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記憶操作能力者の倒し方


「――――どういう事だッ!! リリベルッ!!」


 いつのまにか、リリベルが俺を抱えてワープしている。

 ジオウさんに気を取られて気が付かなかった。


「いやだ……タカごほんごほん、ええと理解したのだ!

タカトの目は嘘をついていない。つまりこれは異世界勇者の攻撃だ!」


「はぁ、てめぇ……」


 剣を杖のように地面に刺し、かろうじて立ち上がるジオウ。


「リリベル……」


「大丈夫、私はタカトを信じるよ。」


 所々傷つき、黒い血を流しボロボロになりながら俺をギュッと抱きしめる。


「ありがとうリリベル。……って事だ逃げるな!」

「《スロウ》!!」


 隙を見て逃げようとするルナに対し、リリベルが動作遅延魔法を放つ。


「あっ、しーまーったーー!」


 喋りすら遅くなってしまう彼女。

 思考速度も低下するので、幻術を使うという判断も遅延しているはず。

 抑えるなら今がチャンスだ。

 俺はリリベルから離れ、まだ残っている速度上昇魔法の効果で素早く近寄る。


「マジックアイテム《束縛縄》!」


 ポーチから出した縄の塊を相手に投げる。

 この縄は自動的に相手に絡まり、動きを拘束するアイテムだ。

 足を縛り、手を後ろで縛り、口も封じられる。

 ただ、何故か亀甲縛りになってしまう。


「むぎゃっ!」


 手足を動かせないので、その場で倒れる彼女。

 さらにステータス画面を細長く多重展開し、少しでも動いたら刺さるようにする。


「さあ終わりだ。俺たちにかかった幻術を全て解いてもらおう。」


「むぅぅぅぅー!!」


 悔しそうに唸る彼女。

 目線はこちらに合わせない。


「ステータスオープン!」


「うっ……」


 針のように細いステータスを出し、相手の眼球ギリギリまで近づける。

 さらにステータスの板で頭を挟み、動かせないようにする。


「早くしないとどんどん近づいていくぞ。まずは左目からだ。

さあ早く解け! さあ早く!!」


「んーーーー!!」


 涙を流し、声にならない声を出す彼女。

 針はもうまぶたを閉じられない位置まで近づいている。

 唇が震えている。


 このまま殺してしまってもいい。

 ただ、もし死んだ後も幻術が続いてしまった場合、俺は四天王殺しになる。

 出来れば脅して拷問してでも解除するよう仕向けたい。

 ただ殺すだけより難しいが。


「さあ早く!! ――――ってあれ!?」

「え?」

「な、何だ!?」


 俺はまばたきをしていない。

 それにリリベル、ジオウさんも同時に反応した。


 目の前にいたはずの亀甲縛りの少女が

 亀甲縛りのくたびれたお姉さんに変わっていた


 ジオウさんが咄嗟に武器を構える


「くそ! 変わり身――幻術か!? どこへ行きやがった!?」


「いや、ジオウさん待ってください。」


 俺はジオウさんの方に腕を伸ばし、止まってもらう。


「ジオウさんもリリベルも、彼女が敵だと認識出来ていますか?」


「そういえば……クソッ、記憶が曖昧だ!」

「ああ。タカトの言う通りだった事が理解できている。」


「俺も全て思い出したよ。彼女は紛れもなく……偽四天王のルナだ。」


【[追憶の勇者 ツキコ]】

 年齢:30歳

 職業:元OL

 元いた世界での死因:失恋による自殺

 スキル:《美化されし記憶(コンシーラーメイク)

 詳細:自身に対する記憶・記録を思うがままに塗り替える。

 リアルタイムに記憶を塗り替える事で自身の姿すら偽装できる。

 塗り替える対象や範囲も自由に選択できる。


「ルナ……月子さん?」


「うっ!」


 ステータス画面がやっと正しい情報を表示してくれた。

 バグったステータスすら書き換えるとは恐ろしい能力。

 だがちょっと見たくない情報まで見えてしまったのは申し訳無いと言うか。


「こ……殺ひてーーー死ぬーーー!!」


 思わず展開していたステータスの針を解除してしまったので暴れだした。

 水から揚げた魚みたいにビタンビタン跳ねるお姉さん。

 確かにOLっぽい格好で、乱れた長い髪と白い顔で幸が薄そうに感じる。

 亀甲縛りで胸が強調され大きく見えるが、そこ以外もムッチリしている。


「タカト。本人は死にたがっているが。」


「ああ、そうだな。」


 リリベルも自分を騙し続けた女の正体を見て複雑な気持ちなのか。

 腕を組み疲れた表情をしている。

 俺はポーチからあるアイテムを取り出した。

 刃渡り20cmほどの短剣で、柄の部分に鬼の彫刻が施されている。


「タカト、それは……」


「これはレアマジックアイテムの《閻魔の短剣》だ。

この短剣に誓った誓約を破ると、地獄の果てまで短剣が追ってくる。

そして顎こと舌を切断するっていうアイテムだ。」


 リリベルが、また勝手に宝物庫の宝を持ち出して……という顔をしてる。

 ジオウさんはつまらなそうに突き立てた剣に腕と顎を乗せてる。


「さあこの言葉を言え! 誓え!

『私は二度と、魔王軍が不利になるような能力は使わない』!」


「う……あ……」


 口の部分の縄をステータスのカッターで切断する。

 彼女の口で誓わせないと意味がないからだ。


「わ……『私は二度と、魔王軍が不利になるようなことはしません』……」


「違う!『私は二度と、魔王軍が不利になるような能力は使わない』だ!」


「わ……『私は二度と、魔王軍が不利になるような能力は使いません』!」



カーーッ!!



