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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
40/371

激突Ⅱ

【種族】ゴブリン

【レベル】62

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv1)灰色狼シンシア(Lv1)

【状態異常】《聖女の魅了》




 左右から隙を見ての挟撃。

 オークが集落に攻め寄せている間に、その隙を突かせてもらう。

「音を立てるな」

 指示を出しながら、茂みの中を走る。背に負った鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)に手を当てながら、前方に見えたオークに向かう。

我は刃に為りゆく(エンチャント)!」

 すぐさま刃に魔力を纏わせ、一太刀のもとにオークを斬り伏せる。

「ピュグァァ!」

 叫びでオークどもが集まってくるその前に離脱せねば。

 ──だが、その前に!

 密集していたオークにさらに刃を奮う。俺の後ろから追いついてきたギ・ゴーとギ・ジーの手勢と共に一時的にオークを押し込むと、無理をせずに引き上げる。

「グルゥウゥァアア!」

 この襲撃でも倒せたオークは5匹にも満たない。

 先ほどの後背を突いた迎撃でも倒せたのは6に満たないだろう。

 まずいな。

 思った以上にオークが頑丈で、こちらのゴブリンの攻撃力が弱い。

 反対側の戦場でも、元集落のボスであるギ・グーと長腕のギ・ガー。二匹のノーブル級ゴブリンに率いられた部隊が戦っているはずだが、それでも予定の数を削り切れていない。

 まるで無限の体力を持つ化け物を相手にしているようだった。

 いくら切り取っても少しも体力を削れている気がしない。

 俺が最後尾に立って襲撃を切り上げる。

 昨晩放ったギ・ギーはまだ戻らないのか。

 思わず弱気になる心を、鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を握りなおして打ち払う。

 俺は王だ。

 臣下を信頼はしても、頼りきりになってどうする!

「もう一度行くぞ!」

 オークを巻いたところで再び態勢を立て直す。

 何度でも、斬りつけてやる!


◆◇◆


 遠目から見ただけで状況は悪化の一途を辿っていると言っていい。

 オークの群れに四度目の突撃を仕掛けた後、集落の様子を遠目に確認した。

 くそ!

 すでに罠の半ばまで食い破られている。

 集落の柵には至っていないが、それも時間の問題だ。

 集落から放たれる投石と、魔法の量は常に一定を保っているがそれもいつまで持つか。

 オークの突撃は凄まじい。王に率いられているからなのか、罠に落ちた同胞を踏みつけにして、それからさらに前に進んでくる。

 奴らには恐怖がないのか!?

 傍目で見ている俺がそう思わざるを得ないほどの、狂気に駆られた突撃だった。

 オークの先頭が堀に到達する。

 くそっ!

 視線を巡らせて、オークの群れの方向を確認する。

 オークの群れの中心であるオークキングの元にはいまだ豊富な戦力が残されていると言っていい。対してこちらは……。後ろを振り返ってゴブリン達を確認するが、一様に皆疲れ果てていた。

 相次ぐ襲撃に、一撃でももらえば致命傷になりかねないオークの攻撃を避けながらの突撃。着実にオークを戦闘不能に追い込んではいるが、このままでは集落を落とされかねない。

 ギ・ゴー、ギ・ジーあたりのレア級ゴブリンはまだ体力があるが、普通のゴブリンではそろそろ限界が見えてきている。

 だが、それでも──。

 走らせねばならない。でなければ集落が落とされるのだ。

「行くぞ!」

 喋る気力もないのだろう。ゴブリンたちの無言の頷きに、今は期待するしかなかった。

 くそ、何が王だ! 俺は王と名乗りながら奴らの力に依存しているだけじゃないか。

 茂みの中を身を低くしてオークの群れに接近する。

「ピュグァアアァ!」

 オークの叫び声に、わずか視線を上げればオークの戦士がひと塊りになってこちらに向かってくる。

 なぜばれた!?

「退け!」

 取り換えず逃がさねば、ゴブリン達がオークの餌食になる!

 追いかけてくるオークの前に立ちはだかって追撃を緩めるため、大剣を振るう。

 逃げようとして気がついた。

 風の方向が変わってやがるっ!

