アーノンフォレスト
【種族】ゴブリン
【レベル】5
【階級】ロード・群れの主
【保有スキル】《群れの支配者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B+》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》《直感》《王者の心得Ⅱ》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv20)灰色狼(Lv20)オークキング《ブイ》(Lv36)
目の前に立ちふさがるゴブリンは、オークよりも巨躯を誇っていた。
盛り上がった全身の筋肉。黒く発達した四肢に腰布だけを巻いた格好で、防御というものをまるで考えていない。手には木の幹ほどもある棍棒を握り、眼は爛々と赤く輝く。
「ルゥオォオオ!」
その声が合図なのだろう。雄たけびを上げ棍棒を周囲の木々に叩き付け、森をなぎ払う勢いで視界を広げていく。
「ルゥオオォォォ!」
群れのボスなのだろう一匹の雄たけびにあわせて、ぴたりと行動をやめる様子は、操り人形のように見えなくもない。
隠れていても意味はないか。
肩に担いだ鋼鉄の大剣を振りかざして、邪魔な木々を切り払う。
「だでダ!?」
聞き辛い誰何の声。
「ガンラの王になるものだ」
皮肉を込めて答えてやると、物凄い雄たけびが返ってくる。
「ルゥゥォォォォオオオオ!」
群れの中にいる一匹の雄たけびに合わせて、その他のガイドガゴブリン達が叫ぶ。
「王、先陣の名誉は私に」
両手に曲刀を抜き放った剣神ギ・ゴーの言葉に頷く。
「オークよりも頑丈だと思え」
「承知」
俺よりも二回り小さなギ・ゴーの背が開戦を告げてくれと、物語る。
左右を見れば、ドルイドの長であるギ・ザーが右翼の藪の中に潜み、前衛として働いていた獣士ギ・ギー、隠密ギ・ジー、狂神ギ・ズーの3匹のレア級ゴブリンが左に潜む。
風術師ギ・ドーはギ・ゴーとギ・ザーの中間付近で待機。
予備として俺の後ろには、ノーブル級ギ・グー・ベルベナと見開く瞳のギ・ヂーがいる。
こちらの布陣は整っている。
相手は見上げるばかりの巨躯を誇るガイドガゴブリン達。
「行け!」
引き絞られた弓から放たれる矢のごとき速度をもって、ギ・ゴー・アマツキが敵の荒らした森を駆け抜ける。それに続くのは、ギ・ゴーの配下の3匹のゴブリンたち。いずれも手にした長剣は使い込まれたもので、ギ・ゴーの鍛錬の厳しさが伺われる。
「ルゥゥォォゥゥウ!」
迫る棍棒は巨木が落ちてくるような一撃だった。その下を、まったく躊躇なく掻い潜ると振り下ろされた手に向かって曲刀の一閃が走る。
光の線だけを残してギ・ゴーの曲刀が振るわれる。ガイドガゴブリンの腕から、血が飛び散る。
だが、駆け抜けたギ・ゴーは不満そうに一本の曲刀を腰に戻す。
どうやら肉は切れても骨までは切り裂けなかったのが不満らしい。
「いざ、尋常に!」
見上げるばかりのガイドガゴブリンに吼えると、両手で構えた曲刀を振るう。
雄たけびとともに振り下ろされる棍棒を、曲刀で払うことにより直撃を避け、地面にめり込む一撃のすぐ横。がら空きの胴体に水平に曲刀を振るう。
腕だけでなく、体ごと駆け抜けた“抜き胴”の要領でガイドガゴブリンを斬った。
まさに斬ったとしか言いようがない。
未熟なゴブリンが長剣をたたき付けるのとは違う。俺が大剣の重さを利用して押し潰すのとも違う。剣の刃を利用し、その力を十分に引き出して斬るのだ。
これが剣神の加護を受けた者の恩恵か。
胴体を切り裂かれたガイドガゴブリンはその場に崩れ落ちる。
大量の血を吐き出し、崩れ落ちる姿にギ・ゴーは一瞥をくれただけだった。
ギ・ゴーの持つスキル《歴戦の戦士》と《武士の魂》のおかげだろう。まったく危なげないギ・ゴーの戦いから眼を転じて他のゴブリンの戦いを見守る。
「我は風を纏う!」
右で戦いを繰り広げるギ・ザーの声に、目を転じる。
アクセルで加速をしガイドガゴブリンの間を駆け抜ける。同時に背後に回ったと思えば。
「豪風の如く疾風の如く!」
地を走る2本の刃が、敵の足元を狙う。
悲鳴を上げて倒れた敵に、ギ・ザー配下のゴブリンが魔法を打ち込む。威力が弱く一撃では仕留められないようだが、3匹が交互に打つことによってガイドガゴブリンを仕留めることに成功していた。
──こちらも問題はないな。
時々風術師ギ・ドーから援護の魔法が、ギ・ゴーとギ・ザーに打ち出される。
