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短編 不動仁王の新技開発!

スター流は愛と正義を掲げ、世界の平和の為に日々、戦いに身を投じる英雄たちの団体である。


平和が脅かされない時は自己研鑽に努めたり、趣味を謳歌したりとそれぞれの好きなように人生を謳歌している。


彼、不動仁王もそのひとりだ。


二メートル近い長身に均整の釣り合った筋骨隆々の上半身を晒し、鋭利な目は猛禽類の如し。宇宙に敵がいないほどの強さを求め、彼は今日も鍛錬をする。


「一万四千九百九十九、一万五千・・・・・・」


常人には到底成しえぬ回数の腕立てをこなし、彼は流れ出る汗をタオルで拭き、一息吐いた。


これは彼にとっては準備運動に過ぎない。


専用のジムで身体を鍛えた後は、等身大の人形を使用した技の練習の時間だ。


無人のリングに上がり、人形と相対する。


「往生させて殺るッ」


お決まりの台詞を口にし、果敢に人形へ挑む。相手を持ち上げ、宙高くに放り投げ、自らもそれを追ってマットを蹴り、跳躍。同等の高さまで並んだところで背後をとり、腰のあたりを掴んでバックドロップの体勢で勢いをつけ落下していく。


「不動俱利伽羅落としーッ!」


数えきれないほど放ってきた十八番の技は、完璧に極まり、脳天をマットに叩きつけられた人形は破壊力に耐え切れず、一瞬で跡形もなく消滅してしまった。


技を解き、彼はギリギリと歯音を立てた。


「ダメだ。やはり人形など相手にしても、実戦には程遠い。技の純度を高めるのは大切だが、無抵抗の相手にかけても決まるのが当たり前。これで勘違いをし、慢心してしまえば、堕落の一歩となる。それに、俺もこの技一本でやってきたが、そろそろ新技を開発する時期に来たのかもしれぬ・・・・・・」


