第22話 新たな週
廃部を賭けた練習試合に向けての猛練習!
コーチが来て月曜日からしっかり練習を行うのは初めて。ある意味今日からが本番。
胸の高鳴りを感じながら今日もワープリが始まる!
「ではまずダッシュ&ショットを行うが前より負荷をかける。さらにこれからは個別に音を流す。理由は速い者に合わせれば遅い者はケガの元、逆ならば練習にならないからだ。インカムから流れる音の速さにしたがって動いてくれ」
「「「「「はい!」」」」」」
皆の声が揃って返事をする。うん、やる気マンマンだ!
「そして、全員練習の際にはこのアームウェイトを装着してもらう」
コーチが私以外に皆に渡したのは手首から肘まで覆って巻けるちょっと膨らんでるバンド。名前からしてなんとなくわかったけど。
「こーいうの漫画だけかと思ってマシタ。でも、何だか楽しそうデス!」
「コーチーったらウチ達イジメるの好きなんだから。実際こんなの着けて動き回るなんて初体験っしょ」
「で、でも鍛えられそうですよ……」
「────嘘でしょ、頭脳担当にやらせることじゃないわ」
それを付けながら動き回るってこと!? 何だろう……慣れてきたっていう慢心の精神を容赦なく叩き折る練習だよこれは……!
菫ちゃんなんて頭抱えて言葉を失ってるし──
でも私はシールドっていう重いトイを持って動いてたから慣れてる部分もある! まぁ、まだほんの二日位だけど。
「全員重さは違うがまずはその重さから初めてもらう、これは徐々に重さを増やしていく。そして蘭香、君にはこれを追加で装着してもらう」
追加!? その言葉にビクリと嫌な予感がする、コーチが新たにとりだしたアームウェイトを見た瞬間に顔が強張った。膨らみがデカい……!?
それにシールドも!? 両方付けたままやれって、肩が外れかねないよ!? 恐る恐るとその両方を受け取ると──
「……って何コレ!? シールドはめちゃ軽いけど重りが凄い!? 本気で言ってますコーチ!?」
「当然本気だ普通のシールドを付けたまま練習を続けると左右で筋肉の付き方が歪になりかねない。その措置として激軽のプラ製偽シールドと左右シールドと同じ重さの約2kgのウェイトを装着して練習をしてもらう」
あぁ~なるほど、天秤の重さを揃える感じにだ。
正しく鍛えられそうで言葉を失っちゃうよぉ……。
「ハイ! これの目的はなんですか!」
「下半身だけでなく上半身も鍛える目的だ。加えて素早くトイを構えられるようにするためであり、持久力を高めるためだ。試合中に疲労で腕が上がらないなんて状況に陥らないための練習だ!」
「りょです!」
鈴花ちゃんの質問でどこを意識すればいいのかわかった。
どこを狙うかの判断力、正確に当てる命中率、素早く目標地点に動く瞬発力、それを行い続ける持久力、さらに腕の瞬発力まで加わった。
「まずは10分! 速度は遅めにしてある、無理せず身体を慣らすように! はじめ!」
インカムからドレミが流れる。確かに遅めだけど前の始まりより速い……矛盾してるって──でも今からこの速さなら後半はどうなるんだろう?
セイラちゃんと私は同じくらいのペースかな?
スズちゃんもそんなに変わらない? 菫ちゃんと向日葵ちゃんが大分遅い感じだ。
到着、狙いを……重い──! わかってはいたけど腕を上げると下に引っ張られる感覚が凄い! この状態で左右に振って狙いを定める必要がる。ダメだ今までみたいに連射ができない!
皆も同じ状況みたいで以前まで出来ていたことが急に難しくなった感じだ。
「これは鍛えられそうデスネ……!」
最初の数分は軽口を叩けそうな余裕はあったけど、五分過ぎてくるとかなりキツくなってきた。ドレミは速くなり腕は上がらなくなってくる。
もう私は……狙って撃つのが辛くなってきた。私は皆より重りが強めっていうのが原因だと思うけど、セイラちゃんや鈴花ちゃんはまだまだ余裕そう。
「よし10分だ! 一度10分の休憩を挟む。ウェイトをもっと重くしたい人はいるか?」
とんでもないことを言ってるよこのコーチ!?