目を奪うほどではないが、こちらの有利に戦いを運ぶためには必要なことだ。地味だが、欠かす事のできない位置をギ・ドーが担っている。
問題があるとすればやはり、左。
レア級3匹を向かわせた左の戦線は、こう着状態といっていい。
狂神ギ・ズーはその力を発揮できず槍を振るうが、単体のレアの実力ではガイドガゴブリンに太刀打ちするのは難しい。ギ・ズーに率いられたゴブリン達も連携を駆使して戦ってはいるが、苦戦している。根本的に力が足りないようだ。
獣士ギ・ギーと隠密ギ・ジーのコンビは正面から力のあるゴブリンと戦うには不向きのようだ。隠れ潜んで隙を突く戦い方のギ・ジーと獣を使役するギ・ギーでは決定力に欠ける。やはりギ・ズーが突破口を開くしかないのだが……。
逃げ腰の姿勢が目立つ。
「ギ・グー」
「はい」
控えるギ・グーを出すか。
「手勢を率いて左翼を助けろ」
「御意」
長剣を振りかざすと、ギ・ヂーに合図して左翼の戦いに参加する。
これで片がつけばいいが……。
「ガンラ! どごダ!?」
ギ・ゴーが圧迫していた正面から突出してくる一匹のゴブリン。
ちらりと、ギ・ゴーがこちらを確認するがすぐさま目の前のゴブリンの相手をする。
随分、粋なことをする。
俺に獲物を譲ってくれるつもりらしい。
「貴様らが欲しているガンラは、俺の手の中だ」
躍り出た一匹の正面に立ちふさがる。
「ふざげるなァ゛アア!!」
振りかぶられる棍棒。当たれば頭から潰されてしまうだろう。
だが、オークキングのゴル・ゴルの暴風のような攻撃を経験した俺には、さしたる危機にも思えなかった。
体を横にずらして、棍棒の軌道から逃れると肩に担いでいた大剣を振り下ろして足を狙う。
ガイドガゴブリンの足を一薙ぎして倒れたところに、一撃を見舞う。
腕を叩き潰し、抵抗できなくなったところで、周囲を確認すれば既にガイドガ・ゴブリンは掃討された後だった。
「さて、捕虜もできたが……どうする、王よ?」
ギ・ザーが獰猛な笑みを浮かべる。
「被害はどれほどだ?」
「こちらの被害は負傷3、いずれも軽症だ」
ならば、決まっている。
「追撃だ。ギルミをつれて来い。ガンラの集落をこのまま落とすぞ」
◇◆◆
ギルミの先導を受けて、俺たちは走る。
ガイドガ・ゴブリンの通った後は獣道のように木々が跳ね除けられていたので、それを逆に辿ればいい。
程なくして、ガンラの集落に到着する。
「これは、流石というか……」
「我らが集落、森の捻じれた巨人です」
見上げて俺も思わず瞠目する。巨大な木々の枝に小さな家々を作っているのだ。そのほかにも地上に柵を拵えて、防御の要としているらしい。曲がりくねった木々の至る所にある小さな小屋ともいうべき建物。だがそれらは、大半が破壊された後だった。
ガイドガ・ゴブリンの仕業か。
「残党を探せ。ただし、決して一人で突出するな!」
巨木の枝々は、曲がりくねり地面に接するほどにうねり、あるいは歪んでいる。木の上から見下ろすならまだしも、地上においては天然の迷路だった。捻じれた木々の枝同士が複雑に絡み合い、地表には木の根が地面を割って顔を出す。
枝葉はどれも大きく、木の葉一枚とてノーマルゴブリンの体を半分ぐらい覆い隠すほどだ。絡み合った枝は、更に別の枝を巻き込んでとぐろを巻き道を塞ぐ。
ギ・ゴー・アマツキとギ・グー・ベルべナ2匹のノーブル級ゴブリンに手勢を率いさせると、別の道に進ませる。ギ・ゴーには隠密ギ・ジーを、ギ・グーには獣士ギ・ギーを補助に付けて放つ。
「ギルミ、ガイドガはなぜガンラを狙った?」
先導するギルミに、俺は問いかける。
これほど生活形態の違うゴブリンが、なぜ同じゴブリンを狙うのか。
集落を乗っ取る為ではない。ガイドガの巨躯では、ガンラの集落を乗っ取ったとしても、枝の上では生活できないからだ。
ガンラ・ゴブリン達は総じて小柄だ。俺がレア級だと判断したギルミや族長ナーサも赤い肌と、その体格から、判断したに過ぎない。
《赤蛇の眼》を使用出来ればいいのだが、あいにくとまだ俺は彼らのレベルを追い越していないらしい。
「それは……」
言い淀むギルミ。
「それは私から話す」
後ろから付いてくるだけだと思っていたナーサの声がした。
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レベルが上がります。
5→8
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