↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/46

第23話 焦る気持ちと知るべきこと

 午後五時になるとコーチは練習終了の合図を出してくれた。

 息も途切れ途切れ皆が全力で練習したのがわかるぐらい青春の汗が迸ってる。サボってるとか余裕を持ってやってる子なんていない。徹底してクールダウンを行ったら皆の練習スイッチが切れて──


「いやぁ~今日も頑張ったぁ! ウチお腹減ってきちゃったから今晩は大盛りもいけそう!」

「ですね……でも、腕がちょっと震えますから食べるのも大変そうです……」

「腕もパンパンになりそうデス! このまま続けていたらムキムキになってもおかしくありまセンネ!」

「休養をしっかり取るんだぞ。休養こそが身体を作る大事な練習でもある!」


 ほのぼのとした空気になってオンオフしっかりしてる理想的な部活動だと断言できる。

 でも──


「コーチ、今いいですか?」

「どうした? 何か相談事があるのか?」

「はい! 私、もっと強くなりたいです! 私達が努力しているように他のチームも努力しているはずです。なら、渡り合う為には今の何倍もの練習をしなければならないと思います! だから限界まで練習させてください。それに自主練もしたいです!」


 練習試合までに間に合うのかわからない──

 以前までの練習と比べたら凄く理に叶ってるのはわかる。でも、残り三週間ちょっとでどんな相手にでも勝てるぐらいの強さが得られるなんて夢物語も良いところ。

 私の願いに対してコーチは真剣な表情で向き合ってくれて。


「蘭香、それは許可できない。最初の方にも言ったが今の練習でギリギリだ。ケガせず効率的に鍛えられるギリギリを攻めている。何より疲労を取り切ることも大事な練習だ。疲労が残った状態で練習を重ねても身につかない。何より明日の学業に影響が出れば注意が入る」

「私の腕はまだ上がります! 後悔したくないんです! やれることを全部やって勝ちたいんです!」


 コーチは正しいことを言っている。私のワガママを引き受けてくれて最善を尽くしてくれている。練習メニューにだって納得してる。でも、100%ギリギリをじゃ足りない不安が粘り付いている。

 あの時あれをしていればなんて思いたくない。

 アタッカーからディフェンダーになったグリフォンをしまった。そこまでやったのに何も得られずただ廃部になるなんて、納得できないし認めたくない。

 もしも……もしも負けてしまったとしても……その時の自分は納得できていたい。


「確かに蘭香は間違ったことを言っていない。勝つ為に自分の限界を超えるような事態は訪れるだろう……わかった。ただし、制服に着替えてからだ今の蘭香に必要な特訓を与えるそんなに汗もかかない、シャワーも済ませとくんだ」

「ありがとうございます!」

「……コーチーなんかHな特訓させようとしてる?」

「違います! 全く耳年増なんだから。真面目な話だぞこれは!」

「あはは、にっげろ~!」


 鈴花ちゃんがからかって逃げてく、でも冷静に考えると練習を希望しているのに汗を全部流していいのかな?

 とりあえず言われた通りシャワー浴びて着替えていつもの部活終わりの格好になる。


「この後はどうするんですか?」

「じゃあゴーグルだけ着けてスレイプニルとシールドを装備してくれ。そして、これを床に置くんだ」

「? バッテリーはいらないんですか? それにフラフープ?」

「そいつを床に置いてその中に立つんだ」

「こうですか?」


 どういうことをするのかイメージが沸きにくいけど何だか漫画であった「この円の中から一歩も出ずにお前を倒してやろう」みたいな感じだ。


「今から俺がトイで蘭香を撃つ。蘭香はシールドで弾丸を防ぎ、弾切れと言った隙を見極め俺を撃ち抜け。無論その輪の中から出るのは禁止だ。輪から出たり弾を受けた時点で終了だいいな?」

「わかりました」

「じゃあ始める──」


 これはどういう意図があるんだろう? シールド使った防御能力を高める練習でいいのかな? フィールドを形成する訳でもなかった。体育館みたいにひらけた場所みたいになってるそのど真ん中に私は経っている。遮蔽物が無いし他に気にする要素も無いなら当てられる。

 まずはコーチが片手でグリフォンを向けて連射してくる。それをシールドを展開してがっちり構えて受け止める。

 ジリジリと左へ歩いて回り込もうとして中々憎たらしい動きをしてくる。左腕に構えたシールドを右半身側に寄せないといけないからシールドが邪魔になって右手で撃ち難いったらない。

 チュンチュンと直撃音が絶え間なく続いていく。半透明の壁からコーチの動きを確認するけど動き方に変化は無い、素早く動いて回り込んで撃つつもりは無いのかな? だとしたら焦ることはない。シールドは壊されない、勉強済み──動きはゆっくり、射程距離ギリギリのマシンガンの弾じゃ絶対に無理! 落ち着いて弾切れになったタイミングで──

 弾が止んだ! 今だ──! 体勢を変えてスレイプニルを前に突き出してコーチ目掛けて──

 

「──あれ?」


 胸に当たるデコピンのような衝撃。私が弾を発射するよりも早く届いた。私が右半身を前に出した瞬間、シールドからはみ出た僅かな身体を打ち抜かれた──

 弾切れのはずだった──なのにどうして?


「残念だったな、約束通り今日はこれで終了だ」

「どうして? 弾切れじゃなかったんですか!?」

「初歩的なテクニックだ、連射系は弾切れのタイミングを計り難いことを利用し全部撃ち切っていないだけ。グリフォンの最大装填数は50、今撃ったのは49、蘭香が撃つタイミングを見計らって撃った」

「そんな……もう一度、もう一度お願いします!」

「さっきも言ったが弾を受けた時点で終了だ、装備を外して帰宅するんだ」

「時間ならまだありますよ!」


 何時でも帰れるようにしていた理由がなんとなくわかった。でも、納得できない! 五分も経ってない完全下校まで30分近く残ってる!


