激突Ⅰ
【種族】ゴブリン
【レベル】61
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv1)灰色狼(Lv1)
【状態異常】《聖女の魅了》
ギ・ジーからオークの進路の最終的な報告を受ける。
やはり奴らは集落の北側から攻め寄せてくるようだ。
「ギ・ザー罠の設置は頼むぞ」
「やれやれ、昨日から働き通しだ」
愚痴る彼を尻目に、他の者に指示を下す。
後半日でオークが攻め寄せてくるのだ。悠長にしている暇はない。
「ギ・ガー、ギ・グーそれぞれ5組を率いて迎撃準備。一撃を加えた後は西の森に潜め」
「御意」
「はっ」
「ギ・ジー、ギ・ゴーお前らはそれぞれ五組を率いて俺とともに来い」
「承知」
「はイ」
「集落の守備はギ・ザーに任せる。精々オークを痛めつけてやれ」
「任せろ」
「ギ・ギーにはすでに策を授けて先発させてある……質問はあるか?」
沈黙を持って応えとするゴブリン達に、俺は大きくうなずいた。
「出るぞ。これはオークから集落を守る戦いであり、オークどもを殺す好機だ。長年苦しめられたオークとの諍いにこれで終止符を打つ!」
「応!」
俺が率いて出撃するのは10組30匹とレア級、ノーブル級のゴブリンだ。別働隊として、ギ・ギー率いる5組15匹がいる。
直接集落を守るのはギ・ザー率いる23組70匹ほど。いまだ幼生から成人したばかりのゴブリン、老ゴブリンまで根こそぎ動員した結果だ。
人間達の指揮はリィリィに頼んだ。
オークが集落の中に入り込んで来た時は自分の身は自分達で守ってもらうことになる。
「出撃!」
俺はゴブリン達を引き連れて出撃した。
◆◆◇
木々の引き倒される音と共にそれはやってきた。
「ピュグアァア!」
先頭を進むオークは鎧と盾に身を包んだ重装備。その後続から長槍を構えたオークの姿も見える。土煙を上げて進むオークの群れは湖に差し掛かったところだった。
無謀にもその行く手を遮ろうとした魚鱗人の群れを一撃のもとに粉砕し、踏み潰して進路を南……つまり俺たちの集落の方向へ取る。
全く、くそったれだ。
「二手に分かれる」
ノーブル級に昇格したギ・グーと長腕のギ・ガーの部隊合計30匹と、俺率いる古武士ギ・ゴー、隠密ギ・ジーの部隊。
「奴らが森へ入る瞬間を狙う。合図を見逃すな」
森の中を迂回し、風下で待機する。
妙に鼻の利く奴らを侮ってはいけない。
湖の周辺は他の生き物が水を飲みに来る関係もあって開けた場所になっている。そこから俺たちの集落へ伸びる道は、槍鹿を運べる程度に整備はされているが、周囲はまだ鬱蒼と茂った森林だ。
森を貫く一本の道。その左右に分かれて俺は兵を配置した。
オークの集団とはいえ、森のすべての木々を薙ぎ払って進むわけにはいかない。
道があれば、そこを通過するし、道を通過するなら集団は縦に伸びる。
そして縦に伸びるなら……。
「当然、指揮はし難くなる! 今だ、奴らの後ろに喰らい付け!」
集落に迫る道に半ばまでオークの群れが入ったところを見計らって俺はその後尾に突撃を仕掛ける。
鋼鉄の大剣を握りしめ、先陣を切る。反対側からはギ・グーとギ・ガーが最後尾のオークに喰らい付く。
「我は刃に為りゆく!」
手加減をしている余裕はない。最初から全力で叩き潰さねば、負ける!
「グルゥウァアァ!」
《威圧の咆哮》を発動すると同時に刃に魔力を纏わせる。
振り返えらせる間もなく後ろからオークに切りかかり一撃の元にその巨体を沈める。
「訓練通り三匹一組で当たれ!」
オークを切り倒す合間に指示を出す。
振り返ったオークに、ギ・ゴー、ギ・ジーの部隊が襲いかかる。
一人目が相手の体勢を崩し、二人目が動きを止める。最後の一人が急所に刃を差し込み、オークを倒す。だが、それもすぐに覆される。
「ピュブゥグアア!」
混乱するかに思われたオークはあっという間に態勢を立て直し向かってくる。
まだ集落へ続く道に入り込む前だったオークを中心に、反転。ゴブリンの矮躯を跳ね飛ばそうと自身の体に傷ができるのも構わず突進を仕掛けてくる。
ギ・ゴーがうまくオークを引き付けいなすが、先日レア級になったばかりのギ・ジーではそんな芸当は不可能だった。ゴブリン達が各個に避けるが、襲いかかったときの勢いは消えてしまう。
──手助けするなら、こっちか!
