剣術
【種族】ゴブリン
【レベル】60
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)
【状態異常】《聖女の魅了》
集落に戻ると、俺は自分の住居と定めている家に入りすぐさま横になった、
藁を敷き詰めただけの寝床に横になる。
実際今回はかなり危険だった。
血が足りないのを補うため、灰色狼の肉を食って何とか急場をしのいだが、あれがそう何度も通じるはずもない。
灰色狼の赤子を傍らに置くと、俺は眠りに落ちた。
何か毛むくじゃらなものが頬に当たる感触に俺が目を開ければ、灰色狼の赤子が俺の頭の辺りで眠っている。
「ああ、生きてたのか」
良かった。
柄にもなくそんなことを思いながら再び目を瞑る。
眠りの神の息吹はすぐに俺を包み込んだ。
◇◇◆
翌日、レベルが上がった俺はゴブリンの面接を再び始める。
胡坐をかいた俺のひざの上には灰色狼の赤子がじゃれあい、なぜかコボルトが対抗意識を燃やして俺にじゃれ付いてくる。
なんというか、鬱陶しい。
レベルが60になったということは、今俺が《赤蛇の瞳》で見えないゴブリンは例外なく60以上ということになる。
つまり、割とすぐに階級を上げることができる個体ということだ。
そいつらはなるべく多く敵を倒す機会を与えねばならない。
周囲に敵らしい敵がいなくなったこともあり、西の監視の目を出しつつほとんどのものを狩りに送り出すことができるはずだ。
今回はレア級に進化したもの達の面接も実施したが、驚くべきことにギ・グー、ギ・ゴー、そしてギ・ザーもステータスを見ることはできなかった。
つまりこいつらは折り返しを過ぎているということになる。
ノーブル級まであと少しなのだろう。
逆にギ・ギーやギ・ガーは着実にレベルを積み重ねてはいるが、今の俺よりもその成長速度は遅い。
これからは折り返しに来ている彼らを積極的に狩りに出すか。
戦闘員を中心として太陽が中天に来るまで面接を続けた。おおむね集落の戦闘員の半分、約40匹の面接を終えて今日のところはそれで終わる。
あんまり根を詰めすぎてもな。
今日面接を終えた中で気になったのは、やはり投擲系のスキルだろうか。
オークや他の近接を得意とする格上モンスターを相手にするのなら、遠距離からダメージを受けずに倒すのが最も良い。
魔法が使える祭司種は別としても、他のゴブリン達に魔法を覚えろというのはかなり酷なことだろう。
ゆえに投擲。物を投げるというスキルを覚えさせたい。
既にスキルを持っているゴブリンが何匹かいるから、それを中心として一隊を組むのも手ではあるのだが、どうしたものか。
現在俺がゴブリンどもに教えた三匹一組は、一匹が相手を引きつけ、その間に二匹目が相手の体を拘束、もしくは体勢を崩させ、最後の一匹が止めを刺すという方法だ。
そこにドルイドなどの遠距離支援を混ぜるとどうなるか。
あるいはどうすべきなのか、俺の中でまだ方針が固まっていない。
ふむ……少し気分転換をしようか。
俺は面接を終えた足で昼食を手に持ち、牢屋へ向かう。
「入るぞ」
そう言って入る俺に続いて灰色狼の赤子とコボルトが足にじゃれついてくる。
「ふ、ふわふわ……」
「……か、かわいい」
なにやら不穏に目を輝かせているレシアとリィリィ。
「あ、あの……」
普段はレシアの影に隠れるようにして俺に話しかけもしないリィリィだが、その日は手に持った防具を俺に差し出す。
「鎧を手直ししておきました……どうぞ」
なにやら言いづらそうなリィリィの様子に、鎧を受け取りながら問いかけてみる。
「材料は鎧兎とシェープアリゲーターの革です」
以前の鎧はサイズが合わなくなってしまったのでリィリィに頼んでおいたのだ。それを受け取って装備してみるが、ほとんど寸法は変わらない。
「おぉ、ピッタリだな。ありがとう感謝する」
びくっと震えたかと思うと首を振る。
「だが、何か褒美を与えねばならないな。希望はあるか?」
予想外の出来栄えだ。少しぐらいなら我侭を聞いてやってもいい。
「それなら、食事に──」
「お前じゃない」
頬を膨らませるレシアを黙らせると、リィリィを注視する。
「では、その、剣を振る機会をください」
どういうことだと、レシアを見るがレシアもリィリィを驚いたような表情で見ている。知らないのか。
「それは俺達と一緒に戦いたいということか?」
どういう心境の変化だ。何を考えている?
「……その、体を動かしたいのです」
本当にそれだけだろうか?
