第27話 試練の日、過去と今
5月3日──
GWの練習最終日。
いつも通り入念に丁寧にウォーミングアップを行っているけど今日は試練の日──それが頭に過る度に身体が強張る。
本番の前の練習だとわかっているのに、心臓が無駄にドキドキしてる。
「いつもより硬いわよ? もっと力抜かないとちゃんとストレッチできないわ」
「うん……ふぅ~……」
緊張、焦り、不安、それに恐怖もある。息を吐くと同時に出て行ってくれたらと願うけど心の中にこびりついて剥がれない。
廃部を言い渡されたあの日から時間は残酷にも流れている。今日という日が来ないで欲しいとも思った。コーチとの練習が無限に時間があればいいと思った。一日を二倍にできればいいと何度も願った。何も気にせず練習できる日で毎日を埋め尽くしたかった。コーチが来てから今日まで正しく重ねられてきた実感があるからこそより思う。
誰にも負けないような無敵の実力があればこんなことは思わなかった。でも、私はコーチを追い詰める実力だって無い未熟。
練習試合を前に今日を超えられなかったら、これまでの日々が無意味だったと自分で証明してしまいそうで怖い──
「では、改めて今日は試合を五回行う。これに全て勝つことができなければ練習試合をするまでもないことが証明出来てしまう。全員、自分の全力を出し切るように」
「「「「「はい!」」」」」
笑顔は少ない、皆スイッチが切り替わったように真剣な表情になっている。
だけど……セイラちゃんや鈴花ちゃんには高揚感みたいな楽しむ余裕が感じられる。
「蘭香、作戦とかある?」
「…………」
「蘭香?」
「え、あ──ごめん」
背中に手が触れられ菫ちゃんの心配そうな顔が目に映る。
えっと……作戦、作戦──? ……何も思い付かない──
「緊張しすぎデスネ。本番じゃないのにガチガチデス。でも練習試合を本番って言うノモ変な感じデス」
「コーチーの練習は厳しかったけどウチ達が冷静に戦えば大丈夫っしょ!」
「そんな状態じゃ普段出してる力の半分も出せないわよ。はい深呼吸! 吸って~……吐いて~」
言われるがままに深呼吸を始める。私だけじゃなくて向日葵ちゃんもつられてしてるのにちょっと気が抜けちゃった。
切り替えよう──この不安は後回しにしよう。
「少しはマシになったじゃない。で、何か考えてる?」
「……何も考えてなかった──でも、今日特別なことをしたって意味がないと思う。コーチに叩き込まれたことを冷静に引き出して連携ができたらそれでいいはずだから」
背伸びなんてできない。
今日まで教えてくれた戦術戦略は百を優に超えて実行及び対策は会得済み。皆が皆、同じだけ戦術を理解してる。知らないかもなんて気にする必要は無い。
「りょ~かい」
「ラジャーデス!」
「わ、わかりました」
「それでいいのよ」
選択されたフィールドは『荒野』『神殿跡地』『工場』『自然公園』『特別校舎』の五つ。
バトルが始まった瞬間──皆殺気を纏うほどに真剣そのもので油断も慢心も何もなかった。脳細胞が最高速で動き続けていた細かい指示を必要とせずに連携もできた、丁寧で淀みない動きができた。そして、気持ち悪いぐらい射撃が命中した。
だけど……バトルをしている途中から感じたことは皆同じな気がする。
困惑──それで染まってる。
コーチが最後の試練と言うだけあって相応の強さのUCIユニットと戦うと思っていた。
最悪一試合目で体力を使い切りかねないか、試合限界時間30分使い判定に持ち込む可能性も予想していた。
だけど……戦ったユニットは余りにも弱かった──私達が強くなり過ぎたと慢心できないぐらい弱かった。
無策に飛び出すディフェンダー、攻め時に二の足を踏むアタッカー、撃たないバズーカ、逃げるだけのサポーター。陣形も考えられていない雑な動き。コーチが作ったユニットの割には雑過ぎて逆に混乱を覚えるぐらいだった。
でも、コーチのことはこれまでのことから大分わかってるつもりでいた。これは初戦、チームの皆にギアを入れるため、もしくは油断を誘い次で仕留める布石──段階的に能力が上がっていく。そう思っていた。