目を閉じ、深い皺を眉間に刻みつつ、瞑想をする。


足を組み、精神を集中させ、雑念を払えば、何か見えてくると思ったからだ。


けれど、そんな彼の決意を何も知らない蚊が五月蠅い羽音を立て、周囲を飛び回る。集中を乱され、不動はいら立ちを覚えた。


「往生させて殺るッ!」


容赦なく拳を振るい、拳圧で蚊をマットに押し潰した。


衝撃の余波で練習場全体が小刻みに揺れ、鏡に亀裂が走る。周囲の被害を見渡し、彼は嘆息した。


「またやってしまったようだ」


人間を超越した力を持つ不動は力の調整に常に苦労を強いられているのだ。


少しでも加減を間違えると周囲に大変な被害が及ぶ。本人なりに気をつけてはいるのだが、苛立ちを抑えることは難しかった。


昼食を摂り、彼は仲間に電話をかけることにした。暇なら実戦稽古に付き合って貰えるかもしれないからだ。


「ジャドウ。俺だ。今すぐ練習に付き合え」


「フフフフフフ、不動よ。随分と傲慢な物言いですな。吾輩には敬意を払いたまえ」


「お前に払う敬意などない。それで、答えはどうする?」


「吾輩は酒を飲むのに忙しいのでな、お前に付き合うことはできんのだよ」


「お前を酒樽の中に漬け込んでやりたい」


仲間のジャドウを筆頭に電話をしてみたが、どれも良い返事は得られない。


「仕方ない。午後もひとりで鍛えるとするか」


誘いを諦め腹筋を開始しようとした刹那、道場の扉が開き、ひとりの人物が顔を見せた。


「カイザー! よく来たな!」


「邪魔したかな」


「とんでもない。待っていたんだ」



現れたのは金髪をポニーテールに束ね、白いコックコートに身を包んだカイザー=ブレッドだった。

不動を上回る二メートル一〇の巨体を活かした豪快な戦法を主とし、スター流でもトップクラスの実力を誇る。


普段はパン職人として働いているが、この日は休業日だったこともあり久々に顔を見せたのだ。


彼が柔軟体操が終わるのを待ってから、不動は声をかける。


「カイザー。ものは相談だが、俺と実戦稽古をしないか」


「・・・・・・フム。実戦から遠ざかっていては身体が鈍ることもあるからな。よかろう!」


「有難い」


思いがけない返事に喜びを露わにし、不動は再びリングへと上がった。


カイザーも三本ロープを軽くまたいでリングイン。


「鐘はどうする?」


「・・・・・・君の好きにして構わない」


「では言葉に甘えるとしよう」


ふたりしかいない道場で高らかに鐘の音が鳴り響き、実戦そのものの稽古が幕を開けた。


ロープの反動を利用し、互いにリング中央で身体を衝突させる。


相手の力を測るべく挑んだ体当たりは互角だった。


今度は不動が両手を伸ばし、力比べを誘ってきた。


カイザーに断る理由は何もなかった。堂々と受けて立つ。


互いの腕の筋肉がはちきれんばかりに盛り上がり、一歩も引かない。


「・・・・・・やるな」


「お前もだ」


滝のような汗が滴り落ち、マットを濡らしていく。


不動はカイザーの心臓の鼓動と息遣いに耳を澄まし、集中力を高めようとする。


だがカイザーはそんな彼の意図を読んでか、手を外して距離を置く。


間合いが開いた不動は、彼には珍しく飛び蹴りを見舞う。


甲板に命中したが分厚い胸の筋肉の鎧は掠傷さえ付かない。


逆に跳ね返され、不動は尻餅を突いてしまった。不動は口角を上げて自嘲した。


このような情けない姿を見たらガキ共は俺に失望するだろう。今がガキが誰もいなくて幸運だった。


だが、こんなことを考え恥ずかしさを隠しているようでは俺もまだ未熟ということ。


蹴りが効かぬのなら別の攻撃方法を試せば良い。


再度距離を詰め、カイザーの喉元に剛腕を叩きつけるラリアットを打ち込む。


命中。決まったが、カイザーは腕を腰に当てて仁王立ちをしたまま、動じない。


常人ならば首が吹き飛んでも不思議ではない威力だが、彼にはまるで無力だ。


接近し、怒涛の鉄拳を打ち込むが、帝王には微塵も効果はない。


「フンッ!」


首を掴まれ、一二五キログラムの不動の巨体が右腕一本だけで高々と吊り上げられてしまった。


首を圧迫されているので脳に酸素が届かず呼吸が苦しくなり、視界がかすむが、カイザーは容赦なく彼の身体を背中からマットに叩きつけた。


所謂チョークスラムを受け、不動は吐血。カイザーが技を解いても血と涎を混じった液体を口から流していた。


身体は痺れる感覚に襲われるが、闘志は枯れず。


痺れを堪え、立ち上がる。


「・・・・・・まだ闘うか」


「当たり前だ。この程度で負けては、ガキ共に示しがつかんからな」


「・・・・・・ならば、試合続行といくか」


「当然だ」


迫ってくるカイザーの巨体は不動にとってはまるで象のように巨大に思われた。


今の自分は例えるならば猫くらいのものでしかない。


それほど、実力に開きがあった。


正面から挑むのはあまりにも分が悪く、賢い選択とは言えない。


ならばどうするか。


不動は先ほどよりも高く跳躍し、斜め下に飛び落ちるような蹴りを放つ。


カイザーは冷めた目で棒立ちになっている。まるで、お前の攻撃は無意味と言わんばかりに。


だが、不動はそれを自覚していた。だからこそ、蹴りを慣行したのだ。


「かかったな」


「・・・・・・何ッ」


不動は蹴りが着弾する寸前に開脚し、カイザーの首を両足で挟み込んだ。


そこから反転してカイザーの後頭部に回ると、足の力で首を締め上げつつ、手刀を振り下ろす。