こんな短い時間でも負担が凄く大きいって言うのに……。
「ハイハーイ! ワタシまだいけそうデース!」
「身体に痛みは?」
「? ナイデスヨ。ドント来いデス!」
余裕を持って手を掲げているセイラちゃんとコーチはスクホの画面を見比べながら何か確認すると頷く。
「……よし、負荷を上げる。500gで様子を見よう」
「ムキムキになりマース!」
「じゃあウチも!」
「鈴花はまだダメだな、まずはその重さで命中率を高めていくのが重要だ」
「えぇ~ていうかウチもシールド持ってるのに何でランセンパイと同じじゃないの? ウチだって筋肉結構付けた方がいんじゃない?」
「鈴花は運動を上手に行う頭脳を持っているが運動に慣れた肉体にはなっていない。無理に熟練者達と同じことをするとケガの元だ。今でさえ相当ギリギリを攻めているのを忘れないでくれ」
「はぁ~い……まぁその心配が嬉しくもあるけど」
なるほど……その思惑通り皆消耗してるのがわかる。セイラちゃんがコーチの想定以上の体力オバケだったということなのかな? 私もここまでセイラちゃんが動けるとは思ってもなかった。
その反対に菫ちゃんは本当にギリギリのギリギリを攻めている感じがする。またもや疲労困憊に陥って大の字になって倒れてるよ……。
「次は指示撃ちターゲットだ。これは主にサポーターの訓練になる」
「ハァ……フゥ……サ、サポーター……つまり──あ、あたしを殺す訓練……ってこ……と!?」
「俺はそこまで鬼にはなれんぞ。今度はそんなに動き回らない。いや、正確に言えば八重さんは動くよりも判断力を培ってもらうことになる」
「はぁ……どういうこと……?」
「説明はフィールド更新の後だ」
という訳で休憩中にフィールドの再構成が行われ、次に入るとそこは現実を参考にした自然公園。
UCIで作られた木々が視界を遮り隠れたり中途半端な広さの草地で接近戦を仕掛けるのが要求されるフィールド。密と疎を意識して動かないと一方的に的にされちゃうのが特徴。
「訓練名は『リード・ターゲット』合計30体出てくるターゲットをどれくらいの時間で倒せるか測るものだ。これから蘭香、セイラ、鈴花、南京さんの四人はフィールド内の適当な位置に散らばってくれ。八重さんはリブラの探知や視覚を使ってフィールド内に出現したターゲットを感知。四人のうち誰かに指示を送って破壊させるんだ。四人は指示があるまでトイで攻撃したらいけない」
なるほど、これは私達が動き回る訓練だ。菫ちゃんの判断力と指示力の強化、要は頭を動かすことに集中することになる。
──それに私達が決めたマス目を正確に理解する練習でもある。
「ハイハーイ! 仮に目の前に現れても倒したらダメなんデスカ?」
「そうだ、これは指示をする練習でもあり、素早く決められた場所に移動する訓練でもある。的から近い位置にいる仲間を正確に認識して指示を送るんだ──後そうだ、ブレードの使用は禁止だから今の内に取り外してくれ」
「ふぅ……了解したわ。早速始めましょう」
という訳で皆がフィールドを良い感じにバラける。何を言う訳でもなく真上から見たらフィールド全体に砂時計型陣形で広がって私は今D-8に立っている。
右上が私の領域、この立ち位置なら良い感じに的も見えるはず、冷静に落ち着いて呼吸を整える。この訓練でも重りを着けて行われる。
ブザーの音と主に始まる──
「蘭香 G-9」
「はいっと!」
「蘭香、C-11」
「よし!」
「セイラ、A-3」
「ハイデス!」
「蘭香」「セイラ」「鈴花」「蘭香」「向日葵」「蘭香」──
名前を呼ばれる度に走る──また走る。繰り返されるまるで犬になった気分になっちゃう。
大きく動けば陣形も歪む、移動した先からまた別の的に向かって移動となると最初の位置とは離れていく。鈴花ちゃんと目が合うこともある。
練習の甲斐もあってか素早く動けるけど……何だか私の出番多くない? 考えすぎかな?
ターゲット自体は動かないただの的だけど本番を想定した耐久度、綺麗に当てることができればスレイプニルなら一撃。でも必ず全てが上手くいくわけもない──
重りのせいで徐々に腕を上げるのがキツくなってきた……!
「蘭香、A-5」
「任せて……あっ!」
「どうしたの?」
「弾切れだ! バッテリーもゼロ!」
「ええ!? それじゃあ……鈴花」
「りょ!」
完全に頭から抜け落ちてた──
まさかバッテリーも本番同様の設定されてるなんて……今更だけどスレイプニルの燃費だと大体16発は撃てるはず、UCIの回復も加味すると二発位は追加で撃てるのかな?
あれ? でも、残弾数も考えるとこれって中々難しい訓練じゃ?
