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話し合い

ウリュウは私の回答に目を丸くして固まってしまう。


「私は嫌われすぎてて幹部会議にも出れないし、挨拶しても殆ど無視される。

正直今仕事できてることが奇跡なくらいの立場なの。

その点あなたは私に仕事をこなす意欲さえあれば……使える所があると判断すれば私を捨てない。

人として尊敬してるかは置いておいて、その点にはとても感謝してるの。」


「…そう、それで僕の為に働きたいって?君があちらでやらかしてこっちの幹部だってバレても助ける気ないし、もし寝返る事があれば殺すんだけど。

それでも……リスクを取ってレッドの補佐をするの? 」


「ええ、いい加減ここではっきりさせておきたいしね! 

私は裏切る気なんかないって! 」


「……解った、じゃあやってみて、いい報告を期待してる。

あと、君のお姉さんにも気をつけてね。まあその髪なら目立たなきゃ平気かな。」


「は、はい……! 」


ただでさえリリアの美貌は目を引く、暫くは黒髪でいた方がよさそうだ。


「それから……緑川の調査と冬樹君の引き抜きもちゃんとやっておいて。」


緑川の調査はともかく、

いつの間にかホワイトの引き抜きまで勝手にミッションにされている……


「ねえ、フユキの事なんだけど…ちょっといいかしら」


「何? 」


「彼を今組織に引き抜くのはリスクが大きい気がするわ。あなたは元々私の件を預かってる事もそうだし、ヒーロー好きの噂があるナギまで雇ってる。

そこに地球人まで迎えたらあなたの立場ってどうなるの?

せめて私が手柄を上げて信用を得るまで彼の事は待った方が良いと思う。

これは……元々やりたくないって言うのもそうだけど、客観的な意見でもあるわ、どう? 」


「確かに今の時点でかなり疑われてるから立場は危ういね。でも、君達がそれを回復できるような仕事を……

いや、この組織を乗っ取れるくらいの功績を上げればいくらでも挽回できる。

だからいつも言ってるだろ?仕事はちゃんとやれ、裏切ったら殺すって。

彼は相当強いよ、きっと役に立ってくれるさ。」


ウリュウは相当フユキを気に入っているようだ。

確かに、ホワイトが幸せならばこちらにきても問題は無いのかもしれない。


しかし本当にこのまま彼を闇堕ちさせちゃっていいのだろうか?

私が憧れて来た……光の戦士を裏切らせて……


「君の言い分も解らなくはないけど、一番大事なのは彼の意見じゃない?

そうだ、今話をつけてやるといい。」


ウリュウはそれだけ言うと、指を鳴らす。

すると音と共にフユキが部屋に現れた。


「おわ!? あれえ!? 俺さっきまでナギ君に首絞められてたのに! 」


何をしたら温厚なナギをそこまで怒らせられるのか…

それにしても不思議だ、ウリュウはどうやってフユキをここに連れて来たのだろう?

これがウリュウの能力なのか…?


「何ぼさっとしてるの? 彼をこの組織に誘ってやれよ、リリア。」


彼はそう言うと先程までの笑顔と一変して、試すような視線で私を見た。

下手な事をしたら……殺される、そんな気がする。


「あ……フユキ……昨日の続きを聞いてもいい?

どうしてうちに入りたいの?」


「えっと……俺、ヒーロー達に正義って特にないと思うんです。」


「え……」


「去年ヒーロー本部に呼び出された時、

ヒーロー本部のトップと面会しました。その時言われたんです。」


『異星人に、死を。

全ての異星人を皆殺しにしてくれないか。』


「異星人と地球人の争いの歴史についてはよく知ってます。

……一概にどっちが悪いとか言えないなって俺は思いました。

だからこそ彼の掲げる『異星人殲滅』の目標は俺の方針と大きく違います、面倒です。

それに…この能力で人の命を奪い始めたら…もう、お終いな気がして。」


ヒーロー本部のトップ……元ヒーローなのは知っているが、アニメでも顔は出てきていない人物だ。

そんな過激な思想を持っているとは思わなかった。


「俺、今のヒーロー好きじゃないです。

メディアに露出して、名声とお金を欲する。

それが間違いとは言いません、でも、正義だけに生きるコズミックブルーみたいなのを目指したのに風向きが変わってて変な感じ。

俺は今のヒーローよりずっと……リリア様の方が正義だと思うんです! 」


「私が? 」


「弱い人の為に強い者に戦いを挑み、

敵だった人の為に強い人に立ち向かって時には頭も下げる。

それが正義だと思う……いえ、それが正義であって欲しい。」


「違う……あれはあなた達の信用を勝ち取るための芝居で……!」


「今活動してるヒーローたちの正義も殆どは芝居ですよ? 」


「……! 」


「同じ芝居ならリリア様の芝居の方が好きです。

俺を部下にして下さい、俺って実は強いんです!

