混沌マダムと報告会議
「さあ寄っていって! 鉄砲怪魚の射的だよ!」
「美味しい深淵たこ焼きあるよ〜」
屋台で物を売る海系のモンスターたち。
海系だけでなく様々な種族のモンスターで、ここ祭り会場は賑わっている。
今日は魔海の港で開催されている港まつりに訪れてみた。
会場は海の近くとは言え陸上。
海系モンスターは呼吸とか大丈夫なのか?
「やっぱりいない。リリベルはどこ行ったんだ?」
リリベルと2人、魔王軍視察扱いでここに来ている。
視察なら屋台の出費も経費で落ちるらしい。緩すぎやっほい。
が、あまりにもモンスターがいすぎて逸れてしまった。
逸れたと思われる場所に戻ってきたが、やはりいない。
「しゃあない、もう一周してくるか……」
「おにーさん、おにーさん。」
また探しに行こうとした瞬間、女性の声が聞こえた。
お兄さんって俺のことか?
どこだ?
「こっちこっち。」
気品溢れる声の方を見ると、屋台と屋台の隙間から奥にテントが見えた。
テントの入り口から上品なマダムっぽい女性の顔と手が見える。
手招きをしているようだ。
怪しい。けど興味しか沸かない。
モンスター祭の奥のテントとかどんな面白い物を出店してるのか。
「いらっしゃい、どうぞ座って。」
「はっ! ……はい。」
テントの中に入った時、思わず固まってしまった。
そこにいたのは上品なマダム……とは思えない巨体。
2メートル以上ある豊満な、デラックスと言いたくなるシルエット。
だが体はキューティクルの美しいロングヘアで覆われ全く見えない。
顔だけはスラっと整っていて若くは無いだろうが美魔女という感じ。
腕もスラっと……あれ、4本ある。
「あなた魔王軍の団長だったわよね。リリベルの配下だったかしら。
驚いているようだけど[混沌]に会うのは初めて?
私は混沌から産まれる者たちの管理をしてる[混沌母神]よ。宜しく。」
「よ、よろしくお願いします。」
上品なトーンでスラスラっと喋る混沌の母。
高圧的なようだが母性のような安心感も覚える。
リリベルを呼び捨てって事は知り合いなのか。
「こんなところが初めましてなんて恥ずかしいわね。
毎年、港まつりの一角で趣味の展示をしているのよ。
団長さん、名前何だったかしら。そうそう、タカト君だったわね。
前に見かけた事があったから呼び止めてしまったわ。」
すごい、マシンガンのように話しかけてくるマダム。
確かにテントの中は思ったより広くてオブジェが並んでいる。
俺には混沌すぎてわからないが。
花瓶に大根が生けてあるし、斧から乳が生えている。
「うーん、そうね。せっかく来てくれたんだしゲームでもいかがかしら?」
「ゲームですか……」
混沌な環境で出されるゲーム、これは怖いぞ。
「ルールは簡単よ。箱の中身を当てるだけ。」
「ああ、度胸が試される奴ですね。」
「そうね。あと箱って言ったけど、手を入れてもらうのはココよ。」
そう言ってマダムは、自分のお腹辺りにある髪をかき分ける。
中には体ではなく、手を入れられそうな穴が空いている。
「さ、手を入れてみて? 穴の中身はなんだろな〜。」
怖すぎる。でも俺は魔王軍団長だし、死にはしないだろ。
二つの意味で、えーいママよと入れてみる。
「ん? めっちゃ広い! 異空間になってるんですね。
えーっと、おわ! びっくりした。動物か何かですか?
小型で、足は四本、耳は垂れてて、毛は少し長い、尻尾……わかった!
犬ですね! しかも足短いからミニチュアダックス!」
「すごい! 大正解! よくわかったわね。」
「わんわんお!」
手を引き抜いたマダムの腹部の穴から、犬が飛び出し何処かへ行ってしまった。
「じゃあ2問目。穴の中身はなんだろな〜。」
「えーっと、温かいからまた動物か。
おっきいな、届かない……ずんぐりした大きい動物、耳は短く手は……爪が強そう。
あーこれ待って! 二色ある! どっちだ、うーん……あえてのホッキョクグマ!」
「グォォォ!」
鳴き声と共に、小さな穴から風船が膨らむように出る動物。
あ、黒かったかーーいや、白いぞ!?
