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第35話 理想を違えた者と追い続ける者

 試合開始から終了までおよそ10分程度。

 戦いが動き始めてからは1分で収まる程の呆気なさ。さらに言えば三場面が同時に動いたこともあって経験者以外の観客達は追いきることはできなかった。


「──試合終了です。白華の勝利です」

「正直ここまでできるとは思っていませんでしたわ……ここまで綺麗にやられると流石は白華と言わざるをえませんね」


 だが勝利、白華の勝利。嘘でもなく夢でもない。白華ワープリ部にとって最高の形で終わることが出来た。 

 達也は冷静に徹しているがもしもこの場に一人でいた場合、マイクの音声を全て切って踊り狂って勝利の雄叫びを上げていただろう。

 なにせ夢にまで見たコーチとしての活動その結果が最良として現れたのだから。コーチとして間違っていなかった証明でもある。


「では、最後が急すぎたと思うので解説します」

「お願いしますわ。私も全部を追い切れませんでしたもの」


 録画された試合の映像が再生される。観客室はもちろん待機室に戻った両チームの控え室にもこの映像は流れる。これは練習試合、次に生かすことも重要である。


「桃園チームの『ツインタワーストライク』をやぶったのは白華で開発した『フォーク』です。イメージ的には食器のフォークで構いません。複数のプレイヤーが同時に攻めるのがこの戦術。初めに南京さんのスナイパーライフルで相手の盾を狙い脆くすることを目的としていました。想定どおり亀裂が入り脆くなったところでセイラさんのショットガンで破壊。ラージシールドは壊れないという意識の隙を突いた流れです」


 作戦名『フォーク』後衛も含めた同時攻撃。蘭香がグイ~と敵陣に伸びていく攻撃の動線を見て「フォークみたいに突き刺してるね」とポツリと漏らしたことでこの作戦名はきまった。


「次は槿さん達の流れを説明します。右方向から回り込むことで二名の意識を彼女へ誘導、シールドを持っているので攻撃を受け止めながら意識の固定化。リボルバーを盾より少しだして反撃の意思を見せておきます。この時八重さんが上がってくることによって相手の注意をバラバラにしていました」


 この時の位置取りはスナイパーの射線を木々で隠しており不意を打たれないように注意もしていた。


「ここで正面の野茨さんとスナイパーのやり取りについて話します。野茨さんはシールドを持っていたのでそれで防ぐ事を頭に入れて接近。狙いは撃たせた上で自分も無事だという状況。これによってリロード時間というスナイパーは何もできない時間ができてしまいます。8秒間狙われる心配がなくなり別の相手へ狙いを切り替えました」


 この時、もしもセイラがやられる事態になっていれば左の塔へ銃口を向けていた。

 リロード時間を作れた時点で振り替えることは決まっていた。

 逆に撃たれなかったらまた違う動きにはなっていただろう。鈴花の頭脳ではもっと多くの状況が想像されており、それに応じた対策戦術も入っていた。


「こうも綺麗にやられてしまうと防ぐ手段はあったのか謎ですわね?」

「もちろんあります。恐らく桃園さん達は相手の位置で誰が誰を狙うのか決まりすぎていたのだと思います。もしも野茨さんを集中砲火していればシールド持ちとはいえ足並みは揃わなくなりダウンも狙えていたでしょう」

