くっつくのはやめてください!
見間違いではありません。確かに彼女はわたしと激闘を繰り広げたムースさん本人です。
しかし、彼女は試合終了後に再び地獄監獄に収容されたはずです。
それなのに、どうしてこのビルに来ることができたのでしょうか。まさか監獄を脱獄して……
「違うよ。彼女はわたしがとある条件と引き換えに地獄監獄から特別に出して貰ったんだ」
わたしの心を読んだのでしょうか、スターさんが答えました。
「とある条件?」
「さっき、君に話したカイザー君を連れてくる任務に協力し、無事に彼を連れてくることだよ。そうすれば減刑を約束するという条件を付けて、彼女はそれを引き受けた」
スターさんは自信満々に言いますが、正直なところ不安しかありません。
ムースさんは戦闘力も高く、能力も強力です。
しかし、この世の全ての人間を玩具としか思っていない性格ですから、いつわたしを裏切るかわかりません。
それに、協力するふりをしてそのまま行方をくらます可能性だって考えられるのです。
いくら相手が条件を飲んだからといえども何の策もなく手放しにするには非常に危険です。
その旨を伝えますと、スターさんは彼女を指差し。
「ムースの首元を見てごらん」
「首、ですか?」
指摘された箇所を見ると、彼女は首にトゲ付きの赤いチョーカーをしていました。
こうしてみると番犬に首輪をしているようです。
ですがチョーカーはアクセサリーですから、彼女がお洒落の一環として付けているようにしか見えず、何の拘束力もあるようには思えません。
「あのチョーカーがどうかしたのですか」
「わたしが単なるチョーカーを彼女に付けると思っているのかな。アレは爆弾なんだよ」
「爆弾!?」
「そう。スイッチを押すとドカンと爆発するアレね」
目を細めて観察してみますが、どう見ても爆弾には見えません。
彼の説明によりますと、ムースさんに装着したチョーカー型の爆弾ははめた人物以外の手で外すことはできず、スイッチさえあればどれだけ遠距離にいても爆発させることが可能だとのことです。
「つまり、彼女の命はわたしが握っているというわけだね。能力を使用しても解除できないモノだし、わたしがその気になればすぐにスイッチを押すことができるから、安心かつ安全だよ」
「確かにそうかもしれませんが、あまりにも冷酷ではないでしょうか。
爆弾を付けて脅して言いなりにさせるなんて、少しやり過ぎだと思います」
「彼女は多くの人を自分の快楽のために殺害したんだから、当然の扱いだと思うけれどね。それに依頼が成功すれば減刑だし、爆弾も解除されるし、むしろ彼女にとっては得なのかもしれないよ」
果たしてこの扱いが損か得かは本人にしかわかりません。
彼女のこれまでの所業は決して許すべきものではありません。
ですが、一度拳を交えて闘った相手としては、せめて爆弾を外したいものです。
彼女の首から恐ろしい爆破装置を外すためにも、今回の依頼は成し遂げなければなりません。
決意を固めていますと、急にムースさんがわたしにすり寄り、わたしの左腕に肩を密着させてきました。
「美琴様、これから相棒としてよろしくお願い致しますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
一応の礼儀として挨拶を返しますが、何だか前と違ってムースさんが妙に馴れ馴れしくなったようで、変な感じです。
彼女は両腕でわたしの左腕を掴んで離そうとしません。
その様子は木にしがみついているコアラのようです。
「ムースさん、離してください。これでは動くことができません」
「あらあら。わたくし達はこれから相棒になるのですから、少しぐらい距離を縮めてもよろしいと思いますわ」
「そういうものなのでしょうか……」
「当然ですわよ」
パチリと可愛らしくウィンクをするムースさん。
わたし達の姿を見たスターさんは後ろに手を組んでニコニコと笑うだけです。
一体、ここ数日の間にムースさんにどんな変化が起きたのでしょう。
これから先の旅が早くも不安一色になりそうです。
「ムースさん、少し離れてくれませんか」
「ご不満ですの? お堅い方ですわね。二人きりの旅なのですから、もっと肩の力を抜いて気楽にした方がいいですわよ」
「全然、楽になれる気がしないのですが……」




