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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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狂化

【種族】ゴブリン

【レベル】61

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔素操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv1)灰色狼シンシア(Lv1)

【状態異常】《聖女の魅了》




 集落の方向へ向けて帰る途中、双頭の大蜥蜴(リザードダブル)角殻蝸牛ピークルスナップらをレア級ゴブリンを中心として狩らせながら戻る。

 不安は残るが、何も分からない状態で焦っても仕方ない。

 今出来ることと言えば、何が起こっても良いように全体のレベルを上げておくことだ。

 漠然とそんなことを考えながら、俺は目の前の戦闘を見守る。

 獲物はリザードダブル。本日2匹目の獲物だった。

 古武士然としたギ・ゴー率いる3匹のゴブリンが左に回り込み、元集落のリーダーであるギ・グー率いる3匹のゴブリンが右に展開する。左右から挟み込むように、リザードダブルの足を狙って攻撃を繰り出す。

 リザードダブルの足は6本。

 それぞれに向かって、ほぼ同時の攻撃を加える。頭を左右に向けるリザードダブルは殆ど同時の攻撃にどう対処していいか分からないようで、混乱している様子だった。

 そこへギ・ゴーの曲刀で切り付けられ、ギ・グーの振りかざした長剣が叩き込まれる。

 血飛沫を上げる傷口に、彼らの手下の2匹が持っている刃の欠けた剣が突き刺さり傷口を広げる。

 悲鳴を上げてのた打ち回るリザードダブルの首に再び二対の刃が叩き込まれ、戦いは終わった。

 随分と連携攻撃に慣れてきたようだ。

 この様子なら、オーク相手でも何とかなるだろう。相手が2匹以上なら苦しくなるだろうが……。

 ギ・ゴーらが倒したリザードダブルの肉を食いながら道を急ぐ。

 かなりの強行軍もあって、集落に着いたのはその日の夜半だった。

「随分急いだのだな」

 集落に入るなり腰砕けに倒れ込むゴブリン達を見下ろして、出迎えに来たギ・ザーが疑問を口にする。祭祀ドルイドを纏めるこのゴブリンの容姿は人間に近い。

「ああ、少し気になることがあってな」

「まぁ、立ち話もなんだ。取り敢えず、新しく作った王の家に行かないか?」

 何?

「新しく作った?」

「お前の連れてきた人間は、実に良く働いてくれる。集落のことは任せられていたからな。ゴブリン達を使って新しく家を作ってみたのだ」

 得意げに話すギ・ザーに連れられ、新しい王の家を見に行く。

 歩く間に、留守の間に起きたことを聞いておく。

 集落の北側に槍鹿を狩りに行く為の経路を広くしたとのこと。以前から、頻繁に槍鹿を狩りに行くことが多くなっていたゴブリン達の便利さを追求したそうだ。

 前々から俺が何とかしたいと言っていたのを、叶えた形になる。

 槍鹿は湖から北西にかけて広く分布している。大きな体から取れる肉はゴブリン達の大好物だ。狩りを行う際にも、レベルを上げる為にも、頻繁に利用する狩り場だった。倒した際に、その大きな体を引き摺ってくるのが結構な重労働だったので、これで少しは食料の搬入が容易になるだろう。

 そして、問題の王の家だ。

 以前俺が使っていた家を大きくした感じのその建物は、俺が偵察に出ていた3日の間に作ったにしては、相当なものだった。

「随分無茶をさせたのではないか?」

「お前は甘いのだ。この程度使ってやったほうがいい」

 それは自覚しないでもないが。

「俺には俺のやり方がある」

「まぁ、それでいいさ」

 肩を竦めるギ・ザーが扉を開けると、中で眠りにつくレシアと、その腕の中で丸くなっているシンシアとガストラ、更にはリィリィと女どもまでいた。特にシンシアとガストラは、俺が出て行く前より一回り大きくなっているような気がする。

 扉を開ける音が聞こえたのだろう。二匹はぴくんと、耳を欹てて、眠たげな視線を俺に向ける。

「ウォァン!」

 二つ揃った吠え声に、レシア達が目を覚ます。

「あら、お帰りなさい」

 眠たげに目を擦ると、再び眠りにつく。

 他の女達は怯えた様子で俺を見て、身を硬くするばかりだ。

 俺の足元には、戯れ付くシンシアとガストラ。

「……どういうことか説明してもらおうか」

 俺の睨んだ先には、悪戯を成功させたような笑みを浮かべるギ・ザーの姿があった。


◆◇◇


 偵察の一通りの結果を聞いたギ・ザーと老ゴブリンは、同じように眉を顰めて考え込む。

「……知識でしか知らんが」

 そう前置きして、ギ・ザーが口を開いた。

「オークに、新たな王が誕生したのかもしれん」

 王、だと? まぁ、ゴブリンでも俺のように王になろうとする者がいるのだから、オークにもいるだろう。

 別に不思議でもない。

「ゴブリンに4つの大きな氏族が存在しますように、オークにも部族がございます」

 皺だらけの顔を更に皺くちゃにして、老ゴブリンが話し始めた。

 要約すると、俺達の隣のオークの部族に新たな王が誕生した場合、部族のオークは全員その王の下に結集するらしい。

「オークキングと呼ばれる個体に率いられたオーク達は、森を越えて人間の世界にまで侵出したことがあるそうです」

 狂化という現象らしい。

 恐ろしいのは、オークキングが死ぬまでオークの群れは止まることがないということ。オークキングに率いられたオークは足に傷を受けても、片腕を失っても、頭や胸に魔法を打ち込まれても、文字通り死ぬまで走ることを止めなかったらしい。

