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手の甲にキスは挨拶なのでしょうか

「美琴様、もっと速く走れませんの?」


「もう限界でふ」


思わず変な返事になってしまいました。


旅に出てから早くも半日が経とうとしていますが、まさかこれほど疲れるとは思ってもみませんでした。


スターさんが用意してくれた大型のリュックサックに加え、ムースさんを背中におんぶしながら新幹線よりも速いスピードで走っているものですから、通常の倍疲れるのです。


ムースさんは当初は自分の力で歩いていたのですが、お嬢様ということもあるのでしょうか、出発して一時間が過ぎた頃には疲れたと不満を言い始め、わたしに背負うように指示し始めたのです。


四六時中文句を言われても困りますので彼女を背に乗せることにしたのですが、楽をしているにも関わらずムースさんは不満のようです。


やはり、彼女を甘やかすのは間違いだったのかもしれません。


「わたくし、お腹も空きましたし、疲れましたの。そろそろどこかで止まってほしいですわ」


「それはこっちの台詞なのですが……」


「何か言いました?」


「いえ、何でも」


このまま彼女を調子に乗せ続ければ、わたしは完全に彼女の従者になってしまいます。


あまり下に見られるのも面白くはないですので、どこかで彼女に一目置かれるようにならなくてはなりません。


とりあえずわたしも疲労が溜まっていますので、今日は森の中で野宿をすることに決めました。


食事(予め持ってきたソーセージや缶詰のコーン、おにぎりなど)を食べた後、土の地面に布団を敷きます。


もう一枚布団があれば良かったのですが、スターさんは一人用しか渡していません。


これはつまり、彼女と一緒に寝ろということなのでしょうか。


意外にも食事に関して彼女は不満を口にすることはなく、おとなしくわたしの隣に横になりました。


雲ひとつない夜空にはいくつもの星が輝き、とても美しい光景です。


もっともわたしは星や星座については全くわからないのですが。


同様に夜空を眺めていたムースさんがわたしの方に身体を寄せてきました。


そして不意にわたしの右手を両手で包み込むと、愛おしそうに頬ずりします。


再会した当初から思っていたようですが、彼女はもしかするとわたしに懐いているのかもしれません。


「好きです」


「へ?」


「誤解しないでほしいですわ。わたくしは、あなたの手が好きですの」


「わたしの手が、ですか」


訊き返しますと、彼女はうっとりとした表情をして。


「あなたの手はこれまで出会ったことのないほど温かみを感じましたの」


「冷え性ではありませんから、温かいのかもしれません」


「そうではありませんわ!」


彼女は頬を膨らませ、珍しく声を大きくしました。もしかすると怒っているのでしょうか。


彼女は愛おしそうな顔でわたしの手に頬ずりしながら言葉を紡ぎます。


「これまでの相手はどの方も手から殺意を宿した冷たさを感じましたの。

ですが、あなたは違いましたわ。

あなたの掌からは、わたくしがあれだけ痛めつけたといいますのに、一切の怨みも殺意も感じ取ることはありませんでした。

これまでは玩具達を殺めた後は快感が身体を駆け巡ったのですが、あなたの試合が終わった後には、これまでとは違う爽快感がありましたの」


「それは恐らく、お互いが全力で闘ったからでしょう。あなたは本当に強かったです」


「お褒めのお言葉、ありがたくいただきますわ」


彼女の話を聞いて、わたしは不動さんの言葉を思い出しました。


『文字通り命を削り合い闘った者とは時として友情が生まれることもある』


その言葉を聞いた時はよく意味がわかりませんでしたが、ムースさんと死闘を繰り広げ、こうして会話をした今ならわかる気がします。


その時、わたしの手の甲に軽いリップ音がしました。


まさか――


「ムースさん、もしかしてわたしの手にキスをしましたか」


「勿論ですわ。音がしたはずですのに聞き逃すとは、美琴様も鈍い方ですわね」


「……知っているとは思いますが、わたしもあなたも女子なんですよ」


「ご安心くださいな。わたくしにとって手にキスというのは挨拶みたいなものですわ」


それだけ言って反対方向に寝返りを打つムースさん。


ですが、わたしは気づいてしまったのです。彼女の耳が赤く染まっていることを。


でも、わたしたちは女子同士ですから、友情は抱いたとしても恋愛感情を持つなんてことは、あり得ませんよね?

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