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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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69.雷の息吹

「死んだか……」


 霧が立ち込める森で、男はそう呟いた。

 男は人族ではなかった。魔族だ。

 青い肌と頭部から生えた二本のツノがその証拠だ。

 顔立ちを見るに若くはない。

 六十を超えたあたりか。

 しかし、老いた印象はあまり感じない。

 男から発せられる強烈な威圧感。

 それが、この男が歴戦の猛者であることを物語っている。


 焼け焦げた臭いが鼻孔を刺激する。

 森の木々が焼け焦げていた。


 男は己が放った魔術の結果に及第点をつけた。

 雷の魔術ライトニングブレス。

 雷の魔術は森に大きな被害をもたらした。

 多くの生物が死滅してしまっただろう。


 しかし男は己の選択を後悔していない。

 森に侵入する不届き者に罰を下すのは自分の役目だ。


 死体を確認する必要はないだろう。

 そう思い、男は身を翻して歩き始めた。


「待ってください」


 男は咄嗟に後ろを振り向いた。

 目を見開き固まってしまう。


「ば、馬鹿な……」


「あ、あの……突然すみません。俺はアルゴといいます。それであの……助けてください」

 

「こ、小僧……何故生きてる?」


「ああ……はい。さっきの雷なら、木を蹴って上に跳んで……避けました」


 アルゴが躊躇いながらそう言った直後、男は杖をアルゴに向けた。

 魔力を練り上げ、魔術を発動させる。


「ライトニング―――」


「待ってください!」


 待つつもりなどなかった。

 人族の話など聞くものか。

 男はそう思ったが、魔術を止めた。

 止めざるを得なかった。


 アルゴは素早く動き、男から杖を取り上げた。

 アルゴの人間離れした動きに、男は反応できなかった。


「小僧め!」


「落ち着いてください! 俺はあなたを傷つけるつもりはありません!」


「黙れ! 人族の言葉など聞くものか!」


「どうか!」


「何を言っても無駄だ。儂を殺すか去るか、その二択だ」


「そんな……」


 アルゴは暗闇に包まれたような気がした。

 希望は打ち砕かれた。

 絶望が押し寄せる。


 アルゴは脱力し、両膝を地面に付けてしまった。


「フン、愚か者め」


 男はアルゴが離した杖を手に取り、杖の先をアルゴに向けた。


「どちらも選べぬのなら、死ね」


 アルゴは動かない。

 瞳から光が消え、魂が抜けたように呆然としていた。


 男は魔術を唱える。


「ライトニン―――」


 だが、途中で止めた。

 今度は自分の意思で止めた。


 アルゴの姿があまりにも哀れだったから。


 人族とはいえ相手は子供……か。


 心の中でそう呟き、男は杖を下ろした。


「……分かった。話ぐらいは聞いてやろう」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 霧が深い森で、魔族の男は口を開いた。


「儂の名はスキュロス。かつてはルタレントゥム魔族連合軍に所属していたが、今はこの島で隠居の身だ」


「島? ここは島なんですか?」


「そんなことも分からんのか? ここが大陸に見えるのか?」


「すみません……」


「……まあいい。この島は大陸の者たちにとっては未開の地。この島に名前は無い。そうだな……霧の島、とでも呼ぶがいい」


「あの、それで、この島はバファレタリアからどれぐらい離れているのでしょうか?」


「バファレタリアか……。正確な距離は儂も知らんが、速い船ならば二日で辿り着くぐらいの距離だな。だが、島周辺の海流は非常に荒い。大陸側から船でここまで辿り着くのは、ほぼ不可能。小僧、察するに船が沈没して海に投げ出されたのだろう? ここまで辿り着いたのは相当に運がいいぞ」


「そうなん……ですね。でも、ここまで辿り着いたのは俺だけじゃないはずなんです。魔族の女の子もここに居るはずなんです。心当たりはありませんか?」


「何故だ?」


「はい?」


「何故その少女を探しているのだ? その少女は小僧にとって何だ?」


「俺にとって……」


 アルゴは少し考えて答えを出した。


「俺にとって、大切な人です。とても、大切な人なんです」


 スキュロスは鋭い瞳でアルゴを見据えた。

 アルゴの内側を見透かそうとしているかのように。


「まあ、言葉だけならばなんとでも言える」


「その反応、もしかして……何か……何か知っているんですか!?」


 アルゴはスキュロスの両肩を掴み、齧りつきそうな勢いで顔を近づけた。


「教えてください! どうか!」


 スキュロスは鬱陶しそうにアルゴの手を払った。


「儂に触れるな、人族が!」 


 スキュロスは衣服の乱れを正し、嘆息してアルゴに言う。


「答えを言おう。知っている」


「本当ですか!? じゃ、じゃあ!」


「だが、教える気はない」


「な、何で!?」


「簡単なことだ。お前が人族だからだ」


「ま、待ってください! 確かに俺は人族ですけど、魔族と敵対するつもりなんてないんです! それに、メガラとは一緒に旅をしてきました! メガラに聞いてくれれば分かります!」


「もう一度言おう。言葉だけなら何とでも言える」


「な、ならどうすれば!?」


「儂を信用させろ。お前の覚悟を儂に見せてみろ」


「覚悟? どうすれば……」


「この島にダンジョンがある。ダンジョンに赴き、ドラゴンフライを捕まえてこい」


「ドラゴンフライ?」


 スキュロスは衣服の内側から瓶を取り出した。

 瓶には中指より少し大きい程度の虫の死骸が入っていた。

 細長い体躯に透き通る四枚の羽。

 丸い頭部には巨大な二つの目。

 飛行することに特化したような見た目だった。


「これがドラゴンフライ?」


「そうだ。これを捕まえてこい」


「これを捕まえれば、メガラの居場所を教えてくれるんですね?」


「儂の知っていることを教えよう」


 どこか誤魔化すようなスキュロスの返事であったが、アルゴはこう答えるしかなかった。


「分かりました」

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