グリフォンなら最大装填数で二体しか倒せない、さらに完全にリロードできるのは3回、合計8体しか倒せない。ショットガンのサラマンダーなら全弾を芯に当てれて11体。
向日葵ちゃんのベルセルクなら最初の装填も合わせて6体。
もしかしてこれって……狙いが外れたりすると30体倒せなくなったりしない? ブレードが使えないってこういうことも考えられているってこと!? 中々に性格が悪い気がする……。
とにかく今私は動けないから3人に負担を強いることになってる。当然動く距離が伸びてく。私が担当しているエリアもセイラちゃんと鈴花ちゃんに任せることに。
その結果──
「25分15秒。最初の方はかなり素早かったが後半になると、動けるメンバーが限られて遠くても動かす羽目になっていたな」
「……どうせあたしの指示が悪かったっていうんでしょ」
不貞腐れちゃった……。
「いや、初見でやり切れたのだからよくやったと褒めよう。正直全員弾切れで30体倒せないかと予想もしていた」
やっぱりそこまで想定してたんだ!?
「コーチー、ちなみにこの特訓の目的って?」
「サポーターの瞬間的な判断力、全員の状況を把握する力を養うことだ。アタッカー達はフィールド記憶力に最短ルートを瞬間的に把握する力と当然瞬発力を鍛える狙いがあった。加えて意識的か無意識的にしろ頼る相手を見ておきたかったのもある」
「……っ!」
「八重さん、蘭香に頼りすぎだ。確かに動けるしトイの威力からして頼りたくなるのもわかるが一人を充てにするような戦い方は相手も理解する。注意するように」
「わかった……」
なるほど……むしろこっちの方が目的だったりしないかな?
「とはいえ、指示の難しさは相当なものだ。他の人にもやらせてその気持ちを理解してもらおうか?」
「は?」「え?」「エ?」「はい!?」
何、淡々と言っちゃってるの!? ちょっとそれは予想外すぎて全員ビックリしちゃうって!?
コーチ的には菫ちゃんにヘイトを向けないようにさせる心遣いなのかもしれないけど、皆そんなことは思ってないよ。だって助けられた方が圧倒的に多いんだから。
でも……正直その提案は何だか面白そう。
「じゃあ次は誰がやる? 希望者がいなかったらこっちが決めるが?」
「はいはーい! ウチやるウチやる!」
「じゃあ今度は一番速く手を上げた鈴花だ、八重さんは休憩も含めて使い方を教えてあげてくれ」
「ふぅ……わかったわ」
やれやれみたいな表情で菫ちゃんに説明し始めてる。私も興味があるから近くで眺めることにする。
菫ちゃんに甘えっぱなしというか趣味に合わなくてドローントイとかには触れてこなかったもんなぁ。画面見て指示を送るのとか難しそう。動き回るより気配を消すようなことが求められるから
確か菫ちゃんがバトルする時は……左腕にスクホのホルダーがあってその画面を開いて、時計を見る感覚で画面を見てたんだったかな?
「この画面がフィールド全体を示してるわ。この青い矢印が味方の皆を表してて、赤いのが敵を表してる。ドローンは楕円型、薄い黄緑の円がその索敵範囲」
「ほんほん」
「ドローンのコントローラーはコレ。左手だけで操作できるわ」
ソラマメ型のコントローラーで包むように握るタイプ。親指で前後左右を操るスティック、人差し指で上昇、中指で下降。薬指で効果発動、小指は……コントローラーを押さえる用だったかな?
一応落下防止ストラップが装着されていて落したりすることはない。菫ちゃんは確か左右一個ずつで二機のドローンを操作することもできたはず。
「……え!? じゃあ左手はこんな風にコントローラー握って、手首から肘まで画面伸ばしたスクホ
、右手はフリーだけど多分何かやってますよね?」
「一応相手のタグ付けとかね、トイ情報を教えてくれたら赤いアイコンを長押ししてトイの種別だけでも記録するリブラが壊されたりとか範囲外に逃げたら敵アイコンの動きは自動で更新されなくなるから消したり手動でスライドしたりね」
「ひょえ~……それを生き残りながらやってるって訳ですね。知らなかったぁ……マジリスペクトだわ」
「体力無くても指の器用さなら負ける気がしないわ。後そうね、ドローンを自動で動かすさいの進路もここで決められるわ、長押しスライド、急停止にならダブルタップ。それとインカムに指示する際って基本的には全員だけど誰か一人に送りたいなら名前のある仲間の青いアイコンを長押ししながら話せばいいわ」
「慣れるまで時間かかりそ~」
訓練が始まると鈴花ちゃんのその予感は的中して。
「ランセンパイ、O-7です」「ヒマチー、C-5」「次は……いた、スミセンパイR-11お願い」「セイラセンパイG-4です」
どこかたどたどしさが感じられる指示に、位置が分からなくなって探す場面も何度かあって止まることも多くなった。その結果──