「うーん残念ね。正解はパンダでした〜。」
「難しすぎる!!」
「じゃあ次の問題は……よいしょ、穴の中身はなんだろな〜。」
「よし次こそ。……これはまた動物だな。柔らかくて丸くて……あれ? 隣にもう一個ある。
ん? なんかすごい強調してる突起物がある。何だろ。」
「ん……もっと優しく触ってね……」
「!? ……あー、なんか落ち着くなぁこの柔らかさ、全然分からないけど。この突起物も、ぐりぐりしてみたけどわからないや。」
「はぁ……はぁ……分からないかな? じゃあ次の問題はこれだよ。」
「よし次はええええ! ヌルヌルで吸い込まれる、穴がきつい!」
「はあああっん! っくっ、そう、これが何かわかるかな? たくさん探ってね?」
「わかんないなぁ〜。フィスt……腕全体が締め付けられるこの感じ、ヒダみたいのでいい感じに刺激されるけど。奥の方のコリコリしたこれも何だろう。あ、この上のあたりを触ると……うわすごい締め付け!」
「ああああそう、上手ね! もっと激しく探っていいのよ。手で探るのが難しいなら、もっと違うところで探してくれても構わないわ。何か固い、棒状のモノでーー」
「やめんかこの年増がああああ!!!」
バリバリバリ!!!
リリベルがテントを破って入ってきた。
「……なによリリベル。お祭りのクイズにケチを付けに来たの?」
「あんたのクイズはガバのガバなのよ! 色んな意味でね!!」
「ぐえ」
片腕がドロドロの俺を、リリベルが小脇に抱える。
「ほら、行くわよ。」
「へーい。」
そのまま祭り会場の上をふよふよ飛んでいく。
「今日は魔王様の前で報告なんだから、遊んでる暇ないの。」
「えー、せっかくの祭なのになぁ。」
俺たちは魔王城へ向かった。
◆◆◆
玉座の間。
魔王城の最奥にある、やたらと無駄に広い部屋だ。
赤い絨毯。左右に並ぶ黒い柱。その一番奥。
数段高くなった玉座の上で、魔王が頬杖をついていた。
そしてその前には四天王と、何故かいつも通り俺がいる。
【魔王軍 四天王[絶望の七色 リリベル]】
レベル:97
スキル:混沌属性
「で。私たちが撹乱させてる間に、王都に潜入した成果はあったのかしら?」
リリベルが腕を組みながら聞く。
その隣で、カゲヌイが影からぬるりと現れた。
【魔王軍 四天王[辞世の忍 カゲヌイ]】
レベル:86
スキル:陽炎
「勿論。王都全体の地下に張り巡らされてる"根"に対して、いつでも細工出来るでござるよ。」
「根? 木の根っこか?」
【魔王軍 四天王[暗黒聖騎士 ジオウ]】
レベル:92
スキル:ダーク・カタルシス
あまり賢くなさそうなジオウの反応に、呆れた声で返すリリベル。
「あなた今までの会議で話聞いてた? "世界樹の根"の事よ。世界樹が復活したら魔界に住む者たちにどれだけ活力が湧く事か……」
「ーーならば王都を破壊すれば良いのだな。」
【魔王軍 四天王[竜神 マグレッド=エンド]】
レベル:99
スキル:神の宣告
竜神様が低い声で喋る。
だけどそのセリフ、もしかして貴方も会議聞いてないタイプでした!?
一応カゲヌイが応答してくれる。
「ただ、攻め入るには相当な準備が必要でござるな。」
「準備だと? 四天王が出払ってちゃっちゃとやれねーのか?」
ジオウの言葉に対して、カゲヌイは珍しく、悔しそうに目を細めた。
「異世界勇者の数が多すぎるでござるよ。少なくとも十数人。しかも、それぞれが広範囲を警戒しているでござる。」
「十数人……」
ジオウも思わず顔をしかめる。
いや、改めて考えるとめっちゃ多いな。
近所のドラッグストアじゃねえんだからそんなポンポンチート勇者湧くなよ。
「フン。」
その時だった。
玉座の上の魔王が、鼻で笑った。
「所詮はその程度か。貴様ら四天王ともあろう者が、たかが異世界人如きに手間取るとはな。」
……うん。
なんだろう、さっきから思ってたこの違和感。
姿ははっきり見せるし頬杖ついてるし。
魔王様はこんな感じだったか?




