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TS聖女は超イケメン!?~聖女に戻りたいのに周りの女の子たちに溺愛されてしまうんだが!?~  作者: 大和煮の甘辛炒め


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第1話 聖女サマ!?

「今日のお祈りも終わったし、ラボに戻ろうか。リムっち」

 厳かな雰囲気の大聖堂に明るい声が響き渡る。白い修道服に身を包んだ絶世の美女が祭壇を後にする。その後ろに金髪の騎士も続く。

「かしこまりました。しかしミケーネ様もご立派ですね。ご自身に与えられた役割もこなしつつ、物事への探求心を忘れない。全ての民の規範です」

 リムっちと呼ばれた騎士の称賛にミケーネと呼ばれた美女が眉をひそめる。

「言い過ぎ。聖女のお仕事の息抜きにやってるだけだから」

「何をおっしゃいますか。聖女ができるだけですごいんですから。この王国の若い女からしか選ばれない神職ですし」

「その割には給料安いけど。やりがいあるからいいんだけどさ」

 大聖堂の外で走り回っている子供たちに手を振りながらミケーネがぼやく。そして修道服のフードをおろした。

 純白の髪が陽の光に照らされてキラキラと輝く。さながらダイヤモンドダストのようである。

「全く、国王は聖女の重要性を分かっておられない。邪悪なモノが攻め入ってこないのも、ミケーネ様の張っている結界があるからだというのに。あのボケ老人め」

「リムっち、口が過ぎるわよ。誰が聞いてるか分からないんだから」

 ミケーネがあたりに目を配らせながら忠告する。

「ああ、失礼しました。憲兵の連中に目を付けられると厄介ですからね」

 リムが声のトーンを落としながら言う。二人の歩調が自然と速くなる。

「それにしても、本当にお美しいですね。私が女でなければ結婚していましたよ」

「え、キモイ」

「ふふ、照れているのですか。毎晩言葉責めしていただく程度の健全な夫婦生活ですよ、胸躍りませんか?」

「筋肉バキバキ女を責める言葉なんてないでしょ......性癖もキモイ」




 エスタルキア王国の平和は、歴代の聖女が維持してきた大結界によって守られている。当代の聖女ミケーネもまた、祈りによって結界を支える一人だった。もっとも本人にとって、祈りの後の魔法研究こそが一日の最大の楽しみだったが。




 ミケーネとリムは『ホワイト』と呼ばれるミケーネの住居に到着した。

「おかえりなさいませぇ」

 おっとりとしたメイドが出迎える。茶色いボブヘアがふわふわと揺れてる。

「エレナ、あんたほんとおっとりしてるわね」

 そんな軽口をたたくと、土間を抜けて、地下に降りていく。古い木の扉を開くと、だだっ広い魔法のラボが現れた。

「さて、若返り魔法の実験の続きをしようか」

 ミケーネが机に置いてあったリンゴをひと齧りすると、修道服を脱ぎ捨て、代わりにラフなシャツを羽織る。

「確か、無機物だけに効果のあるものでしたよね」

「そそ、成功したらどえらいことになるよ。物が若返るんだから、いつでも新品同然にできちゃう」

「買い替えの必要がなくなりますね。まあ、そんな単純な話でもないでしょうけど」

「うん、物売れなくなっちゃうもんね。個人で利用するのが安パイかな」

 ミケーネはそう言うと、床に描かれた魔法陣の真ん中に何も映らないほど汚い鏡を置いた。

「これが新品同然になれば実験は成功ですね」

「うん、危ないから離れてて」

 ミケーネはリムを下がらせると両手に魔力を纏い、魔法陣に流し込む。すると、魔法陣は黄色く光りだした。その光は靄となり、鏡に纏わりついていく。

(果たしてこれは───)

