何より訪れる、無援の10秒。


「踏み込みますよ!」

「ええ、よくってよ!」


 王連と梅、両名は深く息を吸い。


「「最高速(トップギア)──」」


本作を読んでいただきありがとうございます!

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