……強すぎて家族にも友達にも煙たがられましたが、ここなら……リリア様なら俺を認めてくれるでしょ?」


確かに筋は通っている。

こんな状態でヒーローになれと言っても失望させてしまうだけだろう。

しかしもう少し時間があれば……レッドが彼を救ってくれる筈なんだ。

だが、ここで「駄目」と跳ねのければ今度は私が殺される。


私はアニメで見て来たホワイトの姿を思い出す。

どうしたら彼の為になる答えが出来るのか?


フユキはヒーローに失望している。

そうだ、でがそれは「フユキだけ」に言えることなのだろうか?


ヒーロー本部で見たあの態度の悪いヒーロー達に比べ、

コズミックピンクとブルーはヒーロー然とした人物のように思えた。


レッドもそうだ、私と同じくらい若いのにその姿はれっきとしたヒーローだった。


彼らは…この状況をどう思っているのだろう?

そもそもナギの話を思い返せば、異星人を殲滅する事を望むトップに対し、

ブルーは異星人の子供を庇って離反している。


……ヒーローサイドにも、今の体制をよく思っていない人物がいるんだとしたら。


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私は生唾を飲むと大きく息を吸う。


「……フユキ」


「はい! 」


「逃げちゃ駄目。」


「……え……」


「ちょっとは私も考えたの、この組織にあなたが入って、幸せになれるならそれもいいんじゃないかって。

でも駄目……目標から逃げてより良い場所に辿り着けることって稀よ。

貴方の目的は何? 力を使って戦うこと? 理想の正義を実行すること? 」


「勿論その両方です! 」


「……違う。多分だけど、あなたは愛されたいのよ。」


彼は私の言葉を聞いて固まってしまう。


「否定され続けて、摩耗して。

自分は危ない存在なんかじゃないのに、役に立てるのに…そう思ってヒーローを目指した。

嫌煙される原因の能力ごと認めて欲しかったんでしょ。」


「俺……そんな……事……」


「目的を見誤っちゃ駄目、あなたが今地球人を裏切っても……誰もあなたを愛してくれない。

きっとこの組織でも煙たがれて辛い目に逢うだけ。ヒーローサイド以上に『兵器』としての活躍を強いられる筈。

理想とのギャップに絶望する姿を……二度も見たくないわ。」


「それでもリリア様は……認めてくれるでしょ? 俺の事。

何となくだけど俺、リリア様なら俺を受け入れてくれる気がするんです。だから……」


「確かに私は貴方を否定しない。でもあなたが愛されたかったのって、認めて欲しいって思ってたのって……私なの?

家族や…黄瀬ゆかりだったんじゃない? 」


「……! 」


「あなたが辛いなら逃げることも必要……きっと他にも道はあるから。

でも、本当に目指したものからは逃げちゃ駄目、より苦しくて辛い状況に転がり落ちるだけだもの。

厳しい事言って……ごめんなさい……だけど……」


彼は私の推しの一人、勿論できる限り幸せな人生を歩んで欲しいと思っているし、彼が私の傍にいるのを望むなら尊重したい。

しかし何度考え直しても、ブラックホール団にフユキが加入する事は、

現実逃避でしかないように感じてしまう。


彼は私に無言でにじり寄る。

まずい、怒らせただろうか?

フユキは手を広げると、そのまま私を抱きしめた。


「……はい!? 」


「やっぱりリリア様は『いい人』です!正義があります!

俺の事……本当は怖かったんでしょ?ちょっと声が震えてました……

それでも俺の為に意見してくれるの、嬉しかったです。」


「ちょちょちょ……離れなさい! 」


あったかい! いい匂いする! これが推しの抱擁……!


「言いたい事はそれだけ? リリア」


私が推しの抱擁に浮かれていると、凍るような冷たい目でウリュウが言う。

解ってはいたが機嫌を損ねてしまったようだ。

ここから巻き返せたらいいのだが……

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