「……厳しいことを言うがこのテクニックに予想が着かないぐらい頭が働いていない蘭香じゃ何度やっても同じことだ。盾から身を出さずに撃てばまだ長引くこともできたが心のどこかでシールドの重さが辛いと出てたんだろう?」

「…………」


 うっ、言い返せない……無意識的にどこかで楽な動きを私は選んでたと思う。見えている情報を素直に受け取って状況を自分にとって都合の良いようにしか受け取ってなかった。


「いいか蘭香。ワープリというゲームは肉体の強さが絶対ではない無限のスタミナや1000kg持ち上げられるような筋力がある相手でも小学一年生なその辺の少女が勝つことができるゲームでもある。大切なのは頭脳、頭の回転の速さ、戦術の引き出しの多さ、ほんの少し先の未来を想像する力。蘭香は残ってまでしたかった特訓はなんだった?」

「それは……」


 思いつけなかった……とにかく練習しなきゃって気持ちがとても強かった。

 休むことの重要性はわかっていても身体を動かしていないとまとわり着いたモワモワした不安が振り払えないと思ってた。

 

「焦る気持ちで生まれた行動は大抵碌なことにならない。焦らずとも肉体を鍛える練習はしっかり行えてる。これ以上は一歩間違えればケガをする危険領域。ケガをしたら今までできていたことが急にできなくなる可能性も高い。いいか? 身体を休めているのを怠惰だと思うな、次に鍛えるための準備期間だ。何より身体を休めても頭は休めるな、ひたすらに学び想像するんだ。白華に合格し高等部に到達できた頭脳があるだろう? もっと多角的にワープリを学ぶんだ」

「わかり……ました……」


 念入りに諭すような言葉だ。今日はこれ以上練習しても意味が無い、身に付かないってことをわからせるみたい。本当にケガさせたくない気持ちが伝わってくる。

 ……私が強くなるにはコーチの指導が必要。私が思いつく自主練したって効果は低い。むしろ明日の練習に響くかも。ここはコーチの言う通り焦らないでおこう。

 でも、多角的にワープリを学ぶと言うのはどういうことだろう?


「望むなら同じことを明日もやってやる。完全下校までの30分、他の皆も気になることがあるなら教えたりする」

「ハイハーイ! じゃあ早速ウチから質問いい?」

「構わないぞ」

「多角的ってどーいう感じ?」

「自分で見つけるんだ。と言いたいが一つは例を出さないとな──自分が使っている道具を完全に理解しているか? 重さは? 長さは? 射程距離は? シールドは何発で破壊できるか? 相手を何発で倒せるか? 思い浮かぶ疑問に全て答えられるぐらいに知り尽くし身体の一部として認識できれば選択肢は自ずと増えてくる」

「……なるほどぉ~! じゃあウチのヒュドラも知り尽くしてあげないとってことだね」

「ベルセルクも……!」

「じゃあ持ち帰って可愛がりま~す。ニックネームとか付けた方がいいんかな?」

「ベルちゃん……?」

「巨獣が妖精感あるぅ~」


 ティンカーベルかな?


「バラバラにして調べてもイイデスカ?」

「専門の知識がないと危ないから止めなさい。オーバーホールとかしたいなら俺が一緒にするから」

「助かりマース!」


 自分が使っているトイについてちゃんと知っているか……スレイプニルは元々コーチの相棒──反抗心がフッと湧いてきて八つ当たりみたいに私は言葉を投げかけてた。

 

「コーチ、スレイプニルの長さは?」

「銃身だけなら250mm、全長310mm、グリップ80mm、重量610g、有効射程距離19.5mで通常より少し短め。俺がそいつの知らないことは何にもない」

「19.5m……っ!?」


 スラスラと迷いなく自信を持って答えてくれたけど、驚きと同時に寒気も感じた。

 今の練習──グリフォンの射程距離は約20m、それも射程距離ギリギリで撃ってた、50cmの差。まさかコーチは……届かないことを完全に理解した上であの位置にいた!?

 私が撃つタイミングに合わせて冷静に撃てばよかっただけ……ってこと。

 有効射程距離の存在はちゃんと知ってたはずなのに、不甲斐無い!

 コーチはそれだけ知っているような相棒を私に託してくれたのに……私は全然知らなかった。ちゃんと受け止められてなかった……!

 身体がどれだけ強くなれたとしてもそれじゃあダメだ!

 ただなんとなくっていう軽くて薄っぺらいモノを押し付けながら今までバトルをしてきた、さっきみたいに起きたことを全て説明できるぐらい戦術を考えないとダメだ。多分コーチはさっきのが失敗したとしても次の策は用意してた。

 これはコーチからのメッセージだ、それぐらいのことを頭に入れて戦えって。


「思った以上にちゃんとしてるコーチね。蘭香は頑固にやり抜く力があるけど、今回ばかりはコーチの方が正しいと思う。あたしだって蘭香がケガするのは嫌だから」

「うん……わかってる、しっかりと勉強して明日こそコーチの眉間に弾当ててみせるから!」

「やる気よりも殺る気スイッチ入っちゃってるじゃない」


 もっともっと知らないといけない。トイのことはもちろんだけど、戦術も。

本作を読んでいただきありがとうございます!

「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら


ブックマークの追加や【★★★★★】の評価

感想等をお送り頂けると非常に喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。