猫娘とエルフの森
「この資材は……ここでいい?」
大量の木材を、水平に展開したステータス画面で運搬する。
バグったステータス画面には重さは関係ない……と思う。
試していないが、今のところかなりの重量も持ち上げることが出来る。
意外と、今回のような現場には好都合な能力だ。
「ありがとうございますニャ!」
そう礼を言ってくれるのは猫耳の女の子。
彼女は種族[ケット・シー]の人型猫モンスターだ。
尻尾と猫耳はあるが見た目は人間に近く、毛深くない。
ケモナー度で言うと初級レベルのフレンズだ。
今日はここ、ケットシーの村に来ている。
草や木で作られた建物は一部が焦げていたり倒壊している。
なんでも、数日前に人間達が攻めてきたそうだ。
何とか追い返すことは出来たが村の改修が必要になってしまった。
そこで魔王軍が派遣され、俺は暇……じゃなくて、力になりたくて手伝いに来た。
「こんなに一度に運んでくれたおかげで、作業も捗るニャ。」
「でもそこまで被害は大きくないね。誰が追い払ったの?」
ケットシーの女の子に尋ねる。
周りで作業している猫娘を見ても、非戦闘員に見える。
ヨシ!と言いそうな黄色いヘルメットをつけているが。
どうやって戦うんだろう。
「普段は[バステト]みたいな戦闘系猫魔物に頼るんですがニャ……
前回の襲撃は少人数だったから私達で追い払ったニャ!」
「こんな山奥だったら大人数で攻めてこられないか。
不幸中の幸いだけど、背の高い人間相手に良く戦えたね。」
今話している子も、周りの子も背が低い。
幼児体型じゃなくグラマラスな子もいるが、こういう種族なのか。
「私達は『幸運』を操る術が使えるニャ!
大人数で同時に使えば、少人数をやっつけることくらい余裕ニャよ~」
「幸運? 幸運でどうやって戦うんだ?
急に上から岩が降ってきたりとかそういう感じかな。」
「それは相手の『不運』に該当するニャね。
撃った矢が相手の急所に当たったり、偶然弱点属性の魔法が当たったり。
そういうことが起こりやすくなるのが私達の術ニャ!」
急所に矢が当たってしまうのは相手の「不運」じゃないのか。
幸運の女神とか不運の悪魔がいて、管轄を分けてるのか?
違いが良くわからない。
「そうだ、手伝ってくれた御礼にちょっと見せてあげるニャ!」
俺は手を引かれ、村の端にある空き地に連れられた。
空き地の周りでは柵の補強や、見張り塔の補強がされている。
ここで何を見せてくれるのか。
「いくニャよ~、運命の錘、向きは下、賽は投げられるニャ!
《幸運》!!」
ピカッ!
猫娘の手が光った。
しかし何も起こらない。
「うん? 何だ、何か変わったか?」
「……あれ、起こらないニャね。
元々運命が悪い人は、そう簡単に幸運にならないって聞いたニャけど。」
なんじゃそりゃ。
どおりでこの世界に来た時から不運ばかり続くわけだ。
「……もう一回くらいならMP持つニャ!
運命の錘、向きは下、賽は――」
その時、近くで作業していた別の猫娘が何かを持って走ってきた。
「見てみて!! 柱を埋めるために掘ってた穴からすごいのが出たニャ!!
重精霊石のかけらだニャんガフッ!!」
走ってきた猫娘が盛大にコケた。
精霊石のかけらとやらが、こちらに飛んでくる。
「《幸運》……あいたっ!」
カッ――――!!
呪文を唱えた猫娘に精霊石が当たった瞬間、激しい光が瞬く。
光はすぐに消えた。
「え! 何だ今の! 大丈夫か!?」
「た……大変ニャ……」
呪文を唱えた猫娘と、コケた猫娘がぶるぶる震えてる。
「大変って何が?」
「下手に動かないほうがいいニャ!!
