Orphan File
この世界は、未来を諦めた。
大量破壊兵器。暴走した自律兵器。制御不能になった創造物たち。人類が積み上げてきた“創造”は、ついに自分たちを滅ぼす側へと傾いた。創造が破壊を生む──その事実を突きつけられたとき、人類は“未来を作ること”そのものを恐れるようになった。
――いま必要なのは創造ではなく、復興と維持だ。
こうして世界は、前へ進むことをやめた。
文明はゆっくりと硬直し、誰も未来を描こうとしない。描けない。ただ、壊れないように、今をつなぎとめているだけだ。
そんな世界で――自分は一体、何を創ってしまったのだろう。
その問いが胸の奥で鈍く響いた瞬間、 視界が、現在へと引き戻される。
銀髪の彼女の頬を、涙がひとつ、静かに伝い落ちた。
だが、涙が滲むのは左目だけだった。そう、設計されている。
反対の右目は、虹彩の代わりに薄い金属板が静かに回転し、光を受けて細い線が淡く走った。そのわずかな瞬きだけで、“人間の目ではない”ことが分かる。それでも──彼女の表情は、痛いほど人間らしかった。
自分は、その瞳をただ見つめていた。
何か言わなくては。
そう思うのに、喉がひどく乾いて、言葉が出てこない。
足元には、無数の「骸」が散らばっていた。金属片、引き千切られた配線、黒く焦げた基板。それはまるで機械の臓物を床にぶちまけたような、無惨な光景だった。断線したケーブルの先端が、断末魔のような火花を散らしては消える。鼻を突く焦げた匂いが、重く大気に澱んでいた。
「…………何を創つくったの……?」
彼女の震える声。 怒りとも悲しみともつかないその震えが、胸の奥に刺さる。
自分はようやく口を開いた。
「……わからない」
紡ぎ出した言葉は、自分でも驚くほど弱く、頼りなかった。 まるで、自分自身の輪郭さえも揺らいでしまったかのように。
頬を、熱い何かが伝う。
それが自分自身の流した涙だと気づくまでに、わずかな時間を要した。
彼女は、崩れるように抱きしめてきた。
「……お願いだから……置いていかないで」
その声は、世界の終わりを拒むように強かった。腕が必死に自分をつなぎとめようとしている。
自分はそのとき、何と答えたのだろう。
彼女をひとりにしたくない。その気持ちだけは、確かに胸にあったのに。
なのに──
この記憶が、一体誰のものなのか。
今の自分には、もうわからない。
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