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第28話 空いた心

 自分達のレベルアップを実感した後に待っていたのは──


「これからUCIルーム全体の大掃除を行う、特に更衣室を重点的にだ」

「言いたくは無いけど余韻が台無しよね……」


 大事なことだとわかっているけど、レベルアップした事実が心と体に練習欲を与えてくれる。でもこれが最後の締めだなんて……


「わかってはいたけど大変デース……! 清掃員の方にオマカセじゃダメなんデスカ?」

「もっと練習したいっしょ!」

「そうですそうです!」


 ここぞとばかりに私も援護する!


「ダメだ、あの方達は廊下や階段を行ってくれているが更衣室は特に手を付けない。明後日来てくれる人達が着替えるのもここの更衣室になるはずだから前もって整理整頓は必須だ」

「でもでも──」

「でもじゃない。そもそも明後日勝つなら問題ないだろう。それに白華には見栄だって重要だ、見た目の綺麗さが余裕を生み相手に格の違いを見せることもできる」


 その言葉にこれ以上反論はできなくなった。コーチは私達が勝てると信用してくれている。これ以上は無粋な気がする。


「わかりました、これ以上は何もいいません」

「ならいい。さて、意識を切り替えろ! イメージするんだ。もしも使おうと思ったロッカーの中にお菓子の箱やゴミがあったらどうする? 白華って見かけは立派でも生徒は高が知れてるんだなぁ……って思われてもおかしくないぞ!」

「な、尚更酷いこと言われそうですね……」


 白華が問題おこしたらここぞとばかりに叩く人がいるのも事実なんだよね。


「じゃあ早速始めるぞ! 俺も手伝う──」

「えっ!? コーチもですか?」

「人手は多い方がいいんじゃないか?」

「ダメですダメです! 以前とは違うので、ここはわたし達だけで行います!」

「そうそう! 信用しているけどそれはえっちだと思う! コーチーは立ち位置禁止!」


 コーチが邪な思考を持っているとは考えていないけど、万が一もあるから見せるわけにはいかない。大掃除ともなると想定外の物が発掘されてもおかしくない。

 恐怖と緊張の隣り合わせな大掃除は遠慮したい。

 コーチも強い拒絶を感じたのかちょっとシュンとしてる。


「強い意志だな……そこまで言うなら仕方ないでも、終わったら確認はするからな。相手チームの気持ちになって入るから油断しないように」

「わかりました!」


 というわけでコーチはUCI管理室の掃除と調整に向かってくれました。


「う~ん、とうとう本格的に掃除する日が来ましたネ……」

「今まで見てみぬ振りをしてきた先輩方の遺産をどうするかって話ね。全く……先輩方も立つ鳥跡を濁さずをしてほしいわ」

「綺麗にしたら空いた場所もまとまるはずだからこれを機に備品をまとめてあるロッカーも別の場所に移動させよっか」


 燃えるゴミだけならまだいいんだけど、よくわからない貴重品が出てきたらどうしよう……再利用できそうと思っても結局しないことも多そう。


「とにかくまずはウチらが使ってないロッカー全部開けちゃいましょうよ、中身を空にした後中を掃除して、完全に綺麗になったら閉めていくってやり方なら二度手間にならなくて良いと思うんですけど」

「そうね、一人一列ずつ全部開けていきましょ」

「じゃあ皆掃除開始だよ!」

「「「「オー!」」」」


 ロッカー一つ一つが誰かの縄張りみたいな意識がある。だからこそ今まで手を出す気がわかなかったんだと思う。

 その呪いを解くために名前が入りっぱなしのネームプレートも今まではもったいなくてそのままだったけど、これを機に取り外す。

 ありがとうございましたという念を込めて廃棄。

 当たって欲しくないガチャガチャをやる気分で一つ一つを開けていくと──

 

「ポテチ入ってるじゃん──ってこれ賞味期限切れてる!? こういう系が切れてるの初めて見たんだけど……」

「中身入りの制汗スプレーもありましたけど、期限切れてますね……」

「こっちはタオルね。匂いは──しない。洗濯は終わってるけど雑にしまってあったわ」

「What!? 中身が変色したペットボトルがアリマス!?」


 悲鳴に似た声も聞こえたりと負の遺産を掘り当ててばっかりだった。


「何だか宝探しみたいですね。すっごいお宝とかないんですか? 白華だからそういうのあってもおかしくないと思うんですけど」

「そういう希少品は持ってこないでしょ」

「そうだよ、ん? 紙袋? 中身はハンカチ? じゃない……これってええ!?」


 肌触りの良い布、畳まれていたから何なのかわからなくて開いた瞬間に何なのか理解できて思わず叫び声が出てしまった。

 この声でコーチが来ないか警戒して出入り口を見る。こればっかりはコーチには見せられない。

 

「な、何ですかソレ!? スケスケで面積チッさいですよ!? こ、これがお嬢様学校の裏の顔──」


 正体はエッグい下着……!?

