第36話 VS桃園女学園一軍
両チーム控室へ移動。
バトルへ向けて作戦会議と集中力を高めることに注力する。
片や失わぬため、片や誇りを守るため、負けられない理由は両チーム心中にあり。
「レンさん、バトルをするのは構わないのですが正直二対五で勝つのは不可能に近いのではなくって? 全員がブレードだけならいざ知らず射撃トイばかりですよ?」
「確かに厳しい戦いになるとは思います。しかし、これは成長のチャンスでもあります! 私達のチームの編成状いきなり二人が同時にやられる事態もあります。そうなると残りは私達とサポーター。前に出て戦えるのは私達だけです!」
「なるほどですわ! 未だ難航不落の絶対防御を破る相手には出会ったことありませんがもしも破られてしまったらパニックになる。その予行演習もかねているわけですわね!」
「その通りです! ヒーローとは逆境を乗り越えてこそ! これに勝てれば本物だと証明できますよ!」
拳を握り閉めて目に炎を宿し宣言する。
黄連が正義の味方と言ったのは何も冗談ではない、本気でテレビに映る正義のヒーローに憧れて日々鍛錬している。ただ将来の夢はスーツアクター、ヒーローの中の人である
昨今の特撮界隈ではCGだけではくUCIによる表現技法が主流、空想にしか存在しないような物質を安価で大量に現実に作ることが可能。ワープリこそUCIをふんだんに使い身体を動かす競技であることから黄連は中学より始めた。
「作戦としてはどうしましょうか?」
「恐らくですが連携を行おうにも相手が阻止してくるでしょう。離されて戦う状況を強いてくるはずです。ベルセルク持ちの方がフリーになる以上、互いに気を使う余裕なんて無いはずです」
「なるほどですわね。となると好き勝手に動いて良いと?」
「とはいえ、圧の量が普段より減るので相当厳しくなります。私が連射系が得意なら良かったのですが」
「一撃必殺系好きですものね。それに今回はリヴァイアサンではなくバハムート。バズーカ系の軽量から重量への変更、少し不安です」
「興味はありましたから問題無しです! UCIの消費は30、リロードタイムは12、射程は約25、戦況を変える一撃となるでしょう!」
それは敵にとっても味方にとっても戦況を変える一撃となる。
爆発範囲を見誤れば見方を巻き込む。煙が視界を遮り隠れていた敵の攻撃に反応ができなくなる、逆に逃げることもできる。
向日葵がまともに扱えなかったのはこの劇薬を扱う責任が持てなかったとも言える。
一方白華の控室では──
「さて皆、予想外の二戦目だけどがんばろうね」
「コーチーは数の差を覆すのが難しい的な事を言っていたけどさ実際どうなん?」
「事実よ、だけどそれは実力が拮抗している同士までの常識。蘭香は気付いてなかったみたいだけど黄連はU-18世界大会の代表に選ばれてる本物の実力者よ」
「そうなの!?」
「世界大会の時期と期末審査は被ってるからね。それに年末はテレビにかじりつく余裕もないしメンバーを把握できないのも無理ないわ」
「結果だけしか覚えてないもんねぇ、確か去年は日本12位だったよね」
「ソモソモ世界戦メンバーに選ばれる可能性もアリマセンから、遠すぎる存在に興味は湧き難いデス」
WWPトーナメント。世界中の18歳以下の少年少女達がワープリの戦術戦略をぶつけ合う大会である。
毎年12月15日~31日まで続く大会。学校も政府公認で合法的に休むことができる。開催場所は参加国150か国の中ランダムで選ばれる。
選抜される人数は男女10人ずつの計20人。
複数ブロックに分かれてリーグ戦。朝9時~夜20時まで続けられ。
24、25、26日は中休み。優勝決定戦は12月31日に行われる。テレビで特番が組まれるのは決勝リーグからが殆どで予選リーグはネット配信のみ。
