決着
【種族】ゴブリン
【レベル】62
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv1)灰色狼(Lv1)
【状態異常】《聖女の魅了》
「グルゥゥゥアァァァ!」
遠く主の声が聞こえる。仕えるべき主の声に、長腕のギ・ガーと元集落のリーダーであるギ・グーは視線を交わす。
それぞれ15匹のゴブリンを率いての迎撃。オークの軍勢の柔らかい横腹を狙い、反対側にいる主達と同時に攻め寄せるよう動いていた彼らだったが、その被害はやはり大きい。
いかにノーブル級の2匹だろうと、率いてるのは並みのゴブリンである。既にやられたものが、3匹。重症軽症問わず傷を負っていないものは皆無だ。
「主が、行かれる」
長腕に槍を回転させ、オークの血糊を払ったギ・ガーがぽつりと呟く。
「我らも行かねばなるまい……が」
目の前に広がるのは、道をふさぐオークの群れ。
王がオークの群れを突破するなら援護せねばなるまい。元集落のリーダーであり、集団での戦いを感覚的に心得ているギ・グーは全体を見渡す。
こちらから同時に攻撃することによって、オークの戦力を少しでも王から引き離す。
自分たちの役割をそう考えて、ふと横のギ・ガーを見る。
奇形と称されるにふさわしい地面につくほどの長さの腕を器用に使って長槍をもてあそぶ。
「主の元に行く」
やれやれとギ・グーは内心頭を抱えたくなった。ギ・ガーは忠誠心は高いが、どうも集団を率いるという意識に欠けている。
やたらと王の側に行きたがるのも、そのためだろう。
「その為には、ここを突破せねばなるまい」
頷くギ・ガーを確認して、ギ・グーは手下のゴブリンに指示を出す。
じりじりとオークの群れとの距離を測りながら、徐々に近づいていく。オークの群れもこちらを警戒してか積極的に打って出てこないことが幸運だ。
近距離まできたところで、一気に加速する。
「行くぞ!」
《連携》のスキルを遺憾なく発揮し、オークに長剣をたたきつける。並みのゴブリンなら頭を割られる一撃をオークは当然のように受け止める。
だがその程度はギ・グーの予想の内。ギ・グーの一撃と前後して手下のゴブリン達が地面を這うようにしてオークに接近。
足元に一撃を加えて離脱する。悲鳴を上げてかがみ込むオークの頭に再び長剣を叩き込み、今度こそオークを仕留めることに成功する。
突如その横を風が通り抜け、迫っていたオークの体の中心に長槍が突き刺さった。その柄頭を見れば、ギ・ガーが片手で槍を繰り出したのだとわかる。
「たいした武勇だ」
ギ・グーが周囲から反撃を受けることがないのは、ひとえに彼の隣で闘うギ・ガーの影響だ。オークよりもさらに長い腕に長槍を構え、彼らの射程の範囲外から《必殺の一撃》が、敵を襲う。
だからギ・グーもゴブリン達を活用し、近接戦を挑める。
三匹一組の効果を遺憾なく発揮できる!
「このまま王の下へ向かう!」
ギ・グーの指示に全員が頷いた。
「ギ・ガードノ」
一匹のゴブリンが槍を持ちながら、ギ・ガーの後をついてくる。
「……無理はするな」
主がギ・ガーの居た群れを統べてから生まれたゴブリン。ギ・ガーが主の命令で自ら槍を教えたゴブリンたちだ。幼生からまだ成人したばかりの新兵。
今回のオーク戦では、彼らのような者も戦力として戦わねばならなかった。
自然、ギ・ガーの周りには彼が教えた者たちが集まる。
自分の主がそうしてきたように、ギ・ガーは彼らに自分の背を追わせた。
「遅れるな!」
ギ・グーの声に、ギ・ガーは軽く頷く。
「王の為に」
「もちろんだ」
ギ・ガーは槍を、ギ・グーは長剣をそれぞれ握りなおした。
◆◇◇
ようやく本番だ。
【スキル】《死線に踊る》第二段階発動。
筋力30%UP、機敏性が30%UP。
更に【スキル】《狂戦士の魂》を重複発動。
狂戦士の魂による精神侵略と引き換えに。
筋力30%、敏捷性30%、魔力30%上昇を引き出す。
「グルゥゥアァゥウゥアアァ!」
──勝負、だ!
振りかぶる大剣にこれまでで最高の力が加わる。
踏み込む足は限界を超えて、内部の傷を圧迫する。
吐血の合間に一撃。
「……おぉ!」
ゴル・ゴルの大剣を初めて押し返した。
続けざまに、もう一撃。内部の傷などかまっている暇は無い。
「おぉぉ!」
押し込まれているというのに、嬉しげに口元をゆがめるオークキング。腹立たしい。
「オオォォアァオ!」
相手の気持ちなど知ったことか。
そんなものは余裕のあるもの同士でやればいい。今はただ目の前にいる敵を倒すだけだ。
俺の大剣に合わせた相手の大剣を弾き飛ばし、初めて俺は相手に傷を負わせる。
オークキングの胸に一閃。
赤い血が流れ出る。
「嬉しいぞ」
初めてゴル・ゴルが飛び退く。
ぞわりと、空気が変わった気がした。
「狂い化けよ我名は! 強力王!」
まずい。と俺の直感が告げる。
直感に従い俺は前に出る。
「グルゥウォオオアァ!」
俺を睨むゴル・ゴルに向けて一撃。力、剣速共に申し分のない一撃は、ゴル・ゴルの大剣に片手一本で止められた。
「矮躯ナル王。もはや名も問うマイ」
太い声はひび割れ、地獄の亡者を髣髴とさせる。
「タダ、戦エ! 俺と撃ち合エ!! ゴブリンの王よ!!」
王よ!