幸運の魔法が暴走して……幸運に殺されるかもしれないニャ!!」
「……はい?」
一応動きを止める俺達。
あたりを伺う。
いったい何が起こるというのか。
「た! 大変ニャーー!!」
今度は向こうから別の猫娘が叫ぶ。
「[暴れ乳首弄りスライム]が村に迫ってるニャ!」
「何だって!? [暴れ乳首弄りスライム]だって!?」
ちょっと待て、枕詞のパワーがすごい。
「団長さん、大変ニャ。よくわからニャいけどはぐれモンスターニャ。
逃げたほうがいいニャ!」
「いや、こういう時の為の俺でしょ。」
広場の端、村の外周を囲う柵まで歩く。
確か声はこっちから聞こえてきた。
「見えたニャ! あいつニャ!」
「キシャーーーー!!」
え、[暴れ乳首弄りスライム]とか言う割には凶悪そうな見た目だ。
溶けた人間の上半身みたいなのに触手がうねうねしてる。
体長も3メートル以上はある。
「こいつは……」
「団長さん! 来るニャ!」
「キシャーーーー!!」
「ステータスオープン!」
ズバン!!
スライムの体の中心にある「核」を一発で切断。
核の場所はステータス画面で丸わかり。
「キ、ギャーーーーー!!」
パシャァァン!!
スライムがはじける。
あたりに粘性のある液体がまき散らかされる。
「ステータスガード! 最後に爆発するとは敵ながらあっぱれ。
大丈夫か猫娘ちゃ……」
猫娘を見ると、着ていた服がボロボロになっている。
下着まで溶けたようになり、彼女はとっさに大事な部分をガードする。
「あああゴメンなしゃいニャ! 緒見苦しいものをお見せして!
乳首弄りスライムの体液は乳首を狙うために服だけを溶かすニャ!」
「なんじゃそりゃ! そんな限定的な効果の攻撃がある……うわっと!」
スライムの体液で足元がすべり、猫娘を押し倒してしまった。
ツルン、むにゅっ
「ひゃっ! 団長しゃん……」
服が溶けてヌルヌルの彼女の胸に顔が埋まる。
身長が低く侮っていたが、着やせするタイプだったか。
「ご、ごめん痛くなかった!?」
「私は大丈夫で……」
「団長さま! 大丈夫でぇぇぇ!」
「団長ぉわっと、あわわすべる!」
他の猫娘達が心配して駆け寄る。
しかし全員、スライムの体液によって滑ってこける。
そしてカーリングのように俺に突撃してくる。
むにゅん、ぐにょん、ぬるん!
「団長さん、ごめんなさいニャ!」
「ああ! 服が溶けるニャ!」
「んん! 団長さんそこの手は……」
「あわわ! 団長さんの服も溶けてきたニャ……」
4人くらいの半裸猫娘とヌルヌル状態でくんずほぐれずされる俺。
なるほど、「ラッキースケベ」か。
これが「幸運に殺される」と言うことなのだろうか。
「大変ニャーー!! 今度は[暴れ大イノシシ]が来るニャ!」
「なんだよ次から次と……」
「大丈夫ニャ! 私達で団長さまをお守りするニャ!」
ほぼ布面積の無い状態で立ち上がる猫娘達。
目のやり場に困る。
だが、さすがにイノシシにスケベは関係無いだろう。
ここは一発でぶっ飛ばして――
「あー! イノシシの振動で見張り台から落ちる人がいるニャ!」
「え! どこだどこにいる!?」
「よけてニャーーーー!!」
上を見ると、ショートパンツの猫娘がいた。
ステータス画面は……間に合わない。
受け止めるしかない。
ドスゥン! にゅるん!
「ひゃぅぅ!!」
「わぷっ、真っ暗だどうなってる!?」
「ああ! 逆さまに落ちてきたせいでショートパンツの中に団長さんの顔が入ってるニャ!
上から降ってきた子の頭は団長さんの股間の位置だニャ!」
「ご、ごめんなさいニャ!
動きやすい格好で作業したかったから伸びる素材の服を着てるニャ!」
「パ、パンツ!? どんな確立だよそれ!
ってことはこの目の前にあるのは……」
「ひゃうん!! 頭を動かさないでほしいニャ!」
「はう! それはお互い様で……」
「ブモォォォォ!!!」
「[暴れ大イノシシ]が迫って来るニャ!!」
ズドォォォン!! バキバキゴロゴロゴロ
「イノシシが滑ってコケたニャ! こっち来るニャ!」
「え、なに!? 何も見えないグエーーー!!」
俺の脚に巨大イノシシがのしかかる。
しかし体はつぶれずに済んだ。
猫娘達がさっきより増え、イノシシを止めてくれた。
「ああ! 団長さまの足が!」
「うえー、このドロドロなんか服が溶けていくニャー!」
「今は恥ずかしさなんて関係ないニャ! 団長さまを助けるニャ!」
「せーの!」
みんながんばってくれてるが、地面がぬかるんでそんな潰れてない。
落ち着けば脱出できるが……
「モガガ、苦しい……」
「ごめんなさいニャ、んっ、脱ごうと思っても……んんっ! あっ!
