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顔面神作画


「魔王軍の皆さん。ようこそいらっしゃいました。

長老から話は聞いております。ご案内しますのでこちらへどうぞ。」


「やばい。顔がいい。やばい。」


 早速語彙を無くすルナさん。


 森を抜けると、里というより大きい町レベルの風景が広がった。

 基本的には藁や石で出来た建物だが、ところどころ光っている。

 魔法的な何かの技術が使われているのだろうか。

 道も整備され、川の水が綺麗。空気もうまい。

 田舎者のようにキョロキョロする俺らを案内してくれるのが男性エルフ。


「ただいま長老をお呼びします。しばらくお待ちください。」


 声がいい。

 集会場のような広めの建物の中に案内され、待たされる。


「ちょっと見た!? 何あれイケメンがすぎるんですけど!

顔小っさ。声めっちゃいい。それになんかいいにおい。」


「ルナさんちょっと自重してくださいよ。

素が出てますよ。ここにはイケメンを見に来たんですか?」


「90割くらいイケメン目当てだけどね!

どっちかと言うとあたし二次元派だったけどあれはもう二次元だよ。

三次元の二次元だよ。」


 こいつ……

 そんなことをヒソヒソ話しているうちに、長老が登場した。


「主ら、魔王軍の者か。」


 長……老? イケオジすぎる。

 身長も高いし声は渋いし。若い頃イケメンだったことが良くわかる。

 緑を基調とした服装で、装飾品の輝きから地位の高さが伺える。


「名を何と言う。」


 それぞれ答える。


「魔王軍 轟風魔団幹部のルナよ。」

「四天王 リリベルだ。」

「勇者討伐団 団長のタカトです。」


「勇者討伐……?」


 ああ、やっぱりそこが気になりますよね。


「勇者討伐専門……か……。魔王の奴も面白い事をしてくれるのぉ。」


 魔王の奴って。

 この人は魔王の知り合いなのか。何歳なんだ。


「タカトくん、後ろにいる兵士の人たち見て。」


「ん? どうしましたルナさん。」


「めっちゃイケメン。」


「ああそう」


 ああそう。

 まあ確かに、俺ら人間がイケメンと感じる要素が詰まった容姿だ。

 しかも西洋とも東洋とも言えない絶妙な顔のつくり。

 ここでまた、エルフという憧れを具現化した存在の……と考察しそうになる。

 どうでもいいのでやめておこう。


 長老の話は本題に入る。

 まず、俺らを頼った理由。

 それはもちろん「異世界転生勇者」の存在だ。

 最近、世界に点在するエルフの里が襲われているらしい。

 里の周りには魔術的な迷宮があるので、出入りは容易ではない。

 にも関わらず、大量の人間兵が突然姿を現すとか。


「それ、異世界の勇者が関与している情報はあるんですか?」


「ああ。先日、ついにエルフの里が一つ壊滅させられてしまった。

そこに異世界の勇者がいたという情報が入っておる。」


「壊滅……そこまでして何が目的なのかしらね。」


 ルナさんが首をかしげる。

 確かに、異世界勇者のチート能力があればエルフの軍勢なんて取るに足らない。

 だが人を襲うモンスターと違って、エルフは基本的には引きこもっている。

 冒険者をしている勇者なら討伐対象になっていないはずだが。


「そうね、異世界勇者の考えることなんて私にはわからないわ。

魔王軍に味方したりね。」


 ニヤついた目で俺らを見るリリベル。

 目線をそらす俺とルナさん。


「とりあえずわかりました。

この里で情報を仕入れて、対策を練りたいと思います。」


「頼むぞ。奴は必ず来る。」


 三人とも返事をして、その場を後にした。

 いったいどんな能力を持った勇者なのか。



◆◆◆



「エッッッッッ!!」


 言葉が詰まって「ロ」が出てこない。


「えええ何あれ。エロさ半端無いって。

トップモデルどころの話じゃないわよ。」


 ルナさんもびっくりしている。

 情報と言えば酒場。

 里で賑わいのある場所にやってきたものの。

 酒場で働く女性達のレベルがありえないくらい高い。

 プロポーションが漫画の世界。

 裏方で作業している人までナンバーワンホステスみたいな。