蘭香の家では年末になると帰ってくる父親と一緒に食事に行ったり何なりと家族団欒が最優先となる。
「まぁとにかく、一対一でぶつかって勝てる相手じゃないわ。二人以上で相手しないと蹂躙されるだけよ」
幸いにも人数有利が初めからある。
重要なのは誰を相手にさせるか。先に手を上げたのは──
「だったら私は梅さんと戦う。いいよね?」
蘭香。言葉には有無を言わせないような強い意志。誰も否定することはない。何よりも同じ人を憧れた相手、全員その因縁のようなものを感じ取っている。
「問題は黄連さんね……」
「ワタシがヤリマス! トップクラスと戦える機会、逃すわけにはいきマセン!」
「ウチもウチも!」
名実共に強者──しかし臆することなく意気揚々と手を上げて戦意を露にする。
「じゃああたしが蘭香のサポートに回るわ。向日葵は後方で援護をお願いね」
「さ、さっきのツインタワーストライクみたいですね」
「実際その通りね。でも、決定的な違いは人数差が最初からできている。複数同時攻撃じゃないと敗れないあの陣形、使わない理由が無いわ。それに向日葵は見られた状態の方が効果が発揮される一人を二人で相手すれば。攻めたくても攻められない、逆に射線が常に気になる状態を押し付けるわ」
「は、はい!」
誰がどう考えてもベスト。
フィールドという懸念点はあれど固定砲台に徹せられたスナイパーは強い。仲間という防御壁が機能し続ける限り、動きに制限を強いることが可能。
「そいえばさ隠れてダウンを狙うアサシンスタイルって頭に入れとかなくていいん? ひょっとしたらブラフかもしれないっしょ?」
「ゼロじゃないけど……梅ってドリルの人は嘘とかできなさそうだし、黄連さんも自分のトイ持ってきてなかったから正直でしょ」
二人の態度を思い出すと「確かに」と頷く他無かった。バズーカとブレードの遠近型。マシンガンとブレードの中近型、小細工なんて使わない組み合わせ。
ただ事実として多対一を比較的安全にこなすには障害物に身を潜めたり、光学UCI迷彩『カメレオン』を使って隠れて攻める戦術が有効。50×30のフィールド、身を隠して移動できれば捉えることは難しい。
「でも、相手がどう攻めて来るかはわからない。もしかしたら相手が真逆になる可能性もあるからその時は切り替えよう」
全員がもしもの事態を想像し頭に入れる。白華の作戦はこれで決まる。
両チーム青春の闘争心で熱くなっている一方で管理室では不穏で重苦しい空気で満たされていた。
「今回は桃園で用意したステージセットリストを使わせてもらうわよ」
「わかりました」
実況及び解説の役割は白華コーチの鉢谷達也と桃園コーチの針木薊。
この二名だけが管理室にいる。学生時代、ワープリ部の先輩と後輩。危機を感じて逃げた達也、そのおかげで三冠を逃したと攻める薊。
彩王蓮華ワープリ部にとってその価値は絶対、誰もが血反吐に塗れるぐらい練習を重ねて目指す栄光。悲願を逃した原因を作った男を許せるはずもない。
もしもに備えて達也はマイクの音声を切っている。
「その余裕あるツラ凍らせてあげるわ。一軍の名は伊達じゃないってことを教えてあげる」
「……あの地獄みたいな環境を生き抜いたのによく一軍二軍制度を採用しているな? スポーツマンから離れた位置に向かっていく自覚が無かったのか?」
一方的な恨みつらみによる敵対心。
加えて指導方針の違い。丁寧に徹したところでまともに会話できないと達也も察し、融和するのを諦めた。
この会話は聞かれる訳にはいかなかった。彩王蓮華関係者の中で完結させる。
「わかりやすい区別は強烈な競争心を生み努力の理由になる。捻くれた奴が上にいたからこそ蹴落としたい欲も出てきた。仲良しごっこで得られる強さなんてたかが知れてる。凡人にもわかるような優れた結果を手にすることが指導者としての役目よ」