「──シールド持ちにハンドガン種を持たせていても良かったと思いますねぇ」

「後はスナイパーにカメレオンを装着させて不意の一撃を狙っても良かっただろうな」

「立ち位置も良くなかったでんなぁ。木々が少ないところを待っとったみたいやし」


 結果論、ただ錬度不足も否めない。

 自分達で捻り出した戦術とただなぞるように教えられた戦術。応用に差ができるのは当然である。


「全く何様のつもりよ上から目線で偉そうに……負けたら解説なんてしなかったのが透けて見えるわ」

「まぁまぁ、課題を教えてもらったのは事実ですから。これでもっと強くなれるはずです」


 ある意味薊の指摘は事実だろう。理由は悔しいとかではなく全てを失ったかのような絶望で言葉が出せなくなるからだが。


「さて、両チームお疲れさまです。フィールドを一度リセットするので終了のブザーが鳴るまで出ないようにご注意ください」


 UCIで作られた木々達が役目を終えて粉状になって分解されていく。

 この光景はまるで兵どもが夢の跡、どこか物寂しさを感じさせ観客達は試合を振り返り感想を語っていた。


「5対0ってことは完全勝利ということでいいのかな?」

「昔は強かったって何度も聞いたけど今でも強いですね」

「でも、ここ数年は良い成績を収めたなんて話は聞いていませんし、偶然上手くいっただけではなくて?」


 暇つぶしに見学に来ていた生徒達が思い思いに口にする。

 再結成してからパッとしない成績ばかりを収め期待はできなかったが勝てたからこそ「まぁ良かったんじゃない?」という評価。

 素人目では勝敗こそが全てとなるがワープリに触れた人間なら他に注目すべき点が幾つもあった。


「無駄弾がありませんでしたねぇ。マシンガン種でも狙いが綺麗でしたぁ、右から左へ撫でるような掃射をする方が多い中ガッシリとまっすぐ狙いを定めてましたねぇ」

「ああ、それに全員が全員の動きを理解した綺麗な連携だった。当時の私達じゃ到底できないだろう」

「偶然ではないんやろうけど、これだけで判断しろっていうのも無茶振りやわ。真打かなまくらかもっと切れ味の良い相手と打ち合わな」

「そうね、久々にワクワクしてきたんだもの! 一戦だけじゃもったいないわ。あちらさんも不満気みたいだしね」


 視線の先にはわかりやすく悔しがる薊の姿。


「くっ──納得いかないわ……! 公式戦の記録は直近のまで見ていたここまで成長するなんてイカサマでもしているんじゃないの」

「失礼ですよ。例え仮に可能だとしてもあの部屋には梅さんもいましたから不可能かと」

「白華ファンガールは浮かれて気にしてないでしょうね」


 ありえない、認められない。そんな言葉が頭の中を渦巻く。

 これはただ勝敗が決しただけではない。

 一ヵ月、新入生が入学する四月からの一ヵ月。

 桃園は二軍チームとはいえ中学時代にワープリ経験者達。さらに二軍の中でも次期一軍候補連れてきていた。当然二年生も混じっている。

 対して白華は中高一貫、最高でも高校一年の蘭香と菫のみ残り三人は中学生。選手の条件としては白華の方が不利。

 薊の指導を一年受けた選手も当然いる。

 対して達也の指導は一ヶ月。

 極めつけは、横から聞こえてきた「初心者なのに」という裏表の無い素の言葉。

 初心者をあの動きができるまで鍛えたということ。初心者に二人ダウンさせられたということ。

 試合に負けたという事実も相まって育成力、指導力の差がある──と断じて認めたくない現実を痛感させられた。

 プロとアマ、資格の所有がコーチの能力に直結しない事を示しているかのようだった。


「はぁい、そこの不満げな桃園コーチさん? ちょっとよろしいかしら」

「……なんでしょうか?」


 イラ立ちを押さえきれていないぶっきらぼうな言葉。さらに気楽な呼びかけに苛立ちの閾値を越えそうでもあった。

 黄蓮もそれを察してかいざとなったら羽交い絞めでもして止めるつもりである。身長はほぼ変わらず体格的には黄蓮が勝っている。さらに諸事情により格闘技も嗜んでいる。薊のプライドを傷つけかねないが他校で問題が起きるよりかはマシと考えている。


「正直言って物足りないと思わない? 折角の練習試合、ただ一戦やってさようならなんてつまらないわ」

「……つまり二戦目を所望しているということね」

「いいですね! 私もウズウズしていたところなんですよ」

「ただ、あいつが受けるかしらね勝ち逃げしたがってるかもしれないし」

「その程度の男ならその程度で別にいいのよ」


 上でそんな会話が繰り広げられている間、白華選手控え室では。


「やった……やったよ! 勝ったよ皆!」

「それも五対0の完全勝利──いくら桃園二軍が相手だからってこの結果は蔑ろにできないはずよ」

「イエ~ス! どうやらワタシ達思った以上に強くなってたみたいデース! 波に乗ってマース!」

「これが本気で戦って得た勝利の味……! ウチこんなの知ったら戻れなくなりそう!」 

「何百発と撃ってきたかいがありました……!」


 勝利の喜びに皆が打ちひしがれていた。

 これ以上と無い結果。廃部撤回は確定的。

 勝つことで手に入れた自分達の道。

 感動もひとしおである。

 とはいえこの姿を部外者に見せるわけにはいかないこともわかっている。もう済んだこととはいえ廃部をかけた試合だと知られたら本気で戦うのに躊躇を覚えたかもしれないから。