 オークお得意の嗅覚で俺たちの接近を知ったのか。

 左右から迫る棍棒の一撃。戦争の厄介なところは常に多面での戦闘を強要されることだ。一対一なら決して負けることがないような相手でも、それが複数となれば話は別だ。

 ましてはオークはこちらより数が多く、その一撃はゴブリンの命など簡単に奪ってしまえる程に強力で容赦がない。

 せっかく接近していたゴブリン達をすぐに退避させ、迫り来る脅威に対処する。

 2匹のオークが迫っていた。

 手にした大剣を左右に振りぬき、棍棒を撥ね退ける。振りぬいた剣先を力任せに軌道修正、今度は元来た軌道を戻るように大剣を振りぬく。

 追撃のため俺に接近していたオークの巨体の胸の辺りを斬り裂く。

 普段ならこれで怯んでくれるはずのオークは、だが全く怯まなかった。それどころかなお一層猛り、俺に襲いかかってくる。

 右から俺を捕らえようと伸ばされるオークの腕を後ろに下がって避け、同時に左から襲ってきた棍棒の棒先が俺の目の前を通り過ぎる。

 こいつら、怪我を負うのを何とも思っていないのか!?

 もし今俺が腕を斬り落としていたら、強かに棍棒に打ち据えられていただろう。

 腕を犠牲にして俺を倒しに来やがった!

 しかも、連携も随分うまくいっている。これが狂化!

 これがオークキングの力だとでも言うのか!

 左から襲ってきたオークに狙いを定めて、大剣を振りぬく。《剣技B-》の補正を持って、正確に頭を狙った大剣の一撃。振り切った棍棒を防御に回そうとしたところで、俺の大剣の速度が勝った。

 オークの頭を叩き潰して、肩に担ぐように大剣を構えなおす。

 同時に至近戦を挑もうと棍棒の間合いのさらに内側に入り込もうとするオークの姿が目に入り、勢いをつけて大剣を頭上からたたき落とした。

 オークの頭を叩き割った一撃。だがそれをすぐに仕舞うと俺は撤退せざるを得なかった。

 すぐに後ろから次なるオークが迫っていたからだ。

 突き出される槍が、背を向ける俺の肩を掠める。

 後ろから襲われる恐怖と苛立ちに、歯をかみ締めて耐えた。

 投げられた短槍が放物線を描いて逃げる俺の足元に突き刺さる。

 くそ、くそくそくそ!!!

 身を低くして茂みの中を這いずり回り、オークを必死に巻く。

 ゴブリンの匂いを辿って手下の元にたどり着いたのは、すでに辺りが暗くなっていた。

「主……」

 力なくうなだれるギ・ジー。無言でこちらを見つめるギ・ゴーの姿に、俺は怒りを覚えた。

 なぜ、こんなにも弱い!

 なぜこんなにも力の差がある!?

 負けるっ!

 このままでは集落が全滅させられてしまう。

 こんなところで!

 握り締める、鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)の感触を確かめる。

 時間が、ない!

 ならば。

 ならばっ!

「ギ・ゴー、ギ・ジー」

 静かに目を瞑って深く息を吐く。

 ……腹をくくらねばならなかった。

 なるべく被害を抑えて勝つ。

 そんな甘いことを言っているからオークに押し込まれ、惨めに逃げ出さねばならないのだ。

「俺について来る覚悟はできているか?」

 何かを感じ取ったのだろう。他のゴブリン達も互いに顔を見合わせる。

「このままでは、集落が全滅する」

 黙って俺の言葉を聴くギ・ゴーとギ・ジー。更にはその配下のゴブリンたち。

「もう犠牲を厭うている場合ではない」

 王として俺はこいつらに命じねばならない。

 守るべきもののために、死ぬ覚悟をせよと。

「王ガお命ジになルのなら」

 まっすぐに俺の視線を見つめるギ・ジー。

 そうだ。俺が命じる。俺が死ねと命じるのだ。

 一緒に飯を食い、狩りをし、暮らしてきたこいつ等に、俺が死ねと命じるのだ。

「拙者ガ命ハ既に王のモノにテ」

 頭を垂れるギ・ゴー。

 その気持ちをなんと言えばいいのだ。

 だが、やらねば集落は全滅する。俺の野望は潰える。今まで心血を注いできたものは全て消えて失せる!

 結局のところ……俺のために、死ねと──。

「……これよりオークの群れに攻撃を仕掛ける。今度は、やつらの足を止め、オークキングを刺し貫くまで決して止まるな」

「ハっ!」

「承知!」

 立ち上がる俺に続いてゴブリン達に指示を下すギ・ゴー、ギ・ジー。

 迷っている暇などない。

 俺が一瞬迷えば、それだけ集落が危険に晒される。

「駆けろ!」

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を肩に担ぎ、俺はオークキングを目指した。



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