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少年は魔族の少女と旅をする  作者: ヨシ
第三章

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68.濃霧

 ゆっくりと慎重に森の中を進む。 

 周囲の様子を確認しながら歩き続ける。

 急いで森を駆け回りたい気持ちはあるが、未知の土地でそれをするのは自殺行為だ。

 きっとメガラならそう言うだろう。


 それに、もう一つ問題がある。

 森に立ち込める濃い霧。

 その霧のせいで歩く速度が遅くなってしまう。


 濃い霧のせいで見通しが悪い。

 極度の視界不良。

 これでは、敵の接近に気付くのが遅れてしまう。

 ゆえに、慎重に進まざるを得ない。


 加えて、根本的な問題。

 そもそも、目指す方向が分からない。


 何処を目指せばいいのか。現在地も方角も分からない。

 だが、行動しなくては。

 あのまま砂浜で呆けていても何も始まらない。


「随分……歩いたな……」


 どれぐらい歩いただろう。

 霧が立ち込める暗い森では、日の高さから時間を割り出すことはできない。


「少し休むか」


 敢えて言葉にする。

 そうすることで、まだ自分の頭が正常に働いていることを確認する。


 その場に座り込んだ。

 ほんの少しだけ気を緩める。


「喉が渇いたな……。腹が減ったな……」


 水も食料も無くしてしまった。

 我慢するしかない。


 そう思いながら、なんとなく地面に目を向けた。

 湿気でぬかるむ土が目についた。

 泥と言ってもいいのかもしれない。


 泥に顔を近づけた。

 舌を伸ばす。

 舌先が泥に触れた。

 そのまま泥を啜る。


「うげっ」


 眉間に皺を寄せて泥を吐き出す。

 泥に含まれる水を泥ごと飲もうとしたが無理だった。

 反射的に泥を吐いてしまった。

 きっとこれは正常な反応。

 体の検知器がまだ正常に機能している証拠。


 そんな風に考えて探索を再開しようとした時、アルゴは気付いた。


 一メートルほど先、ぬかるむ地面に窪みがあった。

 その窪みをよく観察した。

 よく見ると、人の足跡のようにも見える。


 この森でようやく手掛かりを見つけた。

 無人と思われた森に誰かいる。


 アルゴは、両手で自分の頬を軽く叩いた。


「行くぞ」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 足跡を辿る。

 足跡が唯一の手がかり。唯一の道標。


 濃い霧が立ち込める暗い森。

 周囲を警戒しながら進む。


 アルゴは確信していた。

 正体不明の足跡の主との邂逅が近い。

 研ぎ澄まされた感覚がアルゴにそう告げている。


 その感覚を信じ、アルゴは歩き続けた。

 しかし、足が止まる。

 止めざるを得なかった。


 濃い霧の影響で先を見通すことができないが、アルゴには分かった。


 何か……いる。


 生物の気配。それも一つや二つではない。

 十か二十か。あるいはもっと。


 アルゴは腰に手を伸ばすが、剣が無いことを思い出した。

 剣はどこかにいってしまった。

 波に飲まれたのだろう。


 しかし、鞘は残っている。

 鞘を右手で握る。

 剣に比べれば格段に殺傷能力が落ちるが、何も無いよりはマシ。


 霧にまぎれる正体不明の生物。

 ぼんやりとその姿が明らかとなる。


 人ではない。四足歩行の生物。

 毛のない緑色の肌。

 その正体は、巨大な蜥蜴。

 全長は約三メートル。


 巨大蜥蜴はアルゴを捉えた。

 細長い舌をチロチロと出し入れし、アルゴの様子を窺う。


 蜥蜴はアルゴのことを餌だと認識した。

 太い脚を使って飛び上がる。


 巨体に似合わぬ素早い動きだったが、アルゴにとってはむしろ遅すぎるぐらいだった。

 最小限の動きで蜥蜴を躱し、鞘を蜥蜴の頭部に叩きつけた。


 渾身の一撃。

 鞘が蜥蜴の頭部にめり込み、蜥蜴は「ギッ」と鳴き声を上げた。

 そして蜥蜴は、舌を出したまま動かなくなった。 


 一瞬で蜥蜴を無力化することに成功したが、気を抜くことはできない。

 蜥蜴は一体ではない。

 蜥蜴たちは堰を切ったようにアルゴへと襲い掛かる。


 アルゴは走りながら蜥蜴の攻撃を躱していく。

 目に頼らず、蜥蜴の気配を感じ取る。


 感じる。そして分かる。

 蜥蜴がいる場所や、襲い掛かってくるタイミング。

 どう動こうとしているのかが。


 蜥蜴の隙を見つけては鞘で頭部を叩く。

 次第に蜥蜴の数が減っていく。

 はずだった。予想以上に数が多い。

 減らしただけ増えている。そんな風に感じた。


 キリがない。


 アルゴは、戦うことよりも逃げることに比重を傾けた。

 前を向き走り出した。

 蜥蜴の突進を避けつつ、森を駆け抜ける。


 地面の足跡を確認しながら走り続ける。

 蜥蜴の爪や牙を躱し、走り続ける。

 ぬかるむ地面に足を取られても走り続ける。

 とにかく走り続けた。


 すると、前方に微かな気配を感じた。

 蜥蜴の気配ではない。人の気配だ。

 足跡の主が近い。


 その主は、アルゴにとっては希望そのもの。

 絶対に主と会わなければならない。


 そう自分に言い聞かせた時、わずかに肌がひりついた。


 なんだ?


 頭に疑問を浮かべ、周囲を注意深く観察。


 前方にて強い発光。


 眩い雷光。轟く雷鳴。


 紫電が森の中を突き抜けた。

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