 短剣が激しく光り、すぐに収まる。

 これで誓約が交わされたのだろうか。

 誓約は「能力」とはっきり言わせなければ穴を突かれる可能性がある。

 このアイテムが本当に効果を発揮するならば、もう能力は使えないはず。


「《束縛縄》解除。」


「え? タカト、このまま生かすの?」


 俺は拘束していた縄を解除し、その場から離れる。


「あー、能力が使えない一般人だ。もう殺す必要も無いでしょう。

それか誰かに拾われるかもね。いい魔物か悪い魔物かは知らないけど。」


 俺は勇者は殺すと誓ったはずなのに、まだ後ろめたいものがあるのか。

 無抵抗の異世界人女性を殺す度胸は無いみたいだ。

 それか自分で手を汚したくないヘタレなのかもしれない。

 いや、性別で躊躇するとかキモイなぁ俺も。


「ふーん。まあどうでもいいわね。」


「たまには本気で殺りあうのも悪くねぇな! タカトよぉ!」


 重たそうな剣を担ぎ上げ、もうビンピンしてるジオウさん。


「まさかお前のシールドを三枚抜き出来るとはな。

今なら新技に出来そうだ。この後トレーニング室に行かないか?」


「いや! ちょっと疲れてるので遠慮しておきます!」


 この人はどこまで強くなるんだろう。

 自力でチート級までたどり着きそうだ。


 こうして、追憶の勇者の討伐は……再起不能にはできた。



◆◆◆



 魔王城の廊下を歩いていると声をかけられた。


「あ! タカト団長!」


「げ! テツコンさん!」


【[彩魔術団 幹部 テツコン]】

 レベル:62

 スキル:断魔力


 彩魔術団の団長と同じく、魔法使いのようなローブととんがり帽子。

 顔は影のように真っ黒で、目だけ丸く光っている。

 微妙に青みがかった生地と幾何学模様の刺繍がオシャレ。

 そのこだわりと、胸元の膨らみと声から恐らく女性タイプだろう。


「げ!って何ですか!

この前のマジックアイテムの支払い、まだですよね?

貴方のオーダーメイドだからいつもより手間がかかってるんですよ!」


「ああ、すみません後で確認しておくので……」


 彩魔術団の団長は何でも出来る天才だが、この人は道具作成特化のプロ。

 スキル「魔力遮断」を付与された部品を利用する事で何でも作れるとか。

 絶縁体とかそういった働きをするんだろうか。

 今回のスカウター的なアイテムもこの人に作ってもらった。

 オーダーメイドの特急仕上げだからアイテム名すら付けていない。


「もう、いつもはリリベル様のご協力があって格安で提供してますので!

今回は定価でお願いしますね!」


「そ……そうですよね……」


「まあまあ、そんな硬いこと言わないであげて~」


 急にフォローされる。

 後ろから女の子の声がした。

 振り向いてみると――


「……はい?」


「あ、ルナさんこんにちは。

そんな事言われましてもこれは当団の死活問題なので!」


「じゃあねー、これならどう?」


「こ! これは重精霊石! しかもこの大きさ!

こちらどういった……」


「これで足しになるか分からないけど、持ってっていいよー。」


「いいんですか!? ありがとうございます!

ではお代はこちらで賄うということで頂いていきます!」


 アイテム職人の魔道士が去っていったが、会話が入ってこない。

 なぜ彼女がここにいるのか。

 驚きでフリーズしていたが、我に返り身構える。


「ステータスオープン!」


【[轟風魔団 幹部 ルナ]】

 詳細:自然の猛威を操る轟風魔団の中でも、精霊術を極めた幹部。

 あらゆる精霊と意思の疎通が出来る。


 ステータスを見ると、四天王の時とは若干違っている。

 しかし金髪ロリっ子の見た目から声から、全て前と同じだった。


「お前また精霊たちの記憶を操作して……」


「なんのことかしらー! あたしは轟風魔団の幹部、ルナよ!

真面目に魔王軍の幹部として働いてるんだから!」


 目元でピースをして、ポーズを取る彼女。

 まじめに? 幹部?

 っていうか。


「え、月子さんまたそのキャラで……」


 ガシッ!っと幼女に肩を掴まれた。


「その名前を! 出すな!」


「あ、魔王軍に手を出した。閻魔様ー、ここですこいつです。」


「ひゃぁあ!」


 彼女はヒョイッと離れて自分の首元を押さえる。

 あたりをキョロキョロ見渡す。


「……ちょっとは年上を敬ってよ。」


「はいはい。で、ルナさんは何で魔王軍に戻ってきたんですか?

そもそも俺ら相手に能力は使えないはずじゃ。」


「そんなことないんだなー。

『不利になるような能力』を使わないだけで、これは魔王軍のためだから!

この能力は人間界を征服するために使います!

そう誓えば能力もほらこの通り~。」


 その場でくるくるっと回るルナさん。

 確かに元があの幸薄OLだとは思えない。

 元の名前を覚えてるってことは、俺の記憶の改竄はしてないのか。


「そういえばルナさん、そもそも何で魔王軍四天王になったんですか?」


「え? そんなの決まってるじゃーん。」


「決まってる?」


「世の中の人間カップルを爆発させるためだよ……」


 地の声が出てる。こわい。

 そうか、理由はどうであれ魔王軍を陥れるためじゃなかったのか。

 だったら俺の計画の目標と邪魔にはなっていないな。

 制御すればこのメンヘラお姉さんもチート勇者対策の武器に使えるかもしれない。

 しょうがない、今回は大目に見てやるか。


「ひぃ……」


 廊下の角を曲がってきたリリベルが、向こうの方で驚いている。

 どうしよう。

 なんて説明しようかな。



VS 追憶の勇者 おわり



記憶操作能力者の倒し方:

合言葉で見破る

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