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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
36/371

狂化

【種族】ゴブリン

【レベル】61

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼ガストラ(Lv1)灰色狼シンシア(Lv1)

【状態異常】《聖女の魅了》




 集落の方向へ向けて帰る途中、双頭の大蜥蜴(リザードダブル)角殻蝸牛ピークルスナップらをレア級ゴブリンを中心として狩らせながら戻る。

 不安は残るが、何もわからない状態で焦っても仕方ない。

 今できることと言えば、何が起こっても良いように全体のレベルを上げておくことだ。

 そんなことを漠然と考えながら、俺は目の前の戦闘を見守る。

 獲物はリザードダブル。本日2匹目の獲物だった。

 古武士然としたギ・ゴー率いる3匹のゴブリンが左に回り込み、元集落のリーダーであるギ・グー率いる3匹のゴブリンが右に展開する。左右から挟みこむように、リザードダブルの足を狙って攻撃を繰り出す。

 リザードダブルの足は6本足。

 それぞれに向かって、ほぼ同時の攻撃を加える。頭を左右に向けるリザードダブルはほとんど同時の攻撃にどう対処していいかわからないようで、混乱している様子だった。

 そこへギ・ゴーの曲刀で切り付けられ、ギ・グーの振りかざした長剣が叩き込まれる。

 血飛沫を上げるその傷口に、彼らの手下の2匹が持っている刃の欠けた剣を突き刺し傷口を広げる。

 悲鳴を上げてのた打ち回るリザードダブルの首に再び二対の刃が叩き込まれ戦いは終わった。

 随分と連携を使った攻撃に慣れてきたようだ。

 この様子なら、オーク相手でもなんとかなるだろう。ただし相手が2匹以上ならだいぶ苦しくなるだろうが……。

 ギ・ゴーらが倒したリザードダブルの肉を食いながら道を急ぐ。

 かなりの強行軍もあって集落についたのは、その日の夜半だった。

「随分急いだのだな」

 へとへとになって集落に入るなり倒れこむゴブリン達を見おろして、出迎えに出たギ・ザーが口にする。祭祀ドルイドをまとめるレア級のゴブリンの容姿は、人間により近い。

「ああ、少し気になることがあってな」

「まぁ、ここではなんだ。とりあえず新しく作った王の家にでもどうだ?」

 なに?

「新しく作った?」

「お前の連れてきた人間はよく働いてくれる。集落のことは任せられていたからな。ゴブリン達を使って家を作ってみたのだ」

 得意げに話すギ・ザーに連れられ王の家と言うものを見に行く。

 歩く間に、留守の間に起きたことを聞いておく。

 集落の北側に槍鹿を狩りに行く経路を広くしたとのこと。以前から、頻繁に槍鹿を狩りに行くことが多くなっていたゴブリンの便利さを追求したそうだ。

 前々から俺が何とかしたいと言っていたのをかなえた形になる。

 槍鹿は湖から北西にかけて広く分布している。大きな体からとれる肉はゴブリン達の大好物だ。狩りをおこなう際にも、レベルを上げるために頻繁に利用する狩り場だった。倒した際も、その大きな体を引きずってくるのが結構な重労働だったので、これで少しは食料の搬入が容易になるだろう。

 そうして問題の王の家だ。

 以前俺の使っていた家を大きくした感じのその建物は、俺が偵察に出ていたほんの3日の間に作ったのしては相当なものだった。

「随分無茶をさせたのではないか?」

「お前は甘いのだ。この程度使ってやったほうがいい」

 それは自覚しないでもないが。

「俺には俺のやり方がある」

「まぁ、それでいいさ」

 肩をすくめるギ・ザーが扉を開けると、中で眠りにつくレシアと、その腕の中で丸くなっているシンシアとガストラ、更にはリィリィの姿と女どもまでも。俺が出て行く前より一回り大きくなっているような気がするシンシアとガストラ。

 扉を開ける音が聞こえたのだろう。ぴくんと、耳をそばだてて二匹は眠たげな視線を俺に向ける。

「ウォァン!」

 二つそろったその声に、レシア達が目を覚ます。

「あら、おかえりなさい」

 眠たげに目を擦ると、再び眠りにつく。

 他の女たちは、おびえた様子で俺を見るが、身を硬くするばかりだ。

 俺の足元にはじゃれつくシンシアとガストラ。

「……どういうことか説明してもらおうか」

 俺の睨んだ先には、悪戯を成功させたような笑みを浮かべるギ・ザーの姿があった。


◆◇◇


 俺の偵察の一通りの結果を聞いたギ・ザーと老ゴブリンは同じように眉をひそめて考え込む。

「……知識でしか知らんが」

 と前置きして、ギ・ザーが口を開いた。

「オークに新たな王が誕生したのかもしれないな」

 王、だと? まぁゴブリンでも王になろうとするものがいるんだ……ココにな。

 別に不思議ではない。

「ゴブリンにも4つの大きな氏族が存在しますように、オークにも部族があります」

 皺だらけの顔をさらに皺くちゃにして老ゴブリンが話し始めた。

 要約すると、俺たちの隣のオークの部族に新たな王が誕生した場合、部族のオークは全員その王の下に結集するらしい。

「オークキングと呼ばれるその個体に率いられたオーク達は、森を越えて人間の世界にまで進出したことがあるそうです」

 狂化という現象らしい。

 それの恐ろしいところは、オークキングが死ぬまでオークの群れが止まることがなかったと言うこと。オークキングに率いられたオークは、足に傷を受けても片腕を失っても、胸に魔法を打ち込まれても死ぬまで、走ることを止めはしなかった。