「皆、聞こえるか? フィールドの除去が終わったから玄関まで来てくれ、話があるみたいだ」

「コーチの声──! これってもしかして……」

「ちょっと早すぎな気もするけど、まぁ行けばわかるでしょ」


 どこか浮足立って淑女で抑えきれない笑顔で戻る五人に告げられる言葉に表情は固まった──


「二戦目ぇ!?」

「ええ、もっと見たいのよ。折角時間を作ってきたのにこれだけじゃあ到底満足できないわ」

「皆だって体力的には余裕があるだろう? それにこれは練習試合、試せるなら何でも試すのも未来への投資だ。なにより先輩方もまだ試合を見たいらしい」


 薊が隣にいる。だから大事なワードは使えなくともその一言で全てを察する。

 足りない──と「この一戦だけでは廃部撤回の評価を下すのは難しい」と。

 ただ達也はチームの成長には対人戦が一番と考えており、この提案は受け得だと判断していた。


「同じメンバーじゃ味気無いでしょうから次は黄蓮と梅を出すわ」

「え!? (わたくし)もですか!?」

「よろしくお願いします! 皆さんのバトルを見ていたらこっちもウズウズしてきました」


 完全に予想外で驚きを露にする梅とやる気に満ちた黄連。

 両名桃園の一軍。高木梅は新入生、月光祭制覇には関与していないが黄連は完全に関与している折り紙付きの実力者。

 その実力はU-18上位。

 冷静に分析すれば勝ち目はないことはわかっている。


「──ですが私と梅さんの二人で白華チームの皆さんと戦います」


 その言葉に誰もが「え?」と言葉を漏らす。

 ワープリ経験者なら何を意味するのかすぐに理解する。五対二ハンディキャップを超えたハンディキャップ。勝利を諦めたとしか言えない提案。


「本気で言っているのかい? 人数差は実力差を覆す大きな要因になる。最初から五対二ともなれば本来の実力を発揮する間もなく蹂躙される可能性が高いぞ?」

「このままでは月光祭を制した桃園女学園はこの程度だと笑われかねませんから、ここは一つ名声を救う為にお受けしてください」

「黄蓮? 何勝手に決めているの? 監督責任があるのは私よ」

「コーチを通すと余計な問題が起きそうなので」

「……それでも私達に勝てるって言いたい訳ですか?」


 舐められている。

 シンプルにそれ以外に考えられることは無い。

 胸倉を掴みかかりそうな激情を抑え蘭香は真剣な瞳で真っ直ぐに黄連を見据える。

 敵意混じりのその視線に対し──


「逆ですよ──それでも貴方達に勝たなきゃいけない状況なんです。先程も言いましたがこのままでは桃園は舐められっぱなしです。月光祭の看板を安くしたらいけないのは勝者の務めですから」


 揺るがない信念を抱く瞳で逆に気圧されてしまう蘭香。

 そして深々と礼儀正しく頭を下げる黄連。

 この精神性にこれ以上口を挟むことは誰もできなかった。

 喜びの絶頂に浸っている五人に対して無慈悲な次戦が決定した。


「実を言うとバトルする予定は無かったのでトイを貸していただけませんか?」


 ピンと張り詰めた空気が一気に緩む。 


「二軍の方のではダメなんですか?」

「私の使用トイはバズーカ(リヴァイアサン)とブレードとシールドなんです。シールドとリヴァイアサンさえお借りできれば」

「……いいんですか? 自分のトイを晒すようなことをして?」

「この程度、公式戦を分析すればわかることですから」


 事実、『桃園 ワープリ』で検索をかけてここ一、二年の動画を調べれば黄連のことは簡単に調べられてしまう。大会関係者の公式動画だけでなく個人で撮影した動画も多々存在する。三大大会優勝の名声は伊達ではない。


「申し訳ないが、白華にリヴァイアサンは置いてないんだ。ここにあるのはバハムートだけ、それでよければ」

「いえ、構いません! バズーカ種であればどうとでもなりますから! あっ、となると梅さんのトイは──」

「どうかしましたかレンさん?」


 更衣室から戻ってくるとUCIバッテリー、グリフォン、ブレードそしてブースター。普段彼女が身に着けているトイ一式が装着されていた。

 何も問題が無いように見えるが、彼女達は今日バトルする予定は無かった。


「それって普段使ってるのじゃないですか? もしかして戦う気マンマンでしたか!」

「一式を間違えて持ってきてしまいましたわ!」


 ただのドジである。

 普段の癖で何時もの一式が入った鞄を持って来ただけ。

 だが蘭香はそんなことよりも彼女の纏う姿を見てすぐに気付いた。


「あれ……? その組み合わせって──」

「ふっふっふ、白華の生徒さんともあれば当然わかってくれると思っていましたわ! 白華に入学できずともリスペクト精神を忘れたことはありません! 私のオリジンは金剛紫さん! 彼女に近づけるよう日々精進してきましたわ!」

「っ──!」


 同じ人を憧れた。その人みたいになりたいと努力を重ねた。

 片やまっすぐとその道を進み一軍となった。

 片やその道は向いてないと否定され別の道を歩むことになった。

 同い年の同士。だが才覚が道を違えることになる。

 目の前の相手は自分が諦め理想とした衣装(トイ)を纏っている。

 これだけで蘭香に言いようのないライバル心が強く、強く芽生える。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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