「あんな腐った環境を桃園に作るつもりなのか? 信念や目標がハッキリ決まっていれば努力をする。他者よりも優れている証じゃなくて自分が理想の自分になるために強くなる。その姿に憧れ追いかける仲間がいる。その連鎖を続けていくのが指導者としての役割じゃないのか?」
「吐きそうなぐらいの綺麗事で理想論ね」
「俺は血で血を洗うような部活動にしたくないだけだ。スポーツは綺麗事と理想論で健全に成長できるほうがずっと良い」
「それで食べていけると思ってる?」
「部員達を食い物にするような指導者なんていないほうが業界のためだ」
「プロになれてないのに良く言うわ」
「アマに完勝してから言ってくれ、説得力ないぞ?」
小馬鹿にしたり眉がつりあがったりと両者コロコロと表情が切り替わる。
白華の誰にも見せたことの無いような達也の口調と表情、到底聞かせられない。
「よく口が回るわね」
「おかげ様でな。ここからは部員達の時間だ俺達の因縁は関係無い、プロなら切り替えろよ?」
「はいはい──負けた時の吼え面を最前線で見させてもらうわ」
こんなやり取りをしていながらも試合開始のタイマーは確実に進んで行く。
「では、練習試合第二戦が一分後に始まります。特別ルール、五対二のロワイヤル。試合時間は三十分。フィールドは竹林となっています」
竹林フィールド。
足下は土に近い感触で動きやすい。
疎らに伸び天井付近に達する竹が半端に視界や進路を遮っている。半端に開けた広場もあったり、賑やかしなのか身を隠せる大岩も数個、隠れて戦うには向かないフィールドと言える。笹が生い茂っている箇所があっても子供でもないと身を隠すことは難しい。
ただ、このフィールドには特別な設定があり、竹を壊すことが可能。射撃でも斬撃でも高さ1m以下で分割すると消滅する。さらに低威力だが倒れる竹に攻撃判定が乗る。
中には力で掴み折り相手に叩きつける豪傑もいるがそこまでやると反則を取られる可能性が高い。
「中々珍しいのが選ばれたわね、この竹には弾性もあるから使い方次第で様々な戦況を作れるからそこにも注目ね」
カウントが0になると同時に両チームが駆け出す。
目の前に広がる和の雰囲気に少し驚くが左からセイラ、鈴花、向日葵、菫、蘭香の形で攻めあがる。菫が二機のドローントイにUCIを注入し起動させ、鈴花がシールドを展開させ、左右の両名を守れるように警戒。
その耳に届く荒々しく笹を揺らす音と薄桃色の旋風。
「──来たよっ!」
「──お相手願いますわ」
試合開始10秒──竹の隙間を縫って飛び出てきたのは梅。
蘭香達がスタートラインより15m程しか進めていないのに。梅はセンターラインを悠々と越えて襲い掛かってきた。
ここまでの速攻を白華全員体験したことがない。
50m走最速は約5.5秒。フィールドの縦幅50m、障害物はいくつも存在し飛び越え避けて移動すればより時間はかかる。それでも速い。
(録画で見た紫さんと同じ──ううん、それ以上の速さだ! ブースターの推進力で跳躍距離も伸びてるし単純に走るスピードも速い!)
「まさかブースターを利用した速攻!?」
「人数有利なチームはじっくりと構えて追い詰めたい心理が働くわ。その虚を突いて準備が整うまでに数を減らす」
観客と同じ視点の達也は速さのカラクリに気付けた。サブユニット『ブースター』UCIが生み出す推進力、空を飛ぶことは叶わなくても走る速度を上げ走り幅跳びの距離を伸ばすことは容易にできる。
ただ、当然弱点もある──
ブースターは燃費が悪い。サブユニットとして使う以上UCIエネルギー回復等のサブは使えなくなる。持久戦に持ち込まれたらUCI切れに陥りやすい。
だからこその速攻。勢いの乗った梅のブレード。狙うは蘭香。
しかし、蘭香の目に焦りは無く冷静だった──
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