プロローグ
新作連載開始いたします!
楽しんでお読みいただけたら嬉しいです。
「ん〜〜〜っ!?」
(一体、何が起こっているの……!?)
目の前には、未だに直視する度不整脈を起こすほどの美貌をお持ちのルシアン様のお顔。
さらりと頬を擽るのは、普段では絶対に触れることのない肌触りの良い金色の髪。
魔法の光と同じ色を宿す紅の印象的な瞳は瞼の裏に隠され、唇や肩、腰……触れられた場所全てが燃えるように熱い。
それもそのはず、私達を取り囲むように物理的に炎が上がっているのだから……、って、現実逃避している場合ではなくて。
(もしかしなくても私、ルシアン様に抱きしめられてキ、キスされてる……!?)
これは政略結婚であり、契約結婚。
私達の間に愛はない。それなのに……。
(な、なぜ、こんなことになっているのーーーーー!?!?)
―――二ヶ月前
「エメ。お前に婚姻の申し入れがあった」
「婚姻……?」
今年で25を迎える私とは縁遠いものだと思っていたその単語に思わず目を瞬かせれば、お父様の隣にいたお姉様が机を叩いて立ち上がった。
「わたくしは反対ですわ、お父様!」
「なぜお前が反対するんだ、ドロテ」
ドロテお姉様は、美しいお顔に似つかわしくない怒りを露わにして言った。
「お相手がエメを大事にしてくださるとは到底思えないからですわ!」
「フラム辺境伯様の悪口を言うんじゃない。無礼にあたるぞ」
(……え? 今、フラム辺境伯様と仰った?)
信じられない名前が聞こえた気がして顔を上げた私の目の前で、お姉様とお父様の口論は続く。
「何とでも仰ってくださいな! フラム辺境伯様は評判が悪くていらっしゃるのですから、反対するのも当然だと思いますわ!」
「気持ちは分かるが……」
「お待ち下さい」
耐えきれず、お父様とお姉様の会話を制したことで、お二人はピタリと口論をやめ、こちらを見る。
その視線を受けた私は落ち着き払い、今しがた耳にした情報を反芻した。
「……婚姻の申し入れがあったお相手とは、ルシアン・フラム辺境伯様、ということでお間違いないですか?」
「……そうだ」
お父様も婚姻には反対なのだろう、渋々といった形で私の目の前に釣書を差し出す。
その釣書を一目見た私は……。
「……お父様」
「なんだ」
「その婚姻……、喜んでお受け致しますとお伝えくださいませ!」
「「……はあ!?」」
お父様とお姉様の素っ頓狂な声が部屋中に響き渡る。
そんな二人をよそに、私は嬉々として言葉を発した。
「お父様、お姉様、ありがとうございます! 私、おかげさまで生きる意味を見つけました!」
「は、早まってはいけないわ、エメ。よく考え直してちょうだい。フラム辺境伯は血も涙もない残忍な人物なのよ」
「それは噂に過ぎませんし、もし本当にそうだったとしても構いません! ……私は今から、辺境伯様のために生きたいと思います!」
「お、お待ちなさい、エメーーー!!」
お姉様の声を背に、私は嬉しさのあまり釣書をギュッと胸に抱いて、淑女の礼も忘れて部屋を後にした。
(うそ、嘘でしょう!? 私が……、命の恩人であるルシアン・フラム様から、求婚されるなんて!!!)