「何、タカトはああいうの好きなの?」


 リリベルが指をさす先には、露出度の高い踊り子衣装のエルフがいる。


「好きかどうかで言われると大好きだけど、近づけない。

完璧すぎて恐れ多いって言うか何と言うか。」


「全面的に同意するわ。」


 何故かルナさんが同意してくれた。

 リリベルが若干引いてる。

 まあビビッても仕方ないので、三人で手分けして情報を収集する。


 日が暮れるにつれ、だんだん人も増えてくる。

 メイン通りは美男美女で溢れている。つらい。

 誰に声をかけようか悩んでる、そのときだった。


「――両手を上げて。動かないで。」


 後ろから声をかけられた――って感じじゃないな。

 確実に脅されている。

 背中に当たるこの感触は、手のひら?

 ああ、でもこの世界は魔法があるから、銃を突きつけられてるみたいな。

 とりあえず要求を聞いてみるか。


「わかった。動かない。

君は誰だ? 何の目的でこんなことをする?」


「あなたが異世界から来た勇者だと言うのは分かっています。」


 すごい癒されるいい声。

 ……じゃなくて。

 バレてる。

 誰だ。マズいぞ。この距離はステータスでガードできない。


「このまま私の仲間がいるところまで来てもらいます。」


「そうか……でもそれは恥をかくから止めたほうがいいんじゃないか?」


「は!……恥!? どういう意味ですかそれは!」


 ぐいっと背中を押す彼女の手のひらに力が入る。

 俺は動いていない。

 体は、動いていない。


「人違いですよ。ベクストさん。」


【[ヨ・ソロラーダ領の娘 ベクスト]】

 種族:エルフ

 説明:ヨ・ソロラーダ地域にある里の領主の娘。

 ヨ・ソロラーダ地域の里は、エルフの里の中でも一二を争う広さ。

 かつてエルフの世界を救った英雄の末裔。

 異世界勇者の情報を聞き、お忍びで里を回っている。


 体を動かさずに、彼女の死角となる位置でステータスを確認。

 どうやら民のためにがんばる系の領主様だったようだ。


「な、何で私の事を……あ、魔王軍の紋章……。」


「それは俺が味方だからですよ、ベクモガガっ!」


「だ、駄目です周りにバレたら!」


 振り向いた俺の口を塞ぐ美しい女性。

 顔の半分をベールのようなもので隠してるが、美しさが漏れまくってる。

 周りをキョロキョロ確認する彼女。


「とっ、とにかくあちらで話しましょう!」


 俺らは建物の裏に移動した。



◆◆◆



「すみません! 人違いでした!」


 領主の娘、ベクストの証言によると。

 襲われた里には人間の軍隊が押し寄せる予兆は無かった。

 突然何百の軍隊が現れ、里の衛兵では対処出来なかった。

 里が壊滅される日の前日、鳥達が目撃したのは人間の青年一人。

 里の結界である迷いの森を人間一人で歩いていたらしい。


「鳥達の目撃?」


「はい、私は小動物の声を聞くスキルを所持しています。」


「へぇ、情報収集には持って来いのスキルですね。」


「はい。なので今回の襲撃も使命感を感じます。

私の一族は比較的魔力の高い者が多く出生します。

戦闘経験もありますので、お父様やお兄様と襲撃された里へ加勢しました。

残念ながら力は及ばなかったのですが……。

私のスキルで情報を収集できないかと、周囲を捜索していました。」


 そうか。里を襲ったのは人間の青年一人か。

 英雄の末裔であるお兄様?も強そうだけど、それを退ける軍事力。

 って事は軍隊を召喚するようなチートスキルか?

 固有の結界みたいな感じじゃなく、それだけの軍を操作出来る力か。


「でもまさか魔王軍の団長様が人間だったなんて。

早とちりして申し訳ございませんでした。」


 頭を何度も下げるエルフの女性。

 まあ人間がこの里にいること自体ありえないんだからしょうがない。


「小鹿たちが、少し前に人間の青年が一人で歩いているところを見たと。

小動物たちも顔を覚えてくれればより詳細な情報が得られるのに……

あれ? どうしました団長様。顔が青いですけど。」


 その言葉を聞いてフリーズしてしまった。

 いや、止まってる場合じゃない。

 早急に動かなければ。


「ベクストさん! 今すぐこの地域に避難勧告を!