遠くで叫び声が聞こえた気がした。間合いをとると同時に確認すれば、全身血まみれのゴブリン達がオークに囲まれている。
目の前に暴風が吹き荒れる。
地面をえぐり、空気を切り裂き、風を巻き起こす。
「闘え、戦え、タタカエ!! ブルゥォオオゴォォオアアオ!」
それはまさに狂える巨人だった。
退いて距離をとるのが正解だ。
かつてオークキングが人間の世界を荒らしたというのも嘘ではないのだろう。
目の前で展開されるのは、それほどの光景。
この暴風の中に入れば、氷砕機に砕かれる氷も同然。
だが、だがな!!
長期の決着が何をもたらす!?
俺の背後では、ゴブリンたちが必死にオークを防いでいるのだ。
退けぬ!
「グルゥォォオオアァ!」
背中に這い登る恐怖を押し込める。
恐れるな。オークリーダーを倒し、灰色狼を倒し、ココまで来たのだ。
恐怖に慄きそうになる歯を噛み締める。
暴風そのものに、大剣を合わせる。
「おお、オオォォ! 戦え!」
歓喜に身を震わせ叫ぶオークキング。
弾け飛ぶ大剣を引き戻し、更に撃ち合う。
満身の力を引き絞り、相手の大剣を弾き飛ばす。
口から吹き出る吐血が、ぶつかり合う大剣同士の衝撃波で舞って散る。痺れて感覚がない手を更に握り締める。
「ブルゥウォアオオァオオアァ!」
「グルゥゥオアアァオオアァ!」
だがそれでも俺が不利だ。
相手は片手で本能のままに大剣を振りまわしているのに、俺は両手でなんとか耐えている状態。
こんなものが長く続くはずが無い。
何か、ないか!?
なにかっ!!
一瞬でいい。
そのとき、遠くで喚声が聞こえた。
目の前のことに最大限視界を確保しつつ、聴覚だけで反応を窺う。
その喚声は段々とこちらに近づいてくるようで──。
「ブルゥウルォアオオァァ!」
──くっ!?
完璧に制御した《狂戦士の魂》、更には今まで強敵を葬り去ってきた《死線に踊る》の重複発動。さらに《魔力操作》をもってしても、まだオークキングのほうが力が上だ。
ゴル・ゴルの気合とともに、頭上から大槌が降ってくるような一撃を、まともに大剣で受け止めてしまった。
地面にめり込む足、吐血は容赦なく体力を奪い、致命的な隙を作り出す。
「王!!」
遠く聞こえるゴブリンの悲鳴。
だめか、と思い視線を上げた瞬間視界を横切る巨大な影。
「ぬぅ!」
ゴル・ゴルの戸惑ったような声とともに、その大剣が目の前の槍鹿を弾き飛ばす。
──槍鹿。
──きた、来たぞ!! ギ・ギーに命じて、湖から北西に広く分布する槍鹿の群れを誘導させていた策がようやく成った。
しかも霞む視界の中には、槍鹿を強引に弾き飛ばすオークキングの姿。
今しかないっ!
「我が身は砂塵の如くっ!!」
悲鳴を上げる体を無視し、槍鹿の四本足の僅かな隙間を狙って加速を繰り出す。
壁と化す空気が内部を容赦なく圧迫する。
「我が身は刃に為りゆく!!」
無理は承知の上!
増大した魔力とともに、アクセル、エンチャントの同時併用。更に、《三度の詠唱》を発動させる。
刃を脇に抱えると、軌道だけを確認し潰れる視界を無視して発動させた。
真っ白な視界。
「小癪ナ!」
──こっち、か!?
「主っ!」
ギ・ゴーの声が聞こえた。
「ギ・ガー早まるな!」
声のする方向にアクセルを──。
「ゴォ、グゥォオオアア!?」
ぶつかる衝撃とともにオークキングの悲鳴が聞こえる。
追撃だ。
動かぬ大剣を自身の筋肉が引き千切れる音を無視して、動かす。
今、──今しなければ次は無い!
立てた刃を、そのままに大剣を頭上に振り上げる。
「ゴォボ、オゥォアア!」
聞こえる悲鳴だけを頼りに、更に力を込める。
「オ゛ノレ゛」
まだか、──!?
「我が身は砂塵の如く!!」
至近距離。身体が密着した状態からの加速で、更に深くオークキングの身体を食い破る。
「グ、アァア……」
まだか──、まだなのか!!
「我が身は刃に為りゆく──くっ!?」
発動しようとした途端、右腕に鋭い痛みが走り、体中の力が抜け落ちる。
使い尽くしたかっ!?
直後弾き飛ばされる俺の身体。
【スキル】の発動と、魔素の消費の限界で、もはや動くことすらままならない。
戦わねば──。
その思いだけで立ち上がろうとして、大剣が手元に無いことに気がつく。
──まずい。今来られたら対抗する術が無い。
まずい、まずい!
潰れた視界が徐々に晴れていき、目の前に映ったのは、足元には槍を、身体の中心を大剣に貫かれて絶命しているオークキングの姿だった。
──勝った、のか?
そうして俺の身体を見れば、腹から肩へとどうしようもなく深い傷が目に入った。
流れ出る流血の量は、赤く血溜りを作り、取り返しがつかないことを示す。
「王っ!」
ギ・ゴーの悲鳴が聞こえた気がして俺の意識は暗闇に落ちた。
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【スキル】《直感》を習得しました。
命の危険を、直感により回避します。回避率が20%上昇します。
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