視線を伏せるリィリィの態度。
だが、これはいい機会でもある。
「体を動かしたいだけなら、ゴブリン達の戦闘訓練の相手になってもらおうか」
リィリィの思惑がどうであれ、冒険者と言われる人間に対して経験を積めるのは今後のことを考えればいい対策だ。
三匹一組の今後の展望を探る意味でも、リィリィが本気で訓練に付き合ってくれるならこれ以上のことはない。
「……わかりました」
◆◆◇
その日昼食を食べ早速リィリィと、手近なゴブリンの三匹一組での模擬戦を開催してみた。
レシアがいるとはいえ、真剣を使えば危険すぎるため、木刀を俺が用意する。
槍の長さの木の棒も先は丸く落としてある。
さて、どうなるかな。
久しぶりに剣を握ると言うリィリィの為に、運動する時間を与えレシアを控えさせる。
「はじめろ」
俺の声に反応して、先に仕掛けたのはゴブリン達だ。
獲物を狩る要領でまず、三匹がバラバラの方向にリィリィを囲むようにジリジリと動く。リィリィは木刀を両手で正面に構えたまま、その間合いを慎重に計る。
三匹がちょうど正三角形の位置についたところで、うなり声をあげ、一斉にリィリィに襲い掛かる。三方向同時の動き──だがリィリィは冷静だった。
三方向同時ということは、一つの方向に動けば、その三角形は崩れてしまう。
当然リィリィの正面にはそれを踏まえた上で敵を足止めする役目を持たせたゴブリンを配置しているのだが、彼女が動いたのは後方。
正面の敵に敢えて背を向けて、敵を仕留める役目をもったゴブリンに向かう。
驚いて一瞬とまったゴブリンの脇をすり抜けるように一撃。
胴をすっぱりと切り裂く一撃に俺は少し目を見張る。
体をすり抜けざまに一撃を振るった後、悲鳴を上げるゴブリンの背に回って一撃。
残る2匹は咄嗟の出来事に固まってしまうが、リィリィはまったく容赦なく。
「シィ!」
短い気合の声を残すと、体格を生かして振りかぶった一撃をゴブリンに見舞う。
なんとか棒を振り上げて一撃目を防ぐが、はるか頭上から降り注ぐ一撃は予想以上の一撃だったらしくゴブリンは棒を取り落とす。
そこへすかさず一撃。
2匹目のリタイヤを確認すると最後の一匹。最初正面でリィリィを受け止める役目だったゴブリンに向き直る。
あとは勝負にもならなかった。
「……見事なもんだな」
感心しながら呟いた俺の言葉に、隣で見ていたレシアが自分のことのように胸を張る。
その胸元にはなぜか、灰色狼の赤子が抱かれている。
……いつの間に手なずけた?
「当然です。彼女は王都にあるツヴァイル流の剣術を学んでいますから」
三匹を倒して優雅に騎士の礼だろうか、レシアに向かって剣を捧げる様子は、まったく一幅の絵として申し分ない。
それが若い女で決して器量も悪くないとくればなお更だろう。
「主!」
俺の前には傅くギ・ゴーの姿。
「できマスなら、汚名ノ返上ヲさセテ頂ク機会ヲ」
なるほど。
あの三匹はギ・ゴーの集落の出身者か。
もともとの集落の長であるギ・ゴーやギ・グーをそのまま狩りのリーダーとして扱っているため、自然とまとまりが生まれている。 いわゆる派閥というやつか。
今のところたいした問題も起きていないようだが、今後を考えると処置と対策を考えておかねばならないかもしれないな。
緊急の課題ではないが……。
「ギ・ゴー」
「ハッ」
「奴らはなぜ負けたと思う?」
「弱かタ為、ト」
間違ってはいない。
「では、勝つためにはどうしたらいいと思う?」
「……数ヲ」
増やすか。だが、それでは俺達はいずれ負けるぞ。
「三匹で人間に勝つ方法を考えよ」
「……ハッ」
今の内から、俺だけでなくこいつ等にも考えることを覚えさせておきたい。
自分の頭で考え、判断を下す。そうしなければこれから待っているであろう生き残りをかけた戦いに勝ち残っていくことは難しい。
下がろうとするギ・ゴーを呼び止める。
「三匹に厳罰を加えることは、ないようにな」
「ハッ」
深く頭を下げると、ギ・ゴーは自分の位置へ下がっていった。
だが、これは面白いな。
誰が一番先に考え付くか競争させてみるのも悪くない。
「リィリィ、もう一戦いけるか?」
「問題ありません」
木刀を鳴らす動作も様になっている。
こいつは拾い物だったかもな。
「ギ・グー」
「はイ」
「お前の派閥から三匹一組を出せ」
頷くギ・グーと、その派閥の三匹。
結果としてギ・グー、ギ・ガー、ギ・ザー、ギ・ギー、どの派閥のゴブリンもリィリィに太刀打ちできなかった。
もちろん、派閥の長であるレア級あるいはノーブル級のゴブリンは出さないままだが。
「しばらくこれを続けるぞ。日が中天に懸かるまでは狩りをせよ」
その後はこれを繰り返す。
さて、抜け出してくるのは誰かな?
◇◇◆◆◇◇◆◆
灰色狼(lv1)が従属します。
◇◇◆◆◇◇◆◆