父親や兄さんに連絡して警備体制を強化だ!」


「え? はい! でも何故――」


「俺はこの里に三人で来たからだよ!」


 小鹿ってことは森の中の目撃情報だ。

 森の中では、リリベル、ルナさんと一緒に歩いていた。

 つまり小鹿が見たのは俺じゃない。

 恐らくこの里を襲いに来た、異世界転生勇者だろう。


「まさか! わかりました、今すぐお父様に――」


 そう彼女が振り返った時だった。


「ああ、やっと見つけた。ここにいたんだね。」


 男性の声だ。

 俺らが表通りへと戻る出口を塞いでいる。

 薄暗くてよく分からないが、声からして俺より若い。

 警戒せず、強気に前に出る彼女。


「何者ですか! 名を名乗りなさい!」


「ちょちょちょっとストップお嬢様!」


 俺はエルフの手を引いて背後の行き止まりまで下がる。


「何するんですか!」


 エルフの娘ベクストが、俺の手を振り払う。

 いやだってこの登場はどう見ても……異世界転生勇者じゃん。


「おやおやどうしたんですか? 道を聞こうとしただけなのに。」


 謎の男が近づいてくる。

 相手が何をしてくるかわからないので逃げたいが、背後は壁だ。

 目を離すのは怖いがステータスを確認して――


「ステータスオー」

「動くな!」


 ッッ!!

 首元にチクッとした痛み。


「ひっ!」


 ベクストが小さい悲鳴を上げたとき、状況を理解した。

 俺たちは背後から、首に刃物を突き付けられている。

 いつの間にかそこには仮面をつけた男が存在していた。

 一体いつから? 全く気が付かなかった。

 動けなくなった俺らに、謎の男が近づいてくる。


「諸君ご苦労。さてそこのエルフは……ん? てか何だお前。人間か?」


 俺を不思議そうに見る男。

 この状況はかなりまずい。とりあえず死は回避しなくては。


「えーっと、ただのエルフの森に迷い込んだ人間です。

俺もこのエルフの女の子に道を聞こうとしただけで……」


「ふーん、ただの人間ねぇ。ただの人間が襟にそんな紋章付けるかねぇ。」


 しまった。

 今回は魔王軍の作戦行動中だったから、いつもの黒スーツだった。

 襟に魔王軍の紋章が入ってるやつだ。


「まてよ、魔王軍か。利用価値はありそうだな。」


 利用価値?

 なんだ、何をする気だ。


「よし、二人とも招待してやるよ。」


 彼が右手を前に差し出しながら、さらに接近してこようとする。

 俺たちに手の甲を見せるようにすると、そこには金色の紋章が刻まれていた。

 これはさすがに!


「"ス"テータス!!」



パキパキズバッ!!



 気合を入れてステータスの"ス"で小さなカッターを大量展開。

 俺とベクストの首元のナイフを切断し、背後の男の腕を切り落とす。

 さらにステータス画面で仮面の男たちを壁に押し付ける。


「ベクストさん失礼!」


「きゃっ!」


 彼女を急いで抱える。

 もちろん腕力が無いのでステータス画面で補助しながら。


「ステータスオープン!」


 ステータスを地面に展開する。

 そのままエレベーターのように上昇しようとしたが。


「遅い。呑み込め《金角》ッ!」


 勇者だと思われる男性が接近していた。

 足元が青く光っている。速度アップの魔法か?

 こうなったらやるしかない。


「ステータスカッター!!」


 ステータス画面を彼の左手へ飛ばす。

 しかし俺のステータス画面のカッターはどこかに消えてしまった。

 彼の右手は金色に輝いている。

 やっぱり攻撃は効かない。

 成すすべなしか。

 カッターが消えると同時かその直後、俺の意識も消えてしまった。

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