 布は小さいのに派手な柄、というか下着として機能しているの!? そもそも何でここに置いてあるの!?


「スゴイデスネ……ソレでも機能してるんデスカネ──アレ? 何か見覚え……アッ!?」


 セイラちゃんが頭を押さえてワナワナと震えてる……もしかしてコレってセイラちゃんが隠した物なの!?


「セイラ? まさかあんたの──」

「イエ、小さい頃……ママの部屋でそういうの見た記憶がありマス……」

「「「「…………」」」」


 絶句とはまさにこういう事なんだとわかった──なんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。

 まぁ……うん、仲が良さそうなご夫婦というのはわかった。言葉にしちゃいけないから胸の中にしまっておこう。

 とりあえずこれはいつかの先輩がなぜかここに隠した物で、理由を求めるのはしない方がいいと思った。

 一応他にも似たようなものが無いかと警戒はしてた、あるにはあったけど比較的普通の下着で他の雑貨の奥に隠れていたりでただ単に忘れただけみたいだった。


「一応隠しカメラや盗聴器の類があるか探してみたけどなくて安心したわ」

「そもそもここに入れる人って限られてくるから発覚した時点でバレそうだけどね」

「バトルの指南書も色々ありましたね。こういうのって別の所にまとめといた方がいいんじゃないですか?」

「コーチーが言うには戦術は日々変化と進化してるらしいから役に立つか怪しいんだよね。パラパラ~っと……やっぱりコーチーが教えてくれた戦術の方が有用。捨てて問題なし!」


 全てのロッカーを確認してわかったのはどうみてもゴミって言うのが無かった。こればっかりは流石白華生徒だと敬意を覚える。

 大きなゴミ袋が一つパンパンでもう一つは半分入る程度で終わりましたとさ。

 後は綺麗に拭き掃除をして──


「終わったぁ……!」

「練習並に体力使った気がするわ……二度とやりたくないわ」


 疲れた様子を見せるのは菫ちゃんだけじゃなかった。

 床や鏡面台もしっかり掃除した。これなら文句を言われることは無いと思う。普通に一時間以上かかちゃった。選択授業で学んでなかったら終わってなかったかも。

 コーチを呼んで最終チェック!


「自信がありそうだな」

「どうぞ! 初めて来た日とは比べ物にならないぐらい綺麗にしておきましたよ!」

「わぁ……! ここが白華の更衣室なんだ! ひっろーい! あら、思った以上に綺麗だわ、中は意外と汚いと思ってたのに」


 何か演技してる……仮想敵チームかな? 完全に男声で違和感凄い。


「じゃあアタシここを使おうかしら?」

「あっ、そこは!」


 コーチが手を伸ばしたのは私のロッカー、開かれる前にコーチの手は止まり──


「──とまあ、何も言わなかったらどこを使うかわからない。初見なんだから使用済みかなんかわからない。こんなにロッカーがあるんだから相手にはどのあたりを使ってほしいか予め伝えておく必要がある」

「わ、わかりました」


 その可能性は完全に頭から抜けてた……。


「整理整頓はしっかりしているし貴重品も置きっぱなしにはなっていない。無い可能性の方が圧倒的に高いが、盗まれる可能性はある。鍵をしっかりかける意識は忘れないように」

「「「「「はい!」」」」」

「にしても……それぐらいゴミが出たのか。思ったよりも少なかったと見るべきか……」


 コーチが興味深そうにゴミ袋に一歩ずつ近づいて来るのを見て、スッと前に立って防ぎます。


「コーチはお手を触れてはいけませんし中を見てはいけません。これは私達が責任を持って処分致します」

「そんなヤバイ代物でも見つかったのか……」


 黙って皆が頷くと、コーチも察してくれたのか下がってくれました。

 そして、更衣室の後は玄関やフィールドの掃除。最後にゴミ袋をゴミ捨て場に持って行きゴミが無くなった改めて部室を見渡すと──


「綺麗になったね……」

「ええ、普段から綺麗だけど何時も以上に見てくれがいい気がする」


 空気感が普段と違う気さえする。淀んでいた重いナニかが消えていったようなそんな感覚。

 これなら誰が来ても文句を言われないと自負できる……だけど、生活感も一緒に流されているようにも感じて寂しさも伝わってくる。

 これは少し先の最悪の未来、その片鱗が映っているようで──何だか不安がふつふつと湧いて来る、誰もいなくて物もなくなっているワープリ部。

 さっきの菫ちゃんの言葉が蘇る──発つ鳥跡を濁さず。まるで今の部室は……ううん、頭の中でも言葉にするのはやめよう!

 綺麗になった部室でこれからも続けていきたい!

 ここが大事な場所だって改めて思うことができたんだから。だから……何としても勝たないといけないできることは何でもしないと。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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