 ミケーネは気を緩めずに事を見守る。

 一瞬、魔法陣に電流が走った。その瞬間、鏡が眩いばかりの光を放った。

「え!?」

 ミケーネが思わず顔を手で覆う。次の瞬間、轟音と共にラボが光に包まれて、ミケーネは意識を失った。






 どれくらいの時間が経っただろうか。ベッドに寝かされていたミケーネはリムの名前を呼びかける声で目を覚ました。

「ミケーネくん、ミケーネくん! 大丈夫か」

「うーん、一体何が───」

 体を起こしながらラボでの出来事を思い出してみる。

「あの時、若返り魔法を試して、そしたらめっちゃ光りだして───リムっち、いま君づけした?」

 ミケーネがリムの顔を見て言う。

「ええ。それが?」

「冗談きついよ、リムっち。私が国で一、二を争う美人だってことは知ってるでしょ」

 ミケーネの大げさな自賛を聞いたリムが首をかしげる。

「ミケーネ君はまだ気が付いていないのか」

「君づけやめろ! なんかムカつく!」

 そこまで言ったミケーネだが、彼女、いや彼も違和感を覚える。

「あれ、声がちょっと低くなってないか? なんか肩も軽いし───」

「こちら鏡でございます」

 ベッドの反対側にいたエレナが姿見を置いた。それを確認する。

「あれ、髪の毛が短くなってる......! 胸も縮んでるし、どうなってるんだ⁉ めっちゃイケメンだし、いや顔はほとんど変わってない」

 ミケーネが、自身に起きた劇的な変化に仰天する。そして何より......。

「なんか股についてんだけど!? これアレだよね、ち○こだよね⁉」

「はしたない!」

「ンなこと言ってないで剣でスパッと斬り落としてよ!」

「出血多量で死ぬ!」

「すぐ治癒するから平気!」

「治癒したらすぐ生えてくる! 身体は男だから!」

「いやああああああああああああああああああ!」

 下半身を襲う違和感と嫌悪感にミケーネが絶叫する。

「しょうがない。まずは原因を探ろう」

 驚異的な精神力で落ち着きを取り戻したミケーネが腕を組む。

「急に落ち着かないでください、逆に怖いです」

 エレナがおっかないものを見るような目をミケーネに向けながら言う。

「いつまでも叫んでたってしょうがないでしょ。さっさと原因を突き止めて元の身体に戻るんだよ。とりあえずラボに行く。あそこに行けば何か分かるだろ」

 口調が男っぽくなっていることは無視して、ミケーネが立ち上がる。リムも頷いて寝室のドアを開ける。

(すぐに解決すればいいんだけど。結界への影響も心配だし。全く、なんで私がこんな目に)

 エレナの手を借りてベッドから降りたミケーネは、自身の置かれている状況と股間の違和感に苛立ちを募らせるのだった。





 廊下を歩くミケーネの格好は無様であった。内股でそわそわしながら小刻みに足を動かしている。

「なんだその変な歩き方は」

「なんだって、普段ついてないモノがついてんだから、歩き方も変になるだろ───くそ、口調もだんだん男に変わってきてる」

 ミケーネが苦々しく呟く。その様子を見たメイドが提案をする。

「歩きにくいようでしたら、私がおんぶいたしましょうか」

 続いてリムがミケーネの肩を抱く。

「大丈夫───なに気安く触ってんのよ」

「気安く? 夫婦として最低限のスキンシップだと思うが」

「はあ?」

 ミケーネの頭がはてなマークでいっぱいになる。

「夫婦? 気でも狂ったのか? 同性愛は投獄だぞ?」

「大真面目だ。まあ、そんなに突飛なことでもない」

「そうです。ミケーネ様をお慕いする気持ちが恋心へと変わっただけでございます」

 エレナがリムの肩を持つ。

 ミケーネは声にならない絶叫を上げるなりラボにむかって全力疾走しだした。

「あ、待つんだ!」

「お待ちください!」

「待つわけねーだろ!」

 ラボに飛び込んだミケーネは魔法陣の真ん中に転がっている鏡を拾い上げた。ミケーネの直感が、男体化の原因がこれであると告げていた。

「解析」

 ミケーネが解析魔法を発動する。

「げっ、変質の鏡? 鏡面に放たれた魔法を変質させ、相手にはじき返す───一応実験は成功してんのか。───あー、そういうこと。若返り魔法が変質の鏡を新品同然に戻す、そして力を取り戻した変質の鏡が若返り魔法を変質させて私に反射した───」

