毘沙門天 香
香と智子は指定した廃屋ビルの4階にいた。
手には強い鍋の蓋を2個両手に持っていた。
智子は任務の対象外であるため、身の危険は無いと判断し、普通に香の側に付き添っていた。
『香~?ホントに大丈夫~?鍋の蓋なんかで~?謝った方が何か無難じゃない~?』
智子が不安そうに見ていた。
『ちょ、智子!無理なんだってば!男は任務の事しか頭に無いんだから!』
香が怒った。
『だって鍋の蓋でしょ~?あっち多分ナイフだよ~?』
智子が半べそをかいている。
『しっ、静かに!来たわ!』
香の雰囲気が変わった。
『ごめん智子、暫く黙っててね、戦闘態勢に入るわ、気を研ぎ澄ませるの。』
香は真剣になった。
『戦闘レベルを極の領域まで高めるわ!
『仁王の構え』よ!
動体視力を極の域、『阿形の領域』に!
捌きの処理速度を極の域、『吽形の領域』に!
これが戦闘態勢を極限まで高めた『毘沙門天』香の構え『仁王の構え』よ!』
香の戦闘態勢が整って暫くして、窓から風神が、ドアから雷神が同時に入ってきた。
『わざわざ御丁寧に外と中から逃げ道を塞いできたのね。そんなことしなくても逃げないのに。』
香がそう言いながら構えをとった。
風神と雷神は、香を見るや否や、大きいアーミーナイフで切りかかってきた。
『ちょっ!あんた達、ホントに容赦ないわね!』
香は鍋の蓋で綺麗に二人の攻撃を捌いた。
火花がバチバチと散った。
風神と雷神は次々怯むことなくナイフで刺しに来た。
香は次々と二人の攻撃を鍋の蓋で捌いている。
火花がバチバチと散っている。
智子は息を飲んだ。
10分ほど香は二人の猛攻撃を捌いていた。
すると余裕が出てきたのか、香は二人に話しかけてきた。
『無理よ、あんた達じゃ、私には勝てないわ。』
香はカンカン音を立ててナイフを捌いている。
『私はスパコン並みの処理能力を持っているのよ、あんた達の攻撃を必要最小限の力で捌いているの、だから時間が経つにつれて、あんた達に疲れと云う隙が出てきているのよ。
それに私の学習能力も高いの、一撃一撃捌く度に学習しているのよ。私を仕留めるとすれば、一撃目がチャンスだったのよ。』
香はまたカンカンと音を立てて二人の猛攻撃を捌いている。
20分ほどすると、10回に一回の割合で、香が風神と雷神を鍋の蓋で小突き出した。
一撃一撃は大した攻撃では無かったが、二人には地味に効いているようであった。
30分程すると、次第に5回に一回小突くようになり、風神も雷神も少しフラフラし出した。
『じゃあそろそろ仕留めさせて貰うわ。先ずは実力の劣る雷神から!』
そう言うと、風神は雷神に少し勝ったと思い、心に隙が生まれてしまった。
香はそれを決して見逃さなかった!
『秘技、呼吸崩し!』
そう言って香は風神の顎を鍋で一撃した。
雷神はそれを一瞬目で追ってしまった。
香はそれも決して見逃さなかった。
続けて雷神の顎も鍋の蓋で一撃した。
二人はほぼ同時に床にドスンと倒れ込んだ。