滑って脱げないニャ……」
「本当に脱ごうとしてる!? わぷっ、押し付けて……もがっ。
もう少しで服が溶けたら……」
ギュムッ
「うわなにこれ、なんか細長いものを掴んだ!?」
「はぁぁぁぁ!! それはだめニャぁぁぁ!!」
俺の顔の上にいる猫娘の体が痙攣する。
ああ、これはよくある、尻尾に弱い系のやつか。
「うわ、ごめんごめゴボゴボ、溺れる……」
「だめニャあ、滑って移動できないニャあ!」
「ニャ! これ危ないニャ、滑って団長さまを踏みそうニャ!」
「ニャんと、団長さまもう全裸だニャ。」
「ニャフん! んん、団長さまの指が……」
「ちょっとみんニャ! 何でそんなに全力で尻尾振ってるのニャ!」
「ハァ、ハァ、あなたが一番振ってるニャよ。」
「ハァ、ハァ、そ、そんなこと……もしかしてこのドロドロの効力……」
空気が一変した。
これは彼女達の尻尾が空を切る音だろうか。ブンブン言ってる。
「ああっ、滑って団長さまの手の上に座っちゃったニャ~」
「だめニャ~、パンツが溶けないから顔の上からよけれないニャ~」
「滑ると危ないから団長さま、ここ掴んでてくださいニャ~」
「まてまてみんな、わぷっ、どうしちゃったの。」
「そうニャ! まずは助けないといけないニャ!
団長さま、ちょっと跨がせて下さいニャ、こいつを押しますので!」
「一人で押すニャんで無理ニャ、危ないニャ。
特に滑って尻餅をついたところに団長さまの前の尻尾が挿入ったり……」
「そんな偶然あるわけ……わわ! 滑ったニャ! 危ない!
尻餅をついちゃうけどちょうどそこには団長さまの固い尻尾が――」
「《不運》!!」
「水の精霊よ!!」
キィン! ザバァァァァ!!
一瞬目の前が光り、大量の水が流れ込んできた。
「この発情猫耳娘たちがぁ!」
「あたしはもう少し見てたかったけどネ。」
「ニャああ! リリベルさま、ルナさま! ハクシュっ!」
水が引き、バケツを倒された死んだ魚のように転がる俺ら。
見上げると、リリベルと何故かルナさんまでいた。
「さあ、行くわよ。」
「ぐえっ」
全裸のままリリベルに抱えられる俺。
ん? いつもと違う違和感が。
「ああちょっとルナさん! 後ろから凝視しないで下さいよ!」
「めっちゃ丸見えww 写メ撮りたいwww」
「やめてください!!」
ってか写メって。古いな。さすが年上。
こうして俺は、リリベルに抱えられふよふよと飛び立った。
◆◆◆
「それで、長老とは話がついたの?」
俺はルナさんに質問した。
俺達が今いるのは、深い森の中。
獣道が数本枝分かれして続いている。
ルナさんが答える。
「もちろん! 能力じゃなくてれっきとした交渉の結果だよ。
あたしすごくない? 魔王軍でも立ち入りが許可されてないのに。」
「ま、藁をも掴みたい状況だって事かしらね。
あの長老が部外者を許すって事は相当なトラブルがあるのね。」
リリベルが小馬鹿にしたような態度で話す。
ルナさんの顔が険しくなる。こいつら仲悪いな。
俺、リリベル、ルナさんがこれから向かう先は。
森林に閉ざされた聖域・エルフの里だ。
「空を飛べないって窮屈ね。でも、この服意外と動きやすいわね。」
俺ら三人は、登山に適したような格好になっている。
コーディネートはルナさんだ。
森を歩くから動きやすい格好になれ、との事。
しかし歩くとは言っても、こんなに歩いて着かないものか。
本当にこの道で合ってるのだろうか。
「なあルナさん、ここさっきも通らなかった?」
「そういう仕掛けなの。エルフの里に入るなら迷いの森を抜けないと。
私が森の精霊に道を聞いてるんだもん、間違えるはず無いじゃん!」
ああ、これはフラグってやつか。
一応ステータス画面で地図を表示しておこう。
その後、道が分かれるたびに口論になったがなんとか辿り着いた。
いよいよあのファンタジーで有名な、エルフとの対面だ。