 ミケーネが啞然とする。

「どんな確率なんだよ、これ。もう一回若返り魔法を撃ったら元の身体に戻れるか?」

 ミケーネが鏡を魔法陣の中心に戻し、もう一度若返り魔法を撃とうとした瞬間、ラボに突入してきたエレナが取り押さえた。

「だーっ!? なにすんだ!」

「むやみに触っては危険です!」

「エレナ、それは君もだ!」

 三人がもみくちゃになって床を転げまわる。

「フザケンナー! 聖女がこの国からいなくなるんだぞ!」

 エレナの手から抜け出したミケーネが息を切らせて言う。

「ぜえ、ぜえ、この国の結界を維持できるのは私だけだからな。結界が無くなったらたちまち退けていた魔がこの国を蹂躙することになるけど?」

 すると、エレナが挙手した。

「魔を退けるとか言ってますが、具体的にどういったものか教えていただきたいんですが」

「なっ、まさか聖女の役割にケチを───」

「私は聖女ではなくミケーネ・マリアベル様にお仕えしているのです。肩書にとらわれるほど半端な愛ではございません」

「今は愛とか関係ないでしょ。なに良いこと言ったみたいな顔してんの」

「なっ、心に響かなかった......?」

 リムがため息をつく。

「この国の象徴である聖女を失ったとなれば、大混乱が発生するだろう。その身体で聖女だけに使える聖魔法を使ってみて、大丈夫そうならその身体のままでいれば───」

「使えても女に戻る!」

 ミケーネはリムが言い終えるのを待たずに手を天に掲げる。

「......駄目。聖魔法を使えない。《《それ自体はある》》けど行使できない」

「結界はどれだけ持つ?」

「うーん、持って半年かな。去年の初めに改めて聖魔法をかけたけど、その後もちょくちょく聖魔法継ぎ足ししてたから」

「一年に一回で十分じゃないのか?」

「どんだけ昔からある結界だと思ってんの。もうガタがきてんの。かけてもすぐ効果が減っていくの」

 ミケーネがため息をついて鏡の方を見る。鏡はバラバラになっていた。

「ああーっ! 壊れてる!?」

 ミケーネが急いで駆け寄る。正確には壊れているわけではなく、組み立て前の状態に戻っていただけだった。見ているうちにも、部品が加工前に戻っていく。

「若返り魔法がまだ継続してる、ここまで戻るとは───」

 ミケーネが興味深そうに呟くが、それどころではないことを理解した。

「女に戻る唯一の方法が無くなったってこと?」

 ミケーネの顔が真っ青になる。

「ああ、どうしましょう」

「女になる魔法を開発するしかないな」

「いや、どれだけうまくいっても一年はかかる」

 ラボを沈黙が満たす。

 唐突にミケーネの堪忍袋の緒が切れた。

「くっそぉぉぉぉ! 女に戻るから! 結婚しないから!」

 絶叫したミケーネがテレポート魔法を発動させる。

「ちょ、私たちも連れて......!」

「お役に立てる......!」

 リムとエレナの静止も聞かずにミケーネはどこかへテレポートしてしまった。





 光が晴れると、目の前にはのどかな田舎町が広がっていた。

「はー、ひさしぶりに帰ってきたな」

 ミケーネが感慨深げに呟く。柔らかな潮風が頬を撫でる。

 ミケーネがテレポートしたのはテンカーン村、彼の生まれ故郷である。

 彼女はこの村にいるある占い師に頼ろうとしていた。

 ミケーネが幼いころから可愛がってくれていたアンリエッタ、という占い師である。

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