急接近です!?ジャドウさんとメープルさん!
真夜中の森の中に響く靴の音。
その足音にメープルはフルートを吹く手を止めた。
彼女の視線の先には後ろに撫でつけた銀髪に白い軍服、カイゼル髭の老紳士が居た。彼は拍手をして口を開く。
「流石はメープル=ラシック。フルートの腕は衰えておらぬか」
「あなたの方こそ私の音色を聞いても平然としているなんて、大した人ね」
「伊達にスター様の一番弟子ではないからな」
メープルはフルートを黒ケースに収めると、瞼を閉じ少し笑みを見せた。
ちなみに彼女は岩を椅子代わりとして腰かけていた。
「それで、私に何の用かしら」
「お前に力を貸してやろうと思ってな」
その問いにメープルは棒付きキャンディーを口の中でゴロゴロと転がしながら。
「可笑しなことを言うわね」
「冗談ではない」
「何故?」
「スター流の門下生どもを一掃したいというお前の思想に共感したからな」
「……」
「信用できぬと見えるな」
「当たり前よ。あなたはスター流の人間なのだから。
いつ裏切って痛い目を見るかわからないもの」
「案ずるな。奴らを全滅させるまでは裏切らぬ」
「……その後は?」
「想像に任せる。だが、悪くない相談だとは思うが」
メープルは顎に手を当て思案した。
ジャドウは掴みどころの無い男だ。
今回の件も表向きは共闘を持ちかけ、後に裏切ることも考えられる。
だが、自分一人ではスター流に対する復讐など無謀な話だ。
多少のリスクはともなうが、仲間は一人でも多いに越したことはない。
「渋るのであれば宜しい。お前に絶対に裏切らぬ僕を与えてやろう」
「そんなものがあると言うの」
「俺は嘘は突かぬ。証拠を見せてやろう」
彼が指を鳴らすと、メープルの目の前に一人の人間が現れた。
右半分が黒、左半分が白をした陰陽を彷彿とさせる仮面で顔を覆い、艶やかな赤毛は姫カットにしている。
背丈一七〇センチほどで、真紅のトレンチコート姿だ。
仮面の下から覗く目からは凍てつくような殺気を放つ。
華奢で長髪なので男か女か判別はできない。
謎の人物を頭からつま先までじっくりと眺めたメープルはポツリと呟く。
「これが僕なの? あまり強そうには見えないのだけれど」
「実力は俺が保証する。それで、答えは何とする」
「……わかったわ。あなたとその僕を今回の復讐の仲間に加えてあげるわ。
だけど、覚えておいて。裏切ったらその時はどうなるかを」
「よく心得ておくとしよう。では、早速、現スター流メンバー一掃計画をはじめるとしよう」
「何か策でもあるのかしら」
「無論だ。それも確実に奴らを仕留められる策がな」
ジャドウはニタリと不気味に笑うと、愛用の小型のボトルに入った赤ワインを美味そうに飲み干した。
ヨハネスと美琴は練習試合で互いに体力を消耗してしまったので、メープル討伐に出発するまでに三日も経過してしまった。
回復に時間を食われてしまったが、結果として彼らは希薄だった互いの距離感を一気に縮めることができた。
その点では成功と言えるだろう。
無類の大食漢であるヨハネスはリュックサックに大量の食べ物を入れ込んだ。
動けばすぐに腹が減る程燃費が非常に悪いので、それだけでは全く足りないのだが、食料が切れたら自腹で食べるつもりでいる。
ちなみに、美琴にはクッキーの一欠けらでさえあげるつもりはない。
一方の美琴は巾着袋以外は何も持ってはいなかった。
この巾着袋は不動が渡したもので人工に作られた異次元空間と繋がっており、中には何でも収容することができる。
彼女はそれにおにぎりを一週間分詰め込んだ。
出発の準備が完了し、いよいよ旅に出る。
「いってらっしゃい。メープルを必ず倒してくるんだよ」
スターは美琴の両肩を掴んで彼女と目を合わせ、期待を込める。
創設者からの期待に美琴はぶるっと身体を震わせた。
彼の期待を裏切るわけにはいかない。
何としてもメープルを打倒しなくては。
堅く心に誓い、白いハンカチを振って見送るスターを背に美琴とヨハネスは旅立つ。