予想は間違っていなかった、相手はどんどん強くなっていったけど……なんだかんだで全てを5-0で終えることができた。
「……何だか弱かったような?」
「ハイデス……」
試合の合間に誰も口にしなかった言葉を五試合終わった後だから言えた。
本番想定で動いたから負担はあったけど、それでも余裕はある。
「これが最後の試練なの? この適度な疲労感、あたしの体力が付いたって訳じゃないでしょ?」
「そうそう! コーチー、設定間違えてない? ウチ達結構余裕残ってるけど」
「いや、最後の試練に相応しい相手を用意したつもりだ」
私達の怪訝な目に対して迷いの無い目で返してくれる。やっぱり本当にこれが最後の試練ってことなんだ、肩透かし感が強い。
そんな中、向日葵ちゃんがおずおずと手を上げていた。
「あ、あの……なんだか見覚えがあるような動きだったんですけど……な、何か関係ありますか?」
「見覚えがある?」
「そりゃUCIユニットなんだから行動ルーチンが類似していることあるでしょ」
「そうでは無くて……ランさんみたいな動きだなぁって……」
「? 私みたい? 流石に私はあんな風に的になるような動きはしないって」
「今は──そうです」
……まさか──!?
頭に電流が走ったような衝撃に目が見開いてコーチへと顔を向ける。言葉にしなくても私の答えを理解してくれたのか、ゆっくり頷く。
「あのUCIユニットは以前の君達のデータを元にしたユニットだ」
「じゃあアノ変に攻め込んだディフェダーは!?」
「セイラ……ってことね」
「じゃあ逃げ回っていたサポーターは」
「スミーってことじゃないん?」
「いやいやいやいや、え? ちょっと待って? あれが私達だって言うの? そんなないないない。流石にコーチは失礼、モノマネ芸人が一部を過剰に表現するみたいに失礼だって!」
混乱困惑、あれが真実? 現実? あんな情けない動きが私達? 的になるような動きで、目的がよくわかってなくて、倒せればラッキーみたいな動きを?
私達がしてた──!?
「完璧な成績で倒せたということは、それだけレベルが上がってるということだ。自信を持て、今日までの日々は無駄じゃなかった糧となった。過去の自分達とは卒業できた」
「……アレだけ情けない動きをしていたんデスネ、ワタシ達……」
「ウチは初心者で新参者だから言っちゃいけないかもだけど……アレで練習試合やるつもりだったん?」
「言わないで……」
コーチの顔に冗談みたいな色は無い。私達の実力を正確に計った上で作り出したUCIユニット。
この事実に鈴花ちゃん以外はどんよりするしかなかった。コーチがいなくても多少はレベルアップしてるかもしれないけど、精々三戦目程度位までだったと思う。
練習試合をしたら恥の上塗り、二度とワープリが出来ないぐらい心を叩き折られる展開が待っていたかもしれない。
「いいか! ワープリに運はない、乱数なんて存在しない、丁寧に整備したトイは狙った場所にしか弾を発射しない、鍛えた肉体以上のスピードは出せない。天候に左右されることもない。残酷なぐらい実力で結果が左右する。だから安心しろ、弱い君達はもういない!」
コーチの言葉が皆に自信を与えてくれる。
この結果は確かなものだと実感できた。過去の自分とは別の世界に立っている。不安は少しずつ抜けていってる。でも、どこまで通用するかの指標は何も聞かされていない。
強くなった──でもどのチームよりも? コーチが調べないはずがない、コーチの知識と目ならよりはっきりと比較できるはず。きっとこれはあえて言わないだけだと思う。
まだどのチームと戦うかわからない。だから言えない、それ以上のチームと戦うことになったら──止めよう、これ以上余計な考えをするのは。
「だから自分ができる100%を発揮できるように前日はしっかりと休むんだ。まぁその前にこの後は清掃しないといけないんだけどな」
でもなんだかやっぱり締まりが悪い。
掃除をして不安も全部綺麗さっぱり消すことができたらいいのに──
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