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わたしの助っ人って……あの人ですか!?

ムースさんとの激しい闘いが終わって数日が経ちました。


わたしはこの日もいつもと同じようにビルの地下にあるスター流の特訓施設で修行をしていました。


正午を過ぎたのでレストランに行き、大好物のおにぎりを頬張ります。


スターさんのレストランは洋食が基本ということもあり和食であるおにぎりはメニューにありませんので、いつもわたしの自作です。


白米に赤い梅干しを中に入れ海苔でくるんだ梅おにぎりの酸っぱさが身体の中を駆け巡り、特訓での疲労がどんどん回復していくのがわかります。


「これで四個目ですが、おにぎりはカロリーもそこまで高くないですし、たまには少しくらい食べてもいいですよね」


レストランに誰もいないこともあってか、わたしはついつい誘惑に負け、己を甘やかしてしまいます。


不動さんがいたら激怒されて強烈な拳骨を受けていたでしょうが、彼はムースさんとの死闘により入院中です。


でも厳格なだけでは身体が持たなくなってしまいますから、適度な息抜きや甘やかしも良いのかもしれません。


わたしは四個目のおにぎりを前にして、手を合わせます。


「いただきます!」


食材に感謝して特大の梅おにぎりを鷲掴みにして、口を大きく開けます。


あと少しでおにぎりがわたしのお口の中に入り、体が幸せで満たされるのかと思うとたまりません。


開けた口を閉じかけた、その時です。


「美琴ちゃん、大事な用事があるから至急、会長室に来てくれたまえ!」


何とレストラン全体にスターさんの声が響き渡りました。


設置されているスピーカーから流れているのでしょうが、大切な用事があるからといっても食事中に呼び出されるのは勘弁してほしいところです。


とはいえ、行かないわけにもいきませんから、急いでおにぎりを食べて向かわなければなりません。


と、ここで掌に視線を戻しますと、何とおにぎりが忽然と姿を消してしまっているのです。


まさか、わたしに食べられるのが嫌で逃げてしまったのでしょうか。


いえ、おにぎりが意思を持って逃げるなど聞いたことがありません。


ということは何者かがわたしに気づかれないような速度で奪ったとも考えられます。


「わたしのおにぎりを盗んだ曲者、隠れてないで出てきなさい!」


自分の口から出た大声に驚いて口を塞いだところ、上から何か振ってくる気がしました。


上を向くと、おにぎりが真っ直ぐこちらに落下してくるではありませんか。


思い出しました。


わたしは先ほどの放送に驚いた際、空中におにぎりを投げ飛ばしてしまったのです。


このまま何もしなければ、おにぎりは床に落ちて二度と食べられない姿になってしまうでしょう。


それだけは避けなくてはなりません。


わたしは落下してくるおにぎりに標準を合わせ、口を大きく開けます。


うまいことおにぎりはわたしの口の中に入りました。


上を手で抑え、こぼれないように慎重にしながら、どうにか特大サイズのおにぎりを緑茶の力も借りて流し込みます。


「……どうにか、なったようですね。

まるで運動会のパン食い競争みたいでした」


独り言をつぶやいて、はたと我に返ります。


こんなことをしている場合ではないのです。


一刻も早くスターさんのいる会長室に行かなくてはなりません。


わたしはできる限りのスピードでレストランを出て、会長室へ向かいます。


何だか、嫌な予感しかしませんが、この予感が現実のものにならないことを祈るばかりです。





会長室の扉を開けますと、スターさんが待っていました。


そして、いつものようにハグ。


普通ならわたしくらいの年齢で男性にハグされるのは全力で拒否するのでしょうが、スターさんの抱擁は不快感を人に与えない不思議な力を感じます。


そして彼の口から語られた願いの内容は、カイザー=ブレッドさんをこのビルに連れてきてほしいとのことでした。


カイザーさんは不動さんやジャドウさん以上の実力を持つとされる人物で、本来ならば道場で彼らと同じく後進の指導にあたる立場の人なのです。


ですが、どういう訳か、これまで一切道場に姿を見せず、フランスでレストランを経営しているとのことです。そのため、わたしも彼を見たことがありません。


どんな方なのか興味があるのですが、先の二人にもまだまだ追いついていない未熟なわたしが彼を説得に行くなど、荷が重過ぎますし、新人なのに生意気だと反感を買う可能性もあります。


「ここはわたしではなく、旧知の仲であるジャドウさんに頼んだ方がいいのではないでしょうか」


わたしの提案にスターさんはわざとらしい盛大なため息を吐き。


「できればわたしもそうしたいけど、彼は失踪中でね。頼めるのは君しかいないんだ」


「どういうことです?」


訊ねますと、彼はわけを話してくれました。


スター流の本部このビルには現在、門下生がわたしだけしかおらず、不動さんと李さんは入院中、ジャドウさんは失踪中で今、敵に攻め込まれたら、呆気なく本部は崩壊してしまうとのことでした。


わたしはムースさんに勝利したとはいえ、彼女と能力の相性が良かったから勝てたものだと思いますし、不動さんの超奥義が発動することこそできましたが、まだまだ完全に極められるとは思いません。


そんなわたしが暗黒星団の大軍を相手にたった一人で闘ったら、結果は確かめるまでもなく敗北します。


どうしてスターさんがご自分で闘わないのかは謎ですが、戦力不足なのは間違いありません。


ですが、それでも自信がありません。


わたしが「無理です」を連呼して拒否をしますが、スターさんは強引に押し切ろうとします。


スター流が危機なのは重々承知なのです。


ですが、それでもわたしが彼を連れてこれると保証できる自信はないのです。


丁重に謝って退室しようとした刹那、スターさんがこんなことを口にしました。


「よろしい、強力な助っ人を紹介してあげよう。入ってきてくれたまえ!」


助っ人?


ラケットでもロケットでもありません。


彼は確かに助っ人と言いました。心強い方が相棒についてくれるというのではあれば、わたしにも任務を達成できるのかもしれません。


期待に胸を膨らませていますと、扉が開いて、彼の言う助っ人が入ってきました。


桃色の長髪に透けるように白い肌。


陶器のように整ったお胸に白色のコルセット……


えっ、ちょっと待ってください!


その人は爛々と輝く赤い瞳でわたしを見つめ、口元に優し気な笑みを浮かべています。


スターさんがいう助っ人はわたしが知る人物でした。目の前にいる人物が幻なのでしょうか。


確認すべく自らの頬をつねってみますが、彼女の姿は消えません。


「なぜ、あなたがここに……?」


どうにか疑問を口にすることができましたが、喉に急激な乾きを覚えます。


彼女はコルセットの裾を掴んで、礼儀正しくお辞儀をして言いました。


「ごきげんよう。これからよろしくお願い致しますわ。わたしの可愛い玩具さん」


スターさんが連れてきた助っ人。


それは、ムース=パスティスさんでした。

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