「32分20秒。ルールの把握はばっちりだが一つ一つの指示に戸惑ってた感じだな。あとはドローンの操作が要特訓だ。ただ初めてにしては良く出来ていたやり切れるとは思ってもなかったぞ」
「褒められたけど悔しぃ~後発の身としてはせめて30分は切りたかったぁ!」
それに二度目となると私達も意識が違う。弾切れという可能性があるから無駄撃ちはしない。一射一射を丁寧に行ってた。それに鈴花ちゃんも偏らないように指示をしてくれた。
弾で止まるという事態に陥らなかったのは流石だと思う。
「うぅ~どしたらもっと速くなるん?」
「トイの性能も頭に入れておかないといけないわね、ベルセルクならフィールド全体が射程距離でもあるけど、リロード時間に装弾数の問題がある、外した場合のデメリットは他よりも大きい」
「プ、プレッシャーです……」
知識的な面だとそう……でも、もっと根本的に縮めることができる部分はあったんじゃないかな? コーチのやることには色々裏があるというか目的がある。30分という時間を使ってる、運動強度としては低めだけどやらせた。そうやらせるつもりだった。
鈴花ちゃんが手を上げなくても誰かを選ぶつもりだった。だったら何かしら意図がある。
これが本番だと想定して考えてみよう……鈴花ちゃんがサポーターになった場合で。
「今回はサポーターだけが指示をすることになっていたが本番だと誰がどう気付くかはわからない。南京さんだけが気付けたことも、蘭香だけが知ることができた情報も出てくるあるだろう。素早く、簡潔に的確に共有することが大切だ」
7分近くの差、錬度以外にも何かあったと思う。鈴花ちゃんはボトルネック部分を把握した上でも差があった。
菫ちゃんは本当に遠慮なくズバズバと……
「そうだ! わかったよ!」
「うおぅ!? いきなり大きな声を出さないでくれ……」
「あっ、ごめんなさい、でもコーチ! もっと効率的に指示し合える方法を思いついたんです!」
「ほぅ……言ってみろ」
コーチの試すような期待しているような目。
やっぱり、コーチの中には既に答えか何かが決まってて待ってたんだ、だったらきっとこの答えはコーチに応えられるはず!
「敬語を辞めればいいんです! 向日葵ちゃん達が私達に対して上下関係気にせず声をかけてくれたらもっと迅速かつ心が通う気がします!」
敬語の有無に先輩後輩──
その距離感が指示への深さにも関わって来ているんだと思う。
白華は礼節を重んじる校風でもあるから、どうしても失礼にならないかが頭に過ぎっちゃう。それに家柄。例え最速なら絶体絶命を避ける指示だとしても、親会社の子に対して子会社の子は無礼な態度は取れないみたいに言葉をどうしても選ぶ。
白華には珍しくない生徒同士の関係性が指示を遅らせている──
「つまり……? えっと、わたしがその蘭香先輩のことをランさんみたいに……?」
「そうだよ! 遠慮なんて壁を取っ払えばお互いに出せる指示も増えるはずだよ!」
これが答え!
コーチの表情も──
「正解だ。まったく……こんなに早く求められるとは予想外だったな。君達はワープリにおいて共に戦う同士でもある。互いに敬意はあってもいいが遠慮は不要だ、敬語で話さなきゃって意識を無くすんだ。鈴花の時も簡潔に指示を送ることができていればもっとタイムは縮められていた。とはいえ、これには全員の意思が揃ってないといけない。年下に舐めた口調されるのが気に食わないなら無理だ」
視線が自然とセイラちゃんと菫ちゃんに注がれる。
私が言った以上私は受け入れてるし問題ない。上級生が許可を出さないと下級生は呼べない。
「白華の校風ね……勝率を1%でも上げられるならそうすべきよ。というかあたしが全員呼び捨てで指示してるんだから構わないわ」
「思えばワタシ、もとからランカ、スミレでしたネ!」
よし!
「じゃあウチ的にはヒマチー、セーラー、ランラン、スミーって感じかな?」
「私パンダみたいな呼び方になってる?」
「セイさん、ランさん、スミさん……でしょうか?」
「モットくだけていいんデスヨ!」
「まあ、今まで習慣化していたことを急に変えるのも難しいものだ。少しずつ壁なんて取っ払っていけ、勝つためなら最善の位置にいる人を素早く頼るんだ。蘭香も言った通り同じ目標を持った仲間だということを忘れるな」
これで少しはお互いの距離が近くなってくれるかな?
そうしたら連携も今まで以上に取りやすくなったり……もしかして! コーチってそこまで考えて今日の練習を取り入れた!? 変化のきっかけを与えるために?
そこまでは流石に考えすぎかも? いやでもなぁ……あの顔はこれが最善だってわかってた感じだもん。
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