自分が食らった首絞めを返し、手刀で更に頭を攻める二重攻撃だ。


「・・・・・・ドロップキックは撒き餌だったか」


「頭を使わねばお前には勝てぬ」


不動は頭脳労働は基本的に苦手としており、戦法も特になく力押しを美学とする。


しかし、力だけで勝てないと判断した場合は知恵を使わなければならない。


筋肉重視の不動が見せたクレバーな戦法に面を食らい、カイザーは対処が遅れた。


不動にしてみれば、あとは脚力で締め上げ、血泡を噴かせれば良いだけだ。


「・・・・・・不動、キミにしてはよく出来た策だったと思う」


「称賛はいらぬ。締め落とされろ」


「・・・・・・だが、キミの策はひとつ、重大な欠点があった」


不動は渾身の力で締め上げると、カイザーは実質ふたり分の体重を支えていることも手伝い、足が震えてきた。やがて、重みに耐えかね、両膝を崩す結果となった。


重みに耐えきれず、潰されて負けるか。


それとも締め落とされ、失神されて負けるか。


いずれにせよ、カイザーの負けはここまでくれば確定していると不動は思っていた。


だが、突如として不動の締め付けの力が緩んだ。


どれほど力を加えても、締まりが停止してしまったのだ。


「なんだ。どうなっている」


困惑し、視線を足に向けると違和感の正体が判明した。


カイザーの首は不動の想像以上に太く、頑丈の為、完璧に締め上げることができないのだ。


逆に首の筋肉を膨らませられ締め付けを緩まれ、そこへ足を掴まれ、頭から撃墜させられてしまった。


カイザーが不動を見下ろしている。


「・・・・・・キミの策は私でなければKOできていただろう。そこがキミの策の欠点だ」


「俺の足四の字から逃れられることができるのは、お前だけだ」


「・・・・・・さて、次はどうする?」


「つまらないことを聞くな。戦闘を続ける。お前を倒すまでだ」



意地で答えたものの、不動の背には規格外の相手の強さに対する戦慄の冷たい汗が流れ出ていた。


渾身の策は不発に終わった。


ならばここから逆転するには奥義に頼るほかない。


不動は突進してくるカイザーを開脚飛びで回避してバックを奪うと、彼を抱え上げてから宙高く放り投げ、自らも飛んで己の最大技を発動させた。


「不動俱利伽羅落としーッ!」


全力で放った。


少しも加減はなく、カイザーの頭部はマットに深々と垂直に突き刺さった。


けれど、カイザーは巨体に似合わぬ軽快な動きで立ち上がってくる。


「少しも効いていないというのか」


「いや。キミの技を完全に無効化するのは至難の業だ」


カイザーの額が割れ、血が噴き出す。


少しとはいえ、確かに効いていたのだ。


だがこの程度の出血量で根を上げるほど皇帝は軟弱ではない。


打撃、関節技、そして自らが誇りとする技まで繰り出して尚、一矢報いることができない現実。


これほどまでに差が開いていたのかと、不動は己に怒りを覚え、拳を強く握りしめた。


今が稽古だからまだ幾らか救いはある。


もしも今が実際の戦闘なれば、強靭な敵が相手であれば取り逃がし、人類に多大な影響を与えていたかもしれない。


このままではいけない。


マンネリに陥ることなく、新たな技の開発をしなければならない。


頭で思案している間にもカイザーは距離を詰め、究極奥義を発動しようとしている。


心臓が高鳴り、全身が緊張し、神経が張り詰めているのがわかる。


カイザーは練習とて、手を抜くような男ではない。


どこまでも真面目な男だが、それが今はありがたくも恐ろしかった。


コック服の巨漢は大きく拳を引く。


最大奥義発動前の前奏だ。


「天に祈り」


呟くカイザーの全身が深紅の炎に包まれる。


彼は太陽と同等まで自分の体温を高めることができるのだ。


灼熱の拳に自らの魂を重ね合わせ、目を瞑る。


「己の行いを悔いて、来世に生まれ変わるが良い」


不動は覚悟を決め、敢えてガードをすることなく両腕を広げ、奥義を迎え入れる姿勢を取った。


「太陽の拳!」


黄金に光輝く右腕が完璧かつ正確に不動の胸を穿つ。


ロープ際まで後退し、不動は盛大に口から吐血し、白目を剥いた。


隙が大きく一見すると躱すなり防ぐなり対策のしようは幾らでもあるかのように思える、カイザーの「太陽の拳」。


けれどその実際は相手の身体を数万度の熱風で蒸発させ、魂さえも転生させてしまう恐るべきものだ。


迫力も他の技の非ではなく初見の相手は技に飲まれ、防ごうという気力さえ無くしてしまう。


最大奥義を急所の心臓を打たれた不動は現世と天国の間を彷徨っていた。


その名の通り仁王立ちから微動だにしない不動にカイザーは踵を返し。


「練習は終わりにしよう」


「いや、まだだ!」


引っ張られる感覚に気づくと、不動はカイザーの手を掴んでいた。


「少しではあるが新技の発想が思い浮かんだ。カイザーよ、お前が実験台となるがいいッ!」


不動はカイザーを放り投げた。しかし、自らは跳躍せず、彼の落下を待つ。


落ちてきたところで彼の胴を腕で固定し背骨を攻めるカナディアンバックブリーカーを極めた。


「おめでとう、不動」


カイザーは好敵手を称賛し、気を失ってしまった。


スター流屈指の実力者であるカイザーを破ったカナディアンバックブリーカー。


彼専用の名前は未定だが、そのうち良い名が見つかるだろう。

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