話し合い ①
ただの生徒ならドアを閉めて笹木先生を待てばよかった。
しかし、そこにいた生徒はただの生徒ではなかった。一人はこの学校のだれもが知る馬ケ背高校の現生徒会長。成績は常に上位をキープしており、外見は完全に『勉強のできる眼鏡女子』だが、運動をするときは眼鏡をとる。すると、眼鏡をつけている姿が脳内に残っているため、眼鏡をはずしたときのギャップに目を奪われる生徒が多い。去年の体育祭の生徒会長のあいさつで眼鏡をつけて登壇した生徒会長だが、話している途中に生徒会長が眼鏡を取ったことにより、二・三年の男子は歓喜の声を上げ、一年生は呆気を取られていた。
それ以来生徒会長は一年の中でもファンが出るほどに有名になっていた。
そんな生徒会長と一緒にいる生徒は俺もよく知っていた。
「やぁ、今日の昼休み以来だね。言っただろ、君は逃げられないと」
増国先輩、今日が厄日なのは間違いなくこの人のせいでもあると言える。恐らく今日の笹木先生がいつもと違いゆっくりしていたのはこの人が絡んでいるのだろう。あの先生女子バレー部顧問だし、増国先輩は女子バレー部部長だから笹木先生を使って俺を足止めした可能性がある。……生徒会長は知らんけど。
「えーっと、君が球宮くん? 知ってると思うけど一応自己紹介しとくね。私は伊勢紅葉、馬ケ背高校の生徒会長です。よろしくね」
「ど、どうも。二年三組の球宮元成です。どうして生徒会長がここに?」
「もみじにはしてもらいことがあるから来てもらったんだ」
「はぁ、そうですか。……もみじ?」
生徒会長の名前は『こうよう』だったはず、増国先輩が読んでいた『もみじ』というのはあだ名か何かか?
「……あぁ、もみじというのは私の弟の名前が光洋だからかぶってしまうんだ。だから、彼女のことをもみじと呼んでるんだよ」
「最初に呼ばれたときは驚いたわね。名字の伊勢でいいんじゃないかと聞いた時この子面白いこと言うんだもの」
面白いこと?
増国先輩は堅物そうなイメージが強いから面白いこと言う気がしないけど。
「もみじ、私は面白いこと言ったつもりはない。ただ、お前の名字は伊勢だから伊勢海老が食べたくなると言っただけだ」
「ね、初対面だから見た目で性格を決めていた状態だから面白くて」
なるほど。俺も初対面だったらクールな性格と思い込んでしまうかもしれないから、そんなことを言うとは予測できないな。
面白いか聞かれたらわからないけど。
そんな話で談笑していると俺の後ろにあるドアが開いた。笹木先生が戻ってきたようだ。
「何々、なんか楽しい話でもしてたのかな?」
「二年前の話ですよ、笹木先生」
「も~、人が少ないところではお姉ちゃんって呼んでって言ったじゃない、こうちゃん」
「それ、何年前の話ですか!」
「はははっ、顔赤くしちゃって、こうちゃん可愛い~」
「かかか、顔なんて赤くしてないし⁉」
伊勢先輩は勢いよく椅子から立ち上がり反論した。
……お姉ちゃん? こうちゃん?
二人は仲良さげに言い合っている。
先生は愛称で呼んでるし、伊勢先輩は珍しく取り乱してたし。まるで姉が妹をからかっているような、そんな感じだ。
「実は笹木先生ともみじは従姉妹で、とても仲がいいんだ。」
なるほど、だから笹木先生は伊勢先輩を愛称で呼んでいたのか。
笹木先生が誰かを愛称で呼ぶなんて初めて見たので少し驚いてしまった。
「そ、それで笹木先生、私をここに呼びつけてまで頼みたいことって何ですか?」
「それは、今から話す内容を聞いてたらわかると思うから待っててくれないかな?」
「はぁ、わかりました」
笹木先生の言葉を聞き伊勢先輩はため息をつくも了承して席に座った。その横に笹木先生は椅子を出して座る。
上座に先生、伊勢先輩、増国先輩の三人が座り下座に俺一人が座るという状態になった。入試の時と同じ面接試験の隊形だ。
「球宮くん、改めて私はバレー部部長の増国三枝だ。君とは昼休みの続きの話がしたくてね。まぁ、単刀直入に言うと、私たちバレー部のコーチをしてくれないか?」
「すみません、お断りします」
場に重い空気が流れる。
即答で断ったのがいけなかったのだろうか。
よく笹木先生に頼まれているせいで、バレーのことに関してはすぐに断ってしまう癖がついたようだ。
即答で断れると思っていなかったのか、増国先輩はその場に固まってしまった。伊勢先輩に関してはまだ状況を理解しきれていないようで、呆け顔になっている。
いつも即答で断れている笹木先生は苦笑いをしていた。
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