ギ・ジーに向かうオークを斬り伏せると、ギ・ジーに向かって指示を下す。
「俺の後に続け!」
「王ニ続ケ!」
長剣を振り上げ、手下に檄を飛ばすギ・ジー。配下のゴブリン達は、三匹一組になって俺の後に続いてくる。
俺が鋼鉄の大剣でオークを弾き飛ばして、ゴブリンが息のあるオークにとどめをさす。
「ピュグゥアアァ!」
だがオークも早々に一撃で沈んでくれるはずもない。
振りかぶったオークの棍棒が落ちてくるのを大剣で防ぎ止める。そのまま鍔迫り合いに持っていくがその隙に、他のオークが俺の横をすり抜けてゴブリンに向かう。
これだから、物量というのは厄介なんだ!
オークがゴブリンの三匹一組に向かい長剣をふるい、それをゴブリンがなんとか受け止めて、二匹目はオークの足を攻撃する。だが三匹目がオークの急所に攻撃を仕掛けようとしたところで、オークが再び長剣でゴブリンを薙ぎ払う。
咄嗟に攻撃を断念したゴブリンの判断は、その命を救った。再びオークと対峙する三匹一組のゴブリン達。
ギ・ジーが、ギ・ゴーが奮戦するがそれでもなおオークの巨体は壁のようにゴブリンが食い込むのを防ぐ。
一進一退だった。
くそ、まずいな。
勢いのあるうちに出来るだけ追い散らかしたかったが、これじゃ厳しい。オークの群れはいまだ後尾だけで俺の率いてきたゴブリンと互角だ。中段から前段のオークが戻ってきたら、この形勢は逆転するどころか一気にオーク側に傾く。
引き際の難しさだ。損害の出る前に引きたい、だが思ったほどにオークの群れに損害を与えていない。どちらを優先すべきだ!?
くそっ!
「退くぞ! ギ・ゴー、ギ・ジー最後尾を守れ」
損害の出る前に引き上げて森の中に襲撃部隊を入れるべく指示を出す。
「退け!!」
威圧の咆哮を使って相手をけん制しつつ、退く。ギ・グーとギ・ガーにも聞こえたのだろう。彼らの部隊も徐々にオークの群れから離れて行った。
後は森の中からオークの集落への侵入を出来るだけ阻止、鈍らせてやる。
部隊を森の中に引かせる。
懸念されたオークの追撃はなかった。
だがそれは喜ばしくない事実を一つ提示している。
奴らは集落の攻撃に全力を注ぐつもりなのだ。
「負傷者は!?」
部隊を再編成だ。すぐにでもオークの群れを襲いに行かねば!
◆◆◇
「壮観だな」
口元に笑みを浮かべたギ・ザーは、眼下に広がる光景に怯えも見せず呟いた。
「罠にかかった敵を狙え。投擲用意」
集落の北へ通じる道からあふれ出るオークの姿。その姿は50や60でも足りない。
配下の祭祀に魔法の準備をさせると同時に、一般のゴブリンには足元に山積みにされた石を握らせ、投擲の準備をさせる。
王の言うことに間違いはない。
そう信じているからこそ、眼下の光景に笑っていられる。
王が次はどんな方法でこいつらを殲滅するのか。想像するだに喜びが背筋を駆け上がる。
だが、そのためには自分自身が役目を果たさねばなるまい。
「良いか、俺の風が撃ち込まれた場所に狙って打つのだ」
効率的にオークを殺さねばならない。
ドルイドの魔法といえど、一撃でオークを葬れるほど強力なものは少ない。二発、三発と打ち込まねばオークに致命傷など与えられるものではないのだ。
だから、無駄撃ちは許されない。
「ゴォォウオォォ!」
見ればオークの軍勢は威勢を上げている。
その様子に怯えるゴブリンの姿が目に入った。
「聞けェ! 王の戦士達!」
戦況が見渡せるように高くした物見台の上から、集落全てに届くように声を張り上げる。
「王を信じよ!」
多くは必要ない。あの王の偉大さは、この集落に居る全てのゴブリンが知るところだ。
あの男が現れてから、餌に不自由しなくなった。幼生は死なず、群れは拡大の一途をたどり、なおその途上といってもいい。
みるみるギ・ザーの言葉は集落に染み渡っていくようだった。
「我らが王を信じよ! 偉大なる王を!」
そう、あの男が戦うというのなら決して負けはしない。
集落全体から立ち上る戦意が、目に映るようだ。
「ゴゥゥオオオォォ!」
進みだすオークの軍勢に、ギ・ザーは目を細めた。
「投擲用意!」
戦はまだ始まったばかりだ。
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レベルが上がります。
61→62
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