 走る三角猪の群れより厄介だな。 

「成程……」

 頷いて、考えを整理する。

 この周辺からオークが消えたのは、オークに新たな王が誕生したからか。

 王の下に結集したオークは狂化し、一斉に走り出す。

 目的も、方向も、今のところオークの王しか知らない。

 ──中々、素敵な状況じゃないか。

 内心毒づいて、口の端を歪める。

「オークの部族丸ごとか」

 普段は2~6匹の群れで行動しているオークだが、王が現れた時ばかりは、団体行動とは無縁な奴らが一つに纏まる。

 人間の世界に打撃を与える程に強力なその行軍が、近々俺の集落を襲う様を想像する。何とも愉快な出来事に違いない。

「その群れが進む方向を特定出来るか?」

 そこまでは、と言って、首を振る老ゴブリン。

「ま、何にせよ侮らないことだ」

 肩を竦めるギ・ザー。

 侮る? 暴走した牛の群れのようなそいつらをどう侮るんだ。

「オークの狂化について、他に分かっていることはあるか?」

 俺の質問に、ギ・ザーと老ゴブリンは二人で首を振る。

 成程、情報不足だ。

 最悪、防備だけは固めねばならない。

「明日から集落の外側に堀を作るぞ。その外側には落とし穴だ」

 俺やレア級以上のゴブリンだけなら狂化を避けることは簡単だ。偵察を出しておいて逃げれば良い。

 しかし、集落全体を避難させるなら足の遅い人間や非戦闘員のメスゴブリンなどを優先して逃がさせねばならない。

 だとすれば、早急に集落の強化をしなければ。

「分かった」

 頷くギ・ザー。無言で頷く老ゴブリンを確認して、話を終わらせる。

 それにしても、オークに王が出現した、か。

 先を越されたのか……だが、狂化?

 王が現れた途端の行動だとすれば、俺が王になった直後に何らかの不可避の効果があるのだとすれば……俺の意思と関わりなくゴブリン達が、或いは俺自身が動き出してしまったとしたら。

 その想像に、噛み締めた歯が鳴る。

 目を閉じて脳裏に描かれるステータスから、《反逆の意志》を確認する。

 果たして、どこまで対抗出来る?

 魔力の増大と共に、暗闇からひたひたとあの女(アルテーシア)の足音が聞こえてくるようだ。ゼノビアの力で遠ざけられているだけで、再び俺に干渉を加えてくる時には、逃れようのない強大な力を行使してくるのではないだろうか。

 もっと力をつけなければ。

 誰の力にも依らない、俺自身の力を。

「少し宜しいでしょうか?」

 瞼を開ければ、ギ・ガーが神妙な面持ちで目の前にいた。

「ああ」

 内心の動揺を表に出さないようにして、軽く頷く。

「ギ・ザー殿には、必要ないと言われたのですが」

 聞いた内容に、俺は目を剥かんばかりに驚いた。

 俺の居ない間に一匹のゴブリンが人間の女を襲おうとして、ギ・ガーが処分したらしい。

「実際に処分の命令を下したのはギ・ザー殿です。ギ・ザー殿は、王にはこのままでいてもらいたいと。憎まれ役は自身がやる、と」

 腕を組んだまま瞑目する。

 こういった事態が起こることをどこかで予感はしてはいた。だが、俺はゴブリン達を信じたかったから目を瞑った……考えが甘かったということか。

 ギ・ザーの苦笑に混ぜた忠言が、俺の耳に蘇る。

「ギ・ザー殿だけに任せる訳にはいかず、私が手を下しました。王よ、どうかギ・ザー殿には寛大なご処置を」

 平伏するギ・ガーの姿に、俺は思わずこの建物を見上げる。

 成程、だから新しい王の家を作ったのか。

 俺は、思った以上にこいつ等に世話をかけていて、思った以上に手下に恵まれているらしい。

「分かった。今回のことは不問とする」

「ありがたき幸せ」

「ギ・ガー。お前も、よく知らせてくれた」

「いえ……私の処罰は?」

「ギ・ザーを処罰しないのに、お前を処罰する筈がないだろう?」

「はっ!」

 ギ・ガーを下がらせると、俺は再び黙考する。

 ──手綱を締め直す必要があるな、後は……。

 視線を、レシアの近くで丸くなっているシンシアとガストラに向ける。

 いつまでも、ギ・ガーやギ・ザーに甘えている訳にはいかない。

 事実の調査も行わねばならないな。

 或いは、逆の事実が浮かび上がった時のことも考えねばならない。

 ギ・ガーの話が逆で、ギ・ザーが勝手にゴブリンを処分した。そういう可能性もなくは無い。

 そんなことがなければいい。心底そう思いながら、それを考えねばならない自分に少し嫌気が差した。




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