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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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71.一角の少女

 霧の島の西端に遺跡があった。

 石を積み上げて造られた遺跡だ。


 どういった意図で造られたのだろう。

 森の中にひっそりと佇むその遺跡を見て、アルゴは疑問を浮かべた。

 誰が何のために造ったのか。アルゴには推察できなかった。


 スキュロスから聞いた通り、遺跡は実在した。

 アルゴは遺跡の中に踏み入り、地下へと続く階段を見つけた。

 階段を下りる。

 人が二人並べるか並べないか。狭い階段だった。


 ひたすらに階段を下りる。

 暗い。どこまでも続く暗闇。

 目に頼らず、触覚と聴覚を研ぎ澄ませる。


 どれほど下っただろうか。

 距離も時間も分からない。


 終わりの見えない階段。

 それでも進み続けた。

 ここまで来て引き返すわけにはいかない。

 不安を抑え込み歩き続ける。


 すると、暗闇の先に明かりが見えた。

 それはまさに、アルゴにとっては希望の光だった。


 その光へと目指した。


 やがて終点に辿り着く。


 階段の先には光が溢れていた。

 躊躇わず、その光の中へ。


「―――なッ」


 絶句した。

 森だ。森が広がっていた。

 太い樹木。美しい花。見慣れぬ植物。


 ここが地下だとは到底思えない。 

 おまけに明るい。

 上を見上げると、天井には巨大な水晶がびっしりと生えていた。

 水晶が光を放ち、森を明るく照らしている。


 ダンジョン。人智を超越した神秘の領域。


 アルゴがダンジョンに入ったのは初めてではない。

 以前、冒険者ジョセフとハンクに連れられて入ったことがある。

 もう随分と昔の出来事のような気がする。

 今の今までそのことを忘れていた。

 ゆえに、新鮮な気持ちでダンジョン内を眺めていた。


 ここまで来た目的は、ドラゴンフライという虫を捕まえるため。

 しばらく森を観察したが、ドラゴンフライは見当たらない。


 スキュロスは殆ど情報をくれなかった。

 ドラゴンフライが好む場所、餌、習性、などの情報は不明。

 分かっているのは、ドラゴンフライという名前と見た目だけ。


 ここに突っ立っていても仕方がない。とにかく動かなければ。

 さっそくドラゴンフライの捜索を開始する。


 しかし、捜索に集中することは難しい。

 ダンジョンは魔境であり、魔物の巣窟。


 さっそく魔物が現れた。


 体格は人族の大人ほどの大きさ。

 黄色い毛。赤い目。

 凶悪な顔をした猿だった。

 特徴は、異常に長い腕。


 猿は「キーッ!」と高い声で鳴くと、長い腕を使い樹木を上り始めた。

 あっと言う間に高い位置まで上り、アルゴを遠巻きに見つめる。


「なんだ? 何もしてこないのか?」


 アルゴは訝しむが、次に猿がとった行動はアルゴを驚かせた。


 猿は「ヴエッ」とえずき、石を吐き出した。

 その石を握り、長い腕を振ってアルゴへと投擲。


「なッ!?」


 と驚くアルゴであったが、目で捉えることは可能だった。

 苦もなく石を避ける。


 避けた瞬間、次弾が放たれる。

 それも避け、アルゴは走り出した。

 そして、走りながら石を拾い上げた。


 猿は、また石を吐き出している。


 アルゴは猿の投擲術を模倣した。


「こうやって―――投げればいいんだろ!」


 石が飛ぶ。

 魔力で増幅したアルゴの膂力から放たれる石。

 その速度は、猿の投げる速度を上回っていた。


 石は猿の頭部に直撃。

 即死だった。

 猿は樹木から落下し、地面に衝突。


 敵を排除することに成功したが、達成感はなかった。

 この時点で確信した。

 猿が一体だけのはずがない。


 あと何体殺せばいいのだろう。


 アルゴの足取りは重かった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 猿の死体がそこら中に転がっていた。

 猿の血が飛び散り、地面や木を赤く染めていた。


 猿たちを殺したのはアルゴだ。

 だが、殺したくて殺したわけではない。

 猿たちに人の言葉は通じない。

 猿たちは問答無用でこちらに襲い掛かってくる。

 ならば迎え撃つしかない。


 猿たちを一掃したアルゴは、渋い顔をしていた。

 猿たちを殺したところでドラゴンフライの情報を得られるわけもない。

 こんなことをしても意味がない。


「疲れた……」


 アルゴは警戒を解いてその場に腰を落とした。

 周囲に敵の気配はない。

 だから警戒を解いた。


 アルゴは感じ取っていた。

 敵意のない、何者かの存在を。


 アルゴはその者へ声を掛けなかった。

 そうしなくとも、向こうからやってきた。


 そっと忍び寄るように、その者はアルゴへと近付いた。

 アルゴの真後ろで足を止め、声を発する。


「君……何者なの?」


 言語を介したコミュニケーション。

 対話が可能な存在。まさかダンジョンにそういった存在がいるとは思わなかった。

 アルゴは、ゆっくりと振り向いた。

 その者をできるだけ驚かせないように。


 少女だった。年齢は自分より少し上に見える。

 髪は薄い橙色。肌の色は人族と同じだが、頭頂部の辺りからツノが一本生えている。

 魔族だ。


 魔族の少女は整った顔に困惑の色を浮かべ、アルゴを見ている。


「俺は……アルゴです。えっと、その……人族です」


 それだけ言うとアルゴは口を閉じた。


「……え、それだけ?」


「はい」


「はい、って君……」


 少女は目を見開いて驚いていた。

 沈黙が訪れ、妙な空気が流れる。


 そして、少女は吹き出した。


「アハハッ! なんか君、面白いね!」


 楽しそうに笑う少女。

 屈託のない笑み。


「え、えっと……」


「ああ、ごめんごめん。わたしはエマ・レーン。人族を見るのは初めてよ。だから、君に興味がある。ねえ、君のことをもっと教えて?」

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