ゼノビアの信徒
【種族】ゴブリン
【レベル】43
【階級】ノーブル・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》 《反抗の意志》 《威圧の咆哮》 《剣技C+》 《強欲》 《彷徨う魂》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
「くっ……化け物め!」
彼岸花を思わせる赤い髪の女剣士。震える声に気づいているのだろうか。その声が、どうしようもなく俺の心を攻撃的にすると。あるいはその背に庇う者の不安を煽り立てることを。
「出ろ!」
茂みを揺らす手下たちが、ぞろぞろと生き残った人間を取り囲む。
威嚇に声を荒げ、手にした棍棒を地面に叩きつける。
その有様にその顔からは、血の気が引いていく。
さて、どうやって嬲ってやろうかと考えていた俺の注意を引いたのは、女剣士の背に隠れているはずの修道女だった。
彼女の手からあふれ出る光が、倒れた斧持ちの男を包み込むと同時に、流れていた血が止まる。
「遍く者に癒しを」
まぶたを閉じたその横顔に、俺は瞬時の間見ほれていた。
人の持つ欲望のほとんど一切を排除したかのような、非人間的な、犯すべからざる気品。
手を伸ばしても決して届かぬ高みにあるはずの、それが……今俺の目の前にあった。
ホシイ。
渇望の底から伸びてきた手が、俺の臓腑を握り揺さぶる。
今すぐその場で膝を突き、頭を垂れてその足元にひれ伏してしまいたい。その花を摘み取ることができるのなら、あるいは今の地位や野心など──。
目を強く瞑って頭を振る。
誰かの意思が俺の意思に介在してくる。それだけでも吐き気を催す感触だというのに。
慟哭と悲哀の叫びの声に犯された俺の頭は、焼ききれそうだった。
愛しき者を求めて求めて、苦しみぬいた果ての狂気とすら呼べる渇望が、俺の首を締め付ける。
「だれだ、貴様ァア゛!?」
憎悪すら篭めて、見えない誰かをにらみつける。
脳髄に入り込む──あるいは魂に直接侵蝕する痛みに、俺は頭を抑え、剣を掲げる。
気炎を吐く口は憎悪しか吐き出さないほどに熱い。
荒い息を吐き出しながら掲げる剣先は、俺の意志と痛みの侵蝕の狭間で揺れ動く。
「私は、レシア・フェル・ジール。癒しの女神の信徒です」
紫水晶を思わせる瞳が、俺を捉える。癒しの女神という名前、それだけで俺は──俺の中の何かが、絶叫をあげる。
「GruuuaAaaアアァァア゛あ゛あア゛あ゛ああ゛ア゛あ゛あ!!!」
「うおあああ!」
その隙を女の剣士が突いてきた。
大上段に振りかぶった一撃が、俺の下がった頭を狙う。
だが、遅い。反射的に振り上げた俺の長剣が、女剣士の振り下ろした剣と衝突する。
腕力に勝る俺の剣が、遠心力をまとった女の剣を跳ね返した。力を篭めすぎた反動で、俺の腕が悲鳴を上げるがそんなものに今はかまっている暇などない。
そのまま女剣士は体勢を立て直す暇もなく地面に墜落する。
だが追撃をするべき俺は、地面に膝を突いていた。
長剣で自身の膝を切りつけ、血を流すことによって意識を俺の側に引き戻す。
殺す──。
この女は今すぐに殺さねば、いずれ俺が食い殺される。
直感ともいうべきその考えが、俺の脳裏にひらめく。
殺意を篭めて見据える前には、人なら頭を垂れずには居られない聖女の姿がある。
「逃げて、ください。レシアさま」
傷で満足に動けない女剣士の言葉に、やさしく首を振ると。
「あなた方を見捨てることなど……遍く者に癒しを」
見る見る癒されていく女剣士の傷。
「クックックック……」
俺の口から漏れた言葉は、低い嘲笑の声だった。
食い殺される?
自分で自分の考えに笑ってしまう。
ふざけるな……。
ふざけるなよ!
俺は王になる!
何者にも頭を垂れることなどありえない。
それがたとえ、聖女だろうが、神々だろうがだ!!
「捕らえよ。決して手を出すな!」
血走った俺の瞳が捉える聖女の姿。部下に命じて俺はそれらを捉えさせた。
超えて見せるぞ。
俺の意思に干渉してくる存在など、認められるはずがないっ!
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【スキル】《反抗の意志》がスキル《反逆の意志》に進化しました。
魔物だけでなく、更に上位からの精神的圧迫を緩和します。
冥府の女神からの精神依存を弱めます。
冥府の女神からの精神侵略を防ぎます。
冥府の女神からの精神侵略を弱めた結果、癒しの女神への衝動が緩和します。
【スキル】《彷徨う魂》が変化します。
《孤高の魂》を手に入れました。《王者の心得Ⅰ》を手に入れました。
【スキル】《孤高の魂》を手に入れた結果、部下からの忠誠心が上昇します。神々の意思から受ける影響が少なくなります。
【スキル】《王者の心得Ⅰ》を手に入れた結果、名乗りを上げる+敵と同じ武器を使う限り、筋力20%UP、敏捷性20%UP、ダメージ20%軽減が発生します。
【スキル】《青蛇の眼》を手に入れました。敵の人数が自身の配下よりも少ない場合、レベルに制限されず、相手の弱点を見破ります。
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