 走る三角猪の群れより厄介な存在だな。 

「なるほど」

 頷いて考えを整理する。

 オークが周辺から消えたのはオークに新たな王が誕生した可能性がある。

 王の下に結集したオークは狂化して、一斉に走り出す。

 目的も、方向も今のところオークの王しか知らない。

 ──なかなか、素敵な状況じゃないか。

 内心毒づいて、口の端を歪める。

「オークの部族丸ごとか」

 普段は2~6匹の群れで行動しているオークだが、王が現れた時ばかりは、団体行動とは無縁の奴らがひとつにまとまる。

 人間の世界に打撃を与えるほどに強力なその行軍が近々俺の集落を襲うさまを想像すれば、なんとも面白くない出来事に違いない。

「その群れが進む方向は、特定できるのか?」

 そこまでは、と言って首を振る老ゴブリン。

「ま、なんにせよ侮らないことだ」

 肩をすくめるギ・ザー。

 侮る? 暴走した牛の群れのようなそいつらをどう侮るんだ。

「オークの狂化について、他にわかっていることはあるのか?」

 俺の質問に、ギ・ザーと老ゴブリンは二人で首を振る。

 なるほど。情報不足だ。

 最悪防備だけは固めねばならない。

「明日から集落の外側に、堀を作るぞ。その外側には落とし穴だ」

 俺やレア級ゴブリンだけなら狂化を避けることも簡単だ。偵察を出しておいて逃げればいい。

 しかし集落全体を、となれば足の遅い人間や非戦闘員のメスゴブリンなども非難させねばならない。

 だとすれば、早急に集落の強化をしなければ。

「分かった」

 頷くギ・ザー。無言で頷く老ゴブリンを確認して、話を終わらせる。

 それにしてもオークに王が出現した、か。

 先を越されたのか……だが、狂化?

 王が現れた途端の行動だとすれば、俺が王になった直後に何らかの不可避の効果があるのだとすれば……俺の意思と関わりなくゴブリン達が、あるいは俺自身が、動き出してしまったとしたら。

 その想像に、ぎりっ、とかみ締めた歯が鳴る。

 目を閉じて脳裏に描かれるステータスから、《反逆の意志》を確認する。

 果たしてどこまで対抗できる?

 魔力の増大とともに、暗闇からひたひたとあの女(アルテーシア)の足音が聞こえてくるようだ。ゼノビアの力で遠ざけられているだけで、再び俺に干渉を加えてくるときには逃れようのない強大な干渉になるのではないだろうか。

 もっと力をつけなければ。

 誰の力にもよらない、俺自身の力を。

「少しよろしいでしょうか?」

 瞼を開ければ、ギ・ガーが神妙な面持ちで目の前にいた。

「ああ」

 内心の動揺を表に出さないようにして、軽く頷く。

「ギ・ザー殿には、必要ないと言われたのですが」

 聞いた内容に俺は目を剥かんばかりに驚いた。

 俺のいない間に、ゴブリンの一匹が人間の女を襲おうとして、ギ・ガーが処分したらしい。

「実際に処分の命令を下したのは、ギ・ザー殿です。ギ・ザー殿は王にはこのままでいてもらいたいと。憎まれ役はギ・ザー殿がやるから、と」

 腕を組んだまま俺は瞑目する。

 その事態が起こるのをどこかで予感していながら、俺はゴブリン達を信じていたかったから、目を瞑った。だが……甘かったということか。

 ギ・ザーの苦笑に混ぜた忠言が俺の耳に蘇る。

「ギ・ザー殿だけには任せるわけにはいかず、私が処分を下しました。どうか、王。ギ・ザー殿には寛大なご処置を」

 平伏するギ・ガーの姿に、俺は思わずこの建物を見上げる。

 なるほど、だから新しい王の家を作ったのか。

 俺は思った以上に、こいつ等に世話をかけて、思った以上に俺は手下に恵まれているらしい。

「分かった。今回のことは不問にする」

「ありがたき幸せ」

「ギ・ガーお前も、よく知らせてくれた」

「いえ、……私への処罰は?」

「ギ・ザーを処罰しないのにお前を処罰するはずがないだろう?」

「はっ!」

 ギ・ガーを下がらせると、俺は再び黙考する。

 ──手綱を締めなおす必要があるな、後は……。

 視線をレシアの近くで丸くなっているシンシアとガストラに向ける。

 いつまでも、ギ・ガーやギ・ザーに甘えているわけにはいかない。

 事実の調査も行わねばならないな。

 あるいは逆の事実も浮かびあがったときのことも考えねばならない。

 ギ・ガーの話してくれたことが逆で、ギ・ザーが勝手にゴブリンを処分したと。

 そんなことがなければいい、心底そう思いながら、それを考えねばならない自分に少し嫌気が差した。




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