38.仮面の
あまりにも呆気なく、戦いは終わった。
男たちが床に倒れ込んでいる。
この場に立っているのは、アルゴとリューディアだけ。
アルゴとリューディアは無傷だった。
気絶しているゴロツキ共を見つめ、アルゴが呟いた。
「なんだか、あんまり強くなかったですね。フエルコさんが雇った傭兵が返り討ちに合ったって聞いてたから、結構強いのかなって思ってましたけど……」
「ええ、そうね。確かに素人の動きではない子もいたけど、腕に覚えのある傭兵が不覚を取るほどの強者は居なかったように思うわ」
アルゴは頷いた。
「ですよね。ところで……これからどうすればいいんでしょうか?」
ゴロツキ共は全員気絶している。
懲らしめることには成功しただろう。これで依頼達成ということでいいのだろうか?
「そうね。このまま放置したら、この子たちはまた同じことを繰り返すでしょうね。とりあえず、ブルーノ兄貴を連行しましょう。都市の警備兵に事情を話して、牢屋にでも放り込んでもらいましょうか。ボスが居なくなれば、この子たちも悪さをしなくなるかも」
リューディアの返事を聞いてアルゴは思った。
どうやら、リューディアも自分と同じく深く考えていなかったようだ。
ここにメガラが居れば、何か妙案を提示してくれたのだろうか。
「警備兵が俺たちの話を信じてくれるでしょうか?」
「きっと大丈夫よ。なんとかなる!」
リューディアは、自信ありげにそう言った。
この人、わりと勢いで生きてるな……。
アルゴは今更ながらに、リューディアの性格を掴み始めた。
「分かりました。えっと、縛るものを探してきます」
アルゴが動き出そうとした時だった、通路の方から声が聞こえた。
「どうなってんだい、こりゃあ」
女だった。
細身で長身。緋色の長い髪は、後ろで一本の三つ編みとなっている。
おそらく若い。はっきりと言いきれないのには理由がある。
女は赤い仮面を嵌めていた。そのため、女の顔を確認することができない。
女は気絶しているゴロツキ共を眺めたあと、ポツリと尋ねた。
「アンタらが、これをやったのかい?」
アルゴは答えた。
「はい」
「何故だい?」
「この人たちが俺たちの知り合いを脅しているから、やめるように交渉しにきたんですが、聞き入れて貰えなくて。というか、あなたは誰ですか?」
「なるほどねえ。だいだい分かった。アンタら、中々やるじゃないか」
「別に大したことではないですよ。で、あなたは?」
「アタシかい? アタシはそこで寝てる男どものボスさ」
「え?」
アルゴが戸惑いの声を上げた直後、リューディアが口を開いた。
「君がボス? ボスはそこのブルーノ兄貴ではないの?」
「違うねえ。まあ、信じなくてもいいさ。それで、アンタらは男どもをぶちのめして満足したかい?」
「いいえ、満足なんてしていないわ。でもちょうど良かった。ボスである君にお願いするわ。もう二度と、小間物屋ダマンヤートと関わらないって約束してくれるかしら?」
「ククッ。アンタ頭は正常かい? ここまで好き勝手やられて、はい分かりましたって頷くと思うかい?」
「そうね……思わないわ。でもそうなると……」
「ああ、やるしかないだろう?」
女から放たれる強い殺気。
この時、アルゴは肌で殺気を感じた。
この人、強いな。
この女の人は只のゴロツキじゃない。ブルーノなんかとは格が違う。
フエルコさんが雇った傭兵は、おそらくこの人にやられたんだ。
「リューディアさん、この人結構強いですよ」
「ええ、分かってるわ」
女は殺気を放ちながら、アルゴとリューディアを交互に眺めた。
「二人纏めて相手にしてやるよ、と言いたいところだけど、ちょっと厳しいねえ。アンタら相当な手練れだろう?」
「さあ、どうかしら? それは手合わせしてみないと分からないんじゃない?」
「ハッ、その手には乗らないよ。そこでだ、アタシから提案がある」
「提案?」
「タイマンでやり合おう。アタシが負けたら、アンタらの言う通りにする。アタシが勝ったら、勿論今まで通りだ」
それを聞いてリューディアは言葉を返した。
「一時的に言う事を聞かれても意味がないわ。私たちが居なくなったら、また悪さをするんでしょう?」
「確かにね。まあ、信頼はないだろうねえ。じゃあこうしよう、アタシが負けたら、アンタらに一生付き従おう。アタシが居なくなりゃあ、こいつらは烏合の衆さ。たちどころに組織は機能しなくなる。これならどうだい?」
「一生? それほど自信があるって言うの?」
「まあね」
アルゴとリューディアは顔を見合わせた。
「リューディアさん、判断をお任せしてもいいですか?」
「分かったわ」
リューディアは、仮面の女へ意志を伝える。
「いいわ。君の提案を受け入れましょう。君には私たちの旅の供になってもらうわ」
「ハッ、面白いじゃないか」




